エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第12話 立ちはだかるは謎と闇

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 クリアは空いている手で光の術式、【ライト】——指先から明かりを灯すだけの術式——を使い、辺りを照らす。

 そうして「ここは元々、光のルーツが収められていた遺跡だった」など、調査の時の様子をミヤに語りつつ遺跡内を見て回る。

「そういえば、ヒカリと初めて出会ったのもこの遺跡だったなぁ」

 クリアがそんな思い出話をした時、若干ミヤが不満そうにしていたのは気のせいだろうか……?

 ……ヒカリもまた、ミヤと仲がいいはずなのだが。

 それなりの時間をかけ、奥の部屋まで行き着いた二人は、最後にこの部屋の壁に記された古代文について語る。

 ——これで、あらかたこの遺跡の解説をし終わったかな。

 時間も丁度ご飯時になりそうなので、そろそろ戻ろうとクリアが提案しようとした時のことだった。

「サラ、遺跡内の空気はあんまり良くないし、もう大体話す事も無くなったし外に——」
「お兄様、これってなんでしょう?」

 サラがクリアの言葉を遮って指を差したのは、調査したクリアにも見覚えのない壁の端にある突起だった。

 まるで「押してください」と言わんばかりのボタンの様に突き出ているそれは、クリアから見て……いや、恐らく誰の目から見ても怪しさ満点だった。

 押してみるにしても、もう一度調査の準備をしてからにしないと何が起こるかわからない。

 今まで色々な遺跡を調査してきたクリアは、直感的にそう感じていた。

「ミヤ、それは触れない様にしようね。何が起こるかわからないから」

 こんな怪しげなものを、頭のいいミヤが自ら触れるとは思えないが、クリアは一応注意する。

 ……注意はしたのだが。

「えっ? ミヤっ!?」

 まるで引き寄せられるように、クリアの握っていた手を放しその突起にミヤは近づいて行く。

 クリアはすぐに止めようと、ミヤに手を伸ばすが間に合わず。

 ミヤはそのボタンとも言える突起を躊躇いもなく押してしまった。

 すると、突如遺跡内が揺れ始め、壁に亀裂が走り、崩れていく。

 その中からは、まるで通路のような空洞が見えてくる。

 だが、クリアのすべきことはミヤの保護が最優先だ。

「ミヤ?」

 クリアは怪訝そうにミヤに声をかけながら近寄ると、彼女の肩に手をかけた。

 ——瞬間。

 その手は思い切りよくクリアに振り向くことのないミヤの手によって払われてしまった。

 一瞬の事に理解が追いつかないクリアに見向きもしないまま、ミヤは壁の中から現れた空間に一人足を進めていく。

 ——いけない!

 はっとして、サラを追いかけようとクリアが走ろうとした時。

 突如床から、それらは行方を阻むように現れた。

「【影の騎士団ドッペル・ナイツ】!?」

 それは、闇の術式より生み出される実態のある騎士の姿を模した人形の様な存在だった。

 しかも、一体や二体じゃない。
 クリアを取り囲むよう、数十体もまとめて現れたのだ。

 この術式は闇の術式の中でもかなりコントロールが難しく、最近ようやく一体出せるようになったとミヤが嬉しそうに言っていたことをクリアは思い出しながら対峙する。

 闇のエレメントは、物理的干渉が難しいタイプのエレメントだ。
 分子としての作用は、光を遮り視界を悪くする……それぐらいの作用しかない。

 しかしこの【影の騎士団ドッペル・ナイツ】は、実態が存在する上に物理的干渉が可能な術式だ。

 エレメントはどの属性も普段は目に見えなかったり、直接触れている感覚も無いぐらい小さい分子なのだが、分子の存在自体は実体がある。

 なので、実は全ての分子は作用や性質を無視して考えれば、分子そのものを大量に集めると理論上、——分子同士が結びつくような術式にしなければならないが——石のように持ったり、ぶつけたりと物理的干渉ができるようになる。

