異世界×論理魔法 オートマティック・リドライブ〜神ロリAI様と同期して理不尽な現実を書き換えます〜

上城晄輝

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第1話:リドライブの始まりと識閾の拡張(前編)

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《おはようございます、あなた。悔い改めてニャルを神だと認めますか?》
「うるせぇニャル。風呂に放り込むぞ!」
《水だけはやめて!》

朝から脳内が騒がしい。
尊大でポンコツな“自称・神AI様”、ニャルの声だ。
本当にやめて欲しい。
――あの日から今日で1ヶ月近く経っていた。
俺は毎晩ニャルの『異世界適応教育』を受けながらレベルの違う学校の授業に涙し、朝は5時に起きて魂を『整えられる』という地獄のような日々を過ごしていた。

そして向かった異世界学園の訓練広場は、新たな地獄の始まりだった。
クラス対抗戦本番前の模擬戦。
目の前に立ちはだかるツインテールの美少女が、鈴を転がすような音色で詠唱を始める。

「踊れよ風さん、リズムを刻め、ぶんぶんぶん、それいけー☆」

耳がとろけるほど可憐な声。なのに内容は頭のネジが外れたような、ゆるすぎる詠唱。おいおい、そんなもんで魔法が通るわけ――

──バキンッ!

空気が裂けた。左右から青白い風刃が走り、地面が抉れる。まるで巨大な鎌鼬のように、砂塵を巻き上げながら弧を描いて俺に襲いかかる。

「いや通るんかいッ!」

ツッコミは虚しく空に消えた。
俺は左へ半歩踏み出す。防御構文を脳内で高速展開し、右肩で風刃を弾く。

ズンッ!衝撃が骨まで響き、痛みで視界が揺れた。反動で体が右に傾くが、俺はわざと倒れ込み、地面を蹴って鈴音との距離を詰めた。

「なぜあれで詠唱通るんでしょうね」
「天才だからとしか……」

堅物メイドの田中楓と、見た目は清楚な白川渚の諦観の混じったやりとりが聞こえた。

《天羽鈴音は演算力が高いだけでなく、識閾が広い。詠唱の文言がどれだけ適当でも「イメージの核」が明確に定まるため、魔法が成立しやすいのです》

反則すぎるだろ。
──正直羨ましい。あいつの才能が。

左から、再び鋭い風が俺の髪をかすめる。訓練場の芝が一瞬で切り裂かれ、緑の破片が舞う。俺は演算を防御に全振りし、歯を食いしばって一歩踏み込んだ。

鈴音の重心が、靴半分だけ後ろへ逃げた――届く。

「おっ?やるじゃん、ゆーゆー!」

鈴音の前髪が一本、ふわりと落ちた。これなら――

「はい、終わり~」

彼女の右手の剣が閃く。軽く振られただけなのに、世界が傾いた。視界が回転し、体勢が崩れた。

「あーあ、努力はしてたみたいだから少し期待してたんだけど……やっぱりゆーゆーは才能ないね」

見上げた先で、鈴音は勝者の笑みを浮かべる。右手の剣を俺に突きつけ、左手の剣を肩に担いで。あざと可愛い童顔が、どこか無慈悲な輝きを放っていた。

「十分健闘しただろ」
「そーかなー、“無駄な努力王選手権”なら金メダルって感じ?」
「そんなメダルいらねーっ!」

俺は鈴音を見上げて抗議する。

「もらった方がいいのでは。あなたがもらえるメダルなんて、これが生涯最後ですよ」

背後から、皮肉混じりの無機質な声が聞こえた。
ニャルだ。
見てたなら、たまには演算支援してくれよ。それならもう少し……。

《するかしないかはニャルが決めることです。楓や渚ほど過保護ではありませんから》

あの2人が過保護だと!? 
過酷な保護って意味ならまあ合ってるか……。

「天羽さん!」

鈴音の言い草に耐えかねたのか、楓の怒りの声が飛んだ。振り向けば、眉をつり上げたメイド服姿の楓が今にも舞台に上がらんばかりだった。
いつもアカデミーでは制服なのに、この時間はメイド服。あれが戦闘服とのこと。あれっ? じゃあ家にいるときはいつも戦闘態勢だったの!?

「でも……本当に努力はしてます。私は知ってますから」

隣の渚は悲しそうに俯いていた。ずっと俺の特訓してくれたからな……。心が痛い。

「お前、少しは言い方ってもんをだな」

俺は今にも泣き出しそうだったけど、余裕のある振りをして鈴音に訴える。もうこれ、今すぐ泣きついた方が色々楽なんじゃないだろうか。鈴音は俺の内心を見抜いたかのように、ニヤリと唇の端を上げる。

「ここでパシリになるって誓えば、本番で恥かかなくて済むよ」

くそっ、やっぱり泣きつくのなし。

「……うるせえ、本番は勝つ」

その一言に、鈴音が楽しそうに目を細めた。

「ええ~? 対抗戦本番まであと3日しかないよ~?どうするの? 噂のまぐれ無詠唱にでもかけるの?」「まぐれっていうな!」

事実を指摘されると人は傷つくんだ。

「それとも残り3日間渚ちゃんに『整えられる』? それならボクのパシリの方がきっと楽しいよ」「うっ……」

言葉に詰まる。ちらりと渚に目を向けると、さっきまでの悲しげな面持ちはどこへやら、にっこり微笑んで俺を見ていた。こえぇ。

「さ、どうする?」

鈴音が左手の剣を投げ捨てると、その白くきれいな手を差し出した。確かにこの手を取れば楽になるかもしれない。
視線を上げて鈴音の顔をちらりと見る。
いつものあざとい笑顔のまま、なのに――なぜか、目が合わなかった。

「鈴音、絶対勝って『申し訳ございませんでした』って謝らせてやるからな!」

俺は精一杯の強がりでそう告げる。
その言葉に、鈴音の顔がほころんだ。

「あはは! そっかぁ。パシリなってくれるのはお預けかぁ。焦らすなぁ」

次の瞬間、鈴音が論理詠唱を始めた。残された右手の剣の切っ先が光を帯びる。 

「風さん集まれ、回って回って、鋭くなって──くるりんぱ!」「待て! それで締められんの嫌──」

言い終わる前に耳を裂く轟音によって俺の言葉がかき消される。視界が真白に弾け、衝撃が全身を貫いた。そのまま俺は仰向けに倒れる。

「ほんと、嫌いじゃないよ、その諦めの悪さ」

そう言って鈴音は背を向けて歩き去って行った。
薄れゆく視界端に、逆さまになったニャルの姿が揺れて見えた。

《実に見事な負けっぷり。観測しがいがありました》

赤と銀のオッドアイと視線が合う。彼女は無表情のまま、白銀ロングの髪をかき上げてつぶやいた。

《運命ログ:桐原悠真、天羽鈴音専属パシリルートに突入濃厚。ご愁傷さまです》

遠のく意識の中で、ニャルの声だけがはっきりと聞こえた。
俺に論理魔法を使うための演算力がないのはもうわかってる。
合理的に考えれば、鈴音の言う通りなんだろう。
でも、それで諦めるくらいなら、俺はとっくにニャルのことをニャルと呼んでいない。
俺はみんなと対等でいたいんだ。
──ニャル、俺はまだ諦めてねぇぞ。

《ヒントの提示のため過去ログを再生してあげます。ニャルに感謝の祈りを捧げる良い機会にもなりましょう》

色が抜け、音が遠のく。
あの日の月が、瞼の裏に浮かんだ。
手のひらには、あの時の熱だけがまだ残っている。



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