193 / 229
第六章 ケモナーと水のクランと風の宮
帰省
しおりを挟む
一時休暇は少ない日数しか認められていない。基本的にはサイジャルで過ごす人が多く、自国が近い者なら帰国する者もいる。
俺たちは与えられた四日間を丸々使えるが人によっては移動で丸一日潰れるだろう。
「ミケ君やメリアちゃんはどうするの?」
屋敷に戻るための帰り支度というものをしない俺たちは、暇をもて余していた。
市場で屋台を冷やかし、ミックスジュースを出す店で品物を買う。ここのは珍しい果実を使っているからか、飲みやすく美味しい。
今回は俺やケルンにミルディだけではなく、ミケ君とメリアちゃんも一緒だ。アシュ君はまた忙しいらしく、図書館にこもっている。それにマティ君はいなかった。
ミケ君たちは帰国をしないと前もって聞いていたので、ケルンのおしゃべりに付き合ってくれている。
「サイジャルはまだ安全だからな。ここで過ごすさ」
「少々、大掃除に時間がかかっているようですから」
「大掃除?…二人のお家はおっきいもんね!」
二人の裏をまったく読まないでケルンが納得している。それを生暖かい目で三人が見ているのをケルンの肩の上で感じる。
本当に周りが大人だからだよな?子供ってケルンみたいなのが普通だと思いたいんだけど。
大掃除というのは、そのままの意味ではない。内部で不正をしている貴族を粛清している最中らしい。
その大掃除には父様やティルカ、キャスまで参加しているそうだ。
父様たちロイヤルメイジと軍人のティルカは武力面で貴族を押え、キャスは政務関連での用途不明金などを精査しては虱潰しに文官などを罷免して裏の繋がりを追求しているそうだ。
秘密裏にしなければならないことだというのに、俺がそのことを知っている理由は単純だ。
褒めて欲しいティルカが事細かく報告してくるのだ。
やっぱり、あいつ尻尾とか生えてるんじゃないかな?
空を見上げればティルカのいい笑顔の幻覚が空に浮かんでいた。守秘義務ってこの世界には存在しないのだろうか。
「退屈しない?」
「面白いものがたくさんあるからな。アシュはそれらをまとめているようだぞ?だが、一番食いついていたマティはすでに王都に帰ったようだぞ」
「そうなの?」
「ふふ。エフデお義兄様やケルン様が許可をしてくれたから弟君たちと楽しむとおっしゃってましたわ」
サイジャルは最新技術が目白押しだからだ。宰相家としてはその技術が手に入るならほしいんだろう。技術力は国力に繋がるからな。
とはいえ、簡単には手に入らない物ばかりだから図書館にある論文を書き写すとかまとめるだとかの作業が待っている。アシュ君はそれをやっているのか。
書類とかしばらくは見たくない。
「あんな書類の量はさすがにもうみたくない」
その理由が映画関係の書類だ。ユリばあ様との話が終わったその日に追加で出された書類はケルンの身長よりもあったのだ。
サインだけでいいからといわれても、読まないといけないから、きちんと読んでいった。思考加速で速読できるから引っかけにかからなくてよかったところだ。
ケルンとマリーヌ先輩の婚約許可と俺のサイジャル専属職員の受諾書とか他にも似たようなのが紛れていたからな。
即座に破棄して抗議文を学長とマリーヌ先輩たちに送りつけて、詫びの品を請求しておいた。鉱石が足りないから貰えるといいな。婚約関係のは全部リンメギンの人だったから期待できる。
悩んだ書類もあったが、ケルンと話し合って…ケルンに説得されてが正しいが、許可をした。
「母上も楽しみにしておられるらしいから、二人には感謝している…母上がこちらに来られても困るのだ」
「お勤めを放棄してまでは来られませんでしょうが…王妃なので…」
