疾風迅雷アルティランダー

エルマー・ボストン

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第四話 あなたの思い出

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「おいおい待ってくれよキミ!挨拶も無しで帰っちまうのか?顔くらい出してくれよ!」

激戦の後の渋谷。
機体から降りることなくアルティランダーに背を向け、何処かへ去ろうとするバンキッシュへ、総司は投げかけた。

ニュスペンソとベルダッグは、突如現れたスタークラウン社の専門部隊と思しき面々が回収を試みたが、搭乗者も機体も、何らかの技術でいつの間にかホログラムとすり替えられ、誰にも気づかれないうちにその場から消えてしまった。レーダー類でも探知不可能、という徹底ぶりである。

そこで陣頭指揮を取っていた南は頭を悩ませ、咄嗟にもう1人の宇宙人に接触しようとしていた矢先であった。


「ここで顔出したら、あの赤いやつに何されるかわかんないもん。急いで帰るの!
アンタ、アタシを助けたつもりかもしれないけどね!?お礼なんか言うつもりないから!
アンタも必要ないわよ。」


バンキッシュ、そしてジャネットは振り返らない。宙へと視線を送り、トゲのある…それでいてどこか嬉しそうな口ぶりで、総司へと応えた。


「?よくわかんないけど、助けてくれてありがとう!おかげで…知り合いが無事で済んだ!」


「…ふ、ふん!べ、別にアンタたちを助けてあげたワケじゃないんだから!な、縄張りを荒らされたくなかっただけだし!じゃあね!」


あからさまな照れ隠しを残し、バンキッシュは瞬時に消える。次元の狭間へと。


「うわぁ…今どきそんなツンデレいる…?」






「ケミガワさぁーん!いるんだろ!返事してくれ!おぉーい!」

アルティランダーから降り、ジャックに渡されたカプセルにしまっていた松葉杖を駆使し、煙に包まれた渋谷の街を歩き回る総司。
捜索は、困難を極める…こともなく、思いの外すぐに目的の少女は発見できた。


「えーんえーん、こわいよぉー。えーんえーん、へるぷぷりーず。」


その少女は、駅からほど近い、少し奥まった路地でうずくまり、手で顔を覆って、泣いて…いた。

「ケミガワさん!よかった、帰らないと思ったんだ!…悪いけどその棒読みにはツッコまないぞ!!」

総司は苦笑いを堪えつつ、ゆっくりと松葉杖を動かして近づく。そして、そっと手を差し伸べて見せた。

「…えー、わたしいみわかんない。こわくてこえがふるえてるだけだもーん。」


総司のその反応を受け、レナは若干フリーズした後、顔を上げずに真顔及び素の声で応えた。

「わかったわかった、とにかく早く帰ろう。みんな心配してるよ。…立てるかい?」


「た、立てるし!ちょ、変なとこ触んないでよ!」


「えっマジ?!ご、ごめん…!!」


そんなやりとりの後、総司とレナは、百合子たちの待つ恵比寿方面へと、ゆっくりと歩を進めた。
ちなみに彼をフォローすると、レナを気遣い、肩にそっと手を触れたのであった。


「総司さん!!レナちゃん!!よかった…!2人とも無事で、本当によかった…!」


「わっ!ちょ、ちょっとゆ、百合!桃も、苦しいってェ!」


2人の姿を見つけるや否や、ボロボロに涙を溢れさせ、眼を真っ赤にした百合子と桃が走り寄り、レナを抱きしめた。
そんな少女たちを見守る総司は、ふぅ、と息をつき、困ったように優しく微笑むのだった。


「よかったぁ…生きてて、よかったよぉ…!
これ、買っておいたから…!飲んでね…!」


百合子と桃はレナにタピオカミルクティーを与えると、レナは眼を輝かせ、幸せそうに、味わうように飲み始める。


「総司さん、ありがとう。本当に…本当に!
それと、総司さん…怪我、してない?
無事で良かった…良かったよォォ…!」


百合子は、レナを桃に任せると、総司に駆け寄ると、顔を見るなり、改めて泣き出した。


「おいおい、泣くなよ百合ちゃん。俺はこの通り、ピンピンしてるぜ!それと、お礼ならジャックさんと…ケミガワさんに言わないとな!」



「…え?」

「ああーーー何でもない、何でも!それより、早く帰ろう!きっとみんな、心配してるぞ。」


自らの失言に冷や汗をダラダラ流し、総司は必死に話題を変えた。


「…うん、そうね。おじいちゃんも鉄矢も、お腹空かせてるだろうし…早く夕ご飯の支度しないと。
あ、そうそう。おじいちゃんが迎えに来てくれるって!
桃ちゃんもレナちゃんも、一緒に帰ろうよ!」

スマホを確認した百合子の顔が、パッと華やぐ。


「ありがと。でも、私もパパが迎えに来てくれるって!」


目にほんのりと涙を浮かべながら、桃は微笑む。

だがしかし、対照的にどんよりとしている者が、ここに1人。


「アタシは…どうしよっかな。
あっ、でも…うん。
家族が来てくれるみたいだから、だいじょぶ。かなり時間かかるから…先に帰って!
アタシは1人でも…へいき。」


含みを帯びたレナの言葉に、一瞬の静寂が訪れる。その様子を、総司は後頭部をポリポリと掻き、バツが悪そうに眺めていた。

兄妹2人。
兄に迎えに来てもらおうにも、今はいろいろと都合が悪い。仮に自分の正体がバレようものなら、百合子たちにどんな印象を持たれるか、どんな扱いを受けるのか…。
そんな恐怖を覚えている。
少女は、かつて経験したことのない感情の波の押し寄せ方に胸を詰まらせ、つい百合子たちから目を背け、力無く自分の片肘を掴んでいた。


