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第四話 あなたの思い出

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一方その頃、ジャックと士郎は、坂田宅で居間で麦茶をすすっていた。

「さて、今回は私とアナタ、二人だけのようですね。是非…お聞かせ願えませんか。『声』について。」

ジャックはひとしきり麦茶をすすった後、静かに切り出した。

「…先に、聞かせてくれ。アンタ、ただモンじゃねぇな。」

士郎はというと、グラスをギュッと握ったまま、肩を震わせている。ジャックを見つめるその眼差しは、どこか遠くを見据えている様だった。

「アナタを信用しないワケではありませんが、それは言えません。ただ、どうやらある程度はお分かりのようだ。ご想像にお任せします、とだけ。」

ジャックは困った様に笑う。

「そうか。まぁ、分かったよ、うん。何となくな。なんか何となく似てるからなァ、アンタ。」

士郎はため息をつく。その様子を見て、ジャックはピクリと眉をひそめた。

「人に話すのは、これが初めてだ。息子や孫たち、総司にも言うとらん。」

士郎は決心したように、膝をパンと叩いた。

「話そう。俺の最愛の妻…知恵のことを。」




「上野の一件、出遅れたそうね。未確認生命体が現れたというのにも関わらず。」

彗は、まるで嵐の前の空のように静かに声を張り上げ、社長専用の椅子に座りながらグルングルンと回転していた。

「は…この度は、誠に…。」

「いいのよ言い訳は。今後どうするか、大切なのはそこ。どうするの?」

終わらない社長からの追求に、南は顔を伏せながら苦々しく、恐る恐る口を開く。

「お、恐れながら…。彼らの動きを追っていたのですが、行動があまりに早すぎまして…。
で、ですので、僭越ながら、これ以上は調査とパイロット、二足の草鞋は困難かと…。」

「…そうね。このあたりが潮時かしらね。」




「え、何ですかそれ…こわ…。」

ジャックは、士郎の話の導入部分すら聞くことなく、突然ドン引きし始めた。

「何ですか急に…ノロケですか…こわ…。」

「えっ?いやいや違うよ?!何?!何が?!だ、だって『声』とか言うからさ…?

えっ?!違うの?!」

いい歳をしたじいさんは、若者のように狼狽えた。

「えっと…すみません、全然違います…。」

ジャックは、細い目をより細くした。

「な、何じゃそりゃァ!!!アンタが勿体ぶった言い方するから!!勘違いしたんじゃん!!
恥ずかしいわ!!
もう!!言いづらいとかそういうのいいから!!もっとわかりやすく説明せんかい!!」

「お、仰るとおりです…!すみません、かなり重大な内容なもので、濁すのが鉄板かなと…。」

しどろもどろになるジャックを、士郎は涙目で睨みつけ続けていた。

「わ、わかりました…。はぁ、自分で撒いた種ですし、アナタはまぁ、大丈夫だと思いますから…。
あ、でもコレ、他言無用でお願いしてますので…。」

メガネを拭きながら、ジャックはため息をつき、改めて真剣な面持ちで視線を上げた。

「私ね。地球人じゃないんですよ。」
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