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2.書撃の力
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既に暗くなり始めた街の中。国から特別に与えられた寮へと帰る最中に、ふと見たくはなかった不可解な物を目にしてしまう。
クラスメイト。それも物静かで低身長な銀髪のぐるぐるメガネをかけた少女。常に分厚い本を読んでいる節があり、それが周りとの何層もの砕き難い壁の役割になっているのだけは印象として覚えている。
きっと眼鏡を外したら美少女という典型的なタイプだろう。名前は確か……レナ……だったはずだ。
ちなみに入学当初、声をかけたことがあるが、無言の圧が返ってきただけだった。
そんな誰ともつるまない彼女が、同じ学園の上級生らに絡まれ路地裏に連行されていたのだ。明らかに不自然で仕方がない。
俺としては助ける義理はないが、助けないという選択肢がある訳でもない。
姉なら何も考えずに突撃しているだろう。
写真撮影を魔法で行わせるようなスキル、視覚保存スキルを覚えておいて良かったと常々思った。
数は見ただけで四人。もしかしたら奥の方にもいるかもしれないし、相手は上級生だ。勝ち目はほぼほぼ無いだろう。
それでも俺は走っていた。
「ひぃっ……な、なんですか……?」
「なんですかもどうですかもねぇだろぉ!? さっき俺の肩にぶつかって来たよなぁ……あぁ!?」
結局人数は変わらず四人だった。
物凄い気迫で詰め寄られている。逃げ場は一切無く、このまま助けが入らないとなると凄惨な報復が待っているだろう。
「ぶ、ぶつかってません……」
「いぃいや!? ぶつかったね! 俺の制服がほつれちゃったらどうしてくれるつもりだったのさぁ!? ねぇ!?」
今思えば武器なんて何一つ持ってきてないじゃないか。負ける。これじゃいざという時に負けるぞオイ!? こんな時に限って俺ってやつはぁ!
「……あ? テメ何見てんだ見せもんちゃうぞゴラァ!?」
そして案の定気付かれてしまった。
が、もう一人の男性がそのリーダー格に耳打ちをすると、目を丸くしてもう一度辺りを見渡し始める。
周囲を確認している……のだろうか。
「これはこれは国家冒険者リリネ様の弟様ではございませんか! 先程の無礼、どうかお許し下さい」
豹変した態度で近付いてくる。
媚びでも売りたいのだろうが生憎見え見えだ。だがとにかく一旦助かった事に変わりはない。
「彼女は嫌がっていますが」
「あー、彼女にちょっとお仕置をしようと思いまして」
それはお仕置なんてレベルじゃないだろ。と言いたかったが言えるほど肝は座っていない。
相手は敬語こそ使ってきているものの俺に対しての敵意や殺意を隠しきれていない。油断すればあっさりと殺されるだろう。
「……そうなんだ」
「もし宜しければ彼女にお仕置の一環として罰を与えてみますか?」
リーダー格の男性が手を素早く振る。するとそれを合図に下っ端の二人ががレナの制服を脱がせようと両腕両足を拘束し、手を掛け始める。
きっとこれまでも同じようにしてきたのだろう。
同じ冒険者志望として、学園に通う者として到底許せるわけがない。
「いやっ……! やめてっ」
「ささ遠慮なさらずにどうぞ一発でも何発でも。好きなようにヤっちゃってください」
下着姿のレナの前に立たされる。案の定メガネの下は綺麗な顔立ちをしていた。
制服であまり見えなかったが隠れ巨乳だったのかと驚かされた。こんなシチュエーションでなければ可愛さとあまりのエロさに押し負けていた事だろう。
その他の衣服は無造作に下に捨てられており、その中にはメガネやいつも手に持っていた分厚い本もあった。
今、俺の背後には二人いる。武器も備えているはずだ。だが俺は武器と言える武器はなく、ほぼ手ぶら。格納魔法内にも使えるものは無い。即ち絶望的な状況だ。
だがこの状況を切り抜けることが出来るとするならばアレしかない。
「ごめんな」
「……やめて……見ないで……」
しゃがみ込みながら言う。
――そして下にある分厚い本を手に取って
「ウオラアァ!」
