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第36話 新たな能力
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「何⁉︎ あれだけの王国騎士を相手にどうやってここまで追いかけて来やがったんだ⁉︎」
確実に足止めできていたと思っていたらしい男がレッドの存在に驚き予想外と言わんばかりに声を上げた。
そんな男に、相変わらずの素直さでレッドは答える。
「他の騎士らは仲間に任せてきたんだよ! 諦めてその娘を解放しろ!」
レッド達の一連の話から察するに、ローブの人物……恐らく王女と何らかの事情で共に居合わせたレッド達に、警備に当たっていた王国騎士をけしかけて誘拐犯は王女を保護すると言う名目でここまで攫ってきたという感じなのだろうとクリアは推測する。
——これはまた、話が少々ややこしくなってきたな……。
状況的にレッド一行は王女——レッド達は彼女を王女と知っていたかは分からないが——を無断で連れ回した挙句、王国騎士に刃向かった犯罪者として扱われているのだろう。
何とかするならレッドが現れた今がベストタイミングだが、彼に加担したとなればこちらも犯罪者としての疑惑をかけられるかもしれない。
証言者に成りうる人々は荷車にたくさんいるが、最悪王国側が失態を隠蔽する可能性も——あの『賢王』と呼ばれる王がそんな判断を下す事はほぼ無いに等しいが、家臣が握りつぶす可能性は大いにあり得る——なくは無いのだ。
——……まァいいか。ヒカリとミヤが味わわされた恐怖と痛み、そしてボクらの大事な時間を台無しにしてくれたお礼ができるなら、後処理がどれほど面倒でも……関係ないよね。
珍しく好戦的な選択をしたクリアは、すっとその場から飛び降りレッドと荷車を挟み込む形になるように着地した。
突如降って現れたクリアに、レッドを含めた五人は目を奪われる。
その隙をクリアは逃さず、すかさず右手を手前に伸ばした。
——瞬間、王女を担いでいた男は思い切り顔面——といっても兜の上からだが——を殴り飛ばされた様に吹き飛び、宙に放り出された王女は落下する。
しかし、ローブをはためかせながら多少高度は下がったが、急に宙に留まり王女はそのままレッドの方へ移動して行った。
吹き飛ばされた男は兜を顔に叩きつけられ、受け身も取れず石路に体も叩きつけられた痛みで声を上げることも動くこともままならない様だ。
奇怪な現象に続いて今度は突然荷車が宙に浮き、クリアの背後に移動した。
まあ、側からみればまるで何が起きたのか全くわからない状況だろう。
……この現象を起こしたクリア本人以外には。
【不可視疑の一部】。
クリアがそう名付けたそれは、【無属性】の【力】を『アンシャネリア』のザ・クロとの戦闘でヒントを得たクリアが以前より、より力のコントロールが正確にできるようになった事で守ることだけではなく、完全に体の一部の様に攻撃したり人や物を掴んだりと多種多様に扱えるようになった新たなクリアの能力だ。
先程誘拐犯が吹き飛んだのも、王女をキャッチしてレッドの方へ移動させたのも、そして荷車を移動させた事すらこの能力のおかげである。
体のどこからでも出すことができ、他の人からは視認することのできないこの体のような能力は、余程気配を察知する能力に長けた者でなければ存在すら気付くことはない。
——本当に非常に便利な能力だ。
今の状況を簡単にひっくり返され、何が起きたのか理解できていないようで。
残りの三人はもはやその光景を呆然と眺めるしか無いようだった。
自分の能力に感謝しつつ、レッドに目配せで王女を受け取るように促したクリアは、意図を理解したレッドの広げた手に王女を託した。
——さて、この三人はどォしてやろうか?
今のクリアの頭の中にあるのは、ヒカリやミヤ、そして他の被害者の祭りを楽しむ時間を奪い、恐怖を与えて、あまつさえヒカリに——もしかしたら攫う際に他の人にも——危害を加えたこの三人にどのような報復をするかという一点のみだった。
——死なない程度に、しかし死んだ方がマシだと思えるぐらいの苦痛を、こいつらに与え……え?
……そう、その一点のみの筈だったのだが。
まるで先程までの自分が別人のように思えるほど、クリアの頭の中は急速に冷静になつていく。
——この人達は許せない。そう……許せない、けど。ボクが苦痛を味わわせていったいなにになるというんだ?
今は状況の解決とヒカリとミヤ達の心のケアが優先だろ、ボクのバカ野郎!
クリアは自分でも、何故今のような思考になったのかわからなかった。
ヒカリが男に危害を加えられた時、何かこう、口では言い表せないようなどす黒い得体の知れない感情が湧き上がってきたのだ。
クリアだって頭にくることはあるが、大切な人を傷つけられた時に今回のような独りよがりな自己満足の報復をしようと考えるようなことはまずなかった。
傷つけられた本人に頼られたならともかく、優先すべきことを履き違えてしまいそうになったことにクリアは戸惑いを隠せなかった。
「クリア?」
不意に王女を抱えたまま不思議そうに首を傾げて自分の名を呼んだレッドの声に意識を現実に引き戻されたクリアは、ひとまず完全に戦意喪失している三人を 拘束しようと思った……のだが——。
——しまった、今日は商品運搬用の移動術式用のエレメントしか保持してないじゃないか!
