世界を救おうとしたら勇者パーティから追放された挙句に殺されたので、この世の全てに復讐する事にした

ソリダス

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第1話 憎悪に染まる瞳

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 ある日、突如現れた『魔王』と名乗る存在に、世界の半分が支配された。
 残されたもう半分の世界の人類は、魔王に対抗するため、元の世界を取り戻すために、人類最強と呼ばれる『剣士』『魔法使い』『武闘家』『神官』の4人を招集した。
 その中で最も優れていた『剣士』に、人類は新しく『勇者』の称号を授けた。
 彼は剣術はもちろん、魔法、身体能力……どれを取っても文句無しの実力を持ち、この世界で彼の右に出る者はいないと言われるほどの驚異的な実力を持っていた。
 他の者達もそれぞれ魔法、近接戦闘、支援魔法で極めて優れた能力を持っている。
 
 彼らであれば魔王を倒す事は容易いと、誰しもが思っていた。
 
 ……しかし真なる敵というものほど、予想もしない場所から不意に牙を突き立ててくるのだという事は、誰一人として考えてすらいなかっただろう。
 
 
 ◆◆◆◆
 
 
 「――お前のせいで俺の完璧な作戦が全て台無しだ!いつもいつも俺の足を引っ張りやがって!」
 
 暗く深い森の中、男の怒号が響き渡る。
 
 金髪碧眼の勇者は、憎悪に満ちた血走った目を見開き、目の前にいる神官の男の黒髪を鷲掴みにして罵詈雑言を次々と浴びせ続けた。
 しかしその神官は何も言い返さず、虚ろな瞳を宙に彷徨わせる。
 
 既にこの光景は、彼らにとっての日常となっていた。
 
 神官は、勇者の四人パーティの一員で主に前線で戦闘を繰り広げる前衛の支援を行う。
 自らの心の内に定めた唯一神に絶対の信仰を掲げる神官、彼もこの世界の中ではトップクラスの力を持つ。
 そして彼のその力を見込まれ、強制的に勇者のパーティへと参加を決められたのだ。
 
 だが、このパーティの中で神官は弱者の側であった。
 周りの仲間達と、神官の実力の次元が違いすぎたのだ。
 勇者を初めとした同じパーティで残りの他二人、彼女たちはそれぞれ『魔法使い』と『武闘家』の役職に就いていた。
 勇者を含め彼らは、その役職上直接戦闘する機会が非常に多い。それは即ち極限の状態、状況を何度もくぐり抜けてきた、という事を表す。そうして鍛え上げられた精神、肉体は数多の戦闘の中で人外の領域に達していた。
 
 神官は人のまま頂点に立った。
 しかし他の三人は、人でありながら人である事を捨て、更なる領域の中で頂点に立った。
 その差は明らかである。
 そのためだろう、神官に対する彼らの態度は酷く差別的なものであった。それは事ある毎に繰り返される。
 
 今回の件も同様である。
 何か適当な理由を付けられ、その度に口汚く罵られる。
 そんな日々が続いたからか、「彼等に何を言っても変わらない」という諦観が、彼の心の内を支配してしまっていた。
 
 その様子を見た勇者が不快そうに表情を大きく歪めながら、掴んでいた髪の毛ごと神官を乱暴に振り回し放り投げた。
 数メートルほど投げ飛ばされた神官は、ボロボロになり鈍くなった動きで何とか立ち上がろうとする。
 しかし、そんな神官の腹部を勇者は強烈な力で蹴り上げた。神官は先ほどよりも勢いよく吹き飛ばされる。
 普段から肉体を鍛え上げている勇者の本気の蹴りは、一般人であれば内蔵を完全に破壊し、即死に至る程の威力があった。
 しかし、魔王討伐を目指す勇者のパーティーに、辛うじてながらでも席を置いているこの神官の肉体は、一般人を遥かに凌駕するレベルには達している。
 そんな彼でさえ、この一撃で受けたダメージは計り知れなかった。
 
 口や鼻からはとめどなく血が流れ、蹴られた腹部を手で押さえて、その顔を苦痛に歪める。
 そうしてうずくまり苦しむ神官を、まるでゴミでも見るかのような目で見下す勇者。
 
 「そうだ……お前が死ねば良いんだ。何故もっと早く気付かなかったんだ……」
 
 そうポツリと呟くと、開いた手のひらを未だ倒れ込む神官に向けた。すると、その手のひらの前に赤く輝く魔法陣が展開された。
 それを神官は、もはや焦点すら定まらなくなった虚ろな目で見つめる。