拘束担当の二人を、銃弾よりも速いのでは無いかと疑うスピードと威力で殴り付けた。
「な!?」
「くたばれやクズやろうがぁ!」
その流れで背後の二人を薙ぎ払う様にして一気に倒す。
案の定短剣を構えていたが、反応しきれなかったようだ。
一度たりとも使わなかった転生特典のユニークスキル【書撃】がまさかここで役に立つとは。
そもそも本を避けてきたからな……仕方がないことだが。
「もう救援は呼んでいる! 諦めろ!」
ただのハッタリだが、それでもやらないよりかは大分マシだ。
逃げようと身体を起こした瞬間に、素早く殴り付ける。これだけでもう上級生らは撃沈した。
「……死んでないよな?」
四人の脈を測り、死んでないことを確認して安堵の溜息を漏らす。
「アズヤ君……だよね……」
震えた透き通るような綺麗な声で訪ねてきた。
「あっ、これ……すまなかった」
大切にしていた本をこんな風に扱われるなんて思ってもいなかっただろうに。本当にすまない。
そもそも本で殴る行為なんて剣や兵器を持つ相手に通用する訳が無い。こんなの常識中の常識だ。だが今回は上手くいったので良しとしよう。
「う、うぅん……良いの……助けてくれてとても嬉しい……」
改めて、頬を赤らめた彼女はとても可愛かった。
「じゃ、じゃあ俺はコイツらを学校に送り届ける。証拠は取れているし、気を付けて帰ってくれ」
念の為に武器という武器を奪っておく。
格納魔法空間から縄と無力化の薬剤を取り出し、縛り付け飲ませる。
必ず複数個は持っておいた方がいいと口を酸っぱくしていた姉を思い出す。
少なくとも今、俺は誰かの役にたつ事が出来た。その代わり、誰かを犠牲にしたことには代わりないが、こんな奴らを冒険者にしてしまえばそれこそ取り返しが付かなくなる。
それだけは避けないと行けないと直感が教えてくれた。
「……アズヤ!? ねえアズヤなの!? おーい私の可愛い弟が彼女とお友達を連れてるよー!」
「おっ! 噂の優秀な弟さんか?」
さあ路地裏から出ようと足を運んだその時、ふとばったりと出会ってしまう。
姉と、そのパーティメンバーに。
「い、いや彼女じゃないしこいつらは友達なんかじゃ……」
「全く! 彼女や友達が出来たらリリネぇちゃんに教えてってあれほど言ったのにぃ……怒っているんだよ!? わかる!?」
怒っているふうには見えないが、これでも相当怒っている方なのだ。頬をふくらませた日には魔王であれど討伐される。
平常時はクール。怒ったり気持ちが昂ると可愛くなるというギャップで人気らしい。このことについて本人は物凄く否定している。
「いやだからなんでそうなるの!? 縄で縛られているでしょ!? 友達なら縄で縛らないよね!」
もう既にかなりの人がこちらを注目している。
人気の姉と、その弟が街中でコント紛いのことをしているのだから注目されても仕方がないことだとは分かってはいるのだが、それでも気恥しい。
「あっ……ほんとだ。そういうプレイが好きなら手紙で書いてよもお~。リリネぇちゃんが色々教えてあげたのにぃ」
「いや好きじゃないから! ていうかなんで居るの!?」
この街にくること事態そうそう無い筈だが。
「クエストの帰り! えっへん」
街のみんなはリリネの新しい姿を興味津々に見ている。
いつもは驚く程クールなのだ。それなのにこの有様である。これは明日の新聞記事で話題になるだろうなぁ……。
「それは置いといてだ。弟さんや、この感じを見るとその少女を救う為に一役買った見たいだな?」
「えぇ……まあはい」
確かこの屈強な男性の名前は……アーゲスト。姉と同じく国家冒険者だ。手紙で何度か話題にでてきた大剣使い。
こんな姉と一緒にいたら大変だろうに……。
「凄い! やっぱり冒険者は人の鏡でなきゃね!」
「頑張れよ、少年。ガハハハ!」
背中をドンと叩いて、軽快に笑っている。
「は、はい……」
結構痛いんだが……いや、ダメージを与える訳ではないのは分かっているんだが……痛い。何処まで鍛えればこうなるんだよと思うぐらいには痛い。
「あー! アーゲストだけずるい! 私も叩く!」
なんでかは知らないが叩きたいらしい。意味がわからない。
「いや叩かんでいいわ! えっと……まあ俺はちょっとやることがあるからここで。失礼しました」
