世界唯一の妖喚師 ~転生したらスキル「召喚」が「妖怪限定」でした~

詩月 七夜

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第十二話 抜き打ちでやられるとドン引くもの

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 イセルナさんの話によると、事の次第はこうだった。

 俺が成し遂げた悪魔退治と地下洞の調査・報告は、確かに評価されるべき成果だった。
 しかし、俺が証拠品として提示した悪魔の骨(ウェルダン)は、どう考えてもステラ一つ等級ランクの俺だけで入手できたとは思えない。
 で、冒険者ギルド幹部達は疑いを抱いた。
 つまり「俺が悪魔を退治した」んじゃなく「もともとあった悪魔の骨を持ち帰った」だけなんじゃないか…と。

「…そこまで言われると、ぐうの音も出ない…」

 潔白を証明しようにも、現場で悪魔との戦いを見ていた証人は不在。
 …いや、厳密に言えばいることはいるんだよね。
 いるんだけど…その証人って下級悪魔レッサーデーモンを倒した妖怪達だし。
 彼らの存在を明らかには出来ないので、証人は不在同然ってことになる。
 あとは魔王の小槌こづちだけど…この世界では場違いな物体オーパーツなので、証人にするなど論外だ。
 この無機物案内役ナビゲーターが人前で話し始めたら、物珍しさから没収される可能性もある。
 俺が一人で頭を悩ませていると、イセルナさんがサラッと言った。

「…まあ、真っ先にその疑義を投じたのは、何を隠そう、この私自身でもあるのだが」

 ガタン!と俺は今度こそ床に突っ伏した。

「え、ええと…イセルナさん?」

 ワナワナ震えながら身を起こす俺に、頭を下げる美人ギルド統括者マスター

「すまない…今回、君が成し遂げた案件解決については私も高評価を行った。弁明に聞こえるかも知れないが、報酬もそれなり金額を提案し、幹部達を説き伏せ、どうにか賛同も得ることができた」

 そこで頭を上げ、俺を見詰めるイセルナさん。

「…しかし、等級上昇ランクアップの承認については、君の実力にはっきりとしない点が多過ぎて何ともならなかったんだ」

 さっき、俺が悪魔を倒した時の様子や、俺の職種クラス「妖喚師」について聞き出そうとしていたのはそういうことか。
 まあ、彼女なりに幹部達にも説明できるよう情報を得ようとしたんだろう。
 幹部達にしてみれば、妖怪の存在と妖喚師としての実力を隠す俺は、謎が多過ぎる存在だろうし。
 いくらギルド統括者マスターである彼女の推薦でも、そこは容易に認可できないってわけだ。

「…仕方がないですね」

 立ち上がって衣服のほこりを払いつつ、俺は溜息を吐いた。

等級上昇ランクアップは諦めます。報酬をもらえるだけでも有り難いですし」

 本音を言えば、山ン本のおっさんには「妖怪が異世界に進出した時に便利だから、できたら出世しておけ」とも言われていたし、どうせならその第一歩として等級上昇ランクアップして、社会的地位を築いておきたかったけど…

「いや…打開策が無いわけでもない」

 イセルナさんが片眼鏡を光らせた。
 そして、俺をまっすぐに見つめる。

「幹部全員が納得する形で、君の実力を示せばいい」

「幹部全員に…俺の実力を!?」

 イセルナさんが頷く。

「実は、冒険者達の等級上昇ランクアップを諮る方法については二つの方法がある」

 そう言うと、イセルナさんは指を二本立てて見せた。

「まずは先程言ったように、冒険者の実績をギルド幹部で審議する方法だ。まあ、これはいま話したとおり残念な結果となった」

 そう言うと、指を一本にし、イセルナさんは続けた。

「もう一つは…『昇級試験』を受け、合格する方法だ」

「昇級試験…?」

 テストや試験は、現実世界で社会人になるまで散々受けたので、少し身構えてしまう。
 イセルナさんの説明によるとこうだ。
 「昇級試験」とは、冒険者ギルドに設けられた名前のとおりの等級上昇ランクアップ制度で、受験する冒険者の等級ランクに応じてギルド側から教導役を選出。
 で、模擬戦やテスト等を行い、教導役から評価されて合格すると、めでたく等級上昇ランクアップとなるらしい。
 申込制で随時受付しているそうだけど、有料だし、合格・不合格問わず支払った受験料は返却されない。
 あと、むやみに申し込みされないよう、受験料はそれなりの額を支払うことになるし、連続して不合格になるとペナルティもあるとか。

