猜疑心の塊の俺が、異世界転生して無双するとかマジあり得ない

エルマー・ボストン

文字の大きさ
7 / 23
勇者なんて俺は知らない

結局、何を目指せばいいの?

しおりを挟む
女神ディメニアは怒っていた。
それはもう、めちゃくちゃに怒っていた。
ここまで盛大に怒りながら出てこられると、流石に少しだけ気まずい。

「アナタね!『勇者』ともあろう者が、そんな雑な思考パターンでどうするのですか!いい加減になさい!」

いい加減にしてほしいのはこっちも同じなんだけども。俺、来たくて来たわけじゃないし。

「…だってさぁ!いきなりそんなゴチャゴチャ詰め込まれて、納得しろっていうのがまずおかしいんだって!
何なの?!その
『転生させてあげましたよ、勇者ですよ、剣と魔法の世界ですよ、嬉しいでしょ?』
みたいなノリ!そんな簡単にノると思うなよ?!」

気まずくなりながらも、俺は諦めずに反論する。すると女神は、ほんの一瞬
「ぐぬっ」
という顔をしたような気がした。
が、すぐに呆れたようにため息をついた。

「そこまで言うなら仕方がありません。
アナタからは『神々の加護』を返上してもらわねばならないようですね。
…ただし、アナタは一度死んでいる身。
それを、神々の力で甦らされたのです。
ですから…。」

つい俺は、身体が「ギクっ」と震えるのを自覚した。
俺の今後ばかりか、生命まで、よく知りもしない神々とやらに握られているのか。

「ち、ちなみに…加護ってどうやって返すことになるの?儀式とか、やったり…?」

「そんなワケないでしょう。私が手をかざす、その一瞬で終わります。はぁ、残念ですねぇ。」

女神はこれ見よがしに、さらに大きな溜め息をついて見せた。
「選択肢は無い」、そう言わんばかりの一連の所作。
今度は俺が「ぐぬっ」という表情を、ほんの一瞬示してしまう。

そして俺は、落ち着いて考える。

剣と魔法。

与えられた、最強の力。

まだ把握しきれていない、

突如現れた、パーティメンバー。

神々の…加護。



この世界では、何が正義なのか。
いや、正しさとは何なのか。
何をもって悪と見做されるのか。



自分の眼で確かめることは、今の自分にとって重要なのは、間違いなさそうだ。

…よし、何とかやってみよう。

俺の心は…決まった。


「…わかったよ、やるよ。やるしか無さそうだし。まだ心の整理が十分についてないけどな…。ひとまず、何をすればいいんだ?」

肩を落として呟く俺を見て、女神が微笑む。

「そう、それでいいのです。勇者とは、そうでなければ。
まずは、眼前にいる少女たちと交流を深めるとよいでしょう。
きっと、アナタの力となり、そして道を示してくれるでしょう。」

そう言うと、女神ディメニアはパチン、と指を鳴らした。

「あ、あの、ユージーン様…どうしました?大丈夫ですか…?」

ミレットが心配そうに、俺の顔を覗き込んでいた。
…あの指パッチンで、女神ゾーンは終了したらしい。

「あ、あぁ、何でもないよ。大丈夫。
…それより、旅と同行の件だけど。」

「腹を括ったのかい?!」

「はい、師匠。」

「勇者に、お願い。私、連れてく。」

それぞれが、口々に希望を滲ませている。何故そこまでして俺に着いてきたがるのかは、よくわからないが。


「…決心がついたよ。勇者として旅に出ようと思うんだけど…。誰か一人よりも、みんな来てくれた方が心強いんだけど…どうかな?」


俺の言葉を聞くや否や、面々の表情が
ぱあっと明るくなる。
かと思えば、すぐさま互いを睨み合い、牽制し合う様が、側からも見てとれた。

「ま、まぁいいでしょう…。勇者様のご要望とあらば、断るワケには参りませんから、ね…!」

「おや嬢ちゃん、眉間に皺が寄ってるよ…?!そんな恐い顔してるんじゃ、勇者様に嫌われちまうよ…?!」

「はい、師匠。」

「せいぜい、足、引っ張らない。私、十分。」

4人はしばらくの間、テーブルを囲んで火花を散らしていたが、俺はデザートをもらうことにした。
先が思いやられるが、勝手にやらせておこう。
何このプリンみたいなの、とろける!

諸々が落ち着いたところで、俺は切り出した。

「ところでさ。結局、勇者として俺はどこへ行って、何をすればいいと思う?」

最後の一口を味わった後、名残を惜しみながら俺は問いかけた。

「そうですね…。兎にも角にも、神殺しの団、中でも『闇の司祭』の情報を集めるのがいいんじゃないでしょうか。どうやら司祭は、謎だらけのようですからね。」

「そうだねぇ。アタシらも神殺しの団を追っていたし、ちょうどいいね。
この近くの港町『ポレポレ』にアジトがある、って情報を掴んだから、ここまで来てたのさ。だから、まずはそこを目指すのが良いと思うよ!」

「はい、師匠。」

「私、勇者様に、従う。どこでも、行く。」

港町のポレポレ、か。
海鮮料理が美味そうな響きだな。
何はなくとも、当面の目的は
「そこにたどり着くこと」
にするしかなさそうだ。

何てったって俺は、この世界について何も知らないし、「この世界の人々」についても、全く見聞がないのだから。
そう。身近な者についてだって。

自分なりに、少しずつでも考えたり、
思考を巡らせておくにこしたことはないだろう。
寝首をかかれないよう、注意しなければ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...