エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

文字の大きさ
29 / 94

第28話 祭りの前日談2 No Sense

しおりを挟む
 「生誕祭の昼の城下街での祭りで彼女をエスコートする為の服装等の準備はできているのか?」
「……はい?」

 全く予想していなかった突然ガウスの言葉は、クリアの思考を一瞬フリーズさせた。

 そのせいでクリアはつい裏返った声で返してしまったのだった。

 そして、そんなクリアにガウスはとある書類をヒラヒラとなびかせて見せてきた。

 上部に大きく『有給休暇申請書』と書かれたそれは、クリアにとってその下の記入欄を見なくても誰が出したものか状況的に即行き着いてしまうわけで。

 あまりに急な事で、クリアは顔から火を吹きそうになる——実際できるがこれは比喩である——。

「な……それ……ボスが……⁉︎」

 ——何でそれをボスが持っているんですか⁉︎

 そう言おうとしてうまく発声できなかったクリアに、クリアの言いたいことを理解したらしいガウスが——相当珍しく——わかりやすく笑みを浮かべると、理由の項目を指差した。

 そこにはあの子ヒカリの可愛らしい字で「クリア代表補佐官の当日の補助サポートとしてついて行くので本業をお休みします」と書かれていた。

 ……ド直球ストレートで明後日の方向に投げてきたのが実にヒカリらしい。

 この理由だと『有給休暇申請』じゃなくて上司クリアが出さなければならない『引き抜き申請』が必要になってしまう。

 ——そりゃボクが書類申請しつたえてないのにクリアボクの名前が書いてあったらボスの所まで確認に回ってくるよなぁ……。

 そんな事を考えながら、ガウスの意図をようやく汲み取ったクリアは、自分の服の中から出かける為の服を記憶から検索する。

 しかし、クリアの頭に思い浮かんでくるのは普段訓練するために用意してある使い捨ての服か、公の場でボスの補佐としている際の仕事着、もしくは調査の時に着る制服ぐらいしかないことを確認した。

 ……せめてヒカリに恥をかかせないような格好をすべく、服を調達するために明日の午前中は買い物に出かけようと決めたのだった。
 

 そして、時は現在に戻るのだ——。

「やっぱりどういう服を選んだらいいか全然わからないや……」

 そもそも自分でお出かけ用のそういった服を選んだ経験が無いクリアがどれだけ悩んでも、早々に答えを出せるはずもなく。

 かれこれ既に三十分ぐらいは店の前でうろうろしていたクリアは、若干諦めが入り、マネキンのコーデ一式を購入しようと店員に声をかけようとした時だった。

「あらクリアくん、まさかその服装でヒカリちゃんとデートしようなんて言わないわよねぇ?」

 後ろからウェーブがかったバラ色のロングヘアーのクリアより背の高い、クリアから見てもオシャレだと分かる服装に身を包んだ、まるで見る者全てを虜にしそうなスタイルの良い女性が突然声をかけてきたのだった。

「こんにちはロザリアさん。やっぱりこれじゃあダメ……って、デートって!」
「あらぁ、男女でお祭り見て回るんでしょう? それはもうデートとしか言わないわよぉ」

 うふふ、と笑いながら話すロザリアに、まともに返せなくなったクリアはまた自分の顔が熱くなっていくのがわかった。

 ——やっぱり側から見たらそう思われるのかな?

「というか! なんでお祭りのこと知っているんですか⁉︎」

 そうクリアが聞けば、ロザリアは手を口に当てふふっと笑いながら答える。

「そんなのぉ、アタシがヒカリちゃんの上司だからに決まってるじゃない。あの申請書見た時、ほんと笑わないようにこらえるの大変だったんだからぁ。しかも彼女、めちゃくちゃ上機嫌で提出してきたのよ? これで気付かなかったらそっちの方が問題よぉ」

 そう、このロザリア・リラストはヒカリの所属する表事業の調査部門の一部隊の隊長であり、公表はされていないがライズと同じく組織の幹部の一人である。

 ライズと違ってかなり部下思いで良識がある人物で、その美貌と人当たりの良さから『お姉様』と崇め慕う者も多く、ファンクラブがあるのだとか。

 そんな人が何故ディールーツのファッション部門ではなく調査部門の所属なのかは、表側事業のディールーツ社員達の間で不思議とされている。

「……まあ、デートかどうかは置いといて。ロザリアさんはなんでここにいるんですか?」
「今日、本当は非番だったんだけどぉ。あなたの服を見繕ってあげて欲しいって頼まれたのよぉ。あ、代金は全部組織で領収書切っていいとも言われてるわぁ」

 ——十中八九お父さんボスだ。

 クリアは即確信し、心の中で感謝をした。

「正直すごく助かります。多忙な中せっかくの休みなのに来て下さって」
「別にいいわよぉ、そんなにかしこまらなくても。ヒカリちゃんいつも一生懸命頑張ってくれてるし、彼女にいい思い出をプレゼントしてあげたいって気持ちもあるしね」

 パチっとウインクしたロザリアは、本当に頼り甲斐のあるお姉さんで、クリアはファンクラブが作られる理由もわかる気がした。

「あ、でも、服の代金は自分で出します」
「あら、どうして? せっかくなんだし甘えたら?」
「こういう、楽しむための服を買うのって初めてで……。せっかくだし、それならちゃんと自分で用意したいんです。……変、ですかね?」

 言ってて照れくさくなったクリアは頬をかいたが、ロザリアは笑う事なく。

「いいえ、すてきな考えだと思うわ。さ、そしたら早く選んでしまいましょ! お姉さんにおまかせよ!」

 ニコっとすてきな笑顔でクリアの考えを肯定してくれたのだった——。
 

「とりあえず、明日はこれでよしね。それに、何種類か揃えたし、それで少しファッションの勉強をしたらいいと思うわ」
「本当、何から何までありがとうございました!」

 数時間後、色々な店を回ったクリアの手には大量の服が入った紙袋が大量に握られていた。

「うふふ、お礼はそうねぇ……。ヒカリちゃんをちゃんと楽しませてあげてくれたらそれでいいわぁ。それじゃ、アタシはここで失礼させてもらうわね」
「え、丁度お昼時ですし、何か食べていきませんか? 服のお礼もやっぱりちゃんとしたいですし!」
「うふ、それはまた今度にさせてもらうわね。人と会う約束があるのよぉ。じゃあねぇ!」

 それだけ言うと、ロザリアは小走りで手を振りながら人混みの中に消えていった。

「まあ、この大量の服を持ったままだとあれだし、ボクも戻ってからお昼でいいか……」

 残されたクリアは一人呟くと、自室へ戻るためなるべく人気の少ない場所を探すために移動する。

 ——荷物のわりに移動の際に妙に足取りが軽いのは、きっときのせいじゃ無いはずだ。

 そんな事を思いながら、クリアはどこからでもドアを召喚し、ショッピングモールを後にしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...