一般的に認知されている人の身柄を拘束する術式は、木属性の縄を生成して対象を捕縛する【バインド】や、金属性の鎖を生成して同じく対象を捕縛する【チェーンバインド】などが挙げられるのだが。
祭りを楽しみにして浮かれていたのか、『セインテッド王国』の治安の良さを信頼したのか——事実今まではこのような大規模な事件は起きていない国だった——あるいはその両方か。
クリアは移動術式に使用するあのエレメント以外保持していないのだった……。
確実に足止めできていたと思っていたらしい男がレッドの存在に驚き予想外と言わんばかりに声を上げた。
そんな男に、相変わらずの素直さでレッドは答える。
「他の騎士らは仲間に任せてきたんだよ! 諦めてその娘を解放しろ!」
レッド達の一連の話から察するに、ローブの人物……恐らく王女と何らかの事情で共に居合わせたレッド達に、警備に当たっていた王国騎士をけしかけて誘拐犯は王女を保護すると言う名目でここまで攫ってきたという感じなのだろうとクリアは推測する。
——これはまた、話が少々ややこしくなってきたな……。
状況的にレッド一行は王女——レッド達は彼女を王女と知っていたかは分からないが——を無断で連れ回した挙句、王国騎士に刃向かった犯罪者として扱われているのだろう。
何とかするならレッドが現れた今がベストタイミングだが、彼に加担したとなればこちらも犯罪者としての疑惑をかけられるかもしれない。
証言者に成りうる人々は荷車にたくさんいるが、最悪王国側が失態を隠蔽する可能性も——あの『賢王』と呼ばれる王がそんな判断を下す事はほぼ無いに等しいが、家臣が握りつぶす可能性は大いにあり得る——なくは無いのだ。
——……まァいいか。ヒカリとミヤが味わわされた恐怖と痛み、そしてボクらの大事な時間を台無しにしてくれたお礼ができるなら、後処理がどれほど面倒でも……関係ないよね。
珍しく好戦的な選択をしたクリアは、すっとその場から飛び降りレッドと荷車を挟み込む形になるように着地した。
突如降って現れたクリアに、レッドを含めた五人は目を奪われる。
その隙をクリアは逃さず、すかさず右手を手前に伸ばした。
——瞬間、王女を担いでいた男は思い切り顔面——といっても兜の上からだが——を殴り飛ばされた様に吹き飛び、宙に放り出された王女は落下する。
しかし、ローブをはためかせながら多少高度は下がったが、急に宙に留まり王女はそのままレッドの方へ移動して行った。
吹き飛ばされた男は兜を顔に叩きつけられ、受け身も取れず石路に体も叩きつけられた痛みで声を上げることも動くこともままならない様だ。
奇怪な現象に続いて今度は突然荷車が宙に浮き、クリアの背後に移動した。
まあ、側からみればまるで何が起きたのか全くわからない状況だろう。
……この現象を起こしたクリア本人以外には。
【不可視疑の一部】。
クリアがそう名付けたそれは、【無属性】の【力】を『アンシャネリア』のザ・クロとの戦闘でヒントを得たクリアが以前より、より力のコントロールが正確にできるようになった事で守ることだけではなく、完全に体の一部の様に攻撃したり人や物を掴んだりと多種多様に扱えるようになった新たなクリアの能力だ。
先程誘拐犯が吹き飛んだのも、王女をキャッチしてレッドの方へ移動させたのも、そして荷車を移動させた事すらこの能力のおかげである。
体のどこからでも出すことができ、他の人からは視認することのできないこの体のような能力は、余程気配を察知する能力に長けた者でなければ存在すら気付くことはない。
——本当に非常に便利な能力だ。
今の状況を簡単にひっくり返され、何が起きたのか理解できていないようで。
残りの三人はもはやその光景を呆然と眺めるしか無いようだった。
自分の能力に感謝しつつ、レッドに目配せで王女を受け取るように促したクリアは、意図を理解したレッドの広げた手に王女を託した。
——さて、この三人はどォしてやろうか?
今のクリアの頭の中にあるのは、ヒカリやミヤ、そして他の被害者の祭りを楽しむ時間を奪い、恐怖を与えて、あまつさえヒカリに——もしかしたら攫う際に他の人にも——危害を加えたこの三人にどのような報復をするかという一点のみだった。
——死なない程度に、しかし死んだ方がマシだと思えるぐらいの苦痛を、こいつらに与え……え?
……そう、その一点のみの筈だったのだが。
まるで先程までの自分が別人のように思えるほど、クリアの頭の中は急速に冷静になつていく。
——この人達は許せない。そう……許せない、けど。ボクが苦痛を味わわせていったいなにになるというんだ?
今は状況の解決とヒカリとミヤ達の心のケアが優先だろ、ボクのバカ野郎!
クリアは自分でも、何故今のような思考になったのかわからなかった。
ヒカリが男に危害を加えられた時、何かこう、口では言い表せないようなどす黒い得体の知れない感情が湧き上がってきたのだ。
クリアだって頭にくることはあるが、大切な人を傷つけられた時に今回のような独りよがりな自己満足の報復をしようと考えるようなことはまずなかった。
傷つけられた本人に頼られたならともかく、優先すべきことを履き違えてしまいそうになったことにクリアは戸惑いを隠せなかった。
「クリア?」
不意に王女を抱えたまま不思議そうに首を傾げて自分の名を呼んだレッドの声に意識を現実に引き戻されたクリアは、ひとまず完全に戦意喪失している三人を 拘束しようと思った……のだが——。
——しまった、今日は商品運搬用の移動術式用のエレメントしか保持してないじゃないか!
一般的に認知されている人の身柄を拘束する術式は、木属性の縄を生成して対象を捕縛する【バインド】や、金属性の鎖を生成して同じく対象を捕縛する【チェーンバインド】などが挙げられるのだが。
祭りを楽しみにして浮かれていたのか、『セインテッド王国』の治安の良さを信頼したのか——事実今まではこのような大規模な事件は起きていない国だった——あるいはその両方か。
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