王妃様が映画のために来るのは問題だからな。あとは、マティ君の気持ちがよくわかるからってのがある。弟さんを喜ばしたいってのは、かなりわかる。
「あのね、続編も作ったから今度見ようね!」
「…続編は勘弁してほしかった」
こいつがここまで喜ばなきゃ俺も断ったんだけどなぁ…まぁ、俺の出番はそんなにないし、ケルンの演技力が上がるのは将来の可能性の幅が増えるし…子役でもトップ張れるぐらいは顔がいいからな。
「僕は楽しかったよ!」
「おー、今日もキラキラしてんなぁ」
無駄にキラキラさせてるが、俺にむけてるのに、周囲に被害が出ている。たまたま見てしまった市場の人が腰から落ちて悶えてるのが視界のすみに見えたぞ。
訂正する。役者ではストーカー被害が出るから止めさせよう。
それからぐだぐだとおしゃべりは続いていたが、市場に来ていた生徒の数が減っていく。市場の店も同じように閉店する。
「義兄上、ケルン。そろそろ馬車に乗らねば帰りが遅くなるのではないか?」
定期馬車が出ているのだが、屋敷にもどのならもっと早くの馬車に乗らないと夜中になってしまうだろう。
その必要もないんだけどな。
「父様が迎えに来てくれるんだ!」
「ティストール様が?」
俺たちが帰るってなったのに、父様が送迎に来ないわけがなく、時間がきたら橋を渡ればいいのだ。
誰よりも張り切っていたから、時間より早めに来るかもしれない。
「何でも今は仕事が落ち着いたから…って聞いてたんだが、違うのか?」
父様はせっかちだからと考えていれば、ミケ君の顔がみるみる微妙な表情になっていく。
「いえ…父からの手紙ではお忙しいと聞いていたので」
確かに父様は忙しいっちゃ、忙しいかもな。ちょくちょくこっち来てるけどすぐ帰っているし。
…さぼってないよな?
「では四日後に」
「お待ちしておりますわ」
「いってきまーす!」
「じゃあな」
時間が来て橋へと向かう。
案の定父様はすでに迎えに来ていて、俺たちはその場で抱きしめられて、身動きがしばらくできなかった。
すっと父様の抱擁を避けたミルディもそのあと捕まっていた。
「ただいまー!」
「…お邪魔します」
屋敷に帰ってきての第一声だ。
俺の場合、どうすればいいかわからず、体を得てからは初めてだし、これでいいかと挨拶をする。
するとすぐに出迎えてくれた人からの注意が飛んできた。
「ただいまでしょ?」
「…ただいま戻りました、母様」
「母様ー!」
「おかえりなさい。二人とも」
腕を広げている母様にケルンは飛び込んだ。ぎゅっと俺ごと母様は父様とはまた別な力加減で抱きしめる。
ここら辺が父親と母親の違いなんだろうか。父様はひげでケルンを遊ばせる感じだけど、母様は胸で包む感じだ。
甲乙つけがたい。何せ、どちらも愛情がたっぷりだからだ。
「あのね、母様、聞いて!お兄ちゃんがペギン君の続きを映画にしたんだよ!」
「あら、本当?」
「それでね、僕ね」
ケルンが母様に何をしていたかを報告していると、カルドが近づいてくる。
「若様。若様のお部屋はご用意しておりますがいかがいたしましょう」
「そうだな…」
どうやら本当に俺の部屋を用意してくれたようだ。あの子供部屋を俺ようにしたってところだろう。
せっかくの用意してくれたのもあるし、寝るときはそちらを利用してもいいかもしれないな。
「俺用の布団とかなのか?」
「後々を考えまして通常の物です…フィオナに縫わせましょうか?」
後々を考えて…か。ユリばあ様から聞いたのか?
普通のサイズの布団でも問題ないから別にいいんだけど、小さな布団もいいかもしれないな。
「え?お兄ちゃん、一緒に寝てくれないの?」
ケルンが母様との話を中断して俺をつかんで話かけてくる。お前、そんな隠すように話しちゃカルドに悪いだろ?