「アルト君さえ良ければ、昇級試験の段取りを組んでおこう。どうだろうか?」

「ちょーーーーーっと待った!」

 と、そこにジーナさん(袋狢ふくろむじな)がストップをかける。
 ジーナさんはイセルナさんを見ながら言った。

「ギルド統括者マスターさん、さっき『幹部全員が納得する形で、君の実力を示せばいい』って言ってたよね?それが昇級試験を合格するってことなの?」

「そうだ」

 頷くイセルナさん。
 すると、ジーナさんは俺をチラリと見つつ言った。

「ってことは…ご主人に模擬戦とかしろってことでしょ…?」

 …あ。
 ジーナさんが言いたいことが分かったぞ。
 いま、僕はこの世界で妖怪達のことを伏せておきたいから、彼らを呼び出すところは誰にも見せていない。
 前に、ビルギットさん達を救った時は“鬼熊おにくま”の姿こそさらしてしまったけど、外見が熊そのものだから何とか誤魔化せたし「妖喚」したところは見られていない。
 だが、イセルナさんの言う昇級試験では、少なくともギルド幹部達の前で妖怪を呼び出さなければならなくなる。
 何せ、妖喚無しで、俺単独で勝てるかなんて未知数だ。

『迷う必要はないと思うだわよ』

 と、腰の小槌が突然そんなことを念話で言い出す。
 俺は驚いて思わず小槌を見やった。
 同時に、俺の口がひとりでに開いて言葉を発した。

「…いいじゃないだわ。その昇級試験とやら、受けてやるだわよ」
 
「おお、良いのかね…!?」

 驚くイセルナさんとジーナさんを前に、俺(の意志で動かない俺)が頷く。

「三日後にまた来るだわ。その時に昇級試験とやらを受けてやるだわよ」

 おいおいっ!
 一体何がどうってるんだ!?
 俺が俺の意思を無視して勝手にしゃべり始めたぞ…!?
 それにこの口調って…どう考えても小槌のそれじゃん!?
 俺のその返事に、イセルナさんが頷く。

「よかろう。では、三日後の朝にまたギルドに来てくれ。それまでには昇級試験の準備を整えておこう」

 何が嬉しいのか、イセルナさんが珍しくはしゃいだ様子で両手を合わせる。
 それを見ながら、俺はもはや後戻りができない状況に、目の前が真っ暗になる思いだった。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「一体どういうつもりなのさ!?」

 ギルドを後にし、町はずれの館へと戻って来た俺は、ジーナさんにお礼を言って送還した後、小槌に詰め寄った。
 昨日の悪魔退治以降、無害化されたこの館には目下、住民は俺一人。
 広大な館なので、個室と台所、トイレぐらいしか使用していない。
 どうにも落ち着かないが、あと三カ月ほどこの館に住み続ければ依頼達成だ。
 報酬も受け取れるし、冒険者としてまた実績がつく。
 まあ、悪魔退治やらで不意の収入があったから懐はあったかいんだけど、何が起こるか分からない異世界、蓄えは多いに越したことはない。
 おまけに宿代も浮くしね。

『どういうつもりって…そりゃもちろん昇級試験とやらに合格するつもりだわよ?』

 ことも無げにそう言う小槌に、俺は溜息を吐いた。

「…『だわよ?』じゃないって。ギルドの連中に妖怪を呼び出すところを見られちゃってもいいの?色々追及されんのはマジで嫌だぞ、俺」

 俺のボヤキに、小槌は溜息を吐いた。

『…貴方は、自分自身と妖怪の「力」の在り方をしてるだわ』

 その言葉に思わず小槌を見やる俺。
 そんな俺に小槌は続けた。

『魔王様が貴方に授けた力は、確かに「妖怪を呼び出す力」だわ。でも、それだけが「力」の全てじゃないだわよ』

「…初耳なんだけど」

 俺の言葉に小槌は「やれやれ」という風に言った。

『貴方、妖怪好きだわよね?』

「うん」

 即答する俺。

『じゃあ、そもそも「妖怪」って何なのか、分かるんだわ?』

 「妖怪」とは何か。
 その問いは、俺みたいな「妖怪馬鹿」にとっては基礎中の基礎みたいなもんだ。

「そうだなぁ…『妖怪』をオーソドックスに定義するなら『人知を超えた妖異かつ怪異な』。そして『そうした現象を起こす超科学的な存在』かな」

『…さすが、だわね』

 小槌が予想外にうれしそうな声でそう言ったので、俺は少しビックリした。

『いまのその答えが、もう貴方の力…「妖喚」の一端を表しているだわよ』

 ???
 うーむ…よく分からん。
 分からんが、ここは…

「そうか!よく分かったよ!」

『嘘こけだわ』

 小槌は心底冷たい声でそう言った。
 
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