チートがなくても最強です!?〜最弱勇者はハードモードの異世界を策略と悪知恵で必死こいて生きていく〜

ソリダス

文字の大きさ
52 / 81
第五章 アストラ編

第四十八話 勇者なのにスライムにすら勝てない件

しおりを挟む
 「というわけで、太郎が具体的にどのくらい弱いのかヴェルデも分かったと思う。こんな感じで、戦力には全く数えられない」


 デイモスが放った火の玉ストレートが、俺のガラスの心を粉砕していく。


 「よし、じゃあ新しく作った魔法の実験ついでに、私の実力を改めて見せるね!」


 嬉しそうにそう話すヴェルデ。

 それはちょっと気になるな……と、砕け散ったガラスのハートなど一瞬で忘れた俺は、ヴェルデの戦いをワクワクしながら待つ。


 以前、ヴェルデが見せた魔法は『水とパンを合体させ栗まんじゅうに変化させる』ものと『物理攻撃の当たり判定がアベコベになる』という、口に出してみても本当に意味不明な魔法だった。

 しかし今、ここには水もパンもない。

 であれば一体どんな魔法を使ってモンスターを倒すのか。もしかしたら普通に強い魔法も使えるんじゃないか!?と期待がいっそう膨らむ。


 そんな事を考えていると、とうとうヴェルデは右手をスライムの方向に突き出し、手のひらを向けた。

 そして、何を言っているのかまではわからなかったが、ヴェルデはブツブツと呪文を唱えはじめ、赤色の魔法陣がスライムを中心に展開された。


 ……けど、気になる事がひとつある。

 それは、魔法陣が俺達の足元のすぐそばまで展開されている事だ。


 「おい、やばいってこれは!!範囲デカすぎだろ!すぐここまで魔法陣広がってんじゃん!あのちっこいスライム狙うのにどんだけデカいの魔法陣作ってんの!?いや凄いけど!凄いかっこいいし、凄い興奮するけれども!流石に危なくないか?!」