「…いや、部屋があるから、俺はそっちで」
「や!一緒がいい!」
「サイジャルでは部屋がないからで、ここには部屋があるんだぞ?前まで一人で寝れていただろ?」
ケルンは割りと一人で寝るのは平気な子だったから、早くから一人で寝起きしていた。
寝かしつけの絵本さえ読めば爆睡してくれるから、簡単だっただろう。ここのところは、俺と一緒でしか寝ていない。
「お兄ちゃんがいたもん…僕は一人で寝るのやだもん…お願い、だめ?」
「うぉ…キラキラが…」
ケルンからのキラキラをまともに受けてしまっては…断れないんだよなぁ…これ魅了効果絶対あるわ。
「…あー…カルド。すまないが今日はケルンと寝ることにする。代わりに遊び道具は俺の部屋に移動しておいてくれ。使わないのももったいないからな」
せっかく用意してくれたのに、何もしないのはもったいない。せめて遊び場にしたり、ケルンの昼寝部屋にしてもいいかもしれない。もう昼寝をしなくてもいいのだけど、たくさん寝ればそれだけ大きくなる…はずだからだ。
寝る子は育つ。きっと。
「かしこまりました。エセニア、坊ちゃまの遊び道具を若様のお部屋へ」
「はい」
カルドの指示にエセニアがケルンのおもちゃを部屋に持っていくようだをケルンのおもちゃのことを一番知っているのはエセニアだから適任だ。今でもどんぐりで遊ぶから、どんぐりコマとか作るか。
帰ってきてすぐに話をしなければと、母様がお茶の支度をフィオナに頼んだ。
和気藹々とみんなでお茶会をする…とはならなかった。
「よし、私もお茶を」
「ティス。お仕事なんでしょ?」
父様が参加をしようとしたのを、母様がたしなめたのだ。
母様が仕事を優先させたいなんて、よっぽど仕事が大変か…さぼりまくったかだな。
「私も息子たちとお茶をしたい!」
「旦那様…」
親子だななぁ…ケルンといい方がそっくりだ。カルドがあきれたように見ているけど、父様は気づいていない。
「すぐに終えて帰ってくればいいでしょ?」
「そうしたいんだが、どう頑張っても帰宅は夜になってしまうんだ」
父様が遅くなるっていうからには、よほど仕事が多いんだろう。
ってか、そんな状況で迎えに来てくれたのか。『転移』で一瞬とはいえ、あいんだろうか。
「くそ…馬鹿な貴族の調査なんて…いっそ全て燃やしてやろうか…」
「旦那様、お言葉が。それと証拠がなくなるのでお止めください」
黒い父様の呟きは聞かなかったことにしよう。父様は見た目はお歳を召しているが、中身はめちゃくちゃ若いってのはよくわかった。
嫌いじゃないんだけど、はしゃぐから…あ、お土産があるんだった。
「そうだった。父様。今日は前に約束したことをしましょう。一緒にお酒を飲みませんか?お仕事でお忙しいとは思いますが…親子の時間を取りたくて…ケルンとコップを選んだんです。な?」
「うん!僕は果実水を一緒に飲む!だから早く帰ってきてね?」
サイジャルって制作関係の人が集まるから、俺の目からでも素晴らしいってわかるガラス細工が山ほどある。
父様や母様の瞳のガラス細工のコップを見つけたときはケルンと二人で喜んで、すぐに買った。金貨三枚とか安い買い物だったしな。
父様と酒を飲み交わすっていうのも面白そうだった。
「エフデ、ケルン…」
「あら、母様の分はないのかしら?」
感動している父様と、仲間に入れてほしそうな母様の言葉に思わず笑ってしまう。
「あるよ!」
「ばっちし買ってます」
「ばっちし!」
俺の真似をするケルンに、ちらっとあたりをみる。エセニアはまだいない。セーフ。ミルディがため息をついたけど、セーフだ。
「ふふふ…あんまり遅くてはケルンが一緒に飲めないわね。おねしょしちゃうもの」
「そうですね…ケルンのためにも父様が早く帰ってきてくれたらいいですね…」
「父様…」
夜間はなるべく水分をとらないようにしている。トイレで起きて、寝不足にならのは成長に悪いからな。
建前なんだが、父様は気づかないだろう。
「すぐ済ませて帰ってくるから!カルドも来い」
「はい、旦那様。手早く済ませましょう」
二人はすぐに『転移』した。
貴族の人はご愁傷様だけど、不正はよくないので、きっちり裁かれてください。
しかし、思っている以上にだ。
「父様ってちょろくない?」
「かわいいでしょ?」
惚気られた。
…もしかして、俺やケルンもちょろいのか?
