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終幕
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私の救出と同時刻に、ノースボルド元侯爵令息も拘束されたという。
近づいたのは、ガネーシュ公子からだったとか。
何でも私の残り香を、市井で彷徨っていた元令息から感じ取ったとのことだが、身体的接触があったわけでもないのにと、感心するやら呆れるやらだった。
学園の見取り図は元侯爵令息から入手と、そちらは予想通り。でなければ、馬車止めを的確に狙うことは難しかっただろう。
──元令息と、公子は処刑になった。
その後はというと。
私の誘拐の報を聞き、皇国の兄たちが駆け付けようとしたのを止めるのに苦労したと、妹からの愚痴なんだか嘆きなんだかの手紙が届いたり。
改めて学院に編入した日は、歓迎と心配の声であふれてたり。
ちなみに、醜聞になるので誘拐自体は表沙汰になっていない。セレスリアが学院に着いた時間が早く、目撃者がいなかったのも幸いした。
心配は、予定より編入日が数日遅れたことへの、配慮の声だった。
留学期間は、貴族的な表面上の付き合いもあり、信頼できる友人ができたり、王太子妃の教育のおさらいなど、充実した日々を送り。
緩やかに日々は過ぎていった。
──そうして迎えた、結婚式当日。
「綺麗ですわ、素敵ですわ、まるで女神のようですわあ!!!!」
精緻な刺繍と、幾千もの宝石が施された純白のドレス。デザインは何故か、皇国の母と妹まで案が出され、なかなか決まらなかった。着るのは私なのに、と苦笑したのもいい思い出だ。
ドレスに身を包んだセレスリアに、惜しみない賛辞を送ってるのは妹のユーディリエである。
「落ち着きなさいな、ユーディリエ。美しいのは当然よ。わたくしの娘なのですから」
「そうですわね」
控室には、母と妹。男性陣は準備が完全に終わるまでは入室を禁じた。母が。
「さて、あの人たちに声をかけてこようかしら。あまりうろうろされても、迷惑だものねえ」
そう言うや否や扉を開くと、待ちかねていたと言わんばかりの兄2人が突撃の勢いで入室してきた。続いて父も。
兄2人から交互にあらゆる角度から賛辞を贈られ、幾分か照れながら、父と向かいあう。
「セレスリアももう結婚か。感慨深いものだ…」
「まだまだ、わたくしたちの元にいてもよかったとは思いますけれど」
「まあ、子はいつか巣立つものだ。これからは、隣国としてお前たちを見守ろう」
穏やかに微笑む両親に、じわりと嬉しさがにじむ。
「リア、結婚おめでとう。エラルドに泣かされたら、いつでも帰ってきていいからな」
「ありがとうございます、フェリオスお兄様。たぶん、そんなことにはなりませんわ」
「まあその場合は、私自ら制裁、いや存在を抹消してやろう」
「イグリードお兄様…お手柔らかにお願いしますね」
「すまない、リアに話があるので、少しばかり2人にしてもらってもいいだろうか」
イグリードの言葉に、仕方ないなと両親、兄、妹は退室する。
改まって話とはなんだろう。
「忙しいときにすまないな、リア。…ああ、座ったままでいい」
「はい」
「本当に綺麗だ。今日のこの日を迎えられて私も嬉しい」
「ありがとうございます、お兄様」
「──お前が5歳のとき、エラルドと初めて逢った交流会を、覚えてるか?」
「? 覚えてますわ」
唐突に何を言い出すのだろう。
兄の意図が読めず、疑問符が頭の中を巡る。
「あの日は、お前の婚約者選びも兼ねていたが、該当の年齢の貴族子女も来ていた。友人や側近になるべきものの選別もあったからね。挨拶を済ませたお前は、真っ先にある子爵令嬢の元に行き、侍女にしたいと言ったね」
「はい、…覚えてますわ」
今はベリエラまでついてきてる、忠実な侍女だ。ずっと私に仕えるのだと。
「お前が我儘めいたことを言ったのは、あれが初めてだった。それまでは、どこか遠慮というか、何をしてももらっても、居心地の悪そうな顔をしていた。私たちは家族なのに、どこか距離を置いていたね」
気付かれていたのか。
「そんな顔をするな。責めてるわけではない」
「申し訳、」
「謝罪も必要ない。リアは何も悪くないからな」
「…はい」
兄は優しい。いつも、いつだって。私は何も返せてはいないのに。
「珍しいお前の我儘に、まずはその子爵家に調査を入れた。調査結果を知った私たちは、お前の望み通りにすることにした。もちろん、その令嬢の希望も聞いてからだったが」
