猜疑心の塊の俺が、異世界転生して無双するとかマジあり得ない

エルマー・ボストン

文字の大きさ
18 / 23
神殺しなんて俺は知らない

王って、すぐ会える?

しおりを挟む
「ミレット…これから、どう、なるかな。」

バリアがあったと言えど、攻撃の影響で煩雑になってしまった食堂で、俺たちは朝食の続きを楽しんでいた。

「…さぁね。記憶消去は絶対に解けないから、組織としては口封じの必要は無いと思うけど…。でもまぁ、念には念を入れて、殺されるかもな。」

俺は変わらず、皿という皿を平らげながら淡々と言い放つ。するとアミアは、哀しげな表情で


「…そっか。」


とだけ呟いた。




「俺のこと、軽蔑してくれてもいいぜ。」

「…ううん!そんなこと、しない!勇者様、間違って、ない、よ!」

しばらく間を空けて放たれた俺の言葉に、間髪入れず答えてくれるアミア。テーブルから身を乗り出して、今にも料理をひっくり返しそうな勢いだ。
…それはやめて。


「で、だ。このごちゃごちゃした展開にもいい加減ウンザリだよアタシは。ミレットには賞金だってかけられてなかったし、無駄骨もいいトコさ。
ったく、とっとと次の目的決めようよ。」

「はい、師匠。」


シャミィのその言葉に、俺は思うところがあった。

「次にやりたいこと」が多すぎるのだ。

スプーンとフォークを持つ手を止めて、顎に手を当てる俺。
一つ一つ片付けたり、こなしたりしたいものだが…。


「よし、三手に分かれよう。」



「…は?」


「…あ、でも…『勇者』って名乗って、すぐに王様に会えるモンかな…。」


「・・・いやいやちょっと待ちな。アンタ、何ケッタイなこと言ってんだ?!
飛躍しすぎで意味不明だよ。何をどうするつもりだい、分かるように説明しとくれ。」

シャミィは眼を丸くしたまま、冷や汗を垂らしている。確かに言う通り、説明不足だったか。


「うん…。
まず、流されるまま『神殺しの団』討伐に出発したワケだけど、俺はこの世界のこと全然知らない。
『スキル』で得られる知識にしたって、所詮は『神』の視点で見たモノだ、って感じる。

だから、要は
『神殺しの団の目的』、
『勇者として呼ばれた意味』、
『世界情勢』。

全部キッチリ知ってから動きたいんだ。
だから、三手に分かれたい。」

みんな、ポカンとしている。
だが、俺は構わず続ける。


「というわけで俺は…簡単に言うと
分身ジェミニレーション』して、いっぺんにこなそうと思うんだよね。面倒だし。
何をするかって言うと、

①『神殺しの団との接触』、

②『アミアの言う、大賢者リートと接触』

③『大国の王と接触』

…だな。」


未だに、皆ポカンとしている。


「…え?イヤなの?そんなら俺一人でも行くけど…。」


「いやいや…相変わらず無茶苦茶考えるヤツだなと思ってさ…しかもそんなサラリと…。」


・・・まぁ、思惑はもう一つあるんだけど、な。


「まぁ多分そんなに時間はかからないし、早めに次の指針を決めたいからさ。むしろ時間かけたくない。
よし、善は急げだ!
神殺し団にはナナ、大賢者には勿論アミア、大国にはシャミィが着いてきてくれな。
ほい、分身後天双子の生成2回!」


「はぁ、アレだねェ。慣れてきたとはいえ…ユージーンはせっかちというか、瞬発力が高いというか…。」


シャミィの溜め息とほぼ同時に、追加の俺が2人、現れた。
分身のステータスは2割減、ってところだろうか。それでもまぁ十分だと思うけど。

「「「よし、行くか。」」」

俺たち・・・は、3人の女子を半ば無理矢理引き、突然増えた俺の姿に響めきが巻き起こる宿屋を、さっさと後にした。ご馳走様でした。


「ちょ、ちょっとアンタ!少なくともアタシゃ心の準備ってモンが…弟子と離れるのはちょっと…!
あと王に会うって、一体どうするつもり、イタタ!」


「はい、師匠…。」


「勇者様、強引…。でも、悪く、ない。」

それぞれに馬車を手配したり、港町らしく船を借りたりして、俺は世界を見て回るべく、振り返らずに進む。


そう。未だ拭えない、大きな
「違和感」の正体を突き止める。

それが、俺の目下の目標なのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...