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第三話 夢を追いかけて
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「ガッツくん、通常空間に先ほどの物体を確認。次元の壁を自力で超え、ニポンの上野周辺に出たようです。」
ミクが淡々と報告をする。
次第に顔が蒼くなっていくのが、自分でもハッキリとわかった。全く関係の無い星、関係の無い人間。しかもその星を今、グダグダな方法ではあるが、自分の管理下に置こうとしている。
放っておけばいい。放っておけば…。
しかし、何も知らない地球人はどう考えるか?間違いなく
「宇宙人の生物兵器だ!」
と騒ぐだろう。
多くの物的被害、多くの犠牲者が出るに違いない。そして、自分は恨まれる。
そうなれば、自分は父のようにはなれない。
父のようには…。
その時、アイツの姿が脳裏に浮かんだ。
邪魔をしてくる地球人。しかし、何故だか憎めない。
「ミク…ペインロアーで対抗出来ると思うか?」
口を突いて出た言葉はそれだった。
何がしたいのか分からない。だが…。
「データが著しく不足しています。対抗策が分かれば、あるいは。」
「…出るぞ、俺の責任だ。BN号の修繕と、ジャネットのフォローを頼む。」
「了解致しました、お気をつけて。」
上野駅周辺は、混乱に包まれていた。
車道の中心に突然謎の黒い人型が現れ、ユラユラと闊歩している。
ツイッター上では、やはりと言うべきか、
「また宇宙人か?」
という呟きが溢れかえる。
しかし今回は
「でも雰囲気が違う」
「今回のはなんかヤバい」
と、あからさまに恐怖が蔓延っているではないか。
幽幻生命体は、自らの人型をドロドロと少しずつ崩しながら、距離を取る歩行者たちに詰め寄ろうとしていた。
腰を抜かし立ち上がれない女性が、近寄る怪物を見て悲鳴をあげる。
幽幻生命体はそれでも歩みを止めず、女性に向け手を伸ばす。
少しずつ。
少しずつ。
そこで、幽幻生命体の動きが止まる。
何かに気付いたように、辛うじて「口元」と呼べるような部分が、僅かに動く。
女性はその隙に、脱兎の如く逃げ出した。
その後ろ姿を、幽幻生命体は寂しそうに見送るのであった。
何のため、どこから来て、何になろうとしているのか。
それは今、誰にもわからない。
わからない。
それだけが、確かに言えることであった。
ふと、幽幻生命体はゆっくりと虚空を見上げる。そして、口元、と呼べそうな部分が緩んでいく。
来る。来てくれる。分かっていた。
「ミク!効果が出そうな兵装を!そして周辺の生態反応を見逃すな!」
「了解です、ガッツくん。」
ブン!という電子音と共に、ペインロアーが空中に現れた。異次元空間からの転送である。
ミクが選択し転送した火力重視のチェーンガン、マグナム誘導弾などを、異形に向けてありったけぶっ放しながら落下するガッツ。
その顔には、ニポンを自分のものにしようとしている男の影は感じられない。
「(俺のせいで、人を死なせるわけにはいかない!そんなことになったら、俺は…俺は!)」
歯を食いしばり、着地の衝撃を一身で受け止める。次の瞬間、エンジン全開で幽幻生命体に向かっていく。
「お前は一体…何なんだァァァァーー!!」
「東郷さん、あなたにしていただきたい業務はこちら。当社のロボットの整備。…に関する書類の整理や雑用。あぁーっと大丈夫、誰にでもできる簡単なお仕事です。」
総司はジャックに連れられ、スタークラウン社のオフィスから遠く離れた、小さな工場に来ていた。
そこには、ブルーシートに覆われた怪しい巨体が佇んでいた。
「・・・うん、いや・・・まさかまさかなんだけど。おたくの社長たちに疑われてる人間にそんなことやらせていいワケ?絶対ヤバいでしょ。」
総司はホコリとオイルの匂いが舞う作業場で、ブルーシートを見上げて震えていた。
また変な金額を吹っかけられるに決まっているではないか!
「あーいいんだよニイちゃん!アタシがジャックに頼んだんだ、よく来てくれたね!」
突然、背後から野太い女性の声がして、驚いて振り返る。
そこには、声に相応しい、大柄な女性が立っていた。
「アンタがあの変形するロボットのパイロットかぁ!大したモンだね!
