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「妃殿下、面会申請が来ております」
「そう、どなた?」
「マリエル=アドリエ子爵令嬢です」
議会の翌日という速さに情報源が透けて見えて、笑える。
「あちらがよければ、本日午後と伝えてくれる?」
「かしこまりました」
向こうから断るという選択はなかっただろう、仕事もあっただろうに、アドリエ嬢は現れた。
「王太子妃殿下にご挨拶いたします。お早い面会許可、感謝に堪えません」
「どうぞこちらへお座りになって」
「はい、失礼いたします」
ソファに着席を許可すると、侍女にお茶を用意させてから人払いした。護衛も含めて扉の外で待機するようにと。
「改まって、お話とは何かしら?」
「……先日の議会で、側妃の話が出たことを伺いました」
「そう、それで?」
「妃殿下が、わたしを推薦されたと…」
「そうね」
面会申請の時点で、何を切り出されるかは予想がついていた。そして、誰からそれが漏れたのかも。
「あの、王太子殿下からお聞きになったかもしれませんが、」
「領地で結婚を約束してる人がいるとか?」
アドリエ嬢の言葉を次ぐと、思いつめた顔が顕わになる。
「は、はい! そうなんです、なので、候補を取り下げていただけないかと…」
「──私が、何故そんなことをしなければならないのかしら?」
「え…」
「子爵令嬢のあなたが、まだ王太子妃である私に、そういった願いを口にするのは、筋違い、いいえ不敬だとは思わないかしら?」
分を弁えていると思っていたが、私の思い違いだったようだと失望を覚える。
突然訪ねてくるような非礼を犯さなかったにしても、学生時代に多少話しただけで親しいわけではない私に、こんな不躾なお願いをしにくるとは。
「いえあの…」
「それに、推薦しただけで、あなたに決まったわけではなくてよ」
「それは、そうなのですが…」
どうしてこれほど歯切れが悪いのか、理由を実は知っている。
フィリクは、余程目の前の女性を信頼しているのだろう。彼女の言うことに、疑いすら持たず、信じているのだから。
私とて、自分が報われないからといって、同じ地獄に無関係の他人を落とそうなどとはさすがに思わない。
”領地に約束したひとがいるというのは、偽りですものね?”
だから、彼女に耳打ちした。
誰からも、おそらく姿を見せないだけで存在するだろう、影にさえ聞こえないように。
「……っ!!」
彼女の表情は私を確信させるには、十分だった。
私が殿下に想いを寄せていることも、殿下がアドリエ嬢を密かに想っていることも、彼女は気付いていた。
その上で、偽りを述べたのだろうことは理解できなくもない。
だが、発端が善意からだったとしても、私的なものだったとしても、王族を欺いたことに変わりないのだ。
「そう、どなた?」
「マリエル=アドリエ子爵令嬢です」
議会の翌日という速さに情報源が透けて見えて、笑える。
「あちらがよければ、本日午後と伝えてくれる?」
「かしこまりました」
向こうから断るという選択はなかっただろう、仕事もあっただろうに、アドリエ嬢は現れた。
「王太子妃殿下にご挨拶いたします。お早い面会許可、感謝に堪えません」
「どうぞこちらへお座りになって」
「はい、失礼いたします」
ソファに着席を許可すると、侍女にお茶を用意させてから人払いした。護衛も含めて扉の外で待機するようにと。
「改まって、お話とは何かしら?」
「……先日の議会で、側妃の話が出たことを伺いました」
「そう、それで?」
「妃殿下が、わたしを推薦されたと…」
「そうね」
面会申請の時点で、何を切り出されるかは予想がついていた。そして、誰からそれが漏れたのかも。
「あの、王太子殿下からお聞きになったかもしれませんが、」
「領地で結婚を約束してる人がいるとか?」
アドリエ嬢の言葉を次ぐと、思いつめた顔が顕わになる。
「は、はい! そうなんです、なので、候補を取り下げていただけないかと…」
「──私が、何故そんなことをしなければならないのかしら?」
「え…」
「子爵令嬢のあなたが、まだ王太子妃である私に、そういった願いを口にするのは、筋違い、いいえ不敬だとは思わないかしら?」
分を弁えていると思っていたが、私の思い違いだったようだと失望を覚える。
突然訪ねてくるような非礼を犯さなかったにしても、学生時代に多少話しただけで親しいわけではない私に、こんな不躾なお願いをしにくるとは。
「いえあの…」
「それに、推薦しただけで、あなたに決まったわけではなくてよ」
「それは、そうなのですが…」
どうしてこれほど歯切れが悪いのか、理由を実は知っている。
フィリクは、余程目の前の女性を信頼しているのだろう。彼女の言うことに、疑いすら持たず、信じているのだから。
私とて、自分が報われないからといって、同じ地獄に無関係の他人を落とそうなどとはさすがに思わない。
”領地に約束したひとがいるというのは、偽りですものね?”
だから、彼女に耳打ちした。
誰からも、おそらく姿を見せないだけで存在するだろう、影にさえ聞こえないように。
「……っ!!」
彼女の表情は私を確信させるには、十分だった。
私が殿下に想いを寄せていることも、殿下がアドリエ嬢を密かに想っていることも、彼女は気付いていた。
その上で、偽りを述べたのだろうことは理解できなくもない。
だが、発端が善意からだったとしても、私的なものだったとしても、王族を欺いたことに変わりないのだ。
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