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第三話 夢を追いかけて
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「こいつ!…徐々に大きくなってきてないか…?!ミク!解析は?!」
「アナライザーフル稼動中。対象の体積、10分前の状態と比較。約2%増加しています。さらに増加、3%増。」
ガッツは幽幻生命体に向け、物理的発砲とビーム照射を繰り返していた。だが、効果らしいものはない。対象は、ちぎれては合わさり、吹き飛んでは元に戻り、を繰り返している。
(このままではマズい…。下手をすれば、俺がコイツをけしかけた、などと地球人に思われかねん。くっ!どうすれば…!)
異星の地で、今まで感じたことのない焦りを見せるガッツ。その時、宇宙人である彼の手に日本の、いや、世界の命運が握られていると言っても過言ではなかった。
だが、もちろんガッツに地球を背負う必要性などカケラも無い。それでも彼は、戦うしかなかった。男としての責任は、果たさねばならない。その想いが、ただ彼を動かした。
その時である。
幽幻生命体は、口元をフッ、と緩ませたかと思うと、ガッツの視界から突然、消えた。
何かの前兆もなく、まるで霞のように、スッといなくなったのだ。
ガッツに恐怖を与えるには、十分すぎる事象だ。
「な、何だ…?!何が起きたんだ!ミク!おい!ミク!ミク!解析だ、早く!」
意思に反した絶叫が、コックピット内にこだまする。操縦桿を握る手が、ガタガタと震える。汗が止まらない。
「ガッツくん、退去を推奨。解析不能。」
「な、何だと…あらゆるレーダーに掛からず、何のエネルギーも使わずに一瞬で消えるなど、あり得るワケが…!」
その瞬間、ガッツの背筋に、激しい悪寒が走った。
「ヒュウ…ヒュウ…ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ」
恐怖の向かう先が、ペインロアーの背後に、いつの間にか現れたのだ。
「うあっ!アアアアアアァァ!!」
ほんのりと涙を浮かべながら、ガッツは叫ぶ。理解を超えるものを恐れ、自らのこれからを脳裏によぎらせて。
「(俺は…こんな結末を迎えるためにここまで来たのか?!俺はただ、何も無い自分を変えたかっただけなのに!変われないまま、俺は…!)」
涙を溢れさせて、ガッツは強く瞼を閉じる。恐ろしさで直視できない。
「スピニング!ホイールキィーーーーック!!」
遅れて現れた総司は、右脚のホイールを露出、回転させながら、不意打ちの回し蹴りを見事に謎の物体に見舞った。
幽幻生命体はグニャリと曲がり、攻撃のダメージは無さそうだ。が、衝撃により吹き飛び、ペインロアーから引き剥がすことはできた。
「おい大丈夫かよ?!つーかアイツ何だ?!ヤバそうな感じするけど!」
ガッツを庇うように、背にするアルティランダー。逆光で黒く輝く頭部が、振り向くようにしてペインロアーを見下ろす。
「お、お前…どうして!」
「どうしてもこうしても無いだろ?!そんなことより、だからアイツ何なんだ、って!」
総司は狼狽えることなく、いつもの調子で敵との対峙を続けている。ガッツは、その後ろ姿を見つめながら、呟いた。
「幽幻生命体、という宇宙生物だ。詳しいことは、こちらにもよくわからない。」
「ゆ、ゆう…何だってぇ?」
真面目には見えない、とぼけた口調でガッツを茶化す総司。ガッツはただ、ポカンと口を開けるのみだ。
「姉ちゃん!僕もよくわからなかった!何て言ってた?」
「ゆ、ゆうげん?生命体って、聞こえたけど…。」
「なっ…!ゆうげん、生命体…?どこかで聞いたことがある…!」
「知ってるのかおっちゃん!」
「あ、あぁ…昔、いや、その…まさか…!」
坂田家との通信でさらに騒がしくなったその様子を見て、ガッツは頭を抱えた。
「ええい、何なんだコイツらは…!おっ、おい!ヤツが消えたぞ!」
ギャーギャーと言っているうちに、先ほどと同様、瞬間的に消え、現れる幽幻生命体。
総司は驚きつつ振り返る。
「うおっ後ろ?!おいなんかヒュウヒュウ言ってんぞ!」
アルティランダーの肩パーツに腕にあたるであろう部分を絡め、まるで耳元で囁くようなその姿は、おぞましさを映していた。
「何だ…?何か、語りかけているのか?…言いたいことが、ある…?」
総司は、直感的にそう捉えた。しかし、宇宙人の眼にはそうは映らない。
「何をのんびりしている!し、死にたいのか?!」
咄嗟にガッツが叫ぶ。自分が背後に回られた恐怖が蘇り、地球人相手に自分のその姿をダブらせたのだ。半ば錯乱状態に陥り、ペインロアーの態勢を立て直すよりも早く、倒れ込んだまま発射が可能な武装を、片っ端から展開していく。
