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1.本の角で死んで、新たな人生を
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「赤夜!? おい! しっかりしろ!」
ダメだ……意識が朦朧としてきて……
俺は……此処でもう……
「お前の最後がこんなんで言い訳がねぇだろうがああ!」
――本打 赤夜。高校二年生。普通科に通う極々普通のオタク男子。
今日をもって赤夜は死ぬことになった――
□□□
本はもうあの一件以来それほど好きじゃなくなった――
それも分厚いやつが憎くて仕方がない。まだやりたい事が沢山残っていたと言うのにこの有様だ――
「死因は本の角に頭部をぶつけて死亡……ね。ふふっ面白い死に方。良いわ、そんな面白い死に方に免じて異世界転生させたげる」
目の前の神々しい女性が言うように俺は不運にも本の角で死亡したからだ。
まさかこんな風に死ぬとは思わなかった。
誰が四階から国語辞典が落ちてくると予想出来る。そしてそれが見事頭部にクリーンヒットするなんて。
「えーっと? ふんふん、じゃあ君にはユニークスキル【書撃】を与えましょっかねえ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、正座する俺の額に手を当てた。
次の瞬間視界が暗転して――
「どうしたのアズヤ? 読み聞かせて欲しいの?」
――知らない若い女性。恐らく……20代前半位だろうか。もっと若いかもしれない。
栗色のボブカットにコバルトブルーの吸い込まれるかのような深い綺麗な色をした瞳。胸は無く、やや童顔で愛らしい。母……では無いのは確かだ。
鏡でも見ていたのだろうか。
「うあう!」
まさか……俺の声か?
「はいはい、リリネぇちゃんが読み聞かせてあげますよ~」
そう言って優しい笑顔を見せながら来てくれる。
――俺は掴まり立ちができるようになった赤ん坊らしい。机の脚に右手を添え、左手には忌々しき本を持っている。
今、鏡で自分の姿を見て驚いたさ。ちぎりパンのような手足をした、それはそれは可愛らしい赤ん坊になっていたんだ。驚かない訳が無い。
「昔々のお話です――」
後々知った事なのだが、アズヤというのは俺の名前。リリネというのは俺の姉。両親は姉が15歳ぐらいの時に魔物に惨殺されたらしい。
その憎しみか、俺が寝る頃は決まってその魔物を狩りに出るのだという。見た目によらずかなりの腕っ節らしい。
村に住む皆からも頼られており、国からは幾度と無く救援依頼が来るほどらしいのだが、俺が育つまでは面倒を見たい。ということで今は離れる気は無いらしい。
□□□
「じゃあリリネぇちゃん行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
そして俺が12歳になった頃にはもうリリネぇこと姉はこの家から居なくなっていた。家を任せられると信じて国家冒険者になりに行ったのだ。
程なくして毎月多額の通貨と手紙を送ってくれた。その金で更に得意な戦闘技術を磨くことや、学を身に付けると良いと国からも薦められ、一流の冒険者育成学園に入学し今に至る――
□□□
「え!? あの国家冒険者の新星、リリネさんの弟!?」
「すっごーい! リリネさんってすっごくクールだけど家ではどんな感じの人なの!?」
――何処からその情報を仕入れたのか知らないが、異世界のイマドキ女子のトレンドである姉を持つ俺はこうやってよく、同じ冒険者志望の人達に質問攻めをされるのだ。
そのせいで友達と言える友達は出来ないどころか、憎まれる始末。俺だってこうなりたくなかったが、なってしまったものは仕方がないとしか思えなかった。
