選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第六章 ケモナーと水のクランと風の宮

大聖堂

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 慣れ親しんでいる屋敷もそうだが、ポルティもこの体からだと新鮮に感じる。
 昨日は一日屋敷にいてのんびりしてしまった。

 ガタガタと馬車に揺られている。ケルンの膝の上に座っている。対面には父様が座っていた。御者にはエセニアとミルディがしている。
 カルドは父様から追加の仕事を頼まれて朝から出てしまっているから、今回はいない。

「お兄ちゃん、あとでお買い物しよ?父様、いいでしょ?」
「ああ。いいぞ。エフデの部屋に置く物は自分で選んだ方がいいだろうからな。二人とも、何でも好きな物を買いなさい」
「二人ともって…まぁ、いいか。エセニアー、ミルディ!買い物もして帰るからなー!」
「かしこまりました」

 俺も買い物が嫌いってわけじゃない。それに部屋に置きたい物がないわけじゃない。あとはまぁ…ケルンと父様が嬉しそうだから。

 大歓迎の帰宅となったが、ほとんど母様たちとお茶会で話したり、ケルンと部屋で遊んだり、ランディに会いに行き、スラ吉とも顔合わせも済ませた。
 スラ吉のボディは罪作りだ…ウォーターベッドよりもぽよぽよで最高だった。

 それともう一人。ハンクとようやく対面をしたので挨拶をしたのだけど、人見知りのはずなのに、そこまで拒否反応がなかったのは助かったのだが、何だか不思議なことをいわれた。

「兄御殿、坊ちゃま、お家騒動?家督、兄御殿?坊ちゃま?」
「あ?ケルンが継ぐぞ」
「…骨肉…あら、そい。なし。いい」

 ケルンが継ぐのは当たり前だというのに、何を心配したのかはわからない。
 ハンクはやたらと家とかを気にするが、性分なのか元々いたところの風習なんだろうか?

 クウリィエンシアではそもそも指名制だっていうのを知らないのかもしれない。まぁ、断る権利もあるらしいが、血統主義なのは間違いない。
 スキルと魔力のためだが、スキルは必ず遺伝するとは限らないからな。

 あとはやたらと俺の好物とかを把握しているのは、エスパーなのか?晩ご飯の鴨南蛮とか最高だった。

「それで…本当に精霊と契約をしていけば、エフデの体を用意するとおっしゃっていたのか?」
「うん!ね?お兄ちゃん」
「ん?ああ。そういわれました」

 味を思い出していたら父様が真剣に尋ねられたので、思考を切り替える。
 酒を酌み交わしているときにサイジャルでの一件を話したのだ。

 ちなみにだが、俺はまったく酔わなかった。父様も強い方だと思うが、この体だからだろうな。何も問題なく二日酔もしていない。

 ワインを半分ほど開けたんだが、平気とは思わなかったな…樽だったんだけど。
 この小さな体でぱかぱか入るからびびった。あと、普通に美味しかった。

「しかし…呪いか…精霊にもっと早く聞いておけばよかった」

 どこか悔しそうに父様が呟く。昨日から含めて何度目だろうか。

「ユリばあ様いわくだったんですがね…体のことも含めて」

 ユリばあ様だけがあっているだけならそこまで信用はしていなかったが、父様が精霊様に尋ねて得た答えはユリばあ様の言葉を肯定しただけだった。

 まるで絡みつく蛇のような呪いが俺にかけられているそうだ。
 蛇は嫌いじゃないんだけど、呪いは勘弁して欲しいところだ。

「あの方は私の父、お前たちの祖父もよく知っている方だ…わざわざ嘘はいうまい。体もサイジャルなら可能かもしれない…あそこは私でも知らない実験をしているからな」

 そういって、父様は外へと視線をむける。
 ぎゅと俺を掴んでいるケルンの手が強まる。絶対に契約をするという強い気持ちもまた伝わってきた。

 ポルティの大聖堂は古いけど立派な建物だ。
 昔々、まだクウリィエンシアが一つの国になる前にあった国の若者がここで風の精霊様と契約を交わし魔物から国を救った。若者はその後国王になったという伝説がある。