「俺はまだ、何も成しちゃいないんだ…。まだ、死ぬわけにはいかない!あんな…!あんなワケのわからない生命体相手に、やられてたまるかアァァァーーッ!!」
照明弾、マシンキャノン。それが精一杯であった。照準を定め、総司がいることすらも忘れ、ただ己の感情に身を任せて、引き金を引くガッツ。
絶叫に次ぐ絶叫に合わせ、迷うように、混乱したように、次々と弾丸の雨が街に降り注ぐ。
炸裂、そして炸裂。昼間にも関わらず激しい閃光が瞬き続け、目を開けていられる者などいなかったであろう。
普段のガッツであればわかっていたはずだ。
効果など無い、と。
「おわァァッ!!おい落ち着け!こんなの、被害が広がるだけ…っ!おい!おいこのヤロー!」
総司はゴーグルで閃光を防御しつつ、紙一重でガッツの混乱を躱し続ける。
照明弾であったのが幸いだ。通常弾、つまりミサイルであれば、こうはいかなかっただろう。
しかし、銅像は飛び散り、街路樹や街灯は折れ、ビル群にも穴が空いていく。
恐怖は、伝染していく。
公園に避難していた人々は、銃声と爆発音、破裂する光を遠巻きに感じ、自分たちに身の危険が迫ることを予測していたのは言うまでもない。
その様子は、TLに次々と顕になっていくのだった。
しかし、幕切れは不意に訪れた。
弾切れである。
「なっ、まさか!こんな時に…!おいミク!早く!何でもいい!兵装の転送をッ!早くだァァ!!」
ガッツは、操縦桿を握る手をガクガクと震わせながら、なす術無くなったミク相手に絶叫を続ける。
そして目の前、もうもうと沸き立つ煙の中からは、未だ不気味に佇む幽幻生命体の姿が現れた。
「ば、化け物だ…あいつは何なんだ…。
何なんだよォォ!!」
怯えるガッツ、怯える民衆。
上野駅周辺は、平和とは程遠い、混沌たる有様と化していた。
幽幻生命体はなおも、別段の行動を取る気配を見せない。
と誰もが思っていた、その時であった。
「空間の歪みを確認。ワームホールが開きます。」
幽幻生命体の頭上に、突如としてマンホールの蓋を開けたかのような黒い穴が開いた。
周囲が暗い目で見守る中、化け物は不気味に虚空を見上げ、音もなくゆっくりとそこに吸い込まれ、消えていく。爪先までが消えたかと思うと、何事もなかったかのようにあっけなく、一瞬にして閉じられた。
突然の幕引きに、その場を見守っていた誰もが呆気に取られる他無く、ただしばらくの間、あまりにも慌ただしかった先ほどまでとは裏腹に、怖いくらいの静寂が上野駅前を包んだ。
「アナライザーフル稼動中。対象の体積、10分前の状態と比較。約2%増加しています。さらに増加、3%増。」
ガッツは幽幻生命体に向け、物理的発砲とビーム照射を繰り返していた。だが、効果らしいものはない。対象は、ちぎれては合わさり、吹き飛んでは元に戻り、を繰り返している。
(このままではマズい…。下手をすれば、俺がコイツをけしかけた、などと地球人に思われかねん。くっ!どうすれば…!)
異星の地で、今まで感じたことのない焦りを見せるガッツ。その時、宇宙人である彼の手に日本の、いや、世界の命運が握られていると言っても過言ではなかった。
だが、もちろんガッツに地球を背負う必要性などカケラも無い。それでも彼は、戦うしかなかった。男としての責任は、果たさねばならない。その想いが、ただ彼を動かした。
その時である。
幽幻生命体は、口元をフッ、と緩ませたかと思うと、ガッツの視界から突然、消えた。
何かの前兆もなく、まるで霞のように、スッといなくなったのだ。
ガッツに恐怖を与えるには、十分すぎる事象だ。
「な、何だ…?!何が起きたんだ!ミク!おい!ミク!ミク!解析だ、早く!」
意思に反した絶叫が、コックピット内にこだまする。操縦桿を握る手が、ガタガタと震える。汗が止まらない。
「ガッツくん、退去を推奨。解析不能。」
「な、何だと…あらゆるレーダーに掛からず、何のエネルギーも使わずに一瞬で消えるなど、あり得るワケが…!」
その瞬間、ガッツの背筋に、激しい悪寒が走った。
「ヒュウ…ヒュウ…ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ」
恐怖の向かう先が、ペインロアーの背後に、いつの間にか現れたのだ。
「うあっ!アアアアアアァァ!!」
ほんのりと涙を浮かべながら、ガッツは叫ぶ。理解を超えるものを恐れ、自らのこれからを脳裏によぎらせて。
「(俺は…こんな結末を迎えるためにここまで来たのか?!俺はただ、何も無い自分を変えたかっただけなのに!変われないまま、俺は…!)」
涙を溢れさせて、ガッツは強く瞼を閉じる。恐ろしさで直視できない。
「スピニング!ホイールキィーーーーック!!」
遅れて現れた総司は、右脚のホイールを露出、回転させながら、不意打ちの回し蹴りを見事に謎の物体に見舞った。