唯一の家族である俺の為に頑張ってくれている。であれば俺はそれに誠心誠意答えなければいけない。
優しい姉の顔に泥を塗ってはいけない。
姉譲りの人当たりの良い笑顔で。
「普通だよ。普通の良いおねーちゃん」
決まって彼女らはつまんなそうな顔をする。
昔は幼すぎる顔だったとか、家では世話焼きだとか、今の姉の姿とは大きくかけ離れすぎていて流石に言えない。ネタにはなるだろうけど。
既に姉から教わっていることだからか、まだ一年の前半ではあるものの剣や魔法を使った実技。テストの要領で出される筆記試験どちらも成績学年一位を取った。
この事は姉にも伝えられているらしく、驚くほど褒められた。
「……またか」
だがやはりそれが面白くないと思う人達もいる訳で、真っ向勝負では勝ち目が無いためか陰湿な虐めが横行する。
これは見慣れた光景で、いつものこと。
有名な姉を持ち、成績も良い。ついでに自分で言うのもアレだが顔も良い。遺伝子に恵まれたと言うやつだろう。
憎い奴以外の何物でもないことを俺自身理解している。俺だって皆とはしゃぎたいし遊びたい。でももうここまで来たら無理だ。
だが不思議と心が痛むことはない。
学校側は俺が虐めを受けている事を知っており、リリネの弟である俺が自主退学や成績不振にならないように気にかけて務めてくれている。
それはとても有難い事だが、このことを姉に伝えるのだけはどうか辞めてくれと伝えている。
きっと姉の仕事に支障が出るに違いない。もしかしたらパーティメンバー総出で乗り込んでくる可能性さえある。そればっかりは勘弁だ。
「……よし」
格納魔法で教材を仕舞う。
姉から覚えておいた方が良いと真っ先に叩き込まれた魔法の一つで、無機物であれば一定数別空間に転送したり、手元に取り寄せたりと活躍の幅は広い。今でこそ手足の方に扱えるが、最初の頃なんて砂一粒格納するだけでも限界だった。それだけ厳しい魔法なのだ。
だからなのか、学年でもまともに扱えるのは俺とあと一人ぐらいとの事。
きっと後期はその子に成績で負けるだろう。元々ここは頭の良い学園なんだから、俺みたいなペーペーが必死の努力で埋めた差なんて才能で一瞬だ。
だがそれでも姉を落胆させたくないが為に死に物狂いで努力を重ねている俺が居た。
ダメだ……意識が朦朧としてきて……
俺は……此処でもう……
「お前の最後がこんなんで言い訳がねぇだろうがああ!」
――本打 赤夜。高校二年生。普通科に通う極々普通のオタク男子。
今日をもって赤夜は死ぬことになった――
□□□
本はもうあの一件以来それほど好きじゃなくなった――
それも分厚いやつが憎くて仕方がない。まだやりたい事が沢山残っていたと言うのにこの有様だ――
「死因は本の角に頭部をぶつけて死亡……ね。ふふっ面白い死に方。良いわ、そんな面白い死に方に免じて異世界転生させたげる」
目の前の神々しい女性が言うように俺は不運にも本の角で死亡したからだ。
まさかこんな風に死ぬとは思わなかった。
誰が四階から国語辞典が落ちてくると予想出来る。そしてそれが見事頭部にクリーンヒットするなんて。
「えーっと? ふんふん、じゃあ君にはユニークスキル【書撃】を与えましょっかねえ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、正座する俺の額に手を当てた。
次の瞬間視界が暗転して――
「どうしたのアズヤ? 読み聞かせて欲しいの?」
――知らない若い女性。恐らく……20代前半位だろうか。もっと若いかもしれない。
栗色のボブカットにコバルトブルーの吸い込まれるかのような深い綺麗な色をした瞳。胸は無く、やや童顔で愛らしい。母……では無いのは確かだ。
鏡でも見ていたのだろうか。
「うあう!」
まさか……俺の声か?
