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第四話 あなたの思い出

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「何者だ、次から次へと…!これではドレッドの存在意義が…!」


突如現れた謎のロボットの高出力なビームの一閃により、多くのドローンが消し飛んだ。渋谷の空に、僅かに青さが戻る。
そしてスタードレッドとバンキッシュは、ドローンの追加が少なくなったことで、辛うじて上半身だけ動かすことができるようになったのだった。


「ギザマァ、な゛ぜごごにい゛るだ?!
…おばえ゛、*☆/_d♪の捜査をずるっで…

ま、ま゛ざが!?」


「へっ!テメーには関係ねーし、守秘義務ってモンがあるんだぜ!
まぁでも、訛りがひどくて助かったがな!」


「宇宙保安官・ジャック…と、零・七型…?!
なんでアイツがここにィ?!」


ジャネットはそれを見た瞬間、顔が大きく引き攣った。



宇宙保安官。
宇宙保安協会に所属する、地球でいう警察のような組織である。
しかし、銀河に広がる星々は、思想や価値観、「正義の定義」が様々であるため、安易な武力介入は行わない。
しかし、広い宇宙において、盗みや殺人、侵略行為など、「完全な悪」と断ずることができる者や行為は、間違いなく存在する。
そういった「悪」から人々を守るために行動する、それが「宇宙保安官」である。

そんなジャックのことを、ジャネットはよく知っているような口ぶりであるが…。


「久しぶりだなァ、ドーバーの姫さんよ!おっと、助太刀の前に…ちょっくら野暮用済まさせてもらうぜ?!」


「姫、だと?一体何を…

?!消えた…!」


南が瞬きをするその一瞬、暗雲立ち込めるスクランブル交差点から、零・七型の姿が消えていた。


「ん?…うわぁビックリしたァ!!」

そしてジャックとその機体が現れたのは、迷い、文字通り思うように身動きが取れなくなっていた総司の元であった。


「へへっ!驚いた、よな?総司!」

テレポート。零の持つ、特殊能力の一つである。

「ええっ?!ジャックさんじゃん!!何で?!つーか何だよそのカッコ?!」


「詳しい話は後だ!さっさとこのカプセルを使いな。」


目玉が飛び出さんばかりに驚く総司目掛け、ジャックはスイッチの付いたカプセル状の物体を投げ渡す。
総司はワケも分からず、慌ててそれをキャッチし、まじまじと眺めては首を傾げた。

「何だコリャ。」

「詳しい説明してるヒマは無ぇ!
安心しろ、スイッチを押して投げるだけだ。そうすりゃ、お前が今1番望んでるモンが出てくるって仕組みよ!」

「・・・うおおそういうことか!よくわかんねぇけど、サンキュー!ジャックさん!

…出ろォォォォ!アルティランダァァァァァァ!!!」

絶叫と共に、総司はスイッチをONにしたカプセルを天高く放り投げた。
カプセルが、閃光を放つ。
すると眼前には、まるでホログラムが実体化するかのように、見慣れたメタリックボディが瞬く間に現れるのであった。

「すげぇーーーー!!どういう仕組みだよコレェー!ご丁寧に、コックピット椅子も外に!!なんというご都合主義!」

目を輝かせ、子どものようにはしゃぐ総司。
ロボットアニメに詳しくない総司がこうなるのだ、士郎がこの場にいたら、嬉しさのあまり泣き崩れていたことだろう。

「先に行くぜ。急がねーと、俺には制限時間があんだ!」

「何が何やらだけど、わかった!百合ちゃんたちの安全確認したら、すぐに後を追うよ!」

「はっ!やっぱ男前だな、総司!じゃあな!あっ、とそれと…今戦ってるアイツらには、俺のことは内緒な?…じゃな!」

ジャックは親指と人差し指、小指を立てる独特なポーズを決め、颯爽と零に乗り込んだ。
すると再び、瞬時にテレポートが行われる。
あっという間に、慌ただしく煙の上がる渋谷のど真ん中へと舞い戻った。