おっと失敬、アタシゃここの責任者の種岡 恵里だ。これからよろしくね!」
そう言うと、恵里は総司の背中をバシッと叩いて豪快に笑った。相当に嬉しそうである。
「あ、いや!こちらこそよろしくッス!…ってだから!本当に大丈夫なんスか、そのぉ…俺で!!」
松葉杖での支えが崩れ、バランスが取れずに慌てながら、総司は改めて問いかけた。
これ以上、借金的な何かによって、坂田家に迷惑がかかるのは避けたいところだ。
「いいんだよ!アタシもスタークラウンの社員だけどさ、山田のヤローに恨みがあるもんでね。むしろアンタみたいのが必要なんだよ、大歓迎さ!」
そしてまた、恵里は大口を開けて笑う。
その姿を見た総司は、期待と不安、安心と頭痛に襲いかかられるのであった。
「いや、別に私は恨みなんか無いですけど…
?!東郷さん、すみません!また力を貸していただけませんか?」
ジャックは何かを察したように、恵里と総司のやり取りに割って入ってきた。
先日の宇宙人騒ぎのときと、似たような雰囲気。だが、今回は一層口調が尖っていた。
「力ってアンタ…アルティランダーのことか?そんな、一体何だって…。」
「事態は一刻を争います!種岡さん、大変恐縮ですが、また後日!」
「またかい、アンタいつもそんな調子だね。ま、ジャックには世話になってるからね。構いやしないよ!頑張ってきな、東郷!」
恵里はまた、豪快に笑う。かなり大らか、というか、細かいことは気にしない人間らしい。
「よっしゃ!何だかよくわからないけど、やってやるしかねぇな!」
「製鉄所まで送ります、急ぎましょう!」
その時総司のスマホが、虫の知らせのように鳴動した。百合子だ。総司は慌ててコールに出る。
「わりぃ百合ちゃん!これからお」
「総司さん、アルティランダーが必要な状況だったりしない?!私なんだかイヤな予感が…。」
総司の言葉を遮って、百合子の明るくも不安げな声が響く。
一瞬、言葉に詰まる総司。
「百合ちゃん、すげぇな。どうしてわかったんだ?そういや、この前もこんなことあったけど…。」
呆気にとられ、しどろもどろになりながら総司は感嘆した。
百合子の第六感的なものは、まるで漫画のようなタイミングで、展開を先読みしている。
「やっぱり!私、おじいちゃんに頼んだの。総司さんの位置情報を拾って、トラックで運んでほしい、って。もうすぐ着くんじゃないかな。」
「マジかよ百合ちゃん!さっすがぁ!ジャックさん、そういうワケだからすぐ行けそうだぜ!」
一連の流れを横目に見て、あまりのご都合主義に冷や汗をかいている、いや、呆気に取られている男がまた1人。
「そ、そうですか。何よりですね…。」
ミクが淡々と報告をする。
次第に顔が蒼くなっていくのが、自分でもハッキリとわかった。全く関係の無い星、関係の無い人間。しかもその星を今、グダグダな方法ではあるが、自分の管理下に置こうとしている。
放っておけばいい。放っておけば…。
しかし、何も知らない地球人はどう考えるか?間違いなく
「宇宙人の生物兵器だ!」
と騒ぐだろう。
多くの物的被害、多くの犠牲者が出るに違いない。そして、自分は恨まれる。
そうなれば、自分は父のようにはなれない。
父のようには…。
その時、アイツの姿が脳裏に浮かんだ。
邪魔をしてくる地球人。しかし、何故だか憎めない。
「ミク…ペインロアーで対抗出来ると思うか?」
口を突いて出た言葉はそれだった。
何がしたいのか分からない。だが…。
「データが著しく不足しています。対抗策が分かれば、あるいは。」
「…出るぞ、俺の責任だ。BN号の修繕と、ジャネットのフォローを頼む。」
「了解致しました、お気をつけて。」
上野駅周辺は、混乱に包まれていた。
車道の中心に突然謎の黒い人型が現れ、ユラユラと闊歩している。
ツイッター上では、やはりと言うべきか、
「また宇宙人か?」
という呟きが溢れかえる。
しかし今回は
「でも雰囲気が違う」
「今回のはなんかヤバい」
と、あからさまに恐怖が蔓延っているではないか。
幽幻生命体は、自らの人型をドロドロと少しずつ崩しながら、距離を取る歩行者たちに詰め寄ろうとしていた。
腰を抜かし立ち上がれない女性が、近寄る怪物を見て悲鳴をあげる。
幽幻生命体はそれでも歩みを止めず、女性に向け手を伸ばす。
少しずつ。
少しずつ。
そこで、幽幻生命体の動きが止まる。
何かに気付いたように、辛うじて「口元」と呼べるような部分が、僅かに動く。
女性はその隙に、脱兎の如く逃げ出した。
その後ろ姿を、幽幻生命体は寂しそうに見送るのであった。
何のため、どこから来て、何になろうとしているのか。