静寂を破ったのは、百合子であった。
百合子には、レナの戸惑う様子がまた違って見えたのだろう。
百合子は、涙腺が緩くなっていたためか、また震える声を絞り出すように、徐々に言葉を出し始めた。



「…そんなのダメだよ!
レナちゃん、危ない目にあったんだから、1人になんて…できないよ…!」



百合子は思わずレナに歩み寄り、両手で強く、レナの手を取る。



「そうだ!お迎えが来るまで、うちにおいでよ…!ここからそんなに…遠くないもん!
私、レナちゃんの分もご飯作るから…!
…何なら、泊まっていけばいいよ!ね?!」



消えて無くなってしまいそうなほどの温もりが、握られた手から震えと共に伝ってくる。
わからない。こんな時、自分は一体、どう答えればよいのかを。


「え、えぇっ、とぉ…。」


顔に似合わず意外と頑固な地球人に押され、意志が折れそうになるレナ。

だが、迎えなど来ない。
『バレるんじゃないか。胸元のバンキッシュはどうするんだ。うん、絶対バレる。
そもそも、他人の家にお呼ばれなどしたことなどない。』

そんな考えが、頭を掠める。

困惑に次ぐ困惑に終止符を打ったのは、またもや百合子の方であった。
その困り顔を見た百合子は我にかえり、強く握られたその手を、ハッと離した。



「…あ、ごめん…レナちゃんの都合も考えずに…。困らせちゃって…ごめん、ホントにごめんね…。私、私…。」



百合子は、泣きべそをかき始め、嗚咽までもを漏らし始めた。
誰が悪いでもなく、ただ百合子が感情を暴走させ、招いた事態。その事実に狼狽えて、そして人目も憚らず、顔も隠さず、その場で声にならない声を上げ、崩れた。


感情は、伝染する。
桃は蹲る百合子を気遣い、肩を抱く。ぐしゃぐしゃになった顔で。

総司も膝をつき、そっと肩に手を置いて、静かに語りかける。その優しさを、讃えるように。


そしてそれは、惑星間を遥かに飛び越えて、少女をも動かすこととなった。


「…いいんだよ…いいんだよ百合…
アタシ…すごく、嬉しい…!心配してくれて…嬉しいよ!!

ありがとぉぉぉ……!!」


レナは、気付けば百合子を強く抱きしめていた。
そしてそのまま、多くの気持ちを頬に伝わせ、まるで三姉妹のような揃いの表情で、味わったことのない、不思議な時を過ごす。


こんなに思い切り泣いたのは、いつぶりだろう。
目的もおぼつかないまま訪れた不慣れな惑星で、何故自分は、こんなに温かな気持ちに包まれているのだろう。
その理由は、今の自分には分からない。
だが、もしも許されるなら…その理由を、分かるようになりたい。

レナの唇は自然に動き、自然に言葉を発する。


「百合ィィ………

ご飯…食べに行っでも…いい゛がなぁ…。

アダシ…百合の作ったご飯…食べたい゛…!」












「見つけましたよ、ニュスペンソ。…わかりますね?逮捕です。」

ここは渋谷であって、渋谷でない場所。
何者かが作り出した、異空間の渋谷である。
ガッツたちが潜んでいる、無機質な異次元とはまた違う、街をそっくりそのままコピーしたかのような世界に、彼らはいた。
その暗い路地裏で、息も絶え絶えにうずくまるニュスペンソに、ジャックが小型の銃と、笑顔を向ける。

「ぐ、ぐぞ!なでおえ゛のばじょ…でが、こごがわがっだ?!」

「ははは、保安官の本気、ってやつですよ。
ベルダッグとやら、回収したのは失敗でしたね。追跡は楽チンでした。

…さて。
幽幻生命体が現れてから、あなた方がこの星に来るまで、いくらなんでも早すぎる。

…吐いてください。誰から情報を買ったんです?」


先ほどまでの笑顔と打って変わって、神妙な面持ちと口ぶりで、ニュスペンソに詰め寄る。
ジャックの、引き鉄に添えられたその指に、強い意志が込められているかのようであった。


「ぬ、ぬぬ゛。それば言えね゛ぇど。それにオい゛は、まだづかまんねぇ゛!!

…あ゛ばよ゛。」


そんな言葉を発したかと思うと、ジャックの糸目で瞬きをする間に、ニュスペンソの姿は忽然と消えた。何のエネルギー反応もなく、ゲートの類も現れず、文字通り「消えた」のである。


「何?!…この異空間から、さらに異次元転送だって…!
これは、かなり値の張るシステム…それに、モグモグ星には無い技術…。

想定内ではありますが…どうやらかなり厄介なのが後ろにいるようですね。」


ジャックは、異空の仄暗い天を見上げ、銃を下ろす。そして大きな溜め息をつくと、ゲートを開き、元の時空へと戻って行く。

その背中は、これから地球に降りかかるであろう、大きな災いに対する、不安。
そして、並々ならぬ覚悟が乗せられているかのでようであった。
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