エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

文字の大きさ
37 / 94

第36話 新たな能力

しおりを挟む
「何⁉︎ あれだけの王国騎士を相手にどうやってここまで追いかけて来やがったんだ⁉︎」
 
 確実に足止めできていたと思っていたらしい男がレッドの存在に驚き予想外と言わんばかりに声を上げた。
 
 そんな男に、相変わらずの素直さでレッドは答える。
 
「他の騎士やつらは仲間に任せてきたんだよ! 諦めてその娘を解放しろ!」
 
 レッド達の一連の話から察するに、ローブの人物……恐らく王女と何らかの事情で共に居合わせたレッド達に、警備に当たっていた王国騎士をけしかけて誘拐犯は王女を保護すると言う名目でここまで攫ってきたという感じなのだろうとクリアは推測する。
 
 ——これはまた、話が少々ややこしくなってきたな……。
 
 状況的にレッド一行は王女——レッド達は彼女を王女と知っていたかは分からないが——を無断で連れ回した挙句、王国騎士に刃向かった犯罪者として扱われているのだろう。
 
 何とかするならレッドが現れた今がベストタイミングだが、彼に加担したとなればこちらも犯罪者としての疑惑をかけられるかもしれない。
 
 証言者に成りうる人々は荷車にたくさんいるが、最悪王国側が失態を隠蔽する可能性も——あの『賢王』と呼ばれる王がそんな判断を下す事はほぼ無いに等しいが、家臣が握りつぶす可能性は大いにあり得る——なくは無いのだ。
 
 ——……まァいいか。ヒカリとミヤが味わわされた恐怖と痛み、そしてボクらの大事な時間を台無しにしてくれたお礼ができるなら、後処理がどれほど面倒でも……関係ないよね。
 
 珍しく好戦的な選択をしたクリアは、すっとその場から飛び降りレッドと荷車を挟み込む形になるように着地した。
 
 突如降って現れたクリアに、レッドを含めた五人は目を奪われる。
 
 その隙をクリアは逃さず、すかさず右手を手前に伸ばした。
 
 ——瞬間、王女を担いでいた男は思い切り顔面——といっても兜の上からだが——を殴り飛ばされた様に吹き飛び、宙に放り出された王女は落下する。
 
 しかし、ローブをはためかせながら多少高度は下がったが、急に宙に留まり王女はそのままレッドの方へ移動して行った。
 
 吹き飛ばされた男は兜を顔に叩きつけられ、受け身も取れず石路に体も叩きつけられた痛みで声を上げることも動くこともままならない様だ。
 
 奇怪な現象に続いて今度は突然荷車が宙に浮き、クリアの背後に移動した。
 
 まあ、側からみればまるで何が起きたのか全くわからない状況だろう。
 
 ……この現象を起こしたクリア本人以外には。
 
 【不可視疑の一部パート・オブ・インスペリアス】。
 
 クリアがそう名付けたそれは、【無属性】の【力】を『アンシャネリア』のザ・クロとの戦闘でヒントを得たクリアが以前より、より力のコントロールが正確にできるようになった事で守るけすことだけではなく、完全に体の一部の様に攻撃したり人や物を掴んだりと多種多様に扱えるようになった新たなクリアの能力だ。
 
 先程誘拐犯が吹き飛んだのも、王女をキャッチしてレッドの方へ移動させたのも、そして荷車を移動させた事すらこの能力のおかげである。
 
 体のどこからでも出すことができ、他の人からは視認することのできないこの体のような能力は、余程気配を察知する能力に長けた者でなければ存在すら気付くことはない。
 
 ——本当に非常に便利な能力だ。
 
 今の状況を簡単にひっくり返され、何が起きたのか理解できていないようで。
 
 残りの三人はもはやその光景を呆然と眺めるしか無いようだった。
 
 自分の能力に感謝しつつ、レッドに目配せで王女を受け取るように促したクリアは、意図を理解したレッドの広げた手に王女を託した。
 
 ——さて、この三人はどォしてやろうか?
 
 今のクリアの頭の中にあるのは、ヒカリやミヤ、そして他の被害者の祭りを楽しむ時間を奪い、恐怖を与えて、あまつさえヒカリに——もしかしたら攫う際に他の人にも——危害を加えたこの三人にどのような報復をするかという一点のみだった。
 
 ——死なない程度に、しかし死んだ方がマシだと思えるぐらいの苦痛を、こいつらに与え……え?
 
 ……そう、その一点のみの筈だったのだが。

 まるで先程までの自分が別人のように思えるほど、クリアの頭の中は急速に冷静になつていく。
 
 ——この人達は許せない。そう……許せない、けど。ボクが苦痛を味わわせていったいなにになるというんだ? 
今は状況の解決とヒカリとミヤ達の心のケアが優先だろ、ボクのバカ野郎!
 
 クリアは自分でも、何故今のような思考になったのかわからなかった。
 
 ヒカリが男に危害を加えられた時、何かこう、口では言い表せないようなどす黒い得体の知れない感情が湧き上がってきたのだ。
 
 クリアだって頭にくることはあるが、大切な人を傷つけられた時に今回のような独りよがりな自己満足の報復をしようと考えるようなことはまずなかった。
 
 傷つけられた本人に頼られたならともかく、優先すべきことを履き違えてしまいそうになったことにクリアは戸惑いを隠せなかった。
 
「クリア?」
 
 不意に王女を抱えたまま不思議そうに首を傾げて自分の名を呼んだレッドの声に意識を現実に引き戻されたクリアは、ひとまず完全に戦意喪失している三人を 拘束しようと思った……のだが——。
 
 ——しまった、今日は商品運搬用の移動術式用のエレメントしか保持ストックしてないじゃないか!
 
 一般的に認知されている人の身柄を拘束する術式は、木属性の縄を生成して対象を捕縛する【バインド】や、金属性の鎖を生成して同じく対象を捕縛する【チェーンバインド】などが挙げられるのだが。
 
 祭りを楽しみにして浮かれていたのか、『セインテッド王国』の治安の良さを信頼したのか——事実今まではこのような大規模な事件は起きていない国だった——あるいはその両方か。
 
 クリアは移動術式に使用するあの・・エレメント以外保持ストックしていないのだった……。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...