早々にこの場から離れようと、一礼をして学園へと向かった。
「おう。元気でな」
「手紙ちょうだいね~!」
クラスメイト。それも物静かで低身長な銀髪のぐるぐるメガネをかけた少女。常に分厚い本を読んでいる節があり、それが周りとの何層もの砕き難い壁の役割になっているのだけは印象として覚えている。
きっと眼鏡を外したら美少女という典型的なタイプだろう。名前は確か……レナ……だったはずだ。
ちなみに入学当初、声をかけたことがあるが、無言の圧が返ってきただけだった。
そんな誰ともつるまない彼女が、同じ学園の上級生らに絡まれ路地裏に連行されていたのだ。明らかに不自然で仕方がない。
俺としては助ける義理はないが、助けないという選択肢がある訳でもない。
姉なら何も考えずに突撃しているだろう。
写真撮影を魔法で行わせるようなスキル、視覚保存スキルを覚えておいて良かったと常々思った。
数は見ただけで四人。もしかしたら奥の方にもいるかもしれないし、相手は上級生だ。勝ち目はほぼほぼ無いだろう。
それでも俺は走っていた。
「ひぃっ……な、なんですか……?」
「なんですかもどうですかもねぇだろぉ!? さっき俺の肩にぶつかって来たよなぁ……あぁ!?」
結局人数は変わらず四人だった。
物凄い気迫で詰め寄られている。逃げ場は一切無く、このまま助けが入らないとなると凄惨な報復が待っているだろう。
「ぶ、ぶつかってません……」
「いぃいや!? ぶつかったね! 俺の制服がほつれちゃったらどうしてくれるつもりだったのさぁ!? ねぇ!?」
今思えば武器なんて何一つ持ってきてないじゃないか。負ける。これじゃいざという時に負けるぞオイ!? こんな時に限って俺ってやつはぁ!
「……あ? テメ何見てんだ見せもんちゃうぞゴラァ!?」
そして案の定気付かれてしまった。
が、もう一人の男性がそのリーダー格に耳打ちをすると、目を丸くしてもう一度辺りを見渡し始める。
周囲を確認している……のだろうか。
「これはこれは国家冒険者リリネ様の弟様ではございませんか! 先程の無礼、どうかお許し下さい」
豹変した態度で近付いてくる。
媚びでも売りたいのだろうが生憎見え見えだ。だがとにかく一旦助かった事に変わりはない。
「彼女は嫌がっていますが」
「あー、彼女にちょっとお仕置をしようと思いまして」
それはお仕置なんてレベルじゃないだろ。と言いたかったが言えるほど肝は座っていない。
相手は敬語こそ使ってきているものの俺に対しての敵意や殺意を隠しきれていない。油断すればあっさりと殺されるだろう。
「……そうなんだ」
「もし宜しければ彼女にお仕置の一環として罰を与えてみますか?」
リーダー格の男性が手を素早く振る。するとそれを合図に下っ端の二人ががレナの制服を脱がせようと両腕両足を拘束し、手を掛け始める。
きっとこれまでも同じようにしてきたのだろう。
同じ冒険者志望として、学園に通う者として到底許せるわけがない。
「いやっ……! やめてっ」
「ささ遠慮なさらずにどうぞ一発でも何発でも。好きなようにヤっちゃってください」
下着姿のレナの前に立たされる。案の定メガネの下は綺麗な顔立ちをしていた。
制服であまり見えなかったが隠れ巨乳だったのかと驚かされた。こんなシチュエーションでなければ可愛さとあまりのエロさに押し負けていた事だろう。
その他の衣服は無造作に下に捨てられており、その中にはメガネやいつも手に持っていた分厚い本もあった。
今、俺の背後には二人いる。武器も備えているはずだ。だが俺は武器と言える武器はなく、ほぼ手ぶら。格納魔法内にも使えるものは無い。即ち絶望的な状況だ。
だがこの状況を切り抜けることが出来るとするならばアレしかない。
「ごめんな」
「……やめて……見ないで……」
しゃがみ込みながら言う。
――そして下にある分厚い本を手に取って
「ウオラアァ!」
拘束担当の二人を、銃弾よりも速いのでは無いかと疑うスピードと威力で殴り付けた。
「な!?」
「くたばれやクズやろうがぁ!」
その流れで背後の二人を薙ぎ払う様にして一気に倒す。
案の定短剣を構えていたが、反応しきれなかったようだ。