それは今、誰にもわからない。
わからない。
それだけが、確かに言えることであった。
ふと、幽幻生命体はゆっくりと虚空を見上げる。そして、口元、と呼べそうな部分が緩んでいく。
来る。来てくれる。分かっていた。
「ミク!効果が出そうな兵装を!そして周辺の生態反応を見逃すな!」
「了解です、ガッツくん。」
ブン!という電子音と共に、ペインロアーが空中に現れた。異次元空間からの転送である。
ミクが選択し転送した火力重視のチェーンガン、マグナム誘導弾などを、異形に向けてありったけぶっ放しながら落下するガッツ。
その顔には、ニポンを自分のものにしようとしている男の影は感じられない。
「(俺のせいで、人を死なせるわけにはいかない!そんなことになったら、俺は…俺は!)」
歯を食いしばり、着地の衝撃を一身で受け止める。次の瞬間、エンジン全開で幽幻生命体に向かっていく。
「お前は一体…何なんだァァァァーー!!」
「東郷さん、あなたにしていただきたい業務はこちら。当社のロボットの整備。…に関する書類の整理や雑用。あぁーっと大丈夫、誰にでもできる簡単なお仕事です。」
総司はジャックに連れられ、スタークラウン社のオフィスから遠く離れた、小さな工場に来ていた。
そこには、ブルーシートに覆われた怪しい巨体が佇んでいた。
「・・・うん、いや・・・まさかまさかなんだけど。おたくの社長たちに疑われてる人間にそんなことやらせていいワケ?絶対ヤバいでしょ。」
総司はホコリとオイルの匂いが舞う作業場で、ブルーシートを見上げて震えていた。
また変な金額を吹っかけられるに決まっているではないか!
「あーいいんだよニイちゃん!アタシがジャックに頼んだんだ、よく来てくれたね!」
突然、背後から野太い女性の声がして、驚いて振り返る。
そこには、声に相応しい、大柄な女性が立っていた。
「アンタがあの変形するロボットのパイロットかぁ!大したモンだね!
おっと失敬、アタシゃここの責任者の種岡 恵里だ。これからよろしくね!」
そう言うと、恵里は総司の背中をバシッと叩いて豪快に笑った。相当に嬉しそうである。
「あ、いや!こちらこそよろしくッス!…ってだから!本当に大丈夫なんスか、そのぉ…俺で!!」
松葉杖での支えが崩れ、バランスが取れずに慌てながら、総司は改めて問いかけた。
これ以上、借金的な何かによって、坂田家に迷惑がかかるのは避けたいところだ。
「いいんだよ!アタシもスタークラウンの社員だけどさ、山田のヤローに恨みがあるもんでね。むしろアンタみたいのが必要なんだよ、大歓迎さ!」
そしてまた、恵里は大口を開けて笑う。
その姿を見た総司は、期待と不安、安心と頭痛に襲いかかられるのであった。
「いや、別に私は恨みなんか無いですけど…
?!東郷さん、すみません!また力を貸していただけませんか?」
ジャックは何かを察したように、恵里と総司のやり取りに割って入ってきた。
先日の宇宙人騒ぎのときと、似たような雰囲気。だが、今回は一層口調が尖っていた。
「力ってアンタ…アルティランダーのことか?そんな、一体何だって…。」
「事態は一刻を争います!種岡さん、大変恐縮ですが、また後日!」
「またかい、アンタいつもそんな調子だね。ま、ジャックには世話になってるからね。構いやしないよ!頑張ってきな、東郷!」
恵里はまた、豪快に笑う。かなり大らか、というか、細かいことは気にしない人間らしい。
「よっしゃ!何だかよくわからないけど、やってやるしかねぇな!」
「製鉄所まで送ります、急ぎましょう!」
その時総司のスマホが、虫の知らせのように鳴動した。百合子だ。総司は慌ててコールに出る。
「わりぃ百合ちゃん!これからお」
「総司さん、アルティランダーが必要な状況だったりしない?!私なんだかイヤな予感が…。」
総司の言葉を遮って、百合子の明るくも不安げな声が響く。
一瞬、言葉に詰まる総司。
「百合ちゃん、すげぇな。どうしてわかったんだ?そういや、この前もこんなことあったけど…。」
呆気にとられ、しどろもどろになりながら総司は感嘆した。
百合子の第六感的なものは、まるで漫画のようなタイミングで、展開を先読みしている。
「やっぱり!私、おじいちゃんに頼んだの。総司さんの位置情報を拾って、トラックで運んでほしい、って。もうすぐ着くんじゃないかな。」
「マジかよ百合ちゃん!さっすがぁ!ジャックさん、そういうワケだからすぐ行けそうだぜ!」
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