俺たちは与えられた四日間を丸々使えるが人によっては移動で丸一日潰れるだろう。
「ミケ君やメリアちゃんはどうするの?」
屋敷に戻るための帰り支度というものをしない俺たちは、暇をもて余していた。
市場で屋台を冷やかし、ミックスジュースを出す店で品物を買う。ここのは珍しい果実を使っているからか、飲みやすく美味しい。
今回は俺やケルンにミルディだけではなく、ミケ君とメリアちゃんも一緒だ。アシュ君はまた忙しいらしく、図書館にこもっている。それにマティ君はいなかった。
ミケ君たちは帰国をしないと前もって聞いていたので、ケルンのおしゃべりに付き合ってくれている。
「サイジャルはまだ安全だからな。ここで過ごすさ」
「少々、大掃除に時間がかかっているようですから」
「大掃除?…二人のお家はおっきいもんね!」
二人の裏をまったく読まないでケルンが納得している。それを生暖かい目で三人が見ているのをケルンの肩の上で感じる。
本当に周りが大人だからだよな?子供ってケルンみたいなのが普通だと思いたいんだけど。
大掃除というのは、そのままの意味ではない。内部で不正をしている貴族を粛清している最中らしい。
その大掃除には父様やティルカ、キャスまで参加しているそうだ。
父様たちロイヤルメイジと軍人のティルカは武力面で貴族を押え、キャスは政務関連での用途不明金などを精査しては虱潰しに文官などを罷免して裏の繋がりを追求しているそうだ。
秘密裏にしなければならないことだというのに、俺がそのことを知っている理由は単純だ。
褒めて欲しいティルカが事細かく報告してくるのだ。
やっぱり、あいつ尻尾とか生えてるんじゃないかな?
空を見上げればティルカのいい笑顔の幻覚が空に浮かんでいた。守秘義務ってこの世界には存在しないのだろうか。
「退屈しない?」
「面白いものがたくさんあるからな。アシュはそれらをまとめているようだぞ?だが、一番食いついていたマティはすでに王都に帰ったようだぞ」
「そうなの?」
「ふふ。エフデお義兄様やケルン様が許可をしてくれたから弟君たちと楽しむとおっしゃってましたわ」
サイジャルは最新技術が目白押しだからだ。宰相家としてはその技術が手に入るならほしいんだろう。技術力は国力に繋がるからな。
とはいえ、簡単には手に入らない物ばかりだから図書館にある論文を書き写すとかまとめるだとかの作業が待っている。アシュ君はそれをやっているのか。
書類とかしばらくは見たくない。
「あんな書類の量はさすがにもうみたくない」
その理由が映画関係の書類だ。ユリばあ様との話が終わったその日に追加で出された書類はケルンの身長よりもあったのだ。
サインだけでいいからといわれても、読まないといけないから、きちんと読んでいった。思考加速で速読できるから引っかけにかからなくてよかったところだ。
ケルンとマリーヌ先輩の婚約許可と俺のサイジャル専属職員の受諾書とか他にも似たようなのが紛れていたからな。
即座に破棄して抗議文を学長とマリーヌ先輩たちに送りつけて、詫びの品を請求しておいた。鉱石が足りないから貰えるといいな。婚約関係のは全部リンメギンの人だったから期待できる。
悩んだ書類もあったが、ケルンと話し合って…ケルンに説得されてが正しいが、許可をした。
「母上も楽しみにしておられるらしいから、二人には感謝している…母上がこちらに来られても困るのだ」
「お勤めを放棄してまでは来られませんでしょうが…王妃なので…」
王妃様が映画のために来るのは問題だからな。あとは、マティ君の気持ちがよくわかるからってのがある。弟さんを喜ばしたいってのは、かなりわかる。
「あのね、続編も作ったから今度見ようね!」
「…続編は勘弁してほしかった」
こいつがここまで喜ばなきゃ俺も断ったんだけどなぁ…まぁ、俺の出番はそんなにないし、ケルンの演技力が上がるのは将来の可能性の幅が増えるし…子役でもトップ張れるぐらいは顔がいいからな。
「僕は楽しかったよ!」
「おー、今日もキラキラしてんなぁ」
無駄にキラキラさせてるが、俺にむけてるのに、周囲に被害が出ている。たまたま見てしまった市場の人が腰から落ちて悶えてるのが視界のすみに見えたぞ。
訂正する。役者ではストーカー被害が出るから止めさせよう。
それからぐだぐだとおしゃべりは続いていたが、市場に来ていた生徒の数が減っていく。市場の店も同じように閉店する。
「義兄上、ケルン。そろそろ馬車に乗らねば帰りが遅くなるのではないか?」
定期馬車が出ているのだが、屋敷にもどのならもっと早くの馬車に乗らないと夜中になってしまうだろう。
その必要もないんだけどな。
「父様が迎えに来てくれるんだ!」
「ティストール様が?」
俺たちが帰るってなったのに、父様が送迎に来ないわけがなく、時間がきたら橋を渡ればいいのだ。
誰よりも張り切っていたから、時間より早めに来るかもしれない。
「何でも今は仕事が落ち着いたから…って聞いてたんだが、違うのか?」
父様はせっかちだからと考えていれば、ミケ君の顔がみるみる微妙な表情になっていく。
「いえ…父からの手紙ではお忙しいと聞いていたので」
確かに父様は忙しいっちゃ、忙しいかもな。ちょくちょくこっち来てるけどすぐ帰っているし。
…さぼってないよな?
