疾風迅雷アルティランダー

エルマー・ボストン

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第三話 夢を追いかけて

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蠢く影があった。

まるで泥のような不定形のそれは、異次元に隠れているブラックナックル号の外壁で、密かに、だが確実に、その身を大きくしていた。
意思があるのか、はたまた単細胞生物のように本能的に増殖を続けているだけなのか、それは誰にもわからない。


「はぁ・・・。」

異星人の少女は今日も、船窓の外に広がる殺風景な次元の狭間を眺めながら、何かに想いを馳せていた。

「どうしたジャネット、この前から溜め息ばかりではないか。そんなことでは幸せが逃げて行くぞ!」

「アニキさぁ…何その女子みたいな発想。もっと現実的なアドバイスちょーだいよ。」

ジャネットは兄に目もくれず、頬杖をついてボーッとしている。

「まぁ、アレだ。こんなところで腐っているのでは時間と若さが勿体ない。ち、ちきゅー人、いや!ニポン人の生活を観察して状況を探るとともに、気分転換といこうではないか!」

そういうと、ガッツは堂々と腕を組み、引くほどの高笑いを始めた。

「えっちょ、何言ってんの?置かれた状況分かってる?!」

激しく動揺する妹を制止して、ガッツは鼻高々と続ける。

「まーいいからいいから。ミク、あれ持って来い。アレ。妹よ!これこそ『潜入!異星でスパイ大作戦』だ!!ハァーッハッハッハッハァー!!」

「うわ・・・ダッサい上に鬼嫌な予感する・・・。」











「ねぇ見た?!こないだの宇宙人とロボット騒ぎ!まさかあんなのが現実に起こるなんて、私まだ信じられないよ!…百合、ねぇ!聞いてる?!」


「え?あぁ、うん。見たよ桃ちゃん、すごかったね。おじいちゃんが尋常じゃないくらいテンション上がってた。」


百合子の通う高校でも、謎のハイテンション宇宙人と謎の熱血ロボットの戦いは、話題の中心であった。

半ば当事者である百合子にとっては、嬉しいような恥ずかしいような、複雑な心境であった。
弟の鉄矢はというと、思いっきり自慢して回っているようだが。


「そういえば聞いた?!もうすぐ夏休みだっていうこのタイミングで、転校生が来るらしいよ!ありふれたイベントだけど、やっぱりワクワクするよね!ちなみに女の子らしいよ、なんでも、日本人じゃないんだって。」

百合子の親友である桃は、よく喋る。嫌味が無いのが救いだが、それにつけても止まらない。入手した情報をどんどん振り撒くので、アルティランダーのことは打ち明けられないでいた。

「確かに変なタイミングだね、おうちの都合かな。いろいろ困るだろうから、力になってあげなくちゃ。」




「け、ケミ、けっ…ケミガワ、レナ、です…。」

ジャネットであった。
ここで日本語が通じるのは、小さくして胸元(谷間)に忍ばせてある、バンキッシュに搭載された翻訳機のおかげである。

「(アニキめ…一体どうやったのよ、異星の学校に転入なんて…!アタシ学校苦手だし!そもそもこの星の文化もまだ全然わかんないし!すぐバレるに決まってるよぉ…!)」

ジャネットは母星において、周囲と馴染むことができなかった。そのためヤケになり、こうして故郷を飛び出してきたわけであるが、まさかその先で、母星の時以上に他者と交流することになろうとは思ってもいなかった。

教室は、恐ろしく静まり返っていた。だが無理もない。顔を真っ赤にして照れまくる異国人、もとい彼らは知る由もないが、異星人の少女に、クラス全員が一瞬でトリコにされていたのだから。

一足先に我に返ったのは、桃だった。桃は満面の笑みで、ジャネットもといレナに惜しみない拍手を送る。そうなると、あとは一斉に割れんばかりの音が響く。

「え、えっとあの、その…よ、よろしく…です…。」

ジャネットは、あれよあれよという間に百合子の隣りの席に決まり、席に着いた。これもお約束というやつである。

すぐに女子一同による輪がジャネットの席を囲み、興味津々の男子たちがそれを遠目から監視している状況であった。

Q. 日本語上手いね?

「えっと…引っ越してきたのは、最近だけど!昔はニポ…この国に!住んでたから…!」

Q. どこに住んでたの?

「んっ、と、あー…ア、アイスランド。」

Q. スタイル良いね、スリーサイズは?

「ばっ…!なっ!ナイショだし!!!」


「…とにかく、仲良くしてねレナちゃん。何かあったら遠慮なく言って。私、坂田百合子、っていうの。よろしくね。」

「ん、あ、あの、よ、よろしく…。」

百合子はジャネットの手を握る。本人は知る由もないが、地球人と何ら変わりのない、温かい手だ。

しかし、百合子は何かを感じた。会って間もない異国の少女への、不思議な感覚。

「(あれ、どうしてだろう。なんだか…懐かしい。)」
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