確かに愛はあったはずなのに

篠月珪霞

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執務ができる程度には回復したので、溜まっていた書類を片付けている中、部屋の外がにわかに騒がしくなる。
制止する侍従と侍女の声。
ふうん、来たのね。

「彼女に何を言った?!」

ノックもなしに開け放たれたドアの向こう、見るまでもない。

「──これを管理課に。これは、陛下の秘書官に回しておいて。この書類は、」

誰が来たかなど確認もせず、仕事を捌いていく。そんな私の態度が気に障ったのか、つかつかと大股で歩み寄ってきた招かれざる来訪者は、一枚板の高級机に憤りをぶつけた。
バンッ!という荒々しい音に、近くにいたものたちが、びくっと身体を震わせる。

「昨日、ここに来たことは分かっている! 何を言った?!」

ああうるさい。折角治まっていたのに、また頭痛がひどくなったわ。

殿。今、執務中なのが見てお分かりになりませんか?」
「私が来たのに、何だその態度は?!」

むしろ、今まで最優先にしていたのに、気付かなかったあなたがそれを言うの?

「私が何をしても、懐妊したときでさえ、祝いの言葉すら届けることもなかったというのに。のためなら、時間はいくらでもおありになるようですね」

私の痛烈な皮肉に、目の前の殿下が気色ばむ。
おおよそ想像はつく。
昨日の件で、彼女が気落ちしているか、何か不自然なところでもあったのだろう。
別に何もおかしなことは言っていないけれど。ただ、彼女の隠し事を暴いた上で釘を刺しただけで。
それを問いただしたところで、答えなど得られるわけがない。
彼女とて、隠したいことなのだから。

「お話があるのでしたら、事前に申請してください。私も暇ではないのです」

書類の文字を追いながらの台詞だ。通常なら不敬に当たるだろうが、礼儀もなく突然押しかけ、怒鳴りつけてきたのは殿下の方だ。
こちらが礼節をもって接する義理はない。

「──殿下を執務室までお連れして。どうやら王族としての礼節を忘れてきたようだから」
「不敬だぞ!」
「では、陛下にご判断いただきましょうか? 私は一向に構いませんが」

本当に、聡明で誠実な殿下はどこに行ってしまったのか。周囲も、まるで見えていないようでと嘲笑する。
この室内には、管理官、秘書官、侍従、侍女、他にもいるのにね。
先の私の言葉を否定もせずに、普段の理性もどこへやら、怒りを顕わに意味不明な言葉を並べ立てるだけ。
それが、何を意味するのかも、今の彼は分かっていない。

「どちらにせよ、会議は明日です。結果はおのずと出るでしょう」

恋がここまで人を愚かにするのか。
単に殿下が、恋に狂っただけなのか。

私の中にあったその感情は、もうどこを探しても見つからないから、分からないけれど。














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