筋肉令嬢の王国改革

竹端景

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麗しの君

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「こうきゅう、なるところは、なんともよき所ではないか!新人にこのような贈り物を…私が持ってきた猪も一人一頭と考えればよかった…抜かった」

 かつらをとり、いつもの服装…端からみれば若い軍人にしか見えない服を屋敷を出るときに持ってきていた。控えさせているメイドに気づかれる前に腹ごなしをしようと、こっそり着替えたのだ。
 メイドに叱られるということはわかっているのだが、なぜ叱られるのかはわかっていない。

 後宮を守り衛兵たちの目を掻い潜り、屋根を飛び乗って彼女きょろきょろとあたりを探す。目当ての場所は水場と火が使える場所。

「あそこか」

 そういって、かのじょはぴょんぴょんと屋根を跳び跳ねて目的の場所へとたどり着いた。

「全たーい!突撃ぃ!」
「よきかな!なんとも士気であるな」

 そこは訓練場である。あくまで城を守る近衛とは違い軍人たちが行う訓練の場。

 ここは後宮のある場所とはかなり離れている。下手をすれば王宮の外近くだ。
 彼女は気配を消し、屋根を跳び跳ね、壁を蹴って上がって移動してきた。

 人の目にうつることもなく、見られても見間違いだと思うだろう。

「混ざりたいが…さっさと捌くか」

 さすがに自重をして、今日は蛇を食べることに集中するようだ。
 ただ、明日からはどうにかして参加できないかと考えているようだが。

 訓練場のすみには、水場に簡易な竃があるだけの炊事場がある。幸運なことに竈には火が残っていた。
 彼女はなれてた手つきで蛇を捌いて、竃の灰の中に直接捌いた蛇を入れた。蒸し焼きになった蛇についた灰を皮と一緒におとし、塩もこっそりと拝借して振りかけて食す。

「ふむ…こちらの蛇は味が薄いが…油はのっておるな」

 にこにことうまそうに食べているが、彼女はこれでも公爵令嬢である。
 ただ物心ついたころから、父親の公爵と一緒にサバイバルばかりしてきた結果こんな風になった…だけではなく、悪食なのだ。食べれるなら何でも食べる。
 筋肉にいいものなら特にだ。

「私も明日から…はて?」

 訓練の野太い声とは離れて、少し高い声が聞こえる。リズムも悪く、力の入っていない声だ。
 気になった彼女は、その声の元へと彼女なりの速度で歩いていく。

「てぇ!はぁ!」

 木の棒を振っているのは、彼女が見たことがないものだった。
 それは彼女が見たものの中で一番麗しいと思った。

 銀色に透き通る髪に、金色の瞳。細く長く伸びた手足だが、身長は低い。
 リコレッタは180ほどの身長があるが、目の前の存在は150ほどしかない。

 彼女は目の前の存在がなにかすぐにわかった。こんな存在は彼女の中で一つしか浮かばなかったのだ。

「おー!まさか…城の妖精か!」

 父親が寝物語で語った話に、城には妖精がいていつも国を守るために訓練をしていると聞いたのだ。
 妖精は見目麗しいものだ。つまり、見目麗しい目の前の存在は妖精である。

 そう彼女は考えたのだ。
 しかし、気に入らない。まったくあれでは訓練にならないだろう。持ち方は甘く、剣もぶれている。
 これでは強くなるのは難しいだろう。せっかくの訓練なのだ。強くならねば意味がない。

「妖精殿!指南をしてもよろしいか?」
「えっ!あ、貴方は誰ですか!?」

 リコレッタは声をかけた。
 これが彼女の運命を決めたのだ。
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