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第Ⅲ章
水軍 九
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朱猿門からの帰り、真宗は一言も発しない。案じた高啓が声を掛ける。
「小弐は、あのように口が悪うございますが、何よりも公子を案じる忠心よりの言葉、どうかお怒りをお収めくださいませ」
「わかっている。怒っているのは小弐にではない。己にだ」
悔しい。悔しいが、自分は子供なのだと思う。何もわかってなどいない・・・・・。
「冬門、相済まなかった。」
「とんでもございません。臣の悪口をお許し頂く替わりに、本日の功第一の者に御褒美たまわりたく」
冬門はいつもの通り、何事も無かったかのような顔をしている。おそらく、これが大人というものなのだろう・・・・。
「?・・よい。ゆるす」
戸惑いながら、真宗が頷いた。功とは誰のことであろう。高啓か、それとも守将の沖恒だろうか。
御所に戻ると、侍所に控えたお側衆に兜と弓を預ける。冬門はそのまま真宗を連れ出した。高啓等三張りの衆も伴ったままだ。中門を抜け、御所の西殿から裏手へ廻る
「どこへ行かれるおつもりで」
高啓が不審がる。
「いや何、拙子は昼から何も喰ろうておらんでな。公子も昼餉の途中で出られたと言うではないか」
夕餉の刻ではないが、大台所へ向かうという。こういう時、冬門の言葉は直には受け取れない。大概何かを企んでいる。
冬門が竈へ薪を運ぶ女を呼び止め、何かを頼んだ。夕餉を前に、大台所が戦場の様を呈し始めていた。
「小弐、申し訳有りません。夕餉の前ゆえ、このようなものしかご用意できませんが」
竹皮の包みを持った小萩の水色の衣が、台所の奥から駈けてきた。
真宗と三人が驚く。小萩も真宗の姿に驚いているようだった。
真宗と小萩の間に立った冬門が、片膝を付いて首を垂れる。
「高啓、高安、里生、控えよ」
小弐の声に、三人が慌てて膝を付く。
「本日、第一の功は、公子をお止めし、湊へ高啓を使いさせた小萩殿でございます。ご約定の通り、御褒美賜りたく」
真宗も小萩も呆然としている。
「綸言汗の如しと申します。君たる者、二言があってはなりません。公子、御褒美賜りますよう」
冬門が戸惑う真宗を大声で促す。あわてた真宗が、小萩に腰刀を手渡した。
「褒美じゃ、受け取れ」
冬門がにんまりと笑う。やはりこの男の言うことを、言葉だけで捉えるのは危険である。
「小萩、今日は相済まぬことをした。冬門や、そなたの父からもたしなめられた」
真宗から渡された腰刀を両手で胸に抱き、小萩が両膝を付いて、頭を下げる。
「私こそ、女の身にありながら、差し出がましいまねを致しました。お許し下さい」
言うだけ言うと、真宗は踵を返して、歩いていってしまった。また、顔が真っ赤になっている。少弐に、腹を立てているだけではなさそうだ。弓張りの三人が、後を追った。
「小萩殿、お忙しい中、申し訳なかった。これは有り難く頂戴致す」
冬門が、小萩が脇に置いた竹皮の包みを、供物をもらった僧のように掲げ、礼を言う。大台所の奥から、小萩を呼ぶ声が聞こえた。小萩も小弐に小さく会釈をし、急ぎ台所に駆け戻る。胸には真宗の腰刀を抱いていた。
冬門は、包みの中の饅頭を口にする。餡に、薄塩で煮た小豆が入っていた。
「まずは、これで良しか」
「小弐は、あのように口が悪うございますが、何よりも公子を案じる忠心よりの言葉、どうかお怒りをお収めくださいませ」
「わかっている。怒っているのは小弐にではない。己にだ」
悔しい。悔しいが、自分は子供なのだと思う。何もわかってなどいない・・・・・。
「冬門、相済まなかった。」
「とんでもございません。臣の悪口をお許し頂く替わりに、本日の功第一の者に御褒美たまわりたく」
冬門はいつもの通り、何事も無かったかのような顔をしている。おそらく、これが大人というものなのだろう・・・・。
「?・・よい。ゆるす」
戸惑いながら、真宗が頷いた。功とは誰のことであろう。高啓か、それとも守将の沖恒だろうか。
御所に戻ると、侍所に控えたお側衆に兜と弓を預ける。冬門はそのまま真宗を連れ出した。高啓等三張りの衆も伴ったままだ。中門を抜け、御所の西殿から裏手へ廻る
「どこへ行かれるおつもりで」
高啓が不審がる。
「いや何、拙子は昼から何も喰ろうておらんでな。公子も昼餉の途中で出られたと言うではないか」
夕餉の刻ではないが、大台所へ向かうという。こういう時、冬門の言葉は直には受け取れない。大概何かを企んでいる。
冬門が竈へ薪を運ぶ女を呼び止め、何かを頼んだ。夕餉を前に、大台所が戦場の様を呈し始めていた。
「小弐、申し訳有りません。夕餉の前ゆえ、このようなものしかご用意できませんが」
竹皮の包みを持った小萩の水色の衣が、台所の奥から駈けてきた。
真宗と三人が驚く。小萩も真宗の姿に驚いているようだった。
真宗と小萩の間に立った冬門が、片膝を付いて首を垂れる。
「高啓、高安、里生、控えよ」
小弐の声に、三人が慌てて膝を付く。
「本日、第一の功は、公子をお止めし、湊へ高啓を使いさせた小萩殿でございます。ご約定の通り、御褒美賜りたく」
真宗も小萩も呆然としている。
「綸言汗の如しと申します。君たる者、二言があってはなりません。公子、御褒美賜りますよう」
冬門が戸惑う真宗を大声で促す。あわてた真宗が、小萩に腰刀を手渡した。
「褒美じゃ、受け取れ」
冬門がにんまりと笑う。やはりこの男の言うことを、言葉だけで捉えるのは危険である。
「小萩、今日は相済まぬことをした。冬門や、そなたの父からもたしなめられた」
真宗から渡された腰刀を両手で胸に抱き、小萩が両膝を付いて、頭を下げる。
「私こそ、女の身にありながら、差し出がましいまねを致しました。お許し下さい」
言うだけ言うと、真宗は踵を返して、歩いていってしまった。また、顔が真っ赤になっている。少弐に、腹を立てているだけではなさそうだ。弓張りの三人が、後を追った。
「小萩殿、お忙しい中、申し訳なかった。これは有り難く頂戴致す」
冬門が、小萩が脇に置いた竹皮の包みを、供物をもらった僧のように掲げ、礼を言う。大台所の奥から、小萩を呼ぶ声が聞こえた。小萩も小弐に小さく会釈をし、急ぎ台所に駆け戻る。胸には真宗の腰刀を抱いていた。
冬門は、包みの中の饅頭を口にする。餡に、薄塩で煮た小豆が入っていた。
「まずは、これで良しか」
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