 「『ファイアーボール』」

 無機質な声と同時に、勇者が魔法で作りだした直径50センチほどの火の球が、神官に直撃した。

 「―――――ッ!!」

 正気を保っていられないほどの熱さと苦痛を受けて、目と口を限界まで大きく見開き、絶叫を上げようとする。
 
 ――声が出ない。
 
 どれだけ喉を開いても、どれだけ声帯を振るわせようとしても、呻き声どころか呼吸すら出来ない。
 恐らくは炎や煙を直接吸い込んでしまったために、呼吸器系が完全にやられたのだろう。
 或いは、さっきの蹴りで肺をやられたのか。
 どちらにしろ自分はここで絶命するのだろうと、神官は瞬時に察した。
 
 ……しかし、突然襲い来る自分の死をそう簡単に受け入れる事が出来る者など、恐らくはこの世に存在しない。それはこの神官も同じだった。
 神官は様々な感情が入り乱れ、勝手に溢れる大粒の涙を流しながら、必死に治癒魔法を自分にかけ続ける。
 しかし、治癒魔法をかければかけるほど苦しむ時間は延びていく。だが、死なないためにはこれ以外の方法は無い。
 
 「お、まだ抵抗できる元気が残ってたか。それじゃあ俺とお前、どっちが勝つかやってみようか。『ファイヤーボール』『ファイアーボール』」
 
 弾んだ声色で勇者がそう言った。
 勇者から放たれるいくつもの火球が直撃する度、身体の表面を炎が焼き焦がし、皮膚や筋肉は溶けていく。
 想像を絶するその苦しみに耐えられず、無駄だと分かっていながらも、じたばたと全身を動かして必死に地面の上をもがく。
  
 「まだ全然元気だなぁ……うわっ、ひどい顔になってるぞお前。っていうか、もう既に全体的に原型留めてないな」
 
 もはや手段は選んではいられない。
 そう考えた神官は苦痛に耐え、這いつくばりながら必死に勇者に手を伸ばした。
 
 「ん?なんだ?命乞いか?……ふっ、あはははは!悪いな、俺は死にかけの奴の戯言には耳を貸さない事にしてるんだ。お前も知ってるだろ?魔物だろうが人間だろうが、それは変わらない」
 
 実に楽しそうに、勇者はそう語った。
 
 次第に身体が動かなくなり、何かを考える事すら出来なくなった神官は、ゆっくりと身体が焼けていく苦痛を受け入れる事しか出来ない。
 その時間はたった一秒が一時間にも、一日にも、永遠にも感じられた。
 最期に脳裏をよぎって行くのは家族の顔、これまでの記憶、彼ら勇者達への激しい憎悪の感情、そして神官として信仰してきた神への強烈な負の感情であった。
 
 神にはこれまで全てを捧げてきた。
 幾度も祈りを捧げてきた。
 だが勿論、この信仰心は何か見返りを求める類のものではなかった。
 しかしながら、これほどまでに尽くしても得られぬ救いとは、果たして本当に救いなどと呼べるのか。
 無論、神官とて全ての者が救われる訳では無いとは充分に分かっている。しかし、これほどまでに救いはないものなのか。自分は、これほどまでに苦しんで死ななければならない人間だったのか。
 考えれば考えるほど、神官の視界に入る世界は歪んでいく。
 神官の内なる負の感情の対象は勇者達、信仰する神、そして世界の全てに向けられ、やがて彼の全てが憎悪に染まった。
 その瞬間、神官の焼き爛れた瞳に映る景色が色を失い、世界は完全にその動きを止める。
 
 神官は熱で既に白濁した眼球を、ゆっくりと瞼の奥へとしまい込んだ。今後、二度とこの憎しみに染まりきった目が開く事が無いようにと、自分自身に向かって祈りながら。
 
 ――しかし最期のこの祈りすら、誰にも届く事は無かった。
 
 「神に見捨てられし哀れな奴隷よ。我々と契約しろ。さすれば貴様のその怒りや悲しみ、苦しみ、そして憎しみの渦から解放してやろう」
 
 聞いた事も無い声が、脳内に直接何重にも重なって響いてくる。
 その声を受けて、彼は閉ざした目をゆっくりと開き始めた。
 
 まるで彼の心を投影したかのような、何者も飲み込む深い闇を連想させる黒い瞳が、歪に輝く鈍い光を含みながら、瞼の奥から姿を見せた。
 
 
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