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第四話 あなたの思い出

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「(ええ…?モグモグ星人…?宇宙生物ハンター?なんで…ってそうか、幽幻生命体を追って来たのね。相変わらず訛りがひどすぎてウケる。翻訳機可哀想。)」

モグモグ星人、とジャネットが呼称したその宇宙人は、宇宙中の希少生物を捕獲し賞金を得る、荒っぽいバウンティハンターであった。

「(ばるるのセンサーに引っかからなかった…かなり高性能なステルスと…ジャミングも?ったく、先に翻訳機何とかしなさいよね…。)」

胸の谷間に潜ませたバンキッシュがシュンとする。
3人は交差点に程近かったカフェから避難しようと、右往左往しているところであった。

「百合ちゃん!みんな!大丈夫か?!電車に乗る前だったから、急いで戻ってきたんだ!」

「総司さん!よかった…!」

「兎も角急いで避難しよう。なんかアイツ、今までの宇宙人と違って…悪いヤツな気がするよ。ここにいたら危険だ!」

「う、うん、わかった。行こう、2人とも!」

「(あんなヤツ、バンキッシュで楽勝だけど…ここでバレるわけにはいかないもんな…。タイミング見て仕掛けるしかないか。それにしてもコイツ、あれだけアニキと張り合っておいて、私たちのこと悪いヤツとは思ってないの…?そう、なんだ…。


・・・っ仕方ない、か!)」

「わー、このままじゃヤバい。こわいよ、帰りたいよー。助けてー。」

「あっ!レナちゃんどこ行くの?!何その棒読み?!」

「山野辺さん、危ない!俺が行くよ!」

「そ、総司さん!待って!総司さぁーーーん!!」


パニックに陥った渋谷駅前。
悲鳴で溢れ返る、蜘蛛の子を散らしたような人の流れに遮られ、百合子の瞳から総司の背中が、消える。



「ケミガワさん!どこに行った?!危ないぞ、早く戻ろう!」

遠くで爆音鳴り響くセンター街を、おぼつかない松葉杖の足取りで、額に大粒の汗を生み出しながら、総司が進む。まるで小さな地震が頻発しているかの如く、地は揺れ、不気味な音が足下を伝わり、あちこちでガラスの軋む音がする。まるで焦りを加速させるかのように。
日差しと、爆発による熱気が、容赦なく総司を襲う。


「あいつ、マァジでお人好しなんだ。ロボットも無いのにさ…。ばるる、見つからないうちに行くよ!」

「りょ!」

ヨロヨロと進む総司を尻目に、人通りの全く無くなった通りから、家屋の屋上へと躍り上がるジャネット。
そこで、小型化したバンキッシュの頭を「ペコん」と押す。するとレナは、一瞬にして「ジャネット」になるのであった。と言っても、露出が少々増したくらいだが。

瞬く間に巨大化するバンキッシュ。
難点は、その際に地球で言うところの排気ガスを大量に放出することだ。
それが先日の煙幕と同じように作用することを見越し、ジャネットは黒煙に包まれたセンター街の中心に消えるだった。

「なっ、この煙は、どこから…?げほっ、げほっ!くそっ!何も見えない…っ!」

たまらずにギュッと目を閉じ、涙を流しながら咳き込む総司。堪えて必死に目を薄く開けた、その先にあるものは…。


「あれは…あの2人組のロボットか…?!まさか…!」



「どごだ、どごに、おるだ!早く出す!」

モグモグ星人は組織的に地球まで来たようだ。
宇宙船から小型の搭乗兵器を何台も発進させ、下っ端を乗り込ませ、ガッツとジャネットたちとは正反対に、渋谷の街を壊して回る。
ビルに弾丸が嵐のように打ち込まれ、窓ガラスが次々と吹き飛び、いたるところで爆発が起こる。

逃げ惑う人々。響き渡る悲鳴。
初めての宇宙人が来訪したときよりも、街は混乱を極めていた。

「ったく!急に出てきて、人の縄張りで好き勝手すんじゃないわよ!」

飛べない上にジャンプ力もあまり無いため、その大柄な体躯でズンズンとセンター街からダッシュで現れたのは、バンキッシュを駆るジャネットだった。
その勢いのまま、モグモグ兵器に体当たりをぶちかます。

「ぐげ!お、おまい!エンベリーアのモンでな?!」

巨体の衝撃に吹き飛ばされつつ、モグモグ星人は叫ぶ。

「だから何だっての、よォォーーー!!」

ジャネットは怒りの形相で叫びながら、バンキッシュの大きな拳が振り下ろされる。




「やはりそうか…。士郎さん、アルティランダー…出せますか?どうやら、百合子さんも総司さんも、かなりピンチのようです。」

ジャックは渋谷の事態を察し、飲みかけの麦茶のグラスをテーブルに置いた。

「何だって?!ちゅーかわかるのか?…そうか、わかるんだな。…ああ、すぐ動かせる状態だ。パイロットがおりゃあな。」

暑さとともに、士郎の額に一筋の汗が伝う。
目の前にいる男が、信用できないワケではない。
だが、やはりこの数時間内の情報量が多すぎる。
士郎はまだ、諸々が頭の中で整理できずにいた。

「ご安心ください、私が助太刀いたします。あ、このことは諸々…秘密ですよ?」

細い目をさらに細めながら、人差し指だけを立てて口元に持っていき、ジャックははにかむ。

「あ、ああ。そりゃわかっとるが…。何か方法があんだな?!ならよろしく頼む。孫と…総司を。」




一方こちらは、渋谷にあるスタークラウン本社。

「わかってるわね山田!今回はキッチリ仕事するのよ!」

スタードレッドに既に乗り込んだ南は、コックピットの右手のモニターに浮かぶ社長の叱咤激励に

「で、ですからお嬢様!呼ぶときは南と…」

やはり名前を気にしてこう応えた。

「あーもううるさい!いいから早く行きなさい!」

「は、はい…スタードレッド、出ます…。」

「声が小さァーい!」
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