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第8話 三色の切札
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「大分お前の力はわかってきた。そろそろ終わりにするぞ、レッド」
まさかのグリーンの宣言に、クリアは思わず頬をかく。
レッドはレッドで、グリーンに親指を立てて「了解」とサインを出した。
「悪いなクリア。お前が強いからこそ、二人がかりでも全てを使ってでも行かせてもらう!」
レッドは、勢いよく踏み込み術式名すら言わず足元からまるでジェットの様に炎を噴射させ、下段に大剣を構えクリアへ距離を詰めてくる。
同じくして、グリーンも刀を上段に構え、
先の【風足】の様に足元に風を纏わせ、加速しクリアに詰め寄る。
そして、まるで交差させる様にそれぞれ炎と風を纏わせた斬撃をクリアに向けて放った。
……そして、派手な金属音と共に、二人の武器——だったもの——が、空を切った。
直後、金属が叩きつけられ音が二つ、遺跡内に響き渡り、それに続いてレッドとグリーンが蹴り飛ばされる鈍い音が、続けて響く。
「嘘、だろ……? そんなばかな……」
蹴り飛ばされたレッドの開口一番は、驚愕だった。
クリア的には結構強めにダメージを与えたいつもりだったので、普通——ではないかもしれないが——に口を開けるのが意外だった。
まあ、動揺するのも無理はないだろう。
何故なら、二人の武器は、クリアを切り裂く直前に、突如刃が失われたのだ。
「さっきの競合いの時、二人の武器に細工させてもらったんですよ。かなりの業物だったので、そこまで持って行くのに時間かかっちゃいましたけど。タイミング的にはピッタリでしたね」
レッドが大剣でガードした時、そしてグリーンの刀を受け止めた時。
クリアはじわじわと武器の一部を『消して』いた。
種明かしをすれば、簡単なこと。
クリアの【力】は一度触れてしまえば、徐々に消していく事も可能なのだ。
クリアの力で一部を消された武器は、振るう力に耐えられず、二人は自ら武器を壊す羽目になった、というのが真相だ。
——さて、これで武器も破壊した。彼らは剣士だ。戦意喪失するか、それとも……。
……残念ながら、クリアの期待に二人は応えてくれないらしい。
まだ、闘志はまだ失われていないのが目を見ればわかる。
立ち上がったレッドは、間髪入れずに折れた大剣を体術を混ぜながら振るってきた。
力でも技でもクリアの方が上のはずなのはここまで手を合わせていてお互いにわかるはずだ。
——なのに、何故ここまで自分と打ち合うのだろう。
クリアがそう考えながら捌いた十数手の体術の応酬は、レッドが後ろに飛んで距離を取った事によって終わった。
——否、わざと終わらせたのだろう。
レッドが離れた瞬間、自らを中心に蠢く風に気付くには、僅かに遅かった。
「風操、【壁竜嵐】!」
グリーンの放った術式は、あっという間にクリアを囲む竜巻となった。
まるで嵐の牢獄のような術式だが、一部を『消して』抜け出してしまえばいい。
そんな考えでクリアは風の壁へと手を伸ばす。
——その瞬間だった。
「【イグニッション】!」
その術式名で、突如竜巻の壁は燃え上がる炎の渦へと姿を変えた。
「あつっ?! でもこんなもの……!」
突如炎へと変化したことでその熱に怯んでしまったが、すぐに炎の壁へと今一度クリアは手を伸ばした。
しかし、炎の渦は変わらない勢いでクリアを囲み続けている。
感覚的に、クリアの【力】が効いていない訳ではない。
「これはっ……やってくれましたね!」
つまるところ、レッドとグリーンが術式に供給する分子量が、単純にクリアの力が『消す』量と同じか、それ以上の量だということだった。
「やっと捕まえたぞクリア! ここからは、俺達の術式への分子の供給が止まるか、お前の呼吸ができなくなるかの勝負だ!」
——本当に、何手先まで考えているのやら。
確かに、クリアは、肉体的にも持っている『力』も鍛えられていて強い。
しかし、それ以前にクリアは人である。
人は、皆呼吸によって風の分子を取り入れなければ、生命の活動を停止するものだ。
このままでは、呼吸出来ずに倒れるか、それともこの炎の渦によって焼かれるか、二つに一つのところまでクリアは追い詰められていた。
……ここまで隠してた力を使わなければ、だが。
