疾風迅雷アルティランダー

エルマー・ボストン

文字の大きさ
19 / 33
第三話 夢を追いかけて

3

しおりを挟む
「やぁーお待たせしました!社長と南さんの目をかいくぐるのに手間取っちゃって!どうしたんですか東郷さん?急に呼び出したりして。」

安っぽい軽自動車を、ジャックは製鉄所の敷地内に停め、何故かアロハシャツで現れた。

「すんませんね突然…え?ハワイ行ってたの?」

「いえいえ、ちょっと小笠原まで。さっき帰ってきたんですけど、社長が顔出せって言うもんだから…。はいこれお土産。」

そう言うとジャックは、にこやかに総司に小笠原の塩を手渡した。総司の顔が神妙になる。

「あっ!『お土産に塩かよ』とか思ったでしょ!すっごい美味しいんですよコレ!」

「えっ、ん、ど、どうもっス…。で、本題なんスけど…。」



「ねぇ山田。例の男よね、アレ。いつかは現れる気がしてたけど…思ったより早かったわね。」

スタークラウン社のロビー。落ち着いた雰囲気の中に明るく煌びやかな佇まいを見せるビルの1階にて彗は、鬼の形相で例の男と南を交互に視線を送る。例の男とは、もちろん総司なわけであるが。

「挨拶、しておきますか?社長。」

「勿論。」

わずかに目を逸らし、変な汗を流す南。
そして慌てて、総司が思いっきりくつろぐ来賓用ソファーに駆け寄った。

「おい貴様!ここで一体何をしている!」

「あっ、まぁやっぱいるよな。バレたか。」

あからさまな棒読みと変顔で南を煽り、完全にしらばっくれる。その憎たらしい顔を見た南は、彗にも負けず劣らずの鬼の形相へと変貌していく。

「失礼、データ泥棒さん?この期に及んで堂々と侵入するなんて、いい度胸ね。」

彗は怒りに我を忘れ、ズカズカとどっしり座る総司に詰め寄る。もはや胸ぐらを掴みにかかる勢いであった。

「あ、どうも初めまして。…えっ、どなた?」

総司は一礼し、太々しい態度で問いかけた。

「馬鹿者が…!我がスタークラウン社のトップ、北星 彗社長だ!そんなことも知らずによくもぬけぬけと…!」

「えっマジで。社長自ら迎えに来てくれるなんてすげぇな!よろしくっス!」

総司は急に満面の笑みへと変貌し、無駄に明るい口調で挨拶を口にした。
が、2人の表情は依然変わることがない。
と、そこへ1人の男が現れた。ジャックである。

「おやおや皆さんお早うございますあれ?あなたは確か東郷さんこんなところで奇遇ですねちょっとお話ししたいことがあったんですよ少しお時間よろしいですかでは社長南さんまた後ほど!」

恐ろしい速度で、脚の悪い総司を抱えるようにしてその場から立ち去るジャック。その後ろを、社長と秘書が慌てて追う。

「ジャック!あなたどういうつもりよ?!報告くらい入れなさいよ…待ちなさいったら!」

「その男をどうするつもりですか?!…何だあの白スーツ、バケモノか?!」


「ちょちょちょちょっと東郷さん何してるんですか!待ち合わせ時間は夜ですよ?!」

ジャックは早足で歩きながら、抱えた総司に小声で問う。流石のジャックも変な汗が止まらない。

「マジかよ!いやでも、7時って、ほら!」

そう言うと総司は、揺られながらジャックにLINEのやり取りを見せる。確かに、
(7じ かいしゃに きてください)
と、お母さんの様なメッセージが送られてきていた。

「あれれぇー。」

「あれれぇーじゃねーよ!おかしいと思ったんだよ俺も!」

「まぁこうなってしまった以上、仕方ありません。で、お話しっていうのは何でしょ?」

会話もそこそこに駐車場までやってきて、もたつきながらも急ぎジャックの車に乗り込む2人。
エンジンがかかり、猛スピードで逃げるようにスタークラウン社を後にした。

「いや、あのぉー。俺でも働けるようなところ探してて…。さっきのメガネ野郎に、すごい大金ふっかけられてるから…。何かないかな、ジャックさん。」

走り行く車内で、総司は恥ずかしそうに、だが深刻な面持ちでジャックに頼む。
バックミラー越しにその姿を見たジャックは、少しの間面喰らったのち、大きく笑って見せた。

「なんだ、そんなことですか!それ、半ば脅迫ですから気にしない方がいいですよ、みんな保険入ってますから。ま、そんなに気になるなら、私が立て替えますって!はははは!」

涙を流しながら、嬉しそうに笑うジャック。しかし、総司は真剣だった。

「いやそれはいけねぇよ!それに、車の件だけじゃないんだ。俺、この身体でおっちゃ…坂田さんのとこに厄介になってるだろ。これ以上迷惑かけらんねぇし…俺だけ夢ばかり追える環境にいるのは、不公平だろ。だから…。」


ここ最近の彼は、1人で生活しているとき、非常に腐っていた。
将来への不安、自分への嫌悪。
多くのマイナス要素が、総司を蝕んでいたのである。
しかし、士郎に呼ばれて新たな夢が生まれ、百合子や鉄矢の優しさに改めて触れたことで、彼の心、そして魂は甦った。そんな自分が何もしていなければ、日々努力をしている坂田家の、自分の家族と呼べる人たちに合わせる顔がない。そう考えて、ここまでやってきたのである。

「ははは、あなたは良い人ですね。分かりました、そういうことでしたら何とかしましょう!ちょうどピッタリのものがありますよ!」

「ホントか?!あ、ありがとう…この恩は必ず返すぜ!」

「大袈裟ですよ、やだなぁ!」

そう言うとジャックは、ふっ、と口角を上げる。嬉しさのあまり、総司がそれに気づくことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...