エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

文字の大きさ
34 / 94

第33話 迫る悪意

しおりを挟む
 クリアのポケットに入れていた端末から、いつも聴き慣れた呼び出しの音が鳴った。
 
 普段なら特別何も感じることのないその音は、今だけは気分を害する音としてクリアの耳を通して心を刺激してくる。
 
 まあ、時刻的には妥当なところなのだが。
 
 ——ついにきてしまったかぁ……。
 
 クリアが名残惜しい気持ちで内心ため息をつきながら音源たんまつを手に取れば、画面に表示された発信主は予想通りと言うべきか。
 
 『ディールーツ』の出店の責任者の名前だった。
 
「ごめんね、仕事の連絡が来たから少し待っててくれるかい?」
 
 楽しいところだったが、元々自分の本来のすべきことだと頭の中を仕事モードに切り替えたクリアは二人に着信の事を伝えると音声が聞き取りやすそうな裏路地に移動して着信に出た。
 
「お待たせしてしまってすみません、クリアです。……ええ、わかりました。すぐそちらに向かうようにしますね」
 
 連絡の内容は言わずもがな、在庫切れの報告だ。
 
 この報告が来た以上、クリアは一度組織の在庫の保管場所で品物を回収した後、組織の出店に戻らなければならない。
 
 移動自体は【どこからでもドア移動用術式】があるので問題無いし時間もそうかからないだろうが、その作業の間ヒカリとミヤにどうしてもらうかが問題だった。
 
 ——せっかく楽しんでもらっている最中だし……。
 
 特にミヤは来年以降また城下街の祭りに参加できるかわからない。
 
「女の子を二人だけにするのは少し不安だけど……。この国治安の良さならちょっとの間なら大丈夫かな?」
『クリアさん?』
 
 通話中なのにも関わらず、声に出してしまっていたクリアの言葉に、連絡相手から怪訝そうな声で名を呼ばれたクリアは慌てて返事をする。
 
「あ、いやぁ何でも無いですよ! あはは……。それでは手筈通りに動きますので少し待っててくださいね!」
 
 それだけ早口で言うと、クリアは一方的に返事を待たずに通信を切ってしまった。
 
 元々、クリアはヒカリには仕事の連絡が来た場合、端末でその後の動きを伝え合う事を取り決めている。
 
 ——まあ、ちゃちゃっと片付けて早めに合流できるよう頑張ろう。
 
 後ろ髪を引かれる思いでクリアはヒカリに音声通信をかけ、しばらく連絡するまでは二人で回っててもらうよう伝える。
 
 ヒカリ達から了解の返事を受けたクリアは、人目につかない様もう少しだけ裏路地の奥へ移動すると、その場から一度姿を消したのだった。
 
 
 ——……あれ、ヒカリ通信に出ないな。今は手が離せないのかな?
 
 あれから本部と店を思ったよりも往復する羽目になったクリアは、ようやく予定より長引いた仕事さぎょうから解放されて組織の出店から休憩がてらヒカリの端末に連絡を入れたのだが。
 
 いつもならワンコール以内でクリアの通信に出ているはずのヒカリが、珍しく応答しない。
 
 端末からは着信を受けている呼出の音が流れているので、通信自体は端末まで届いてはず——つまり、圏外の場所にいたりヒカリの端末が壊れているという訳ではない——なのだが。
 
 クリアは、仕方ないのでクリアの——正確には上級役職の——端末についている機能の一つ、〈強制呼出機能〉を使用することにした。
 
 この機能は、受信相手側の端末を強制的に通信状態にできる緊急用の機能である。
 ……本当は一度切って連絡を待つのもよかったのだが、クリアは不意になんともいえない嫌な予感を覚えたのがこの機能を使う事を後押しした。
 
「もしもしヒカリ? 中々繋がらないから無理矢理繋げちゃったけど今忙しいのかな?」
『…………』
 
 クリアの問いに、ヒカリ側から返事は返ってこない。
 
 微かに声以外の音が聞こえている事から、問題なく通信自体は繋がっていることはわかっているが、そもそも聞こえるべき音声すら聞き取れないのがよりクリアの嫌な予感に拍車をかけることになった。
 
 そう、あれだけ盛り上がっている祭りの参加客の声が一切聞こえてこないのだ。
 
 つまり、少なくともヒカリの端末は今、人気のない場所でクリアからの通信を受けているという状況であることを裏付けていた。
 
「もしもし⁉︎ ヒカリ、返事を返して‼︎ ヒカリ‼︎」
 『…………』
 
 突然出店の中で叫ぶクリアの声に、周りの人々は「何事?」とクリアに視線を集め始めた。
 
 対照的に通信相手からは一向に返事が届かない。
 
 ——二人に何かあったんだ!
 
 嫌な予感が確信に変わったクリアは、少しでも何か手がかりになる事はないかとヒカリの端末が拾う音声を拾うために出店の裏手にある裏路地へ走り出す。
 
 裏路地に入ったクリアは、さらに自分の端末に搭載されている機能の一つを使用する。
 
 その機能の名は〈強制拡声モード〉という、通信相手の端末の集音機能と発音機能の音量をこちら側から操作できるという機能だった。
 
 今もし最悪の事態ならば、もしかしたらヒカリとミヤの声を拾う、またはこちらの声を二人に届ける事かできる可能性が上がるとクリアは考えたのだ。
 
 まず状況把握のために相手側に気付かれないようにクリアは呼吸を止め、端末から発される音に神経を全集中させる。
 
 すると、わずかに向こうからは木製の車輪が石路を転がっている音が聞こえた。
 
 次に聞こえたのは、聞き覚えのない男の声と、それに対して口を塞がれているのか言葉にならない『んー!』というヒカリの声だった。
 
 その二つの情報で少なくともヒカリが——ミヤからの連絡もないのでほぼ間違いなくミヤもだろうが——男に捕まって車輪の付いた何か……恐らく荷台か何かに乗せられて移動しているのだろうことがわかった。
 
 ——しかし、この大勢の人がいる上国警備が厳重な中でどうやって二人を……?
 
 そもそも怪しげな人物なら検閲に引っかかってこの国自体に侵入することはできないはずにも関わらずだ。
 
 端末の向こう側では、ずっとヒカリが言葉にならない声を上げ続けている。
 
 誰かに気付いてもらえるように頑張ってくれているのだろう。
 
 そんなヒカリの声が男の琴線に触れたのか。
 
『このぉ! 少しは静かにしないか女ぁ‼︎』
『んうっ‼︎』
 
 端末から聞こえたのは男の怒号と何かで人を叩いた時に聞こえる音、……そしてヒカリのうめき声。
 
 ——……は?
 
 それはクリアの理性を失わせるには十分すぎる要素だった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...