調査対象になった子爵家の家族構成は、父母と令嬢、そして妹。ただし、母は母でも、実母ではなく義母、妹も義母の連れ子だった。前の私と、同じだった。
「お前が、何故そこまでしてあの令嬢を…今はお前の侍女を、気にかけたのかは分からないし、聞く気もない。お前は、生まれたときからずっと、私の可愛い妹だ。守るべき、慈しむべき存在だ。それは変わらない。ただ、望み通りに侍女にすると言ったときの、お前の顔が忘れられない。なんだろうな。何かが、救われたような顔をしたんだ」
「…お兄様」
「それから、余計にお前を甘やかしてやりたくなった。何でも遠慮して、ろくに自分の望みも好きかも言わないお前を、何もお前を脅かすものはないと、教えてやりたかった」
そんな風に思ってくれていたなんて、知らなかった。
愛されているのは十分わかっていたけれど。
「これからは、不本意ではあるが、それをエラルドが受け継いでくれるだろう。私たちも、もちろんこれからもお前を愛している」
十分です、お兄様。
「ああ、泣くなよ。メイクが崩れる」
「だったら、泣かせないでください」
「はは、そんな顔も綺麗だ」
「お兄様ったら…!」
「──…幸せにおなり。私の可愛い妹。ずっとお前を愛しているよ」
「──義兄上に泣かされたって?」
式が終わり、今はパレード中だ。国民の祝福を受け、馬車で移動している。
「お兄様がなんだか、お父様みたいなこと言うから…」
「ああ、なんとなく分かる気がするな」
2人して、笑顔で手を振りながらの台詞である。
「セレスをもし悲しませたら、2人、いや3人は飛ぶ勢いで来るだろうな。そして私の命は風前の灯火に」
「笑いながら言うことじゃないし、そんな予定があるの?」
「いいや? あるわけない」
私たちは、お互いに、お互いを選んだのだから。自分の意思で。運命など関係なく。
「私は、私のすべてで君を愛してるからね。セレス」
「わたくしも、わたしくの意思と心のすべてで、エラルド様を愛しております。今までも、これからも」
くすりと笑い、キスを交わすと、周囲が歓声に沸いた。
了
─────*─────*─────*─────*─────*─────
これにて完結です。
本当は、もっと話を膨らませる予定だったので(視点を変えての話も予定にあった)、特に後半が駆け足になりましたが、描きたいところは書けました。
読んでくださった方、ありがとうございました。
近づいたのは、ガネーシュ公子からだったとか。
何でも私の残り香を、市井で彷徨っていた元令息から感じ取ったとのことだが、身体的接触があったわけでもないのにと、感心するやら呆れるやらだった。
学園の見取り図は元侯爵令息から入手と、そちらは予想通り。でなければ、馬車止めを的確に狙うことは難しかっただろう。
──元令息と、公子は処刑になった。
その後はというと。
私の誘拐の報を聞き、皇国の兄たちが駆け付けようとしたのを止めるのに苦労したと、妹からの愚痴なんだか嘆きなんだかの手紙が届いたり。
改めて学院に編入した日は、歓迎と心配の声であふれてたり。
ちなみに、醜聞になるので誘拐自体は表沙汰になっていない。セレスリアが学院に着いた時間が早く、目撃者がいなかったのも幸いした。
心配は、予定より編入日が数日遅れたことへの、配慮の声だった。
留学期間は、貴族的な表面上の付き合いもあり、信頼できる友人ができたり、王太子妃の教育のおさらいなど、充実した日々を送り。
緩やかに日々は過ぎていった。
──そうして迎えた、結婚式当日。
「綺麗ですわ、素敵ですわ、まるで女神のようですわあ!!!!」
精緻な刺繍と、幾千もの宝石が施された純白のドレス。デザインは何故か、皇国の母と妹まで案が出され、なかなか決まらなかった。着るのは私なのに、と苦笑したのもいい思い出だ。
ドレスに身を包んだセレスリアに、惜しみない賛辞を送ってるのは妹のユーディリエである。
「落ち着きなさいな、ユーディリエ。美しいのは当然よ。わたくしの娘なのですから」
「そうですわね」
控室には、母と妹。男性陣は準備が完全に終わるまでは入室を禁じた。母が。
「さて、あの人たちに声をかけてこようかしら。あまりうろうろされても、迷惑だものねえ」
そう言うや否や扉を開くと、待ちかねていたと言わんばかりの兄2人が突撃の勢いで入室してきた。続いて父も。
兄2人から交互にあらゆる角度から賛辞を贈られ、幾分か照れながら、父と向かいあう。
「セレスリアももう結婚か。感慨深いものだ…」
「まだまだ、わたくしたちの元にいてもよかったとは思いますけれど」
