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第32話 お祭りと出来のいい妹
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無事ヒカリとミヤを連れて、休憩所の広場にいた人々の注目をあつめながら祭りを回る人々の流れに合流した三人は、ミヤをクリアとヒカリが挟む様に手を繋いで歩いていた。
何故この並びになったかと言えば。
ヒカリ曰く。
「さっきは咄嗟に手を取っちゃったけど、まだ手を繋いで歩くのは心の準備ができてないから無理~!」
……とのことで。
側から見れば仲のいい兄姉妹に見える三人は、とりあえず『ディールーツ』の区画とは逆の方向の流れで回っていた。
初めて城下街の祭りを回るミヤは、楽しみでしょうがないのか先程からずっとそわそわしているのが繋いだ手から伝わって来るのをクリアは感じていた。
ただ、今の状況に一つ問題があった。
それは、今の歩いている位置だと三人……特にミヤが身長の関係でまともに出店を見る事ができないのだ。
一応出店側からヒカリ・ミヤ、そしてクリアの順で歩いているが、いかんせん人が多すぎて中々出店のすぐ近くで見て回れそうなポジションに着くことができないのだ。
加えて出店の商品を見る為に並んでいる人々がより歩きながら出店を見ることを阻害してしまっていた。
例年通りならもう少しまともに遠目からでも見て回れたものだが、良いか悪いか王女の成人の祭りということで店を出す側も祭りも回る側も相当高い期待を胸に集まった結果、背の低い人に優しくない状況が出来上がってしまったという訳である。
それなりに背が高いクリアですら店の看板の名前でどんな店が並んでいるか把握できる程度でしかない。
看板の名前と客の屯している人数で回る店を決めてもいいのだが、ヒカリとミヤが——失礼ではあるが——楽しめそうな商品が無い店だったら……とやはり躊躇してしまっていたクリアはどうすればちゃんと楽しんでもらえるか考えながら歩いていた。
——このままでは、ただ歩くだけになってしまう……。
せっかくわざわざ不慣れな事に挑戦してめかし込んで来てくれたヒカリと、初めての城下街の祭りに参加するミヤにそれでは申し訳なさ過ぎる。
先程「何もリサーチせずに来たけどまあ流れに身を任せるか」と考えた自分を過去に戻れるなら最速で叱りつけたいとクリアは過去の自分を恨めしく思う。
このままでは、全力でエスコートするどころでは無いのだ。
自責と後悔の念に囚われているクリアの思考を現実に引き戻したのは、恐らく今一番楽しめていない妹の声だった。
「お兄様お兄様~」
握っていたクリアの手を離し、クリアの服の袖をくいくいと引っ張って呼びかけたミヤにクリアが視線を移してミヤの行動に応えるように声をかける。
「どうしたの? ……ごめん、やっぱり何も見えないからつまらないよね……?」
「そうですねぇ、このままだとただ仲良く手を繋いでお散歩するだけになってしまいますねぇ」
ミヤからの正直な感想はクリアの後悔の念を抱いていた心に思い切り突き刺さる。
そんな言葉に何も言い返せないクリアは、「ごめんね……本当不甲斐ない……」と謝ることしかできなかった。
そんな不甲斐ない兄を救世主のごとく救ったのは、ミヤの次の言葉だった。
「そ・こ・で、そんな不甲斐ないお兄様に提案です。私と取引しませんか?」
「わあ、これでしっかりとお店や街の様子が見えますね~♪」
クリアが片手で抱えたことでより高い視点から周りを見ることができるようになったミヤは、ご満悦の笑みを浮かべながら周囲の様子を見ていた。
そして、ミヤがクリアの手の中に移動した事で先程一度はヒカリに拒否された〈手を繋ぐ〉という行為を〈はぐれないように〉という名目で許可されたことで空いたもう片方の手はヒカリの手と繋がれるという状況になっていた。
——もしや、こうなることまで考えて提案してくれたのかな。……だとしたら本当に優しい出来のいい妹だ、ありがたい……!
「ヒカリ、大丈夫? もし嫌だったら手じゃなくても服のどこかを掴んでもいいんだよ?」
ミヤへの感謝を心に述べながら、もう一度ヒカリに無理はしてほしく無いのでクリアは問いかけた。
そんなクリアの言葉にヒカリは頬を少し赤らめながら返す。
「……ううん、大丈夫。まだ少し恥ずかしいけど、嫌なわけじゃないから」
そんなヒカリの返事に、クリアは笑顔で「そっか」と返した。
しかし、当然クリアも内心は激しく動揺が止まらない状態だった。
なんせ、ヒカリどころか妹であるミヤ以外の女性と手を繋いだことなど今までまともに無かったのだ。
エスコートするため何とか平然を装ってはいるがどうしても意識してしまい心臓がうるさいと感じる。
——できればミヤにこのうるさい鼓動が伝わってません様に……。
そもそも何故この状況が作られたのか。
それは、ミヤがクリアに持ちかけた取引の結果である。
ミヤの言う取引とは、ミヤが持っていた女性受けの良さそうな店にチェックが印されていたパンフレット——どこで手に入れたのかは教えてもらえなかった——をクリアに渡す代わりに、ミヤを抱きかかえることだった。
当然お互いに利点しかないその取引を即クリアが受けたために今の状況に至るのだ。
ミヤからもらったパンフレットを即頭に叩き込んだクリアは、ヒカリの希望の店を訪ねて、無事彼女の希望する店を回り始めることができていた。
ミヤのリストアップしてくれた店はどこも二人に好評で、クリアも内心ほっとしていた。
食べ歩きに適した飲食店や、様々なアクセサリーを取り扱う店。
面白いところでは、射的屋——威力を格段に低く設定された【風の弾丸】を誰でも打てる銃のおもちゃで景品を狙って撃ち落とすゲームのできる店——では、ヒカリが意外な才能を見せてくれた。
調子良く色々な景品を見事に撃ち落としたヒカリは、再びやり過ぎたと思ったのか、お淑やかさを取り戻す為ミヤが欲しがったぬいぐるみや後で少しつまめそうな小さなお菓子以外は店に返していたが。
その際の景品を根こそぎ持っていかれるのではという恐怖と返却に対しての感謝の気持ちが入り混じった店主の顔と周りの人々が腕前を賞賛する姿は面白かったなとクリアは思いながらその光景を眺めていた。
「いや、うふふ、ど、どうもどうも」
お淑やかさを保ちたいのだが素直に賞賛を受けて嬉しいのか、少しおかしな言葉使いになりながらクリア達の元に戻ってきたヒカリと、満足そうにぬいぐるみを抱きしめるミヤを連れて次の店に行こうとした時だった。
何故この並びになったかと言えば。
ヒカリ曰く。
「さっきは咄嗟に手を取っちゃったけど、まだ手を繋いで歩くのは心の準備ができてないから無理~!」
……とのことで。
側から見れば仲のいい兄姉妹に見える三人は、とりあえず『ディールーツ』の区画とは逆の方向の流れで回っていた。
初めて城下街の祭りを回るミヤは、楽しみでしょうがないのか先程からずっとそわそわしているのが繋いだ手から伝わって来るのをクリアは感じていた。
ただ、今の状況に一つ問題があった。
それは、今の歩いている位置だと三人……特にミヤが身長の関係でまともに出店を見る事ができないのだ。
一応出店側からヒカリ・ミヤ、そしてクリアの順で歩いているが、いかんせん人が多すぎて中々出店のすぐ近くで見て回れそうなポジションに着くことができないのだ。
加えて出店の商品を見る為に並んでいる人々がより歩きながら出店を見ることを阻害してしまっていた。
例年通りならもう少しまともに遠目からでも見て回れたものだが、良いか悪いか王女の成人の祭りということで店を出す側も祭りも回る側も相当高い期待を胸に集まった結果、背の低い人に優しくない状況が出来上がってしまったという訳である。
それなりに背が高いクリアですら店の看板の名前でどんな店が並んでいるか把握できる程度でしかない。
看板の名前と客の屯している人数で回る店を決めてもいいのだが、ヒカリとミヤが——失礼ではあるが——楽しめそうな商品が無い店だったら……とやはり躊躇してしまっていたクリアはどうすればちゃんと楽しんでもらえるか考えながら歩いていた。
——このままでは、ただ歩くだけになってしまう……。
せっかくわざわざ不慣れな事に挑戦してめかし込んで来てくれたヒカリと、初めての城下街の祭りに参加するミヤにそれでは申し訳なさ過ぎる。
