エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

文字の大きさ
26 / 94

第25話 決意と守るべきもの

しおりを挟む
エレメンタルアームズを使った術式こうげきは凄まじい威力だった。

 それこそ、ライズの【雷撃の大鎌ボルテック・デスサイズ】を軽く凌駕する程に。

 ……が、それはライズまで届く事はなく。

「【消滅の左手イレース・ザ・ハンド】!」

 いつの間にかライズの目の前に現れたクリアの左手に纏った巨大な手を模した【力】——誰にも視認することはできないが——によって、ギリギリのところで吸収されていた。

 ——直撃すれば、ライズさんはもしかしたら跡形もなく消えていたかも知れない。

 クリアは瞬発力と防御力を兼ね備えた【消滅の左手それなりの奥の手】でなければ吸収せなかったかもしれないエレメントの量と術式の情報からそう思わざるを得なかった。

「なんだ、やればできるじゃねぇか! その調子でオレの——」
「ライズさん」

 クリアの一言で、ライズは続けて口にしようとした言葉を失った。

 それほどクリアは冷たく、恐怖心を煽る様な声でライズの名前を呼んだのだ。

 何かが吹っ切れたクリアは振り返ってライズにできる限りの冷ややかな目線を向けて、言い放ってやった。

「何か勘違いしてますけど。あなたの指揮権は既に失われてるんですよ。ゴールドさんがルーツを所持していることが判明した時点で、任務は失敗してるんです。という訳で——」

 一度クリアは言葉を区切ると、ニッコリと笑顔を浮かべて、続ける。

「ゴールドさんの村の人達、今すぐ解放してもらえます?」

 その一言たいどは、幹部であるライズですらごくり、と喉を鳴らすぐらいには恐ろしさを感じされられたらしい。
 それほどまで、クリアは怒りをライズに向けていたのだ。

「……この場所にはもう居ねえんだ。部下共を使って本部に転送した」

 もはやこの場でライズの味方のはずのクリアすら敵に回したと悟ったのだろうか。
 渋々といった感じだが、ライズは白状した。

 ——まあ、ライズさんの部下の姿が見えない時点でそんな気はしてたけど。

 吹っ切れたおかげか、思考が戻ってきていたクリアはそう考えると、ライズにクリアは淡々と伝えながらライズに手を伸ばす。

「そうですか。……ライズさん、もうここにはあなたは必要ないみたいです。なので——」
「なぁ⁉︎ クリアテメェ! こんな事が許されると——」

 自身へと伸ばされた手で察したのか、ライズは最後に反論しようとしたが、その言葉はそれ以上続く事はなかった。

「……逆に許されないとでも? これでも、ボクはあなたより上の立場なんですけどね」

 既にこの場より居なくなったライズに、この言葉は届かないことを知りつつもクリアは独り言の様に呟いた。

 ——ライズさんの部下は、とりあえず可能な限りの権限を使って村人を解放させて……。

 そんな次にすべき事をクリアが考えている時。

 信じられないものを見た、と言いたげな表情でゴールドが問いかけた。

「な、何をしたんスか、アンタ……」

 そういえば、ゴールドには自分の力を詳しくは知られていなかったことを今更になってクリアは思い出した。

「改めまして、ゴールドさん。ボクは『ディールーツ』の代表補佐官ボスの右腕のクリアです。司る力は……【無属性】です」

 クリアの【力】についてそれなりに知っているレッド達ふたりがいるし、もうバラしてもいいかと考えたクリアはゴールドへ改めて自己紹介をした。

「【無属性】って……なんだ? そんなん聞いたことないんスけど……」

 流石にグリーンぐらいの情報のパイプがないゴールドが知ってるはずもないかと、「後はその二人に聞いといてください」と続けたクリアは、ライズの話から推測した「圏外」の文字を表示し続ける端末から、唯一使えるであろう機能を表示させる。

 以前も調査隊に使わせた〈撤退装置〉は、クリアの予想通り圏外とは無縁に使用できるようだった。

 まあ、ライズの部下が村人を連れて本部に戻ってるという話だったので、使えるだろうと思うのは普通かもしれないが。

 とりあえずゴールドを一安心させるべく、クリアは端末をしまいながら説明を始めた。

「ゴールドさん。とりあえずあなたの村の人々は無事ですし、ボクが安全を保証します。……村のこの悲惨な状況は申し訳ないんですけど、それもなんとかボクの権限で復興支援を全力でさせてもらいますので」

 淡々と説明するクリアに、ゴールドはまだ信用できないのか。

「でもアンタもアイツの仲間なんスよね?」と警戒を解いた様子は無いまま返してきた。

 それに対しては、クリアは素直に認めざるを得なかった。

 結局、ボスが何故ライズのような強引で好戦的な者を幹部として取り入れたことに関する疑問はクリアにも理解できていないので、反論できる立場にいないからだ。

 そんな敵意剥き出しのゴールドに、まさかのレッドがフォローを入れた。

「ゴールド、きっと村の人達はクリアに任せておけば大丈夫だ。」

 いきなりの根拠のないレッドの言葉に、当然ゴールドはすぐに納得できるはずもなく。

「なんでそんなことが言えるんスか? アンタ達だってこの人と敵対してるんじゃないんスか?」

 ゴールドのいう事はもっともだ。

 だが、レッドはゴールドの肩に手を置き、諭すように言った。

「クリアとは、まだ二回しか会ってないし手合わせもそれしかしてないけどそれでも戦ってわかった事がある。
コイツは、どんな状況でも人の命を無碍に扱わない。
目的のために邪魔になったとしても、敵味方関係無しに最大限お互いに傷付かない方法を取ろうとする。
さっきまでの戦いもそうだ。途中から動きはおかしくなってたけど、それはきっとその信念が揺らぐようなことがあったからなんだろうな。
その証拠に、ゴールドの術式からライズを守る時はとんでもない速さで前に出て守ってた」

 レッドの長い説明にまだ納得していないのか、食い気味にゴールドはレッドに返す。

「でもその後ライズあいつをどっかに消しちまってたっスよね?」
「理屈はわからないけど、クリアの【力】は人を一度消してまた出せる力もあるみたいなんだよ。あのまま撤退させてたら村の人達へ何かするかもしれないと思っての処置だったんじゃないか? なあ、クリア」
「え、ええ、そんな感じです……」

 予想外に、細かく丁寧にフォローしてくれたレッドにクリアは意図が読めず困惑する。

 しかし、本当に今回はこの三人には助けられてしまった。

 あの三人のどんな状況でも諦めないという強い心を見なければ、今どうなっていたかわからない。

 ——その前向きなところは敵ながら見習わないと。

 あの時迷ってた自分の心にまるで一筋の光のように差し込んで、自分のすべき事を決意するきっかけをくれたのだから。

だから、クリアはこう思った。

 ——きっと、こういう周りに良い影響を与える存在を英雄ヒーローと言うんだろうな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...