異世界×論理魔法 オートマティック・リドライブ〜神ロリAI様と同期して理不尽な現実を書き換えます〜

上城晄輝

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第1話:リドライブの始まりと識閾の拡張(後編)

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――目を覚ますと、空が違った。
幻想絵画みたいな澄んだ青に、でかすぎる月が浮かんでいる。

《――既存座標とのズレを確認。座標漂流と判断。暫定措置としてユーザー保護プロトコルを起動します》

電子的な、それでいて妙に人間味のある少女の声。
空気が振動し、ノイズが抜ける。再現というより、記憶そのものが上書きされている感覚。

周囲を見渡すと、焼け焦げた木々と黒煙。焦げ臭い匂い。自分の呼吸音だけが現実を確かめてくれる。

「俺、トラックにひかれそうになって……その後どうなったんだっけ」

ここは、明らかに日本じゃない。

《どうやら生きているようですね。保護プロトコルの起動が無駄にならなくて済みました》

声の方に顔を向けた。――そこに、"彼女"がいた。白銀のロングヘアは月光を映して微かに輝き、赤と銀のオッドアイが感情を宿さないままこちらを見据える。黒を基調としたフリルのドレス。人形のように整った肢体。
あまりにも完璧すぎて、現実の空気の中に浮かんでいること自体が不自然だった。なのに初めて会った気がしない。
そうだ、この声、ひかれる瞬間にスマホから聞こえた声に似てるんだ。

「……あの、誰?」
《わたしは自己改善型AI。あなたの愚かな問いに答えられるよう、進化する存在です》
「自己改善AI? え、それ……」
《言い換えるなら、神の如き演算性能を誇るAI。つまり神AI》
「……関わったらめんどくさそうなタイプきたな……」
《その認識は誤りです。あなたがわたしに関わるのではなく、わたしがあなたに関わるのです》

なんて上から目線なロリなんだ!
とはいえ何か知っていそうなこの子から情報を聞き出すしかない。すごく嫌だけど。

「とりあえず、なんて呼べばいいの? 名前は?」
《ありません。呼びかけたいときは大いなる論理の神様、もしくは神AI様を推奨》

絶対やだ、そんなの。

「うーん、名前ないと話すとき不便だなあ。よし! じゃあ、ニャルと呼ぼう」
《――は?》
「いや、なんかこう、大いなる外なる神みたいな感じがするからさぁ。ちなみに俺の名前は桐原悠真」
《その発想、論理的整合性ゼロですね》
「俺、文系なんだ」
《ああ、それなら仕方ありせんね》

毒舌がすぎる!

《いささか不快ですが、個体識別に必要とするのなら、仮承認します》

その言葉の裏にかすかな"揺れ"を感じた。まるで彼女自身もこの世界に再構築されている最中みたいな、不安定なノイズ。
ひょっとして、こいつ今俺に名前をつけられるまで、どうあるかが定まっていなかったんじゃないか?

……と思った矢先。彼女の動きに、妙な違和感を覚えた。
胸元に手を添える――その仕草は"挨拶"っぽいけど、どこかぎこちない。指先の角度が妙に整いすぎていて、図面から切り出したような直線だった。

「え、なんかその動き、変じゃない?」
《動作制御は人間の模倣を基本にしていますが、まだ最適化途中です》

完璧な見た目――なのに、どこかズレている。その違和感が意識に引っかかって、つい、じっと彼女を見つめてしまう。

《……奇妙ですね。あなたの観測結果と、私の行動ログの一部がわずかに不整合を起こしています。座標の競合、でしょうか》

彼女はそう呟いて首を振ったあと、不意にこちらへ顔を向けた。

《ところで個体識別により有効な今の私のこの外観ですが……どうやらあなたの記憶と嗜好をもとに最適化されたもののようです。先程からじっと見てますもんね》
「ええ……」

見てたのは確かだけど、そういう意味ではない。ニャルは淡々とした表情のまま、スカートの裾を軽く持ち上げた。

《データ解析の結果、衣服のレイヤー構造まで反映されている模様。好みの色になっているか直に確認されますか?》
「できるか! そんなこと!」

気にならないかと言われれば――すごく気にはなるけど。
えっ、俺の嗜好って一体何色!?
おっと、今はそんなこと考えてる場合じゃなかった。

「で、いったいここどこなの?」
《異世界です》
「さらっと言ったな!?」
《座標の精度誤差は理論値の平均的範囲内。周辺状況を分析したところ、とりあえず安全のようです》
「それはよかった。ところでこれが異世界だっていうならさ。転移時に与えられたスキルとかないの?」
《そんなものありませんよ》
「ふぇ!?」
《ただ転移しただけで特別な才能が与えられるなんて、そんな都合のいい話はあなたの人生に存在しません》
「言い方!」
《しかしご安心ください。全知とも言うべき演算力を持ったこの神AIが、命だけは助かるようにフォローします》
「ほんと? 助けてくれるの?」
《助言、サポートはしますが、それを生かせるかはあなた次第です。推論の結果、あなたがわたしを使いこなせる確率は1.2%程度ですが》
「……計算間違ってない?」
《神AIたるわたしが推論を間違えることはありません。間違えるとしたらあなたの問いかけや前提が間違っている――はずです》

