エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか？〜

第18話 ドタキャン&Promise to You

「どんな内容だったの？」

　通話を切った途端にガックリと項垂れたヒカリに、クリアは若干困惑しながらも解決できるのであれば聞くべきだろうと思い聞いてみた。

　あのいつも明るいヒカリがここまでガッカリすることが珍しいのだから。

　項垂れたままヒカリはクリアに説明した。

「今日、急遽人員不足になったからこっちの現場に来て欲しいって……」
「あー、なるほど……」

　クリアは、ヒカリの気持ちを察して相槌を打たざるを得なかった。
　この話は、クリアとしても残念なお知らせだからである。

　そもそも、何故この娘ヒカリは今朝わざわざ女性社員寮にある彼女の部屋からかなり距離があるクリアの部屋まで早起きして来訪したのか、というところから始まる。

　それは、久々にクリアと同じ現場で任務にあたる予定だったからである。

　ヒカリと仲良くなってから、一緒の現場で任務で仕事をする際、彼女はさりげなく——組織規定に引っかからない程度に——オシャレをして来たり、わざわざクリアと一緒に食事を取るためにお弁当を持参してきてくれたりと、同じ現場で仕事をすることを楽しみにしてくれているのをクリアも知っていた。

　もちろんクリアも楽しみにしているので、今回の件は残念に思う。

　しかし、ヒカリは若くして仕事ができる、もうすぐ昇進の噂もある優秀な社員だ。

　そして今回、クリアという調査部門の総合隊長の班——班といっても今回はクリアとヒカリしかいないのだが——から優秀な人材を引き抜かれてしまうのは仕方のないことであった。

　先の連絡から中々いつもの調子に戻らないヒカリを見れば、彼女がどれだけ今日を楽しみにしてくれていたか痛いほどわかってしまう。

　なのでクリアは、そんなヒカリの為にある提案をすることにした。

「ごめんねクリア。連絡来た現場だと、今から急いで出発しないとだから、お話はまた今度に——」
「ヒカリ、提案があるんだ。いつも頑張ってる君に、ね」
「提案？」

　今すぐにでも行かないと、といった勢いでこの場を去ろうとしていたヒカリは、その言葉に思わず足を止めた——。
　

「という訳で、まだ急がなくてももう少しはゆっくりできるよ」

　一つ目の提案は、こっそりどこへでもドアを使ってヒカリを現場まで送り出すことだった。

　本来なら上級役員のための装置なのだが、クリアもこの後どうせ使うのでついでという形で送り出すことにすればいい、と考えたのだ。

　これぐらいなら、多少ボスも目を瞑ってくれるだろう。

　それにこの方法なら、少しでも長く一緒にすごせるので、少しはヒカリの機嫌も良くなるかもしれないとクリアは思っていた。

「ありがと！　それなら、クリアがよかったらお弁当、半分こにして持っていってくれないかな？」

　ヒカリなりのお礼のつもりらしい。

　クリアはもちろん喜んでその案を受けた。

　そして、二人で弁当を二つにわけて詰め直している時、クリアは、もう一つの提案を口にした。

「ヒカリ、もう一つ提案があるんだけど」
「ん～？」

　既にだいぶ機嫌が直っている風に見えるヒカリは、楽しそうに弁当の仕分け作業をしながら返事を返してきた。

「来週、『セインテッド王国』で今年も王女の誕生記念祭があるでしょ？　例年通り、今年もうちの組織の事業の一部から出店するんだよ。そこで、ボクは仕事の合間になっちゃうけど」

　クリアは少し間を空けて、続けた。

　「……よかったら空いた時間で一緒にお祭りを回って——」
「回ります‼︎　何があっても、例え途中で王国の中で事件が起こったとしても回りましょうね♪　約束だからね‼︎」

　ものすごい食いつきで思わずまた顔が近くなったヒカリからそっと顔を離したクリアは、あえて事件が起こったら祭りも無くなるのでは？　とは口には出さなかった。

　——ヒカリもこんなに喜んでくれたのだ、何か起こってもなんとかするぐらいの気概でいよう。

　そう思ったクリアも、もしかしたら少し浮かれていたのかも知れない——。
　

「それでは行ってまいりますクリア代表補佐官殿！」
「はい、行ってらっしゃい。頑張ってね」

　ビシッと敬礼しながら笑顔で言ったヒカリは、クリアの言葉に嬉しそうにしながら、どこへでもドアの扉を開けて元気よく飛び込んで行った。

　二つの場所を結ぶ必要がなくなったどこへでもドアは、まるで一仕事終え、一息ついたかの様にプシューと音を立ててその機能を停止した。

　その証拠に、今ひとりでに閉まっている扉の隙間から見える景色はもう、ヒカリの現場の景色ではなくこの研究室の壁しか見えていなかった。

「……さて、次はボクの番か」

　一仕事終えたどこへでもドアを一撫でして「もう一度よろしくね」と声をかけたクリアは、早速自分の目的地の位置情報を入力していく。

　今回のクリアの任務地は、別名〈迷いの森〉とも呼ばれる、広い森の中にある『トーライ』という地域だった。

　今までのルーツの調査は遺跡や古代文明の跡地などわかりやすい場所を調査してきたが、今回はそういった特別わかりやすいものはないと聞いている。

　要するに、森全体をひっくり返すレベルの調査をしてルーツの場所を洗い出さないと行けないのだ。

　しかし、今回の場所はボスが自ら当たりをつけた場所だ。
　今まで、ボスがあると言った地域からルーツが出てこなかったことは一度たりともない・・・・・・・・。

　故に、どれだけ調査が進んでいない場所でも期待は大きいと言えるだろう。

　……これから少人数で探し回る労力にさえ目を瞑れば、だが。

　今回は『アスラカチミオ』の時の様な大規模な調査隊はおらず、ボスの選定した幹部とその部下数名が先に視察に向かっていると聞いている。
　しかし、彼らが出発した後、一切の報告れんらくは来て無かった。

「さて、今回はどうやってルーツを見つけ出そうか……ん？」

　クリアが位置情報を入力すると、表示されたマップを見て『トーライ』とは別の地名が目に入った。

　……それは、前回任務で出向いた『アスラカチミオ』の名前だった。

　どうやら、『トーライ』は『アスラカチミオ』からそう遠くない場所に存在する場所だったらしい。

　——『アスラカチミオ』から順調に旅をしていたら、もしかしたら。

　ふと、クリアの頭にあの二人の剣士が浮かんだ——。