「では四日後に」
「お待ちしておりますわ」
「いってきまーす!」
「じゃあな」
時間が来て橋へと向かう。
案の定父様はすでに迎えに来ていて、俺たちはその場で抱きしめられて、身動きがしばらくできなかった。
すっと父様の抱擁を避けたミルディもそのあと捕まっていた。
「ただいまー!」
「…お邪魔します」
屋敷に帰ってきての第一声だ。
俺の場合、どうすればいいかわからず、体を得てからは初めてだし、これでいいかと挨拶をする。
するとすぐに出迎えてくれた人からの注意が飛んできた。
「ただいまでしょ?」
「…ただいま戻りました、母様」
「母様ー!」
「おかえりなさい。二人とも」
腕を広げている母様にケルンは飛び込んだ。ぎゅっと俺ごと母様は父様とはまた別な力加減で抱きしめる。
ここら辺が父親と母親の違いなんだろうか。父様はひげでケルンを遊ばせる感じだけど、母様は胸で包む感じだ。
甲乙つけがたい。何せ、どちらも愛情がたっぷりだからだ。
「あのね、母様、聞いて!お兄ちゃんがペギン君の続きを映画にしたんだよ!」
「あら、本当?」
「それでね、僕ね」
ケルンが母様に何をしていたかを報告していると、カルドが近づいてくる。
「若様。若様のお部屋はご用意しておりますがいかがいたしましょう」
「そうだな…」
どうやら本当に俺の部屋を用意してくれたようだ。あの子供部屋を俺ようにしたってところだろう。
せっかくの用意してくれたのもあるし、寝るときはそちらを利用してもいいかもしれないな。
「俺用の布団とかなのか?」
「後々を考えまして通常の物です…フィオナに縫わせましょうか?」
後々を考えて…か。ユリばあ様から聞いたのか?
普通のサイズの布団でも問題ないから別にいいんだけど、小さな布団もいいかもしれないな。
「え?お兄ちゃん、一緒に寝てくれないの?」
ケルンが母様との話を中断して俺をつかんで話かけてくる。お前、そんな隠すように話しちゃカルドに悪いだろ?
