疾風迅雷アルティランダー

エルマー・ボストン

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第四話 あなたの思い出

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一方その頃。地球外兄妹は、破壊されたブラックナックル号の修繕に明け暮れていた。

「あいつ…何だったんだろーねアニキ。」

「・・・・」

「あいつ捕まえたらさ、アタシら伝説になるかもね。ねーアニキ。」

「・・・・」

ガッツは心ここにあらずな状態で、ハイパー・リペア・マシンを、壁面に空いた風穴に向けていた。そんな兄を、ジャネットは半ば呆れ顔で注視している。

「・・・ジャネット。」

唐突に、ガッツが口を開く。

「ちゃんと話をしていなかったな。お前は何故、俺に着いてきた?」

兄の急な発言にきょとんとしながらも、妹はゆっくりと息を吸い込み、吐いて、つらつらと語り始める。

「アタシもさ、アニキと同じだよ。やりたいことがナァーンも無くて。でも、王族?らしく振る舞え、とも言われないじゃん?・・・むしろ、そう言ってくれてた方が楽だったかもしれないよね。だからさ、なんとなく広い世界を見たかった。ただそれだけ。」

お互いに表情を変えることなく、床に寝そべって宙を仰ぎながら、暫し沈黙が続く。

「・・・そうか。お前、割りとちゃんと考えてたんだな。」

ガッツは、おもむろに上半身を起こし、頭を掻いて見せた。

「はぁ?こんなん、考えてるうちに入んないっしょ!ただの勢いだよ。・・・そういうアニキは?『領土拡大だ!』って言い出したのも急だったよね。」

どこかから取り出したキャンディーを加えながら、ジャネットは問う。お互いに、成り行き任せで飛び出して来たのは否めない。

「俺は…。」

俯きながら、妹から顔を背ける。その視線の先では、ミクが修復作業をせっせと進めていた。
ジャネットはまた一つため息をつき、それ以上の詮索をやめたのだった。

「・・・あ、そういえばさ。フィリップとフィーラから暗号通信鬼送られてきてるよ。出た?」

「出るワケないだろ。・・・出れるかよ。」

フィリップとフィーラは、ドーバー家の忠実な臣下である。2人は兄妹であり、兄は皇帝と王子、妹は妃と姫の、それぞれ側近だ。
互いに少々過保護気味で、ガッツとジャネットは常々閉塞感を感じている。

「まぁでもさー、2人共アレで良いヤツらじゃん?すっごい心配してるだろーから、連絡くらい入れてあげてもいんじゃん?・・・BNのGPS切ってるし。」

「バカ。そんなことしたら、あいつらすっ飛んで来るぞ。特にフィリップの方・・・異次元に突入できる機体持ってるんだぞ。」

「ガッツくんすみません。今まさにフィリップさんから通信入ってまして・・・繋いでしまいました。」

2人の会話を遮るように、唐突に2人の眼前、空中にウィンドウが表示され、長い髪を後ろで一つにまとめた、長身の男がその中に現れた。

「殿下!姫さま!!おお、ようやく繋がった!

ご無事でございますか!!今どちらにいらっしゃいます!!殿下!殿下ァァァ!!」

フィリップ、と呼ばれた男は、繋がった途端にカメラにがっぷりと組みついた。

「うわぁ!!ち、近いんだよお前は!おいミク何をしている!!何故繋げた!!」

「フィリップさんのお話しをされていたもので、気を遣ったつもりが。失礼。」

AIのくせに人の感情を慮ろうと努めているミクは、時々こういった凡ミスをやらかすのだ。

「何、某の話題をお2人で…?!くぅッ!この不肖フィリップ、感激でござるぞ…!して、お2人は今どちらに?!」

フィリップは大泣きに大泣きを重ね、顔を涙と鼻水ででろでろに濡らしていた。

「フィリップうるさーい。ちょっとボリューム落として。」

「…すまんフィリップ、俺たちは何とかやっている。そして、帰るつもりはない。じゃあな。」

それなりに会話をするつもりのあったジャネットと、様々な感情が交錯し、本気で自分たちを心配する者の顔を直視できないガッツ。
悩める男は、そう言って通信遮断のボタンに手をかける。

「あっ殿下お待ちを!陛下も皇后さまもご心ぱ」

ガッツにより、通話が終了した。
慌てて引き留めたフィリップだったが、その切なる願いは聞き届けられなかった。

「心配、か。どれほどのものなのだろうな。」

「まぁ・・・少なくとも、ママは寝込んでそうだよね。」



「フィーラ・・・フィーラは・・・いますか・・・。」

「ここに。ユピーラ様。」

ここは、ガッツたちの母星。そしてその王宮、
皇后の私室。
地球でいう能面のようなモノ…というかほぼ能面であるが、それを被ってベッドに横たわる女性が1人。

「子供たちは・・・無事でしょうか・・・。」

この女性こそ、ガッツとジャネットの母、
ユピーラ・ドーバーである。

「はっ。先ほど、ようやく兄が通信に成功したと報告がございました。お2人とも無事のようです。」

フィーラと呼ばれた女性は、皇后の側近兼世話係のフィーラ・スー。フィリップの義理の妹だ。
義兄と同じく黒衣に身を包み、黒髪をおかっぱ風にしている。

「それは、本当ですか?よかった・・・。よかったです・・・。」

面の下で、ぐすぐすと泣きながら、涙を流して喜ぶユピーラ。その心は、常にガッツたちを想い、そして傷ついていた。

「ユピーラ様・・・失礼ながらその仮面、外していただけませんか。私それ、とても、その・・・怖くて・・・。」

「・・・ごめんなさい・・・でも・・・やっぱり恥ずかしくて・・・。」

ユピーラは、極度の恥ずかしがり屋だった。



「そうだな・・・母上はきっと、死ぬほど心配しているだろうな。」

母の性格を想像し、思いを馳せる2人。
そして、無機質なブラックナックル号の冷たい船体の中に、しばしの沈黙が流れる。


「・・・どうする?帰る?」

唐突に、ジャネットが口を開く。

「こんなハンパで、帰ってたまるか!何より、あのバケモノを置いてはいけん!」

「アニキってさ、ヘンなとこ律儀だよね。当初の目的はどうすんのよ?あ、でもあって無いようなモノか目的。ウケる。」

「俺はもう・・・俺は、何のために・・・。」

「ふぅ。ま、この話はまたにしよ。アタシこの後約束あるから、ちょっと出かけるねー。」

そう言ってジャネットは外行きの服装をデバイス一つで装着すると、さっさと異空間の壁を越えて行ってしまった。
兄妹の道は近くて遠く、捻れはするものの、交差する気配を見せない。目的を見失った兄と、目的は無くとも、地球に大切なモノを見出しつつある妹。2人のこれからは、望まずとも交差することになる。
苦難、という魔物の手によって。
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