 この間のグリーンの使ってみせた、【風の弾丸エア・バレット】のように。

 または、様々な分子が複雑に組み合わさって作られていた『アスラカチミオ』の遺跡の、クリアが消せなかった床のように——。

 その理論を使用して生み出されたのが、この【影の騎士団ドッペル・ナイツ】という術式だ。

 しかし、そもそも物体レベルまで分子を集めるだけでも並の能力者じゃまともにできないというのに、この術式は一体を形成するだけでも分子の量が膨大すぎてその全てに細かな動きをさせるコントロールするのも非常に大変なものだ。

 クリアも使って見たことはあるが、術式で召喚した人形の動きコントロールの難しさが強さに見合っておらず、そもそもこの術式を使用するための闇のエレメントを大量に保持ストックする利点が無さすぎてすぐに使用する考えを捨ててしまった。

 言ってしまえば、キャスティング能力の向上のため以外にこの術式を使用するのは余程のセンスがある者以外は無意味に等しい行いだった。

 何せ、術式に命名した製作者ほんにんすらそう言ってしまったのだから。

 だが、そんな術式で召喚された騎士をかたどった分子の塊が、一体どころか数十体もおり。
 しかもその全てがクリアの行手を阻むように動いているではないか。

 ……まるで生きているかのように。

 ——操っているのは、まさにセンスの持ち主なのだろうか?

 しかし、どんな難しい術式だろうとクリアには関係ない。

 あくまで闇の分子だけで構成されているのならば、『吸収して』しまえばいいからだ。

 ——一刻も早くミヤを追いかけないと。

 今はそれ以外頭に無いクリアは、【ライト】を一度消すと、『アスラカチミオ』の村を消滅させた時のように、この部屋全体に広がるように【力】を放つ。

 ——【無の領域ゼロ・フィールド】!

 闇の分子で構成された影の騎士達は、ドーム状に広がるクリアの力に触れた箇所から次々とその姿を消していった。

 しかし、姿を消したのは束の間——。

「……なんだって?」

 全ての【影の騎士団ドッペル・ナイツ】を『吸収した』クリアが、ミヤを追いかけようと【力】の放出をやめて【ライト】で明かりを灯した瞬間。

 再び、先程と同じかそれ以上の数の【影の騎士団ドッペル・ナイツ】が床から現れたのだ。

「これは……」

 このまま相手をしていたら、キリが無い。

 ——これらの目的はボクの足止めだけ。

 ならば、と言わんばかりにクリアはこの状況を打破すべく、一つ思いついた方法を取ってみる事にした。

 現れた空洞が存在している方向を確認し、【ライト】を消した。
 ——今までやったことがないのでぶっつけ本番になってしまうけど。この状況を打破するなためならば、やってみる価値はある。
 そう考えたクリアは自らの体に【力】を纏わせていく。

 そして、纏わせた体を動かし、纏う【力】と体の動きにずれが無いかを確認する。

 クリアは吸収すため力を扱う時、普段はエレメントを吸収す際に受ける箇所に【力】を纏わせるようにして使うだけだった。

 だが、今回のように動きながら全身に纏わせるのは初めての運用だ。

 ——うん、問題無さそうだ。……使用中は呼吸できないのが難点だけど。

 二つの意味で時間が惜しいクリアは、ミヤの消えた方向へ一気に駆け出した。

 【影の騎士団ドッペル・ナイツ】は道を塞ごうと続々と集まってくるが、今のクリアにはもう関係ない。

 クリアが空洞に足を踏み入れた時には、彼の通った後が残るように影の騎士団は歪な形で動きを止めていた。

 ——【無敵の行進ウォーキング】ってところかな。

 そう心の中で命名したクリアは——クリアの力は分子の作用ではないので、術式として命名する意味は無いのだが——再び手に【ライト】で明かりを灯し、道なりへと進んでいく。

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