76 / 81
第七章 サダルア編
第七十二話 魔王と二つの大罪
しおりを挟む太郎達がアッタマルドを倒してからしばらくして――。
魔王城の玉座の間には、様々な感情が綯い交ぜになった空気が張り詰めていた。
玉座に前のめりに腰掛ける魔王は、部下のリッチーから魔王軍最高幹部の一人であるアッタマルドが倒されたことの報告を受けていたところだった。
魔王は目を見開き、信じられないといった表情で首を横に振る。
「まさか、あのアッタマルドが倒されるとは。彼ほどの実力者なら、いくら相手があの勇者達でも何の問題もなく倒せるだろうと踏んでいたが……。ビフロンスよ、一体何があったのだ?」
魔王からの問いかけに、リッチーのビフロンスは静かに答える。
「……どうやら、大賢者のダリルが勇者の仲間となり共闘したようです」
「どぅええええええええ!!!!!??」
その名前を聞いた魔王は、玉座からひっくり返るくらいのリアクション芸人も真っ青な驚きっぷりを見せた。
「そいつ我でも知ってるぞ!『とびきりイカれた賢者がいる』って一時期話題になってたよな!なんかヤバそうな二つ名が色々ついてたから印象に残ってたんだ!たしか……実力は賢者の中で1、2を争うくらいだが、やべー魔法を平気で使うわ、酒や賭博なんかにものめり込んで、結局賢者界隈から追放されたはず……」
魔王は顎に手を置き、何かを考えているようだった。
「確かに、アイツならアッタマルドともいい勝負ができるかもしれないが……酒を飲まなきゃ全力を出せないんじゃなかったか?」
「魔王様……なんだかその賢者について、異様に詳しくないですか?」
「ん?あぁ、実は魔王軍に入れたいなとちょっと考えたことがあってな、その時に色々調べたのだ」
あっけらかんと話す魔王。
それを聞いたビフロンスは、んなヤベー奴がもしかしたら同僚になってたかもしれないのかよと、ビフロンスは骨に張り付いているだけの皮膚に、立つはずのない鳥肌が立つのを感じた。
しかしリッチー、伊達に不死の王と呼ばれているわけではないようで、その感情を表情にはおくびにも出さない。
……まあ、ほぼ骸骨なのでその表情が変わることはないのだが。
魔王もドン引きしているビフロンスには気づいていないらしく、話を続ける。
「ともあれ、それは過去の話。今は敵だ。……ダリルと勇者達にアッタマルドほどの者が倒された以上、あとは我が出るしかあるまい」
そういって魔王は、玉座からゆっくりと立ち上がる。
瞬間、全身からは凄まじいオーラが放たれ、並の者では近くにいるだけで気を失いかねない。
それだけではなく、空からは激しい雷鳴が鳴り響き、大地は地鳴りと共に細かく震えている。
体内のエネルギーを少し放出しただけで、天変地異を引き起こす。
これが、魔王と呼ばれ恐れられている者の力の一端である。
「『貧困』のアンパン魔人、『遺伝子改造』のイナゴライダー175号、そして『薬物中毒』のアッタマルド……他にもたくさんの仲間が倒された。……後はこの我が仇を――」
魔王がそこまで言ったところで、ビフロンスから待ったがかかる。
「――なにを言ってんですか!!あなたは魔王なんですよ!?この魔王軍における、いわば最後の砦なんです!!どんな事があっても最後まで出てきてはいけませんッ!」
ビフロンスのあまりの剣幕に、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして困惑する魔王。
「え、えぇ……?」
そんな困惑する魔王を見て、ビフロンスはハッとした表情で「声を荒げてしまい申し訳ありません」と謝罪し、その後は落ち着いた口調で話し始めた。
「魔王様という存在がいなければ、我々はやがて烏合の衆と成り果てます。統率を失った組織などで立ち向かえるほど、相手は甘くありません。それに、魔王様さえ最後まで生きていれば、後はなんとかなるんですから」
ビフロンスは続ける。
「……ですから、今の魔王様ができることはひとつ。――部下を信じて、その椅子にどっかり座っていればいいんです」
その言葉を受けた魔王は目線を落としたが、すぐにフッと笑いまっすぐに前を見つめる。
「あぁ、分かった」
「とはいえ、魔王様の仰ることも分かります。これ以上の敗北は許容できません。……そんなわけで、今回は七つの大罪のうち、『社会不公正』と『環境汚染』二つの大罪の最高幹部をぶつけていきたいと思っております」
「それならば『環境汚染』だけでいいのではないか?他の大罪と違い、彼らは4人で行動している。数的な不利もない上、彼らほどの実力者達であれば、問題なく勇者たちとも渡り合えるだろう」
魔王からの問いにビフロンスは一瞬何かを考えるように俯き、ゆっくりと答える。
「……『社会不公正』はいわばジョーカーです。基本的には『環境汚染』達で任務にあたりますが、万が一、劣勢となった時には彼が全てをひっくり返してくれるはずです」
「なるほど……それでは今回、その二つの大罪を送り込むとしよう。彼らなら必ず成し遂げてくれると信じているぞ」
「そのお言葉を伝えたらきっと彼らも奮起することでしょう。……では失礼致します」
片膝をつき深々と最敬礼をしたビフロンス。足元から徐々に黒い霧となり、空中へ霧散し消えていった。
その様子を静かに見つめていた魔王。
ビフロンスが消えた場所をしばらくの間ガン見していたが、痺れを切らしたのかおずおずと話しかける。
「え、あの……何してるんだ?」
魔王の困惑した声が玉座の間にやけに響く。
すると、先程消えた何もないところからビフロンスの声が聞こえてくる。
「なんか、こんな感じでスーッと消えたら格好良くないですか?いかにも有能な部下っぽくて」
「……まあ、気持ちは分かる」
そう言うと、満足したのか透明化したビフロンスは、足音を立てながら普通に扉を開けて出ていった。
玉座の間に一人取り残された魔王は、困惑する表情のまま入口の扉を見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます――
金さえあれば人生はどうにでもなる――
そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。
交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。
しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。
だがその力は、本来存在してはいけないものだった。
知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。
その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在――
「世界を束ねる管理者」
神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。
巻き込まれたくない。
戦いたくもない。
知里が望むのはただ一つ。
金を稼いで楽して生きること。
しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。
守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。
金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる
巻き込まれ系異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?
あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます!
世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。
「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。
・神話級ドラゴン
⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺)
・深淵の邪神
⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決)
・次元の裂け目
⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い)
「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」
本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……?
「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー!
【免責事項】
この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる