エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第11話 デートの誘いは突然に

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もしも~し、わたくしの話、ちゃんと聞いてくれてますか~?」

 遺跡内で反響するおっとりとした声で呼びかけられたクリアは、はっと我に帰った。

 ——先ほどまではちゃんと聞いていたつもりだったが、いつのまにか気が抜けてしまっていたらしい。

「ご、ごめん、ちょっと気が抜けちゃって聞き逃しちゃった。それで、何の話だっけ?」

 クリアは、その返事に対して年相応に頬を可愛らしく膨らませてむくれてみせた少女、ミヤ・ウィルに素直に謝って聞き返した。

 最近、ルーツの回収のための調査が中々おもったよりも進んでおらず、忙しくなりつつあった。
 故に、クリアも調査隊長として各隊からの調査報告をまとめながら、自分でも文献やら現地視察やらで働き詰めで少し疲れが出ていたのかも知れない。

 しかし、理由はともかく彼女には悪い事をしたと、クリアは申し訳ない気持ちになった。

 ミヤ・ウィルはその性の通り、『ディールーツ』のボスであるガウス・ウィルの実の娘だ。

 それ故か、ミヤは幼げながらも、姫カットの綺麗なシルバーブロンドの長いストレートの髪に、彼女の特徴とも言える大きな黒いリボンを頭の後ろに結った容姿は、一目でどこかのお嬢様であることがわかるような雰囲気を醸し出していた。

 弱冠十二歳にして、ガウスの血を濃く受け継いだ彼女は、それはもう幼い頃から目まぐるしい成長と才能を存分に周りに発揮して見せてくれた。

 ミヤは高いキャスティング能力、考古学への理解、果てはディールーツの事業の一部へ意見し業務成績を向上させた、という実績を持っている。

 そんなミヤは、多忙な父親ガウス——もちろん、彼女は「お父様のことは大好きで尊敬していますよ!」とクリアに嬉しそうに言う程には父親を慕っている——に代わり、昔から時間の空いている時に相手をしていたクリアに大変懐いていた。

 それ故に、今ではクリアはミヤと名前で呼び、ミヤはクリアのことをお兄様と呼んでいる仲だ。

 まるで実の兄の様に慕ってくれるミヤに対して、クリアも本当の妹の様に可愛がっていた。

 それ故か、組織内では本当の兄弟のように見られることも多く。

 その様な感想を述べられた時、ガウスを父親の様に慕うクリアにとって——心の中でガッツポーズをするぐらいには——悪くない気分だった。

 さて、何故今クリアがサラと仲良く手を繋ぎながら遺跡内を散策しているのかといえば、ミヤのある一言がきっかけだった——。


「お兄様、私とデートしましょう!」

 それは、『アスラカチミオ』での一件から約半月後の今朝のことだった。

 あまりの唐突すぎたミヤの提案はつげんに、彼にしては遅めの朝食を取っていたお兄様クリアはその場で盛大にむせた。

 そんなクリアの反応に、「何事?」とまだカフェテリアにいた社員たちがこちらに注意が向けるが、「ああ、あの二人か」といった感じですぐに興味を失って視線を戻していく。

 突如として辱めの視線を受けたクリアがミヤに話の意図を聞けば。

 なんの脈絡もなく、突然目の前に現れたミヤ曰く。

「最近、全然私のお相手をしてくれてないじゃないですか。なので私直々にお誘いに来たんですよ!」

 とのことらしい——。

 この妹は、お兄様の久々の休みの日を——何故か——把握していたらしく。

 堂々とドヤ顔で言い切ったミヤの頭をぽんぽんと撫でながら、別に断る理由もなかったクリアは、ミヤの誘いに二つ返事で快諾することにした。

「それで、ミヤはどこに遊びに行きたいの?」

 ……才女とはいえ、ミヤはまだ十二歳の少女なのだ。

 『ディールーツ』の表企業の仕事をこなしたり、大企業組織のトップのお嬢様むすめとして英才教育を受けており、それなりに忙しい日々を送っている彼女が時間を作って誘ってくれたのだ。

 ——本当なら遊びたい盛りであるはずの年頃なミヤの要求に応えるのも、休みの日の過ごし方として悪くない。

 そう思ったクリアにミヤが提案してきたのが、『アンシャネリア』という場所の遺跡の散策だった。

 その遺跡はすでに調査が進み、ルーツの一つを回収し終えたことで、放置されていた場所だ。

 更に言えば、入り口から短い通路で繋がっている、二つの小部屋しかない小さな遺跡だった。

 そんな、特に面白そうな物を改めて見つけられ無さそうな場所で、いったい何をするつもりなのだろう、と思いながらもクリアが快諾したことで今この遺跡にいるという訳だった——。


「ですから、私にもっとこの遺跡について教えて欲しいのです!」

 そう聞き直した話の内容を力説するミヤ。

 デートという名目で誘われたにしては、思いの外遊びではなく学びの方向性の話だったのでクリアは少し戸惑った。

 そんなクリアの気持ちを察したのか。

 ミヤは何故遺跡探索の誘いを切り出したのか、その理由も語ってくれた。

「あのですね、今朝も言いましたけど最近私達、全然お喋りできていなかったでしょう? それで、少しでも一緒に居たくて……。そこで私考えたんです! 遺跡のお話なら、お兄様もお喋りしやすいかなぁと……」

 ——なるほど、そういう事だったか。

 クリアはようやくミヤの意図を理解した。

 確かに、クリアがミヤと最後に一緒に同じ時間を過ごしたのは、とうに二ヶ月も前の話だ。

 ルーツの回収が本格化してきて忙しい真っ只中だったため、顔を合わせてもゆっくり話すことはできてなかった。

 だからこそ、——どうやったかはわからないが——クリアの休みの日を調べ、相手が疲れていることも考慮して話題を振りやすい遺跡に連れて行って欲しいと言ってきたのだ。

 ——なんていじらしい子なんだ。

 クリアはそう感じざるを得なかった。

 ようするに、ミヤは妹としてただ一緒の時間を過ごしたかったと、そういった話だ。

 そのためだけに、色々クリアの事情も考えてくれたと。

 ——わざわざボクの事を考えなくても、一緒に居たいならそう言ってくれればいいのに。

 このお嬢様は、いい子過ぎる故に人一倍気を遣ってしまうようだった。
 もしくは、大人に囲まれてきた為に自然とそういう気遣いを身に付けたのかも知れない。

 年相応にわがままな面をもっと出してもいいのにそうしないのは、彼女の美徳なのかもしれない。

 ——今日一日、少しでもサラが楽しめるようにしっかりエスコートすることにしよう。
 そう思ったクリアは、握る手に少しだけ力を加えた。

 それに対し、サラは満足そうに同じく握る力を強めるのだった。
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