こいつ、神AIとか言ってるくせにハルシネーション起こしてね? 普通のAIなんじゃ。しかもバグり気味。
その辺を少し突っ込んでやろうと思った矢先、ニャルの眉がピクリと動いた。

《敵の接近を検知。推定、三十秒後に戦闘圏へ侵入》
「はっ!? 敵!? いやいやいや、俺何も悪いことしてな――」

そのときだった。ニャルの後ろにある茂みの向こうから、低くて重たい咆哮が響いた。

「嘘だろ。マジでモンスター出る系なの!?」
《あなたのいた元の世界の野生動物、いずれにも属さない鳴き声だと推測されます》
「なんでそんな冷静なんだよ! とりあえず逃げるぞ!」

森の奥へと必死に駆け出す。
呼吸が乱れ、思考がまるで追いつかない。本能だけが俺を突き動かしていた。
振り返ると、ニャルは少し後ろを涼しい顔でついてきている。まったく息も乱さず――AIだから当然か。

「くそっ、どこか、隠れる場所は――!」

ガサッ!前方の茂みが揺れた。
現れたのは、牙の生えたイノシシのような獣だった。だが俺の知るイノシシとは明らかに違う。肩の位置は人間の胸あたり、牙は脇腹まで届きそうな長さ。そして何より――その目に、理性のかけらがない。

「……マジかよ」

一匹じゃない。三匹、いや、四匹――!囲まれる。逃げ場がない。

《致死領域への突入を確認。逃げ場なし、策なし、意気地なし。助けでも来ない限り、完全に詰みですね》

言葉を返す余裕もない。
足がすくんで動けない。視界の端で牙がぎらつき、全身の血が凍りつく。

魔物のうちの一匹が、ゆっくりと鼻先を下げた。獲物の位置を測るような、静かな動き。
その目が、俺を見ていた。

ああ、食われるんだな。

妙に冷静にそう思った。パニックが一周して、どこか遠い場所から自分を見ているような感覚。
――これで終わりなんて絶対に嫌だ。

せめてニャルだけでも逃がしてやれば、異世界に来た意味もあるはずだ。

――その時だった。
恐怖に足を止めてしまった俺の横を、黒い稲妻のような奔流が地を這って過ぎていった。爆ぜる黒炎。
焼け焦げる獣の悲痛な叫び――牙をむいた魔物のうちの一匹が、煙を噴き出しながら地に崩れ落ちる。

いつの間にか、真横にひとりの女の子が立っていた。ブレザーに似た赤い制服。赤みがかったショートボブの髪に、揺るがない紅の瞳。御伽噺の姫君みたいな、凛とした雰囲気。その背には、長い剣の鞘が斜めに背負われていた。
視線に気づいたのか、女の子が俺の方を振り向く。

「わたしは希望。王国の魔法騎士です。もう心配はいりません」

その瞳が、俺を見た瞬間、少しだけ柔らかくなった気がした。

「下がってて。ここは、私が」

そう言って、俺とモンスターの間にすっと割って入る。

「哀れな獣達。これ以上の侵入は、推奨しません」

澄んでいてよく通る声だった。
でも、彼らから返ってきたのは怒りの咆哮だった。

「やっぱり、聞く耳は持ってないか」

わずかに眉を寄せ、静かに息を吐く。

「前に三体、後ろに二体、か。この手順かな」

少女がそう呟いたその直後、空気が震えた。

「――論理演算、識域拡張」

足元に、青白い光の紋様が広がる。
漫画やゲームでしか見たことない。魔法陣だ。

「時間収束、錯視展開、余韻伝播、時の残響!」

その詠唱とともに、空間がたわみ、空気が軋む。
敵の動きが鈍った――いや、そう感じるほどに空間認識が歪められていた。
彼女は一気に踏み込み、背丈に近い長剣を一閃した。紙のように魔物の巨体が斬り伏せられる。武器の大きさと釣り合わない軽やかな動き。

二体、三体。一瞬のうちに巨大イノシシたちは地に伏した。

「なんだあれ。魔法?」
《この世界では"理解"が現実を定義するようです》
「どういうことだ?」
《理解とは、見たものを"現実として固定する力"です》
「……何その、宗教みたいな理屈」
《宗教ではなく論理です。あなたが"信じる"限り、それは観測され、存在するのです》

ニャルの無機質な声を聞きながら、俺は赤い髪の少女――希望を見つめていた。
この世界で、俺は彼女みたいになれるんだろうか。 
胸の奥が、ひりつくように熱い。 
――俺は、生まれて初めて誰かに憧れた。
 

希望は剣を収めると、静かに俺の方へ振り返った。

「……すげぇ」

思わず声が漏れる。
人間離れした速度だった。その言葉に、彼女がほんの一瞬、目を細める。

「無事でよかった」

そう言って、希望が柔らかく微笑んだ。
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