エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第14話 恐れられしルーツの力

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「ミ——」

 名前を呼ぶ前に、球体がクリアの腹部にめり込み、彼の体は祭壇の下へと吹っ飛ばされた。

 ミヤの表情と球体の存在に気を取られて不意を突かれたとはいえ、物理的にダメージを受けたのはいつ以来だろうかと思いながら受け身を取りつつ着地したクリアは、考えたくはないがとある事態を予感する。

 ……そして、大体嫌な予感と言うものは、的中するもので。

「ミヤァ? 誰それ? 俺ザ・クロ。残念だったなァ、この体はもう俺が貰っちまったよォ。なァ、今どんな気持ちですかァ? お・に・い・さ・まァ?」

「生まれて今までで一番不愉快だよ〈闇のルーツ〉」

 今にも溢れんばかりに、クリアの心の中は自分とザ・クロと名乗る闇のルーツへの怒りでいっぱいだった。
 わなわなと握る拳を震わせながら、クリアはザ・クロと名乗る存在に語りかける。

「今すぐミヤの体を返してくれないか? そのを巻き込みたくないんだ」

 そんなクリアの要求に、ザ・クロは再びミヤの顔でゲスな笑みを浮かべながら、クリアの神経を逆撫でするかの如く言いはなった。

「だろうなァ。このむすめ、さっきから『お兄様ごめんなさい』ってずっと中で繰り返しながら泣いて謝ってるぜェ。あーうるせェ」
「っ!」

 今すぐにでもぶん殴ってやりたいという衝動がクリアを襲うが、強く拳を握りしめて自制する。

 何故なら、今のザ・クロの体はミヤのもの。
 クリアに傷つけることなど、できるはずもなく。

「それにしてもオレってばラッキーだったなァ。ここに一生閉じ込められたままかと思ってたが、この娘がわざわざこの遺跡ばしょに来てくれてよォ。これで俺は晴れて自由の身ってわけだァ!」

 要所要所引っかかる言い方をするザ・クロは、嬉しそうにぐっと体を伸ばし、もはやミヤの体が自分の体であるかのように主張してきた。

 ——ルーツが主を選ぶどころか、体を乗っ取るなんて。

 新たに知ってしまった情報を、今は頭の奥底に追いやり、ザ・クロをどう対処するかクリアはとにかく考える。

「自由の身になってどうするつもりだ?」

 クリアの質問に、ザ・クロは「そうさなァ」と顎に手を当てて考える素振りを見せ、そして思いついたように人差し指を立てて答えた。

「とりあえず、手当たり次第に人間狩りってのもいいねェ。ここにぶち込まれてから随分と暇させられたしよォ」
「なら——」
「ボクが相手をするってかァ? この娘に手も出せねェくせにかァ? そっちはめんどくせェ【無属性】野郎だし、ってもつまんねェから嫌だけどなァ……」

 クリアの言葉を遮って、嫌そうにザ・クロは言った。

 ザ・クロの言う通り、こちらからは手を出せない。

 が、敵は無尽蔵にエレメントを放ち攻撃できる。
 これが、古代人が怖れおののいたルーツという理不尽しろものなのだ。

 さらに、ザ・クロは【無属性】の力のことも知っているときた。

 流石はルーツと言うべきなのだろうか。

 ……この状況は、クリアにとって絶望的だ。

 それでも、クリアとてミヤを絶対に取り戻さなければならないのだ。

 ——方法は、ある。

 ただし、うまく行かなければ即クリアとミヤの命が散る分の悪い賭けだ。

「……いや、考えるだけ無駄か」
「ォ?」

 どれほど分が悪かろうが、やらなければミヤを取り戻すことはできない。

 ならば、今は自分にできることをやってミヤを取り戻すとクリアは決意を固めた。

「おォ? なんだやる気かァ? まァお前と戦るのはめんどくせェが、ここで潰しとかないと一生邪魔されそうだし……少しだけ遊んでやるとするかねェ」

「ふーむ」と考えたような素振りを見せながらザ・クロはそう言うと、再び邪悪そのものとも言える表情を浮かべ、先ほどと同じような漆黒の極太のレーザーがクリア目がけて放たれた。

 ルーツ本人——人と例えていい存在なのかはわからないが——が直接エレメントを供給している為、光の柱の中に居続けない限り部屋を照らす光だけではもう威力は落ちてくれないようだ。

「まァ、少しぐらいは満足してさせてくれよなァ! お兄様ァ!」

 クリアはひとまず真横に回避するが、ザ・クロは放ちながら空間ごと薙ぎ払うごとく、クリアにそれを追従させてきた。

 先の話に出してきたように、ザ・クロは【無属性】のことを知っている。

 しかも、かなり詳しく。
 ……恐らく、性質や弱点も。

 ——ルーツとはほんとにまだまだわからないことばかりだ。闇のルーツザ・クロだけが特別なのかも知れないけれど。

 心の中で思いつつ、とにかく攻撃を受け止めないよう、【風足かぜばしり】等移動に使える術式と、蜘蛛の糸のように【力】を壁に伸ばして突き刺し、自身の体を壁に引き寄せたりと、持てる技術を駆使してクリアはそれを避け続ける。

 ルーツであるが故にできる、純粋な術式ですらないエレメント分子の量の暴力。

 それが、無属性の弱点を知っていると言っているようなものだった。

 ——受けてしまえば、今度こそ終わりだ。

 壁や天井、床とクリアは術式と【力】で縦横無尽に飛び回り躱し続ける。

 そんな風に動き回るクリアが通った後は、まるで災害が通るが如く、次々と瓦礫と化していった。

 それが闇のエレメントの分子で行われていると考えると、如何にザ・クロのルーツとしての力が凄まじいかをわからされる。

「なんだァ、オレのエレメントが切れるのでも待ってんのかァ? だとしたらさっさと無駄な考えだから諦めやがれェ! ルーツがエレメント切れを起こすわけねェんだからよォ!」

 クリアがどうにかできないかと考えながら躱し続ける中、不意にミヤ——を乗っ取っているザ・クロ——と目が合った。

 ……彼女は、今も泣いている。

 ザ・クロは気がついていないかも知れないが、ザ・クロが乗っ取っているはずのミヤの目から、涙が溢れていた——。
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