 ちょっと怪しい話なんだけど、一振りで百の魔物を木端微塵にしたとか…伝説ってのは脚色されてなんぼだが、他にも若者は突如現れたとか、突拍子もない話が多かった。

 そんな様々な伝説があるおかげなのか、やたらと立派な大聖堂が建立されている。ポルティの街の建物が新しく綺麗なのに、ここだけ古いからもしかしたら、ずっと昔からこのまま…なんてな。ありえないか。

 馬車から出てケルンの服に入り、顔を出しながら大聖堂を見渡す。

「風の精霊様って女の人なのかな?」
「水はそうだったな」

 大聖堂には女の人の姿の風の精霊様の像が置かれている。
 あとケルンが描いた絵とかも飾られているはずだ。奉納したその日に盛大な儀式をした話を聞いたからな。

 綺麗な風の精霊様の横に棒神様ではちょっとインパクトにかけるかと思うんだけどな。
 あとは、ケルンと契約をしてくれる精霊様がどんな女の人なのかはわりと気になる。

 天使のおねぇさんや、水の陸上女子とメイド…見事に濃い目の女の人に囲まれてしまったからな。カワウソの癒しは大事な枠だったと今でも思う。

 そんな疑問を父様に尋ねれば、エセニアが開けてくれた扉をくぐろうとして、立ち止まってしまう。

「風はな…普段がな…」

 父様は顔をしかめて黙ってしまった。そして、そのまま無言で大聖堂に入っていく。
 え、父様がいいよどむとか、どんな精霊様なんだろうか。

 怖くて聞き返せないでいると、父様が事前に知らせておいたために、大聖堂を管理する司教様がすぐに来てくれたようだ。
 父様が壁になっている間に俺はケルンの服の中に予定通りに潜り込む。俺の姿は教会の人が驚くため隠すようにいわれていたからだ。

「これはティストール様。それにケルン様。ようこそいらっしゃいました」
「ベルザ司教。ご無沙汰しています」
「こんにちわ!」

 ベルザ司教はかなり高齢のおじいちゃんだ。髪の毛はまったくなく、腰も曲がってしまっているが、帽子だけはまっすぐで落とさずに歩くという器用な人だ。
 それだけじゃなく、歯はなんと自前だ。入れ歯なんてない。ケルンも見習わそうと思うほど、健康長寿な人で、御歳百九十七歳だ。

「はい、こんにちわ。ご健勝でよかったです。それで本日は何用でございましょうか?ご子息もお連れになるとは…何かよからぬことでもありましたか?」

 服のすきまから覗けば、曲がった腰をわずかにまっすぐに戻してベルザ司教は口調もしっかりと話し出した。

「いざとなれば、我らポルティの者たちは全員戦いますぞ?拙僧もわずかではありますがお力になりましょう」
「いえいえ。そのような話ではありません大丈夫です。息子が風の精霊と契約をしたいというので連れてきただけですので」
「契約をしたいです!」

 ベルザ司教はすぐに戦いがあると判断してしまう。たくさんの戦争を経験してきていて、貴族が子供を連れてくるときは匿ってほしいときが多かったからだろう。
 まぁ、それとは関係なくても毎度同じやりとりになっている…お歳だから仕方ないことだ。

「そうでございましたか。いや、お恥ずかしい…拙僧も歳でボケてしまいました。ですがよろしいので?いささか契約をするには時期がよくありませんが」
「構いません。そこまで強い精霊を求めておりませんから」

 時期?精霊様と契約をするのにいい時期とかあるのか。そういうのは意識して調べていなかったからまた調べておかないと。

 ベルザ司教は納得したのか、父様にうなづいて控えている従僕に指示を出している。

「それでは、大鐘楼の間を開けましょう。用意してくれ…では、ケルン様。ささ、参りますぞ」
「はーい!…お兄ちゃん、僕、頑張るからね!」

 小声で俺に伝えるケルンの声を聞きながら少し不安が強まった。
 目的の大鐘楼から何だか濃密な気配を感じるのだ…それもかなり濃い目の。
 …どうか勘違いでありますように。
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