「はいはい、リリネぇちゃんが読み聞かせてあげますよ~」
そう言って優しい笑顔を見せながら来てくれる。
――俺は掴まり立ちができるようになった赤ん坊らしい。机の脚に右手を添え、左手には忌々しき本を持っている。
今、鏡で自分の姿を見て驚いたさ。ちぎりパンのような手足をした、それはそれは可愛らしい赤ん坊になっていたんだ。驚かない訳が無い。
「昔々のお話です――」
後々知った事なのだが、アズヤというのは俺の名前。リリネというのは俺の姉。両親は姉が15歳ぐらいの時に魔物に惨殺されたらしい。
その憎しみか、俺が寝る頃は決まってその魔物を狩りに出るのだという。見た目によらずかなりの腕っ節らしい。
村に住む皆からも頼られており、国からは幾度と無く救援依頼が来るほどらしいのだが、俺が育つまでは面倒を見たい。ということで今は離れる気は無いらしい。
□□□
「じゃあリリネぇちゃん行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
そして俺が12歳になった頃にはもうリリネぇこと姉はこの家から居なくなっていた。家を任せられると信じて国家冒険者になりに行ったのだ。
程なくして毎月多額の通貨と手紙を送ってくれた。その金で更に得意な戦闘技術を磨くことや、学を身に付けると良いと国からも薦められ、一流の冒険者育成学園に入学し今に至る――
□□□
「え!? あの国家冒険者の新星、リリネさんの弟!?」
「すっごーい! リリネさんってすっごくクールだけど家ではどんな感じの人なの!?」
――何処からその情報を仕入れたのか知らないが、異世界のイマドキ女子のトレンドである姉を持つ俺はこうやってよく、同じ冒険者志望の人達に質問攻めをされるのだ。
そのせいで友達と言える友達は出来ないどころか、憎まれる始末。俺だってこうなりたくなかったが、なってしまったものは仕方がないとしか思えなかった。
唯一の家族である俺の為に頑張ってくれている。であれば俺はそれに誠心誠意答えなければいけない。
優しい姉の顔に泥を塗ってはいけない。
姉譲りの人当たりの良い笑顔で。
「普通だよ。普通の良いおねーちゃん」
決まって彼女らはつまんなそうな顔をする。
昔は幼すぎる顔だったとか、家では世話焼きだとか、今の姉の姿とは大きくかけ離れすぎていて流石に言えない。ネタにはなるだろうけど。
既に姉から教わっていることだからか、まだ一年の前半ではあるものの剣や魔法を使った実技。テストの要領で出される筆記試験どちらも成績学年一位を取った。
この事は姉にも伝えられているらしく、驚くほど褒められた。
「……またか」
だがやはりそれが面白くないと思う人達もいる訳で、真っ向勝負では勝ち目が無いためか陰湿な虐めが横行する。
これは見慣れた光景で、いつものこと。
有名な姉を持ち、成績も良い。ついでに自分で言うのもアレだが顔も良い。遺伝子に恵まれたと言うやつだろう。
憎い奴以外の何物でもないことを俺自身理解している。俺だって皆とはしゃぎたいし遊びたい。でももうここまで来たら無理だ。
だが不思議と心が痛むことはない。
学校側は俺が虐めを受けている事を知っており、リリネの弟である俺が自主退学や成績不振にならないように気にかけて務めてくれている。
それはとても有難い事だが、このことを姉に伝えるのだけはどうか辞めてくれと伝えている。
きっと姉の仕事に支障が出るに違いない。もしかしたらパーティメンバー総出で乗り込んでくる可能性さえある。そればっかりは勘弁だ。
「……よし」
格納魔法で教材を仕舞う。
姉から覚えておいた方が良いと真っ先に叩き込まれた魔法の一つで、無機物であれば一定数別空間に転送したり、手元に取り寄せたりと活躍の幅は広い。今でこそ手足の方に扱えるが、最初の頃なんて砂一粒格納するだけでも限界だった。それだけ厳しい魔法なのだ。
だからなのか、学年でもまともに扱えるのは俺とあと一人ぐらいとの事。
きっと後期はその子に成績で負けるだろう。元々ここは頭の良い学園なんだから、俺みたいなペーペーが必死の努力で埋めた差なんて才能で一瞬だ。
だがそれでも姉を落胆させたくないが為に死に物狂いで努力を重ねている俺が居た。
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