エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第43話 予兆

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「……髪? ボクの髪がどうしたというんですか?」
 
 これ以上クリアを引き止めるための口実としててきとうにクリアからは把握できない事象でたらめを言われた様に思えたクリアは、レッドに振り返る事もせず返した。
 
 ——ボクの白い髪が今更気になったのか? だとしたら、レッドさんらしい下手な口実だ。
 
 そうクリアは自己完結し、止めた足を動かそうとする。
 
 ——瞬間。
 
「あら、自分の身だしなみは逐一確認した方がいいんじゃない? ほら、客観的に見ないとわからない部分もあるでしょう?」
 
 どこからかかけられた声と同時にクリアに向かって……正確にはクリアの足元に向かって放たれた、恐らく【ウォーター・ボール】という術式で作られた水の球が石路に着弾し、小さな水溜まりを作り出した。
 
 まるで、水溜まりそれを使って自分の容姿を確認しろと言わんばかりに。
 
 クリアには、すぐに声の主が誰だかわかった。
 
 故に、自分の方向に放たれた水の球に対処する様な事をしなかったのだが。
 
「今更いらっしゃったんですか、ブルーさん」
 
 声の主、ブルー・ティアの居場所を探る様に水の球が飛んできた方向に視線を向け声をかけるが、その場にブルーの姿は無かった。
 
 ブルーは水属性の能力者であり、高等な術式を数多く習得しているらしい・・・『高術士』と呼ばれる実力者だ。
 
 恐らく、光の屈折・・という作用を利用した人が視覚で捉える事を阻害する水属性の術式を使用してその姿を隠しているのだろう。
 
 クリアはブルーがオリジナルで開発した術式の中にそのような術式があると噂で耳にしたことがある。
 
 結局、ブルーの居場所を把握できていないクリアは、とりあえずわざわざこさえられた水溜まりを覗き込んでみる。
 
 すると、水面に映った自分の姿にクリアは違和感を覚える。
 
 そこに映っていたのは、生来から全てが真っ白な髪の中に、黒い髪がところどころに混じったクリアの姿だった。
 
 汚れか何かと拭ってみるも、そのいろが元のいろに戻る事もなく。
 
 まるで最初からそうだったかのように黒く染まった髪に流石にクリアも動揺し、その足を止めた。
 
「これは……いったい……」
 
 そう口に漏れてしまう程突然の自分の姿に、クリアは困惑する。
 
 先程まで普通に接していたヒカリが何も言わなかったことから、恐らくレッドが疑問として浮かべたタイミングぐらいで黒く染まこうなってしまったのだろうか。
 
「何故そうなったか知りたい? なら、王女様とそのルーツの所有者ホルダーと一緒に城まで御同行願いたいのだけれど」
 
 そんなブルーの言葉に、どう答えるかクリアは迷う。
 
 ——知りたくないと言えば嘘になる。
 
 しかし、クリアとしては今は黒く染まったそんなことよりも一刻も早く荷車内の人々の、特にミヤの介抱を優先したい気持ちが強い。
 
 そんなクリアの気持ちは、わかりやすく表面に出ていたのだろうか。
 
「クリア、あなたはもう少し思慮深い人物だったと記憶していたのだけれど……あたしの勘違いだったかしら? その被害者の人達はちゃんと責任を持ってあたしたち王国関係者が介抱するわ。
国から出してしまった裏切り者の不始末だもの、当然処置もさせてもらうわよ。そもそも、あなた一人でどうするつもりだったの?」
 
 ブルーの言う通り、クリア一人で解決できる問題ではない事はわかる。
 
 しかし、『ディールーツ』の医療施設に連れて行けば問題なく介抱できるとクリアは考えていたため、そもそもの原因を作った王国側に任せたくないという気持ちがクリアにはあった。
 
 ——そもそも、このブルーひとは何処から話を把握しているんだろうか。
 
 もし、全て最初から見ていたのだとしたら。
 
 ……イエナがレッド達に接触するまで、誘拐犯の犯行を黙認していたのだとしたら——。
 
 してはならない想像をしてしまい、その疑念を振り払う様にクリアは頭を横に思い切り振ると、姿を現さないブルーの代わりにイエナに視線を向ける。
 
「……わかりました。ただし、条件があります」
「こちらも非が大きいので、できるだけ要求に応えさせて頂くつもりですが……どの様な内容でしょうか?」
 
 先程のクリアに気押されたからか、多少上擦った声で答えるイエナに、淡々とクリアはその条件を口にした。
 
「『セインテッド』王家が知り得る全ての〈ルーツ〉及び王家のみがキャスティングできるとされる属性の全ての情報を我々『ディールーツ』に明け渡すこと……ですね」
 
 クリアの口にした条件に、イエナは驚愕の表情を露わにし、直後に返答に困った様な様子で口籠る。
 
 当然と言えば、当然の反応だ。
 
 少なくとも、王女がすぐさま承諾できる様な内容ではない。
 
 だから、クリアは視線はイエナに向いてはいるが初めからその条件への応対を期待していたのはブルーに対してだった。
 
 ブルー・ティアという人物は、王女イエナの側付きという立場でありながら、クリアとそう変わらない年齢でこの『セインテッド王国』国王の相談役の一人としての肩書きも持つハイスペックな人物である。
 
 つまり、一応暫定的ではあるが、このクリアが出した条件を呑むかブルーの一存で決めることができるのである。
 
「ふぅん、なるほどね。……まあ、いいでしょう」
 
 そんなブルーの出した答えは、意外にもあっさりとした了承だった。
 
「ブルーさん⁉︎ いいんですか⁉︎」
 
 ブルーに対してイエナは驚愕の声を上げる。
 
 普通に考えて、まあ妥当な反応だろう。
 
 クリアですら、自分が出した条件とはいえこうもすんなりと通るとは思っていなかったからだ。
 
 それほどの機密情報をあっさりと渡すと言うのだから。
 
「いい、イエナ? あなたが言った通り、予定外とはいえ『ディールーツ』のお嬢様を巻き込んでしまったこちら側の非は大きいわ。
こちらも王国とは言え、『ディールーツ』はこの国と対等な関係と言っても過言じゃない。多少の不利益を抱えたとしても、賠償はすべきよ。そしてそれが情報だけで解決できる。わかるわね?」
 
 とても普通の側付きとは思えない口調で王女イエナに語りかけるブルーは、いつの間にか荷車のすぐそばにその姿を表していた。
 
 薄い青色のセミロングの髪を幅の広い黄色地に花の装飾が彫り込まれたパレッタで折り返して止めている髪型と、ぱっと見で美人と分類できる顔立ちの彼女は、黒いゆったりとしたローブに身を包んだ姿をしていた。
 
 姿を現したブルーは、イエナに説明した言葉には似つかわしくない余裕を含んだ笑みを浮かべクリアに視線を向けていた。
 
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