「まあ、子はいつか巣立つものだ。これからは、隣国としてお前たちを見守ろう」
穏やかに微笑む両親に、じわりと嬉しさがにじむ。
「リア、結婚おめでとう。エラルドに泣かされたら、いつでも帰ってきていいからな」
「ありがとうございます、フェリオスお兄様。たぶん、そんなことにはなりませんわ」
「まあその場合は、私自ら制裁、いや存在を抹消してやろう」
「イグリードお兄様…お手柔らかにお願いしますね」
「すまない、リアに話があるので、少しばかり2人にしてもらってもいいだろうか」
イグリードの言葉に、仕方ないなと両親、兄、妹は退室する。
改まって話とはなんだろう。
「忙しいときにすまないな、リア。…ああ、座ったままでいい」
「はい」
「本当に綺麗だ。今日のこの日を迎えられて私も嬉しい」
「ありがとうございます、お兄様」
「──お前が5歳のとき、エラルドと初めて逢った交流会を、覚えてるか?」
「? 覚えてますわ」
唐突に何を言い出すのだろう。
兄の意図が読めず、疑問符が頭の中を巡る。
「あの日は、お前の婚約者選びも兼ねていたが、該当の年齢の貴族子女も来ていた。友人や側近になるべきものの選別もあったからね。挨拶を済ませたお前は、真っ先にある子爵令嬢の元に行き、侍女にしたいと言ったね」
「はい、…覚えてますわ」
今はベリエラまでついてきてる、忠実な侍女だ。ずっと私に仕えるのだと。
「お前が我儘めいたことを言ったのは、あれが初めてだった。それまでは、どこか遠慮というか、何をしてももらっても、居心地の悪そうな顔をしていた。私たちは家族なのに、どこか距離を置いていたね」
気付かれていたのか。
「そんな顔をするな。責めてるわけではない」
「申し訳、」
「謝罪も必要ない。リアは何も悪くないからな」
「…はい」
兄は優しい。いつも、いつだって。私は何も返せてはいないのに。
「珍しいお前の我儘に、まずはその子爵家に調査を入れた。調査結果を知った私たちは、お前の望み通りにすることにした。もちろん、その令嬢の希望も聞いてからだったが」
調査対象になった子爵家の家族構成は、父母と令嬢、そして妹。ただし、母は母でも、実母ではなく義母、妹も義母の連れ子だった。前の私と、同じだった。
「お前が、何故そこまでしてあの令嬢を…今はお前の侍女を、気にかけたのかは分からないし、聞く気もない。お前は、生まれたときからずっと、私の可愛い妹だ。守るべき、慈しむべき存在だ。それは変わらない。ただ、望み通りに侍女にすると言ったときの、お前の顔が忘れられない。なんだろうな。何かが、救われたような顔をしたんだ」
「…お兄様」
「それから、余計にお前を甘やかしてやりたくなった。何でも遠慮して、ろくに自分の望みも好きかも言わないお前を、何もお前を脅かすものはないと、教えてやりたかった」
そんな風に思ってくれていたなんて、知らなかった。
愛されているのは十分わかっていたけれど。
「これからは、不本意ではあるが、それをエラルドが受け継いでくれるだろう。私たちも、もちろんこれからもお前を愛している」
十分です、お兄様。
「ああ、泣くなよ。メイクが崩れる」
「だったら、泣かせないでください」
「はは、そんな顔も綺麗だ」
「お兄様ったら…!」
「──…幸せにおなり。私の可愛い妹。ずっとお前を愛しているよ」
「──義兄上に泣かされたって?」
式が終わり、今はパレード中だ。国民の祝福を受け、馬車で移動している。
「お兄様がなんだか、お父様みたいなこと言うから…」
「ああ、なんとなく分かる気がするな」
2人して、笑顔で手を振りながらの台詞である。
「セレスをもし悲しませたら、2人、いや3人は飛ぶ勢いで来るだろうな。そして私の命は風前の灯火に」
「笑いながら言うことじゃないし、そんな予定があるの?」
「いいや? あるわけない」
私たちは、お互いに、お互いを選んだのだから。自分の意思で。運命など関係なく。
「私は、私のすべてで君を愛してるからね。セレス」
「わたくしも、わたしくの意思と心のすべてで、エラルド様を愛しております。今までも、これからも」
くすりと笑い、キスを交わすと、周囲が歓声に沸いた。
了
─────*─────*─────*─────*─────*─────
これにて完結です。
本当は、もっと話を膨らませる予定だったので(視点を変えての話も予定にあった)、特に後半が駆け足になりましたが、描きたいところは書けました。
読んでくださった方、ありがとうございました。
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