——ここまで追い詰められたのは、いつ以来だろうか。だが、ここまで追い詰められたおかげで、あれを試すことができる。
そうクリアは思いながら高らかにとある術式名を唱えた。
「【ウォーターフォール】!」
唱えた術式名に従い、水属性の分子は大量の液体と姿を形成し、クリアの頭上から降り注ぐ。
そして、クリアを取り巻いていた炎の渦を、全て消火してしまった。
炎に熱された水の分子は分子反応により煙状の白い気体、すなわち〈水蒸気〉と呼ばれるものへと姿を変え、しばしクリアの周りに漂っていた。
「ここまで見せるつもりはなかったんですが、すごいですね、ボクに【放出の力】を使わせるなんて。でももう終わりですよね。あなた達の奥の手はこれで破られた」
「それは……どうかな?」
ニヤリ、という表現が正しいだろうか。
まるで悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべて言うレッドに、無言のグリーン。
クリアはその理由をすぐにわからされた。
——まったく、このグリーンという人は、どこまで分子の扱いに対するポテンシャルを持っているのだろうか。
とクリアが気づいた時には、術式が既に完成していた。
あの炎の渦に分子を供給しながらも、本命であるこちらの術式を構築していたとは。
術式名に頼らず、ここまで戦えるとは、正直言って見くびっていた。
今、クリアは先程の竜巻とはまた違う、まるでドーム状の風に包まれていた。
更にそれは、先程消火によって生まれた大量の水の分子を含んでいる。
「クリア! 〈水蒸気爆発〉って分子反応は知ってるか⁉︎ これが本当の勝負だ‼︎ 【イグニッション】‼︎」
〈水蒸気爆発〉。それは、空気中に漂う水の分子が高濃度で存在する中に火の分子の作用が加わると、連鎖的に火、水、風の分子が分子反応を起こし、凄まじい大爆発を起こす、という分子反応の中でも大変危険な分子反応のことだ。
下手をすれば、遺跡ごと吹き飛ばせるかも知れない威力が出る水の分子がここに存在しているのは、水の術式を使用したクリア本人が一番理解していた。
——そんな自分達も下手すれば死ぬかもしれないことを、躊躇なくやってくるとは。
レッドの着火の術式の作用により、レッドの宣言通り、水蒸気爆発はそれはもう、最後の切札と呼べるほどの規模の爆発を引き起こした——。
まさかのグリーンの宣言に、クリアは思わず頬をかく。
レッドはレッドで、グリーンに親指を立てて「了解」とサインを出した。
「悪いなクリア。お前が強いからこそ、二人がかりでも全てを使ってでも行かせてもらう!」
レッドは、勢いよく踏み込み術式名すら言わず足元からまるでジェットの様に炎を噴射させ、下段に大剣を構えクリアへ距離を詰めてくる。
同じくして、グリーンも刀を上段に構え、
先の【風足】の様に足元に風を纏わせ、加速しクリアに詰め寄る。
そして、まるで交差させる様にそれぞれ炎と風を纏わせた斬撃をクリアに向けて放った。
……そして、派手な金属音と共に、二人の武器——だったもの——が、空を切った。
直後、金属が叩きつけられ音が二つ、遺跡内に響き渡り、それに続いてレッドとグリーンが蹴り飛ばされる鈍い音が、続けて響く。
「嘘、だろ……? そんなばかな……」
蹴り飛ばされたレッドの開口一番は、驚愕だった。
クリア的には結構強めにダメージを与えたいつもりだったので、普通——ではないかもしれないが——に口を開けるのが意外だった。
まあ、動揺するのも無理はないだろう。
何故なら、二人の武器は、クリアを切り裂く直前に、突如刃が失われたのだ。
「さっきの競合いの時、二人の武器に細工させてもらったんですよ。かなりの業物だったので、そこまで持って行くのに時間かかっちゃいましたけど。タイミング的にはピッタリでしたね」
レッドが大剣でガードした時、そしてグリーンの刀を受け止めた時。
クリアはじわじわと武器の一部を『消して』いた。
種明かしをすれば、簡単なこと。
クリアの【力】は一度触れてしまえば、徐々に消していく事も可能なのだ。
クリアの力で一部を消された武器は、振るう力に耐えられず、二人は自ら武器を壊す羽目になった、というのが真相だ。
——さて、これで武器も破壊した。彼らは剣士だ。戦意喪失するか、それとも……。
……残念ながら、クリアの期待に二人は応えてくれないらしい。
まだ、闘志はまだ失われていないのが目を見ればわかる。
立ち上がったレッドは、間髪入れずに折れた大剣を体術を混ぜながら振るってきた。