「っし!用事を済ませてきてやったぜ!オラオラオラァァ!!俺の零・七型の餌食になりてぇヤツからかかってきなァ!」


かと思えば、宙に現れたその瞬間から、右腕部にビーム状のブレードを展開し、モグモグ兵器を片っ端から薙ぎ倒していくのであった。

「あ、あの機体…スゴすぎる…。」

「あ、あいつが何でここに…?!まぁいいや。いけすかないけど…今はありがたいわ、ねっ!」


呆気に取られるジャネットだが、次々と襲いくる兵器の一つを、右手で払い除けながら、ジッと鋭く視線を送るのだった。

「百合ちゃん、聞こえるか!百合ちゃん!」

「そ、総司さん!え?!アルティランダーに乗ってるの?!どうして?!」

アルティランダーに備え付けられた通信機から、百合子のスマホにボイスチャットが送られる。
それを見た百合子は、咄嗟に緊急通話ボタンを押すのだった。

「わりぃ、詳しい話はまた後で!…無事かい?!今どこだ?!」

「うん、桃ちゃんと2人で、恵比寿方面に避難してるとこなの…。ねぇ、それよりもレナちゃんは?!レナちゃんは無事?!」

「…ああ、無事だ。今はまだ、ね!危ないところなんだ、すぐに避難させて、加勢するつもり!」

お互いの心境を確認するかのように、数秒だが、体感は数分とも思えるほどの静寂が、2人の間に流れた。
まるでデバイス越しでも、お互いの表情が伝わっているかのように。

「止めても…行くのよね。」

「ごめん。」

「ううん、いいの。気をつけて行ってらっしゃい。」

「百合ちゃんこそ。後で拾うから、一緒に帰ろう!」

「…うん!」

「じゃ、また後でな!」

総司のその言葉に続き、百合子はアルティランダーのエンジンが徐々にふかされていくその音を確かめると、そっと通話終了ボタンに指を置いた。


「ねぇ百合、なんとなく私わかっちゃったんだけど…東郷さんが、あの…。」

隣りである程度の話を聞いていた桃は、複雑な表情で俯く百合子の顔を覗き込む。が、

「ううん、言わないどく。スゴい人なんだね。」

それだけ言うとまた正面に向き直り、視線だけ送って微笑んだ。すると、それに気付いた百合子も、釣られて困ったように微笑むのだった。

「そうなの。昔から、一度考えたら突っ走って行っちゃうんだけど…。総司さんなら何とかなる、って思えるのよね。」

「ふぅ~ん…お幸せにねぇ?応援してるよ私はぁー。」

「え?…あっ。も、桃ちゃんったら、もう…!」




「J!スラァァァッッシュ!!」

渋谷駅前を、縦横無尽に飛び回るその機体は、圧倒的な力でドローンの群れを制圧していく。
一機のみで、ニュスペンソと呼ばれたモグモグ星人を恐怖と不安に陥れるほどだ。


「ぐ、ぐぬぅ!宇宙、保安官め゛!!」

「どしたどした、もう打ち止めかァ一級賞金首・ニュスペンソさんよ?大したことねぇなぁ、暴君って通り名がもったいないぜ?」

「え、あの感じで暴君?ダッサ。」

「がア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!うる゛ざいうる゛ざい!まだまだ、ごんなぼんじゃねェーどォォォォ!!」

思わず吹き出したジャネットのその一言に血を昇らせたのか、宇宙船のハッチから、さらに追加でドローン軍団がわらわらと現れる。

「ふん、そうこなくちゃあ、な!!行くぜ零!

シャイニングゥゥ…!プラズマァァァ!!」

ジャックのその雄叫びと共に、零の胸部から一筋の閃光が伸びる。
街への被害を抑えるためなのだろう、それは地上から空へと見舞われた。
再び黒く染まり始めた渋谷上空は、さらに再び青さを取り戻す。
かなりの数が、墜ちたはずだ。

しかし。

「まだ出てくるのか?!あのトンデモ機体がいるとは言え、保つか?!ドレッドよ…!保ってくれ!」

「むむむぅ…!もう少し、頑張って…バンキッシュ!!おりゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

敵の増援の勢いが衰えたとはいえ、まだまだドローンの攻撃の手は緩められていない。
そして、長時間戦っていた2機には、パイロットにも機体にも、限界が訪れようとしていた。

「ぶばばばば!!わがるど!おまいら、弱ってぎだどな?!ぞごで、おいの出番よぉぉ!
出でよ!ベルダッグ!」

まるで勝ち誇るかのように、ニュスペンソは高笑いを決める。そしてその合図に呼応して、宇宙船の下部、ドローンが発射されていたハッチよりもさらに大きな扉が開き…
そこから現れたのは、巨大なアームで吊り下げられた、これまた巨大な、ずんぐりとした体型にマニュピレーター、ゼンマイ式のおもちゃのような脚部に、頭部はライト3つで顔を模しているような、シンプルな作りのロボット兵器が、悠然と姿を現したのだ。
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