先程「何もリサーチせずに来たけどまあ流れに身を任せるか」と考えた自分を過去に戻れるなら最速で叱りつけたいとクリアは過去の自分を恨めしく思う。
このままでは、全力でエスコートするどころでは無いのだ。
自責と後悔の念に囚われているクリアの思考を現実に引き戻したのは、恐らく今一番楽しめていない妹の声だった。
「お兄様お兄様~」
握っていたクリアの手を離し、クリアの服の袖をくいくいと引っ張って呼びかけたミヤにクリアが視線を移してミヤの行動に応えるように声をかける。
「どうしたの? ……ごめん、やっぱり何も見えないからつまらないよね……?」
「そうですねぇ、このままだとただ仲良く手を繋いでお散歩するだけになってしまいますねぇ」
ミヤからの正直な感想はクリアの後悔の念を抱いていた心に思い切り突き刺さる。
そんな言葉に何も言い返せないクリアは、「ごめんね……本当不甲斐ない……」と謝ることしかできなかった。
そんな不甲斐ない兄を救世主のごとく救ったのは、ミヤの次の言葉だった。
「そ・こ・で、そんな不甲斐ないお兄様に提案です。私と取引しませんか?」
「わあ、これでしっかりとお店や街の様子が見えますね~♪」
クリアが片手で抱えたことでより高い視点から周りを見ることができるようになったミヤは、ご満悦の笑みを浮かべながら周囲の様子を見ていた。
そして、ミヤがクリアの手の中に移動した事で先程一度はヒカリに拒否された〈手を繋ぐ〉という行為を〈はぐれないように〉という名目で許可されたことで空いたもう片方の手はヒカリの手と繋がれるという状況になっていた。
——もしや、こうなることまで考えて提案してくれたのかな。……だとしたら本当に優しい出来のいい妹だ、ありがたい……!
「ヒカリ、大丈夫? もし嫌だったら手じゃなくても服のどこかを掴んでもいいんだよ?」
ミヤへの感謝を心に述べながら、もう一度ヒカリに無理はしてほしく無いのでクリアは問いかけた。
そんなクリアの言葉にヒカリは頬を少し赤らめながら返す。
「……ううん、大丈夫。まだ少し恥ずかしいけど、嫌なわけじゃないから」
そんなヒカリの返事に、クリアは笑顔で「そっか」と返した。
しかし、当然クリアも内心は激しく動揺が止まらない状態だった。
なんせ、ヒカリどころか妹であるミヤ以外の女性と手を繋いだことなど今までまともに無かったのだ。
エスコートするため何とか平然を装ってはいるがどうしても意識してしまい心臓がうるさいと感じる。
——できればミヤにこのうるさい鼓動が伝わってません様に……。
そもそも何故この状況が作られたのか。
それは、ミヤがクリアに持ちかけた取引の結果である。
ミヤの言う取引とは、ミヤが持っていた女性受けの良さそうな店にチェックが印されていたパンフレット——どこで手に入れたのかは教えてもらえなかった——をクリアに渡す代わりに、ミヤを抱きかかえることだった。
当然お互いに利点しかないその取引を即クリアが受けたために今の状況に至るのだ。
ミヤからもらったパンフレットを即頭に叩き込んだクリアは、ヒカリの希望の店を訪ねて、無事彼女の希望する店を回り始めることができていた。
ミヤのリストアップしてくれた店はどこも二人に好評で、クリアも内心ほっとしていた。
食べ歩きに適した飲食店や、様々なアクセサリーを取り扱う店。
面白いところでは、射的屋——威力を格段に低く設定された【風の弾丸】を誰でも打てる銃のおもちゃで景品を狙って撃ち落とすゲームのできる店——では、ヒカリが意外な才能を見せてくれた。
調子良く色々な景品を見事に撃ち落としたヒカリは、再びやり過ぎたと思ったのか、お淑やかさを取り戻す為ミヤが欲しがったぬいぐるみや後で少しつまめそうな小さなお菓子以外は店に返していたが。
その際の景品を根こそぎ持っていかれるのではという恐怖と返却に対しての感謝の気持ちが入り混じった店主の顔と周りの人々が腕前を賞賛する姿は面白かったなとクリアは思いながらその光景を眺めていた。
「いや、うふふ、ど、どうもどうも」
お淑やかさを保ちたいのだが素直に賞賛を受けて嬉しいのか、少しおかしな言葉使いになりながらクリア達の元に戻ってきたヒカリと、満足そうにぬいぐるみを抱きしめるミヤを連れて次の店に行こうとした時だった。
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