 不安と期待がごちゃ混ぜになったカオスな感情丸出しの悲痛な声で叫ぶ俺に、ヴェルデは空いている左手の親指をグッを立てる。


 「大丈夫!この魔法は魔法陣の範囲から外には一切出ないようになってるの!魔法陣の中に入らなければ絶対安全だよ!」


 ヴェルデがやけに自信満々に言うので、俺も「そこまでいうなら……」と若干の不安はあるが、ここは信じて魔法の発動をワクワクして待つことにした。


 ヴェルデは真剣な表情でスライムを見つめながらすうと息を吸い込み、そして一気に解き放った。


 「――『チャッカス』ッッッ!!」


 そう言った瞬間、どこかから「ボッ」とガスコンロに点火した時のような、そんな音が鳴った。


 ……それ以外に変化は特にない。


 目の前のスライムは今も何事も無かったかのように、感情を感じさせない無表情でこちらを見つめている。


 何が起こったか全く分からない俺とデイモスは、互いに顔を見合わせ不思議そうに首を傾げる。


 「……あ、あのー……ヴェルデさん?」


 俺は恐る恐るヴェルデの様子を伺うと、小さくガッツポーズをしているのが見えた。

 余計に混乱する俺たち。それに畳み掛けるようにヴェルデが、


 「よし成功!」


 こちらを振り返って、嬉しそうに笑いながらそういった。


 「これ成功したのか?失敗じゃなくて?」


 俺が考えてたことと全く同じことを、デイモスがポカンとした表情で訊いてくれた。……自分じゃ分からないけど、多分今の俺もあんな感じで間抜けヅラになってると思う。

 すると、ヴェルデはスライムから若干離れた地面を指差した。


 よーく目を凝らして見てみると、雑草に混ざって百円ライター程度のちっちゃい火がゆらゆらと揺れていた。


 しばしの沈黙の後、俺はスライムを指差しながら徐に口を開く。


 「モンスターはあっちなんだが」


 これに対するヴェルデの答えは、


 「私のオリジナル魔法『チャッカス』は、魔法陣の範囲内にランダムで炎が出現して相手を焼き尽くすって効果なの」


 「…………要するに、攻撃が当たるかどうかは運次第ってこと?」


 俺がそう言うと、ヴェルデはにっこり笑って無言で頷いた。

 なにわろてんねん、気でも狂っとんか?という辛辣な言葉が喉まで出かかったが、ギリギリで堪えて別の問いを投げかける。


 「せめてあの火の威力を上げたりできない?あれじゃあ100円ライターとかチャッカマンと火力的に変わらないんだけども」


 これにもヴェルデは表情を変えずに、無言で首を横に振った。


 ……………………。


 何故か俺はこのタイミングで、前に聞いたある話を思い出していた。


 『戦闘において数々の未知な魔法を使って敵と味方を混乱に陥れた、戦闘において手段は一切選ばない残虐非道なサイコパス魔法使い』。……人々からそう噂され、『最狂の魔法使い』と呼ばれた彼女、それがヴェルデだった。


 最初はそれを聞いてクソほどビビってたが、今はほとんど何も感じない。それは恐らくその噂が、ある意味正解であり、ある意味間違っているという事実を知ったからだろう。


 ヴェルデは自分で作ったオリジナルの魔法を使って戦う。これを傍から見れば確かに未知の魔法と感じるのだろう。


 そして、その魔法を使って敵味方を混乱に陥れた、という。

 ……そりゃあ、敵の事を無限に分裂を繰り返す栗まんじゅうにしたり、百円ライター程度の火力しか持たない炎をランダムでどこかに発生させるという使いどころが皆目見当つかない魔法を使うんだもん。敵も味方も混乱するに決まってるわな。


 それに今までずっと気にしないようにしていたんだが、何故かさっきもぎ取ったバッタ型モンスターの腕を紐で結んで肩にかけているのだ。

 パッと見、どえらい奇抜なワンショルダーバッグに見えないこともないが、そんなのを平然と身に着けている辺り、控えめに言っても頭がおかしいと思う。

 サイコパスという括りに、この奇行が含まれているのかは知らないが、以前にもこれと似た何かをやらかしたのだろう。結果、噂がひとり歩きし始め、事実が歪曲して伝わっていったのだろうとは察しがついた。


 まぁ、そんなこんなでほぼ戦力外が2名いるこのパーティー。

 正直、スライムごときにこのザマではマジでやばいんじゃないかと思ったその時、デイモスが目で追いきれないほどのスピードでスライムに急接近し、拳による攻撃を一撃叩き込んだ。

 すると、今まで何をしても平気なツラしてポヨポヨしてたあのスライムが、たった一撃食らっただけで呆気なく爆発四散した。


 突然のことにあ然とする俺とヴェルデに対し、デイモスはこちらにゆっくりと振り向いて抑揚のない声で


 「……スライムも倒せねぇのは冗談抜きで本当にマズいぞ」


 と言い放った。


 ………………うん、知ってる。


 俺は静かにその言葉を噛み締めて、ゆっくりと頷いた。


 

 ◆◆◆◆


 

 「マジでデイモスがいなかったら多分ここまで来る途中で死んでたな。しかも、下手したらスライムに殺されてた」


 「だろうな」


 「まだあの魔法は改良する必要が……ブツブツ……」


 そんな話をしながら一本道をテクテクと歩く。スライムとの死闘を何とかくぐり抜けた俺達は、目的地の町へと向かっているところだ。


 それにしても、と背中に背負った巨大なスプレー缶をチラリと見ながら言葉を続ける。


 「この殺虫スプレー、結局あれから全然使ってねぇや。捨てるにはもったいないし、かといってこんなのを使う状況なんてそうそう無いし。どうすっかなぁ……もうすぐ町が見えてくるってのに……ん?」


 「なんだ、またモンスターでも襲ってきたか?」


 デイモスが笑いながらそういった。


 「違うって。ほら、あれ見てみろよ。あの町、ちょっとおかしくないか?」


 そう言って俺が指差した先には、もうもうと複数の黒煙が立ち上る町があった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます―― 金さえあれば人生はどうにでもなる―― そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。 交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。 しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。 だがその力は、本来存在してはいけないものだった。 知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。 その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在―― 「世界を束ねる管理者」 神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。 巻き込まれたくない。 戦いたくもない。 知里が望むのはただ一つ。 金を稼いで楽して生きること。 しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。 守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。 金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる 巻き込まれ系異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...