エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第44話 王の意向1

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「ふむ、まずはよくぞ無事戻ったイエナよ。私達の命に従いしっかりと『所有者ホルダー』も連れてきたことも含め、よくやってくれた」
「ありがとうございます父上」
 
 条件を呑んだ事で、ブルーに連れられ城まで連れられたクリア及びレッド一行、ブルーは、王の前で膝を着きその言葉に耳を傾けていた——。
 
 ブルーとの取引の後、車輪が欠損した荷車を引いて城まで向かう事を不可能と判断したクリア達は、合流したグリーンとゴールド
——いつの間にかレッドの旅に同行していたことを知ったクリアはこの時ようやく引っかかっていたイエナの「お仲間方」という言葉に納得した——
と共に来た王国騎士団の団長であるリークスと名乗る者に荷車の中のヒカリやミヤ達の介抱を任せ、各々術式やキャスティング能力を使用し城までやってきた。
 
 当然、これ以上ヒカリやミヤ達に何かあればそれ相応の対応をする事を懇切丁寧に釘を刺して。
 
 リークスは腕の立つ立派な人格者ではあるが、今のクリアの中ではもはやこの国の者、特に王国騎士を信頼するに値しないぐらいには評価を下げてしまっていた。
 
 ——あまりにも極端だろうか。でも、これは国家ぐるみで騎士団長も関わった計画だったんだ。仕方ない、よね。
 
 渋々ながら城まで辿り着いたクリアは、城内にまだ居るであろうガウスと合流して一連の状況を伝えるつもりだった。
 
 しかし、それが許されず有無を言わさず先に王の待つこの場に連れてこられたというのが現状だ。
 
「次に、ルーツの『所有者ホルダー』諸君。わざわざこの様な場への招待に応じてくれた事、感謝する」
 
 ——は?
 
 初老ではあるが、厳格な顔つきの、決して衰えを感じさせない『セインテッド王国』現王であるセインテッド・アーク・イクス王の声をかける順に、おかしいと思ったクリアはつい驚きの表情でイクス王の方におもてを上げる許可を得る前に視線を向けてしまった。
 
 この国は今でこそいくさを行うことはまず無いが、一度戦場に赴けば王自ら前線に出て兵団を引っ張る実力者であり、純粋な戦闘力だけでいえば、『ディールーツ』の幹部数名を上回るであろうとクリアはガウスから聞いていた。
 
 それはそれとして。
 
 一言目に位の高い王女であるイエナに声をかけるのはまだ——クリアの中ではそれでも百歩譲ってだが——わからなくもない。
 
 だが、この国王はあろう事か、『ディールーツ』のボスの右腕であるクリアよりも優先してルーツの『所有者ホルダー』へ声をかけたのだ。
 
 別に、普段の状況ならば特にクリアはそんな事は気にしなかっただろう。
 
 しかし、今回ばかりは話が違う。
 
 こちらは王国ぐるみの、この国王の立てた計画シナリオに巻き込まれた被害者だ。
 
 クリア個人の感情を抜きにしても、ボスの御令嬢であるミヤまで巻き込んでおいて、この場にいる関係者の中で一番最後に回されるという事にクリアは納得できず、思わず立ち上がった。
 
 そのクリアの挙動に、王の側に立ちこちらの面子を値踏みする様に見ていたこの国の大臣——クリアは名乗られたことすらない——がそれを咎めるため怒鳴る様に叫んだ。
 
「貴様、王の御前であるぞ! なんと無礼な……! 立場を弁えよ!」
 
 だが、クリアはそんな大臣の言葉を気にせず大臣に殺気を込めて睨みつけた。
 
 それは、クリアが初めて明確に抱いた殺意かんじょうだったかもしれない。
 
 今まで一度たりとも人の命を奪おうとしない、いや奪うことができなかった上、自らの使命を人の命を奪わずに遂行しようと固く誓った者が抱く感情ものでは決してない殺意かんじょうを。
 
 それがこの様な場で、ここまで表面化した事にどれほどの意味を持ったことだろう。
 
 その場に居た全員が、一斉にクリアに注目する。
 
 ……その視線を一身に受けた一名だいじんを除いて。
 
 クリアの殺気視線を受けた大臣は、まるで糸が切れた操り人形の様にその場に膝から崩れ落ち、動かなくなった。
 
 幸いだったのは、無意識にその殺意を大臣のみに届く様コントロールしていた様で、他の者は唯ならぬ雰囲気を放つクリアに注意を引かれただけで済んだ事だろうか。
 
「……無礼? 身の程? どの口が……ものを言っているんですか?」
 
 ——やめろ、落ち着け。
 
「我々のボスの御令嬢、ミヤ様を巻き込み、その様な状況下で一番にすることが計画通りに『所有者ホルダー』を連れてきた王女に声をかけて……次に声をかける相手が『所有者ホルダー』のレッドさん達ですか……」
 
 ——相手を考えろ。独りよがりで、勝手な事をしてはダメだ。
 
「『ディールーツ』も、随分と見下されたものですね……」
 
 頭の中では抑えたい、抑えなければならないとわかっていながら。
 
 クリアの口からは王への感情ことばが溢れて止まらない。
 
 それに呼応するかの如く、クリアから少しずつ溢れ出す殺気は、徐々に、しかし明確に濃くなっていき。
 
 次の言葉を発しようとする前に、その場にいた兵士全員に囲まれ各々の得物をクリアは突き付けられた。
 
 王は、その光景を表情一つ変えずに眺め、対照的にイエナはクリアの雰囲気に怯えながらも、やりすぎではと言いたげに王へすぐ様視線を向ける。
 
「その様な態度を取られるのであれば——」
「王よ、許可なく口を開く事をお許し下さい」
 
 兵士等眼中に無い様にクリアの言ってはならない最後の一言を遮り口を開いたのは、思いがけない人物だった。
 
「……〈火のルーツ〉の『所有者ホルダー』、レッドと言ったか。発言を許す。申してみよ」
 
 あの王女イエナにすらいつもの態度と口調変えずに接していたレッドが、王に対して畏まった態度で言葉を続けた。
 
「ありがとうございます。……私は田舎者ですので、幾分かの言葉遣いの誤りはお許し下さい。……そして、本題なのですが」
 
 普段のレッドらしからぬレッドに、クリアはまるで毒素を抜かれた様に口を閉じ、紡がれる言葉に耳を傾ける。
 
「無礼かもしれませんが、このクリアの言う通り、話をする順序をお間違えではありませんか」
 
「……ほう。何故そう思う」
 
「私は今回の件で途中からではありますが、クリアと合流しその際に被害にあった人々を救出する彼の一連の行動を見ておりました。
正直に言わせて頂くとすれば、今回の我々『所有者ホルダー』を見つけ出す王の計画によって巻き込まれた被害者にまず謝罪の場を用意することが優先されるべきではなかったのでしょうか」
 
 淡々と話すレッドの言葉に、王は変わらず表情はそのままでレッドに視線を向ける。
 
 その間、全く被害者クリアの方に視線を向けることはなかった。
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