「…いや、部屋があるから、俺はそっちで」
「や!一緒がいい!」
「サイジャルでは部屋がないからで、ここには部屋があるんだぞ?前まで一人で寝れていただろ?」
ケルンは割りと一人で寝るのは平気な子だったから、早くから一人で寝起きしていた。
寝かしつけの絵本さえ読めば爆睡してくれるから、簡単だっただろう。ここのところは、俺と一緒でしか寝ていない。
「お兄ちゃんがいたもん…僕は一人で寝るのやだもん…お願い、だめ?」
「うぉ…キラキラが…」
ケルンからのキラキラをまともに受けてしまっては…断れないんだよなぁ…これ魅了効果絶対あるわ。
「…あー…カルド。すまないが今日はケルンと寝ることにする。代わりに遊び道具は俺の部屋に移動しておいてくれ。使わないのももったいないからな」
せっかく用意してくれたのに、何もしないのはもったいない。せめて遊び場にしたり、ケルンの昼寝部屋にしてもいいかもしれない。もう昼寝をしなくてもいいのだけど、たくさん寝ればそれだけ大きくなる…はずだからだ。
寝る子は育つ。きっと。
「かしこまりました。エセニア、坊ちゃまの遊び道具を若様のお部屋へ」
「はい」
カルドの指示にエセニアがケルンのおもちゃを部屋に持っていくようだをケルンのおもちゃのことを一番知っているのはエセニアだから適任だ。今でもどんぐりで遊ぶから、どんぐりコマとか作るか。
帰ってきてすぐに話をしなければと、母様がお茶の支度をフィオナに頼んだ。
和気藹々とみんなでお茶会をする…とはならなかった。
「よし、私もお茶を」
「ティス。お仕事なんでしょ?」
父様が参加をしようとしたのを、母様がたしなめたのだ。
母様が仕事を優先させたいなんて、よっぽど仕事が大変か…さぼりまくったかだな。
「私も息子たちとお茶をしたい!」
「旦那様…」
親子だななぁ…ケルンといい方がそっくりだ。カルドがあきれたように見ているけど、父様は気づいていない。
「すぐに終えて帰ってくればいいでしょ?」
「そうしたいんだが、どう頑張っても帰宅は夜になってしまうんだ」
父様が遅くなるっていうからには、よほど仕事が多いんだろう。
ってか、そんな状況で迎えに来てくれたのか。『転移』で一瞬とはいえ、あいんだろうか。
「くそ…馬鹿な貴族の調査なんて…いっそ全て燃やしてやろうか…」
「旦那様、お言葉が。それと証拠がなくなるのでお止めください」
黒い父様の呟きは聞かなかったことにしよう。父様は見た目はお歳を召しているが、中身はめちゃくちゃ若いってのはよくわかった。
嫌いじゃないんだけど、はしゃぐから…あ、お土産があるんだった。
「そうだった。父様。今日は前に約束したことをしましょう。一緒にお酒を飲みませんか?お仕事でお忙しいとは思いますが…親子の時間を取りたくて…ケルンとコップを選んだんです。な?」
「うん!僕は果実水を一緒に飲む!だから早く帰ってきてね?」
サイジャルって制作関係の人が集まるから、俺の目からでも素晴らしいってわかるガラス細工が山ほどある。
父様や母様の瞳のガラス細工のコップを見つけたときはケルンと二人で喜んで、すぐに買った。金貨三枚とか安い買い物だったしな。
父様と酒を飲み交わすっていうのも面白そうだった。
「エフデ、ケルン…」
「あら、母様の分はないのかしら?」
感動している父様と、仲間に入れてほしそうな母様の言葉に思わず笑ってしまう。
「あるよ!」
「ばっちし買ってます」
「ばっちし!」
俺の真似をするケルンに、ちらっとあたりをみる。エセニアはまだいない。セーフ。ミルディがため息をついたけど、セーフだ。
「ふふふ…あんまり遅くてはケルンが一緒に飲めないわね。おねしょしちゃうもの」
「そうですね…ケルンのためにも父様が早く帰ってきてくれたらいいですね…」
「父様…」
夜間はなるべく水分をとらないようにしている。トイレで起きて、寝不足にならのは成長に悪いからな。
建前なんだが、父様は気づかないだろう。
「すぐ済ませて帰ってくるから!カルドも来い」
「はい、旦那様。手早く済ませましょう」
二人はすぐに『転移』した。
貴族の人はご愁傷様だけど、不正はよくないので、きっちり裁かれてください。
しかし、思っている以上にだ。
「父様ってちょろくない?」
「かわいいでしょ?」
惚気られた。
…もしかして、俺やケルンもちょろいのか?
10
あなたにおすすめの小説
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
神のミスで転生したけど、幼女化しちゃった! 神具【調薬釜】で、異世界ライフを楽しもう!
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
旧題:神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!
電子書籍は、2026/3/9に発売です!
書籍は2026/3/11に発売(予約受付中)です!メロンブックス様より、特典の描き下ろしSSペーパーがあります。詳しくは、メロンブックス様へお願い致します。
イラストは、にとろん様です。よろしくお願い致します!
ファンタジー小説大賞に投票して頂いた皆様には、大変感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる