猜疑心の塊の俺が、異世界転生して無双するとかマジあり得ない

エルマー・ボストン

文字の大きさ
6 / 23
勇者なんて俺は知らない

旅に出なきゃ、やっぱりダメ?

しおりを挟む
「アンタらさぁ。自分勝手が過ぎない?
俺、美味しくご飯食べてるの、見て分かるよね?
そんな時に、モグモグしてるときにさ!
話しかけられて!
俺抜きで話題進められてさ!

バカじゃないの?!

…あ、すんません店主さん。あの…おかわりいいっすか…?
すっごい美味いっすこれ…。」


俺は激しく憤りながらも、パスタのようなもののおかわりをいただいて、夢中で頬張った。いやホント店主さんに申し訳ない。
ひとまず、女性陣には座ってもらった。
立ったままギャーギャー騒がれるのは落ち着かない。

「あ、あのですね…その、道中急いでおりまして…つい…。」

ミレットという少女は、俯きながら眼線だけ上げ、こちらを窺うように呟いた。
それを睨みながら、俺はパスタをすする様を、左手で指差して見せた。

「ご、ごめんなさい。」

俺は遮られためちゃくちゃ美味しい食事を、再度、心から堪能していた。
それをまた邪魔するやつは、誰であろうと許せない。
パスタだけではない。
なんかポトフっぽいものとか、ポークソテーっぽいものも絶品だ。
美味い、なんて美味いんだ!

「あ、あの、勇者…さん。ず、随分美味しそうに食べるんだ、ねぇ。」

「はい、師匠…。」

ギロリ、と、シャミィと名乗った女性に視線を向けた。察するに、だいぶ慌てて
いるようだ。弟子の方は…何て名前だったっけ?
だが、ようやく俺は腹一杯、満足のいくまで食事を楽しみ、フォークっぽいものとナイフっぽいものを置いた。
異世界だっていうのなら、もっとこう、違う感じの道具があっても良さそうなものを。

「はぁ~…ご馳走様でしたぁ…。
で、何だっけ。俺に同行したい、って話だっけ?」

俺は膨れたお腹をポンポンと叩きながら切り出した。

「そ、そう。アナタ、間違いない、伝説の勇者。この世界、救」

「やだ。俺ここで暮らすわ。ちゃんと仕事はするから。」

間髪を入れずに、俺は答える。
すると、どうだろう。目の前の女性陣はみんな「えっ」って顔をした。
にしても、どうしてこの人たち、妙に露出多いの?
戦うんだよね?防御力とか、そういうのは?
一番防御力高そうなのが弟子の人って、どうなの?

「なんで何の縁も無い世界を救わなきゃなんないのよ。そもそも、ここの状況知らないしさぁ、俺。いきなり放り出されただけだから?」

俺はため息をつく。

「そ、そうでしたか!異世界から来られたなら当然ですよね?!
 でしたら、私がご説明いたしましょう!」

…なんだか腑に落ちないが、ひとまずは置いておこう。
説明だけでも聞いておかねば、今後に差し支える。

「この世界『ムウ』は、太古の昔、神々が、安寧の大地をお創りになる目的で…つまり『楽園』を目指してお創りになった土地です。魔物の存在に怯えることは日常的にあるものの、人々は神々を信仰し、平和に過ごしておりました。
しかし近年、闇の司祭・セインという者が、『神殺しの団』という教団を組織し、神々に叛乱を企て…世界を混沌へと導こうとしているのです。
古来より

『ムウの世が乱れし時、遥かな地平より絶対の力を携えし勇者来たれり。
混沌を打ち払い、大地に真の光を灯すであろう。』

という伝承がありますので、アナタがまさに…。」

長いな。まぁ想像してたけど。
それしても、やっぱり腑に落ちないんたよなぁ。
やはり、全て鵜呑みにする俺ではない。

「…いくつか聞いてもいいかな?」

「はい、答えられる範囲になるかもですが。」

「じゃ。何から何まで神々が作ったの?」

「え?さ、さぁ…あくまでも伝承なので。」

「ふぅん…そう。で次ね。闇の司祭とやらは、なんで混沌に導こうとしてるの?そもそも混沌って?」

「あの、えっと、私は闇の司祭に会ったことないので、そこまでは…。」

「んー、まぁそっか。それじゃ最後。
俺がその『勇者』であるって証拠は?」

「先ほどの『紅蓮の魔術』ですよ!あんなに強力な魔導は初めて見ました!」

強力な力=勇者、って結びつけるの、短絡的でどうかと思うんだけどな…。
実際、インチキくさい女神に
「勇者」って烙印押されちゃってるから、まぁ間違いないんだろうだけど…認めたくないなぁ。面倒だもん。

「そうさ!あの力こそ『勇者』の証!
アタシは一眼見て確信したよ!アンタが勇者だ、ってね!な?ナナ。」

「はい、師匠。」

「あの炎、真の光灯す、必ず。世界、正しい方向、導く、アナタ。」

なんか、乗せられてる感すごいんだよな。イヤなモンはイヤだし…。
学校行かなくていいのは嬉しいかもだけど、俺はのんびり暮らしていく方が性に合ってるんだけどなぁ。

4人の女性たちに丸め込まれようとしている中で、俺はひとり、目をぎゅっとつぶり、顎に手を当て俯きながら、うんうんと唸っていた。イヤなモンはイヤだ。

イヤなモンはイヤなんだ!


よし、断ろう。
 

そう思い立って、カッと眼を見開いてみる。
すると、再び周囲の光景は全てフリーズしていたのだった。


「…またか。」

「『またか』じゃありません!何度手を煩わせれば気が済むのです!!
女神をそう何度も光臨させて、贅沢にも程がありますよ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...