僕と彼の話

竹端景

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しょくご

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 晩ご飯も済ませて食後にコーヒーをいれる。彼は僕に付き合ってコーヒーを飲むが元々そんな習慣は持っていなかったらしい。僕は食後にコーヒーを飲みながら今日あったことを話したり聞いたりするのが好きだ。

「それで、俺が契約とってきたってほめず嫌味で、大きなところはあとが面倒だ。とかいうんだぜ?」
「それは嫌だね」
「だろ?自分が前に失敗したからって俺が失敗すると思ってるんだろ。俺とお前は違うんだっての!」

 飛びこみ営業で、僕でも知っている大きな会社と仕事ができるようになったと昨日聞いたときは、胸をはって自慢してきていた。今日は上司からの小言をもらったそうだ。
 その上司が以前飛びこみ営業で、その会社から断られた腹いせらしい。大変だな。

「明後日は早く帰れるんだろ?僕も繁忙期は過ぎたから、映画でも行く?」
「マジ?今やってるので…CMでみたのいつだったかな?」
「あれはもうレンタルしてるでしょ」
「そんな前だったか…調べて行こうぜ」

 大きな契約をとれたご褒美にしてはささやかだけど、いそいそとスマホで調べだした彼はにへらと、だらしなく笑う。彼だけじゃなく、僕も久しぶりの映画だから僕も楽しみになってきた。

「あ、あと、あとさ」
「ん?お祝いのケーキ?」

 はっとした顔をして、右のリビングに顔をむけて、ちらちらと視線だけ僕にむける。お祝いだからケーキか食べたいのかな?

「ちがくて、あのさ…今日マッサージしあうのあり?」
「えらく直球だけど…溜まったの?」

 普通のマッサージじゃないのは、期待の視線でわかるけど、マッサージの方を選ぶってのは、溜まってきたのかと勘ぐってしまう。一戦交えるときは彼が休みじゃないといけないし、僕らは別に繋がらなくてもいいから、触れ合うだけの日もある。
 年齢と共に回数は減ってはいるけれど、なくてもいい日だってある。昔と違って今は二人で寝ているからお互い満足しているからだ。

「あのさ…映画って学生の頃よく行ってたじゃん?なんかさ…」
「気持ちが学生の頃に戻ったって?」

 学生の頃は二人でいても変な目で見られない場所にたくさん行った。当時からやんちゃしてそうな彼はこうみえて乙女思考というか、憧れがあるらしい。

 クリスマスツリーの点灯式で周囲が見えなくなるほど興奮してその場でキスされたのは、去年のことだ。すぐに気づいてやらかしたって顔をしたけど、僕らの周りも似たりよったりだったから、大丈夫だった。結局その日はそのまま僕らでも大丈夫な宿を探してお泊まりした。

「あの頃、お前あんま最後までしなかったからさ…なんかスイッチが入った」
「負担が大きいからってのと、ちょっと求められる回数が…筋肉痛がつらい」
「運動しようぜ」
「あのときもそういって、ハッスルされたんだけど」

 運動不足なのは認めるところだけど、彼の方が終わってから元気なのはどうかと思う。

「まぁ、今の体型も好きだけど」
「ありがと」
「で…する?」
「…替えのシーツ出しといて」

 にやっと笑う彼を見ながら飲むコーヒーは苦かった。けれど、あとの方から甘さがくる。砂糖はいれてないんだけど、彼のせいかな。
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