力でも技でもクリアの方が上のはずなのはここまで手を合わせていてお互いにわかるはずだ。
——なのに、何故ここまで自分と打ち合うのだろう。
クリアがそう考えながら捌いた十数手の体術の応酬は、レッドが後ろに飛んで距離を取った事によって終わった。
——否、わざと終わらせたのだろう。
レッドが離れた瞬間、自らを中心に蠢く風に気付くには、僅かに遅かった。
「風操、【壁竜嵐】!」
グリーンの放った術式は、あっという間にクリアを囲む竜巻となった。
まるで嵐の牢獄のような術式だが、一部を『消して』抜け出してしまえばいい。
そんな考えでクリアは風の壁へと手を伸ばす。
——その瞬間だった。
「【イグニッション】!」
その術式名で、突如竜巻の壁は燃え上がる炎の渦へと姿を変えた。
「あつっ?! でもこんなもの……!」
突如炎へと変化したことでその熱に怯んでしまったが、すぐに炎の壁へと今一度クリアは手を伸ばした。
しかし、炎の渦は変わらない勢いでクリアを囲み続けている。
感覚的に、クリアの【力】が効いていない訳ではない。
「これはっ……やってくれましたね!」
つまるところ、レッドとグリーンが術式に供給する分子量が、単純にクリアの力が『消す』量と同じか、それ以上の量だということだった。
「やっと捕まえたぞクリア! ここからは、俺達の術式への分子の供給が止まるか、お前の呼吸ができなくなるかの勝負だ!」
——本当に、何手先まで考えているのやら。
確かに、クリアは、肉体的にも持っている『力』も鍛えられていて強い。
しかし、それ以前にクリアは人である。
人は、皆呼吸によって風の分子を取り入れなければ、生命の活動を停止するものだ。
このままでは、呼吸出来ずに倒れるか、それともこの炎の渦によって焼かれるか、二つに一つのところまでクリアは追い詰められていた。
……ここまで隠してた力を使わなければ、だが。
——ここまで追い詰められたのは、いつ以来だろうか。だが、ここまで追い詰められたおかげで、あれを試すことができる。
そうクリアは思いながら高らかにとある術式名を唱えた。
「【ウォーターフォール】!」
唱えた術式名に従い、水属性の分子は大量の液体と姿を形成し、クリアの頭上から降り注ぐ。
そして、クリアを取り巻いていた炎の渦を、全て消火してしまった。
炎に熱された水の分子は分子反応により煙状の白い気体、すなわち〈水蒸気〉と呼ばれるものへと姿を変え、しばしクリアの周りに漂っていた。
「ここまで見せるつもりはなかったんですが、すごいですね、ボクに【放出の力】を使わせるなんて。でももう終わりですよね。あなた達の奥の手はこれで破られた」
「それは……どうかな?」
ニヤリ、という表現が正しいだろうか。
まるで悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべて言うレッドに、無言のグリーン。
クリアはその理由をすぐにわからされた。
——まったく、このグリーンという人は、どこまで分子の扱いに対するポテンシャルを持っているのだろうか。
とクリアが気づいた時には、術式が既に完成していた。
あの炎の渦に分子を供給しながらも、本命であるこちらの術式を構築していたとは。
術式名に頼らず、ここまで戦えるとは、正直言って見くびっていた。
今、クリアは先程の竜巻とはまた違う、まるでドーム状の風に包まれていた。
更にそれは、先程消火によって生まれた大量の水の分子を含んでいる。
「クリア! 〈水蒸気爆発〉って分子反応は知ってるか⁉︎ これが本当の勝負だ‼︎ 【イグニッション】‼︎」
〈水蒸気爆発〉。それは、空気中に漂う水の分子が高濃度で存在する中に火の分子の作用が加わると、連鎖的に火、水、風の分子が分子反応を起こし、凄まじい大爆発を起こす、という分子反応の中でも大変危険な分子反応のことだ。
下手をすれば、遺跡ごと吹き飛ばせるかも知れない威力が出る水の分子がここに存在しているのは、水の術式を使用したクリア本人が一番理解していた。
——そんな自分達も下手すれば死ぬかもしれないことを、躊躇なくやってくるとは。
レッドの着火の術式の作用により、レッドの宣言通り、水蒸気爆発はそれはもう、最後の切札と呼べるほどの規模の爆発を引き起こした——。
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