一度たりとも使わなかった転生特典のユニークスキル【書撃】がまさかここで役に立つとは。
そもそも本を避けてきたからな……仕方がないことだが。
「もう救援は呼んでいる! 諦めろ!」
ただのハッタリだが、それでもやらないよりかは大分マシだ。
逃げようと身体を起こした瞬間に、素早く殴り付ける。これだけでもう上級生らは撃沈した。
「……死んでないよな?」
四人の脈を測り、死んでないことを確認して安堵の溜息を漏らす。
「アズヤ君……だよね……」
震えた透き通るような綺麗な声で訪ねてきた。
「あっ、これ……すまなかった」
大切にしていた本をこんな風に扱われるなんて思ってもいなかっただろうに。本当にすまない。
そもそも本で殴る行為なんて剣や兵器を持つ相手に通用する訳が無い。こんなの常識中の常識だ。だが今回は上手くいったので良しとしよう。
「う、うぅん……良いの……助けてくれてとても嬉しい……」
改めて、頬を赤らめた彼女はとても可愛かった。
「じゃ、じゃあ俺はコイツらを学校に送り届ける。証拠は取れているし、気を付けて帰ってくれ」
念の為に武器という武器を奪っておく。
格納魔法空間から縄と無力化の薬剤を取り出し、縛り付け飲ませる。
必ず複数個は持っておいた方がいいと口を酸っぱくしていた姉を思い出す。
少なくとも今、俺は誰かの役にたつ事が出来た。その代わり、誰かを犠牲にしたことには代わりないが、こんな奴らを冒険者にしてしまえばそれこそ取り返しが付かなくなる。
それだけは避けないと行けないと直感が教えてくれた。
「……アズヤ!? ねえアズヤなの!? おーい私の可愛い弟が彼女とお友達を連れてるよー!」
「おっ! 噂の優秀な弟さんか?」
さあ路地裏から出ようと足を運んだその時、ふとばったりと出会ってしまう。
姉と、そのパーティメンバーに。
「い、いや彼女じゃないしこいつらは友達なんかじゃ……」
「全く! 彼女や友達が出来たらリリネぇちゃんに教えてってあれほど言ったのにぃ……怒っているんだよ!? わかる!?」
怒っているふうには見えないが、これでも相当怒っている方なのだ。頬をふくらませた日には魔王であれど討伐される。
平常時はクール。怒ったり気持ちが昂ると可愛くなるというギャップで人気らしい。このことについて本人は物凄く否定している。
「いやだからなんでそうなるの!? 縄で縛られているでしょ!? 友達なら縄で縛らないよね!」
もう既にかなりの人がこちらを注目している。
人気の姉と、その弟が街中でコント紛いのことをしているのだから注目されても仕方がないことだとは分かってはいるのだが、それでも気恥しい。
「あっ……ほんとだ。そういうプレイが好きなら手紙で書いてよもお~。リリネぇちゃんが色々教えてあげたのにぃ」
「いや好きじゃないから! ていうかなんで居るの!?」
この街にくること事態そうそう無い筈だが。
「クエストの帰り! えっへん」
街のみんなはリリネの新しい姿を興味津々に見ている。
いつもは驚く程クールなのだ。それなのにこの有様である。これは明日の新聞記事で話題になるだろうなぁ……。
「それは置いといてだ。弟さんや、この感じを見るとその少女を救う為に一役買った見たいだな?」
「えぇ……まあはい」
確かこの屈強な男性の名前は……アーゲスト。姉と同じく国家冒険者だ。手紙で何度か話題にでてきた大剣使い。
こんな姉と一緒にいたら大変だろうに……。
「凄い! やっぱり冒険者は人の鏡でなきゃね!」
「頑張れよ、少年。ガハハハ!」
背中をドンと叩いて、軽快に笑っている。
「は、はい……」
結構痛いんだが……いや、ダメージを与える訳ではないのは分かっているんだが……痛い。何処まで鍛えればこうなるんだよと思うぐらいには痛い。
「あー! アーゲストだけずるい! 私も叩く!」
なんでかは知らないが叩きたいらしい。意味がわからない。
「いや叩かんでいいわ! えっと……まあ俺はちょっとやることがあるからここで。失礼しました」
早々にこの場から離れようと、一礼をして学園へと向かった。
「おう。元気でな」
「手紙ちょうだいね~!」
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