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第37話 枷
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「レッドさん、どうしましょう? ボク、今日はこの人達を拘束できるような術式、全く使えないぐらいエレメントを持ち合わせて無いんですが……」
突然のカミングアウトに、レッドは少しだけ上に視線を逸らし考えるそぶりを見せると、とりあえずの提案をしてくれた。
「うーん、なら一度全員消して、クリアの中に捕らえておくとか?」
せっかくの提案だが、クリアは内心それは最後の手段にしたいのが本音だった。
人や物を出し入れするのは、クリアにとって大きな負担になる行為だ。
もちろん、それは説明しない限り他の人が知る由もないのだが。
それにレッドは気軽に言うが、本来【無属性】の存在は公にすべきものでは無い事柄であり。
「すみません、それは最後の手段にしたいですね……」
それに【不可視疑の一部】はまだ視認できないので誤魔化しが利くだろうが、この四人を犯人として王国騎士に突き出さなければならない時に【力】を使って出したらもう言い訳できないだろう。
今のレッドとの会話を止めなかったのは、この四人に聞こえているだろうが理解はできないというクリアの判断の元だ。
とはいえ、先の王女を連れてきた男の話を考えるに、いくらグリーンが抑えているとはいえ、本来の王国騎士は皆手練れだ。
レッドを追ってやってくる騎士もそろそろ来る可能性がある。
さらに言えば、ローブで身を隠している王女と王女を庇っていたレッドにも話を聞かなければならない。
——仕方ない、か。
レッドに聞いておいて何だとは思いつつ、クリアは【不可視疑の一部】を用いて四人を上半身に巻きつけるように拘束すると、ヒカリ達を拘束するのに使われているであろう拘束具を利用することに決めた。
「……レッドさん、お願いが」
不意に頭によぎった思考が、無意識にクリアの口からレッドへ向けて出ていた。
「なんだ?」
「……この人達を拘束するのに後ろの荷車の中に捕まってる人達の拘束具を使おうと思うのですが」
「ああ、その荷車にも人が居たのか!」
ここにきてようやくレッドは何故クリアがこの場にいるのか理解したようだった。
「そうなんです。で、ボクがその拘束具を取ってくる間、その人達が急に苦しみ出したら……ボクを何とか止めてくださいね」
クリアの何の脈絡のない話に、さぞレッドは驚いたことだろう。
しかし、レッドの返事は少しの間を空けて返ってきた。
「わかったよ。任せとけ」
珍しいレッドの真剣な声を聞いて、本来敵対関係にある筈なのに何の疑いもせず肯定してくれるのはレッドという人物の器の大きさを表すのに十分すぎる返事だった。
……まあ、クリアはクリアでなんとなくレッドなら肯定してくれるだろうという根拠の無い信頼があるから頼んだわけなのだが。
そのレッドの言葉を信じ、自分に再び先程の恐ろしい思考が戻ってこないことを祈りながら、クリアは一人荷車の中へと入っていく。
クリアが荷車の中を覗けば、薄暗い中でもすぐにクリアに気付いたように懸命に言葉にならない声を出す存在に気が付いた。
クリアは急いで彼女の元に駆けつけると、口を塞いでいた布を取ってやると、彼女は泣きそうな声でクリアの名を叫ぶように呼ぶ。
「クリアぁ! 本当に来てくれたんだぁ!」
「ボクが二人を置いて行ったせいでこんな目に合わせちゃって本当にごめんヒカリ!」
クリアは今すぐにでもヒカリとミヤを抱きしめたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えてまずはヒカリの自由を奪っている拘束具を外そうとする。
……しかし、ヒカリ達を捕らえていたのは、ただの縄などではなかった。
「なんで、これがここに……」
ヒカリが出入り口近くにいたため外の光で偶々クリアの目に入ったそれは、クリアが思わず口にしてしまうには十分な要因としてそこにあった。
ヒカリ達の手足にはめられていたその拘束具は、一見ただの枷に見える。
しかし、一度見たことのあるクリアはその存在の異質な理由を知っていた。
これは、直に体に触れている者のキャスティング能力を狂わせエレメントを操ることを阻害する仕掛けが施されている代物で。
キャスティング能力を狂わせる仕掛けについてはクリアにも複雑すぎて理解できなかったが、何故クリアがその機能が備わっている枷なのかわかったといえば、これも『ディールーツ』が世に送り出した商品の一つだからだ。
とは言っても、本来犯罪者の身柄確保を安全に行うために開発された者であり、一般的に流通している物ではない。
それに、この国はそもそも治安が良いため、この商品を卸したという話が無かったこともクリアは把握している。
しかも、薄暗いので分かりづらいが、ヒカリ以外の十数名の女性全員の手足にそれぞれ同じ様に枷が使用されていた。
——いったいどうやってこんなに大量のこれを手に入れたんだ? それに、ヒカリ以外は皆意識を失っている……。
次々と湧き出てくる謎に思考を割かれるが、今は皆を解放する方が先だとクリアは頭を切り替える。
この枷を外すには鍵が必要だ。
しかし、他の地で捕らえた女性を売買する予定だったなら、今この場にいる四人の中で鍵を持ち合わせている者はいないだろうとクリアは予測した。
「ヒカリ、ちょっとごめんね」
「うん? ひゃあ⁉︎」
一言詫びを入れたクリアは、拘束具を見やすい場所でどうにかするためにヒカリの体と足を抱えて荷車から出た。
外に出てよく拘束具を見れば、クリアの記憶通りそれはアナログ式の小さな鍵穴が見えた。
クリアはこの拘束具を外す手段に迷っていた。
クリアがモノ——術式を含む範囲で——再構成する際、そのモノの構成や術式をクリア本人が理解していないと完璧な状態で再構成できない。
つまり、無理に【力】で吸収してしまえば、そのキャスティングを封じる機能を再現でき無いため外の四人を拘束する道具として使えなくなってしまう。
ひとまず、——何故か顔を赤くしている——ヒカリを荷車の出入り口の外側に座らせて、クリアは今一度枷の対処を考えることにした。
突然のカミングアウトに、レッドは少しだけ上に視線を逸らし考えるそぶりを見せると、とりあえずの提案をしてくれた。
「うーん、なら一度全員消して、クリアの中に捕らえておくとか?」
せっかくの提案だが、クリアは内心それは最後の手段にしたいのが本音だった。
人や物を出し入れするのは、クリアにとって大きな負担になる行為だ。
もちろん、それは説明しない限り他の人が知る由もないのだが。
それにレッドは気軽に言うが、本来【無属性】の存在は公にすべきものでは無い事柄であり。
「すみません、それは最後の手段にしたいですね……」
それに【不可視疑の一部】はまだ視認できないので誤魔化しが利くだろうが、この四人を犯人として王国騎士に突き出さなければならない時に【力】を使って出したらもう言い訳できないだろう。
今のレッドとの会話を止めなかったのは、この四人に聞こえているだろうが理解はできないというクリアの判断の元だ。
とはいえ、先の王女を連れてきた男の話を考えるに、いくらグリーンが抑えているとはいえ、本来の王国騎士は皆手練れだ。
レッドを追ってやってくる騎士もそろそろ来る可能性がある。
さらに言えば、ローブで身を隠している王女と王女を庇っていたレッドにも話を聞かなければならない。
——仕方ない、か。
レッドに聞いておいて何だとは思いつつ、クリアは【不可視疑の一部】を用いて四人を上半身に巻きつけるように拘束すると、ヒカリ達を拘束するのに使われているであろう拘束具を利用することに決めた。
「……レッドさん、お願いが」
不意に頭によぎった思考が、無意識にクリアの口からレッドへ向けて出ていた。
「なんだ?」
「……この人達を拘束するのに後ろの荷車の中に捕まってる人達の拘束具を使おうと思うのですが」
「ああ、その荷車にも人が居たのか!」
ここにきてようやくレッドは何故クリアがこの場にいるのか理解したようだった。
「そうなんです。で、ボクがその拘束具を取ってくる間、その人達が急に苦しみ出したら……ボクを何とか止めてくださいね」
クリアの何の脈絡のない話に、さぞレッドは驚いたことだろう。
しかし、レッドの返事は少しの間を空けて返ってきた。
「わかったよ。任せとけ」
珍しいレッドの真剣な声を聞いて、本来敵対関係にある筈なのに何の疑いもせず肯定してくれるのはレッドという人物の器の大きさを表すのに十分すぎる返事だった。
……まあ、クリアはクリアでなんとなくレッドなら肯定してくれるだろうという根拠の無い信頼があるから頼んだわけなのだが。
そのレッドの言葉を信じ、自分に再び先程の恐ろしい思考が戻ってこないことを祈りながら、クリアは一人荷車の中へと入っていく。
クリアが荷車の中を覗けば、薄暗い中でもすぐにクリアに気付いたように懸命に言葉にならない声を出す存在に気が付いた。
クリアは急いで彼女の元に駆けつけると、口を塞いでいた布を取ってやると、彼女は泣きそうな声でクリアの名を叫ぶように呼ぶ。
「クリアぁ! 本当に来てくれたんだぁ!」
「ボクが二人を置いて行ったせいでこんな目に合わせちゃって本当にごめんヒカリ!」
クリアは今すぐにでもヒカリとミヤを抱きしめたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えてまずはヒカリの自由を奪っている拘束具を外そうとする。
……しかし、ヒカリ達を捕らえていたのは、ただの縄などではなかった。
「なんで、これがここに……」
ヒカリが出入り口近くにいたため外の光で偶々クリアの目に入ったそれは、クリアが思わず口にしてしまうには十分な要因としてそこにあった。
ヒカリ達の手足にはめられていたその拘束具は、一見ただの枷に見える。
しかし、一度見たことのあるクリアはその存在の異質な理由を知っていた。
これは、直に体に触れている者のキャスティング能力を狂わせエレメントを操ることを阻害する仕掛けが施されている代物で。
キャスティング能力を狂わせる仕掛けについてはクリアにも複雑すぎて理解できなかったが、何故クリアがその機能が備わっている枷なのかわかったといえば、これも『ディールーツ』が世に送り出した商品の一つだからだ。
とは言っても、本来犯罪者の身柄確保を安全に行うために開発された者であり、一般的に流通している物ではない。
それに、この国はそもそも治安が良いため、この商品を卸したという話が無かったこともクリアは把握している。
しかも、薄暗いので分かりづらいが、ヒカリ以外の十数名の女性全員の手足にそれぞれ同じ様に枷が使用されていた。
——いったいどうやってこんなに大量のこれを手に入れたんだ? それに、ヒカリ以外は皆意識を失っている……。
次々と湧き出てくる謎に思考を割かれるが、今は皆を解放する方が先だとクリアは頭を切り替える。
この枷を外すには鍵が必要だ。
しかし、他の地で捕らえた女性を売買する予定だったなら、今この場にいる四人の中で鍵を持ち合わせている者はいないだろうとクリアは予測した。
「ヒカリ、ちょっとごめんね」
「うん? ひゃあ⁉︎」
一言詫びを入れたクリアは、拘束具を見やすい場所でどうにかするためにヒカリの体と足を抱えて荷車から出た。
外に出てよく拘束具を見れば、クリアの記憶通りそれはアナログ式の小さな鍵穴が見えた。
クリアはこの拘束具を外す手段に迷っていた。
クリアがモノ——術式を含む範囲で——再構成する際、そのモノの構成や術式をクリア本人が理解していないと完璧な状態で再構成できない。
つまり、無理に【力】で吸収してしまえば、そのキャスティングを封じる機能を再現でき無いため外の四人を拘束する道具として使えなくなってしまう。
ひとまず、——何故か顔を赤くしている——ヒカリを荷車の出入り口の外側に座らせて、クリアは今一度枷の対処を考えることにした。
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