幽幻生命体はグニャリと曲がり、攻撃のダメージは無さそうだ。が、衝撃により吹き飛び、ペインロアーから引き剥がすことはできた。
「おい大丈夫かよ?!つーかアイツ何だ?!ヤバそうな感じするけど!」
ガッツを庇うように、背にするアルティランダー。逆光で黒く輝く頭部が、振り向くようにしてペインロアーを見下ろす。
「お、お前…どうして!」
「どうしてもこうしても無いだろ?!そんなことより、だからアイツ何なんだ、って!」
総司は狼狽えることなく、いつもの調子で敵との対峙を続けている。ガッツは、その後ろ姿を見つめながら、呟いた。
「幽幻生命体、という宇宙生物だ。詳しいことは、こちらにもよくわからない。」
「ゆ、ゆう…何だってぇ?」
真面目には見えない、とぼけた口調でガッツを茶化す総司。ガッツはただ、ポカンと口を開けるのみだ。
「姉ちゃん!僕もよくわからなかった!何て言ってた?」
「ゆ、ゆうげん?生命体って、聞こえたけど…。」
「なっ…!ゆうげん、生命体…?どこかで聞いたことがある…!」
「知ってるのかおっちゃん!」
「あ、あぁ…昔、いや、その…まさか…!」
坂田家との通信でさらに騒がしくなったその様子を見て、ガッツは頭を抱えた。
「ええい、何なんだコイツらは…!おっ、おい!ヤツが消えたぞ!」
ギャーギャーと言っているうちに、先ほどと同様、瞬間的に消え、現れる幽幻生命体。
総司は驚きつつ振り返る。
「うおっ後ろ?!おいなんかヒュウヒュウ言ってんぞ!」
アルティランダーの肩パーツに腕にあたるであろう部分を絡め、まるで耳元で囁くようなその姿は、おぞましさを映していた。
「何だ…?何か、語りかけているのか?…言いたいことが、ある…?」
総司は、直感的にそう捉えた。しかし、宇宙人の眼にはそうは映らない。
「何をのんびりしている!し、死にたいのか?!」
咄嗟にガッツが叫ぶ。自分が背後に回られた恐怖が蘇り、地球人相手に自分のその姿をダブらせたのだ。半ば錯乱状態に陥り、ペインロアーの態勢を立て直すよりも早く、倒れ込んだまま発射が可能な武装を、片っ端から展開していく。
「俺はまだ、何も成しちゃいないんだ…。まだ、死ぬわけにはいかない!あんな…!あんなワケのわからない生命体相手に、やられてたまるかアァァァーーッ!!」
照明弾、マシンキャノン。それが精一杯であった。照準を定め、総司がいることすらも忘れ、ただ己の感情に身を任せて、引き金を引くガッツ。
絶叫に次ぐ絶叫に合わせ、迷うように、混乱したように、次々と弾丸の雨が街に降り注ぐ。
炸裂、そして炸裂。昼間にも関わらず激しい閃光が瞬き続け、目を開けていられる者などいなかったであろう。
普段のガッツであればわかっていたはずだ。
効果など無い、と。
「おわァァッ!!おい落ち着け!こんなの、被害が広がるだけ…っ!おい!おいこのヤロー!」
総司はゴーグルで閃光を防御しつつ、紙一重でガッツの混乱を躱し続ける。
照明弾であったのが幸いだ。通常弾、つまりミサイルであれば、こうはいかなかっただろう。
しかし、銅像は飛び散り、街路樹や街灯は折れ、ビル群にも穴が空いていく。
恐怖は、伝染していく。
公園に避難していた人々は、銃声と爆発音、破裂する光を遠巻きに感じ、自分たちに身の危険が迫ることを予測していたのは言うまでもない。
その様子は、TLに次々と顕になっていくのだった。
しかし、幕切れは不意に訪れた。
弾切れである。
「なっ、まさか!こんな時に…!おいミク!早く!何でもいい!兵装の転送をッ!早くだァァ!!」
ガッツは、操縦桿を握る手をガクガクと震わせながら、なす術無くなったミク相手に絶叫を続ける。
そして目の前、もうもうと沸き立つ煙の中からは、未だ不気味に佇む幽幻生命体の姿が現れた。
「ば、化け物だ…あいつは何なんだ…。
何なんだよォォ!!」
怯えるガッツ、怯える民衆。
上野駅周辺は、平和とは程遠い、混沌たる有様と化していた。
幽幻生命体はなおも、別段の行動を取る気配を見せない。
と誰もが思っていた、その時であった。
「空間の歪みを確認。ワームホールが開きます。」
幽幻生命体の頭上に、突如としてマンホールの蓋を開けたかのような黒い穴が開いた。
周囲が暗い目で見守る中、化け物は不気味に虚空を見上げ、音もなくゆっくりとそこに吸い込まれ、消えていく。爪先までが消えたかと思うと、何事もなかったかのようにあっけなく、一瞬にして閉じられた。
突然の幕引きに、その場を見守っていた誰もが呆気に取られる他無く、ただしばらくの間、あまりにも慌ただしかった先ほどまでとは裏腹に、怖いくらいの静寂が上野駅前を包んだ。
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