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第42話 渦巻く感情
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そもそも、クリアはイエナの発言の節々に一般的に知られていない言葉を使用されてる事が気になっていた。
〈ルーツ〉に〈シンクロ率〉、〈エレメンタルアームズ〉と次々と出てくる言葉に、クリアの中でイエナへの疑念が大きく膨らんでいく。
ルーツですら、『ディールーツ』の中でもトップクラスの機密事項で有るのに、それに関連する単語を幾つも知っている。
——もしや。
クリアは、ふと思った。
——この『セインテッド王国』という国自体が、ルーツの恩恵で繁栄して来たのでは?
そんな思考がよぎったが、今はとりあえず聞きたい事を全てまとめて後で確認しようと頭の片隅に追いやったクリアは、イエナの言葉に返答せねばと口を開く。
「レッドさんが来た方向は街や人に被害が出ない様お互いに加減していると仮定すれば、グリーンさんなら上手く術式で進行を阻む事ができると思います。そして、他の道はこの大勢の人混みの中、素早く移動してこの場に駆けつける事ができないということも考えられますが」
「クリアさん、今日はいつもと違って妙に疑り深いですね? ……まあいいでしょう。そろそろ全てを明かしても良い頃でしょうし」
——それは、そうでしょう。これだけ立て続けに色々起こっている中で、はいそうですかとこの状況を起こした本人からの説明を何の疑う事なく聞き入れられるはず、ない。
「この裏切り者の方々の存在を把握できていなかったことは想定外で申し訳ありませんでした。
しかし、それ以外の今回私が城内から抜け出して、騒ぎを起こしてレッド様方にお会いする事は、全て父上の描いていたシナリオ通りに過ぎないのです。
今頃は生誕祭の余興の一部だと観光客の方々に説明し、レッド様のお仲間の二人にも事情を説明されている事でしょう」
——そのシナリオ、合理性に欠けて無いか?
裏切り者と評された誘拐犯を把握していないあたり、今回のシナリオは王女以外の人の安全は考慮していないとクリアは思ってしまった。
というのも、王女であるイエナには凄腕の側付きの女性、ブルー・ティアという人物が存在している。
今回の件は万が一があれば、その人物がすぐにでも駆けつけてイエナを救う手筈だったであろうことは察しがつく。
しかし、レッド達とイエナが合流できたことで、そのブルーが出る幕もなく、今も何処かでこの様子を見ているのだろう。
だが、クリアからすれば大切な人が巻き込まれて、その原因を作ったのが王自らだと言うのなら……。
——ふざけるな、だよ……。
王女の前であるが故に、それを見せる事は本来ならしてはならない。
だが、クリアは作った拳をわなわなと振るわせる事を止める事ができなかった。
レッド達に会うためにこの様なシナリオを立てて芝居を打った事で、クリア達がどれだけ楽しみにしていた今日の日をめちゃくちゃにされたかこの国の王と目の前の王女はわかっているのだろうか。
それは、荷車の中で未だ意識を取り戻さない被害者の人々にも同じ事が言えるだろう。
言いたい事は沢山ある。
しかし、クリアはその感情を目の前の王女にぶつける事はできない。
『ディールーツ』の右腕として、そしてぶつけた事で解決しないとわかっているから。
これ程までに理不尽に悔しい思いをするのはいつ以来だろうか。
そう思いながらも、クリアは急ぐ理由が無くなったことをこの場で唯一良しとして、とにかくヒカリ達被害者のケアと状況の説明を優先することにした。
巻き込まれた者の立場として、後にガウスに話を通して抗議の場を設けてもらう。
聞きたいことがあれば、その場で全て聞けばいい。
国王と王女のシナリオで誤算があるとすれば、ミヤが巻き込まれた事だ。
ミヤには申し訳ないが、その事を理由に十分その機会を設ける事は可能だろう。
そう判断したクリアは、荷車の方へ踵を返す。
——これ以上、王のとはいえそんなシナリオに付き合ってなんていられないよなァ……。
内心苛立ちが再び込み上げて来たクリアが、荷車に向かって一歩踏み出そうとした時だった。
「お待ちくださいクリアさん。話はまだ終わっていません」
不意に自分へとかけられたイエナの声に足を止め、仕方なく声の主の方へ振り返ると、もはや失礼だと承知の上で、クリアはこれ以上付き合っていられない気持ちを抑えられずそれを言葉にする。
「御言葉ですが王女様。そのシナリオは既にボクには関係ないものとなっておりますよね? ならば、まずは後ろにいる今回の予定外の被害者の人々のケアと事情の説明が優先されるべきではないでしょうか。未だに一人を除いて、あのミヤお嬢様を含めて目を覚ましていないのです。これは大変な状況だと判断致しますが」
イエナ、及びレッドに何も言い返させないまま、さらにクリアは続ける。
荷車内の事情を知らない事件の発端と、ただ巻き込まれただけのお人好しに、今のクリアの話に口を挟める余地など無いとわかっていながら。
「王や王女様がどの様にしてルーツやレッドさん達の事を知ったのかはわかりかねますが、現状、もはやボクはこの場に必要無いでしょう。それとも、何かボクがこの場に居なければならない理由があるのでしょうか?」
段々と言葉を紡ぐペースが早くなっていくクリアに、元々穏やかな優しい性格である王女はたじろぎ、レッドはまるでクリアの思いをその身に受ける様にじっとクリアを見ている。
クリアは例年この国に訪れる度、ガウスと共に国王の元へ謁見し、王女という身分でありながら幼きミヤの相手をしてくれていたことを知っており、この様な態度で話すような人柄では無いことを理解していた。
だからこそ、成人を迎え自分の使命として国王からの命を受け今回の様な振る舞いをして見せたのだろう。
たじろいだイエナを見たクリアは、これ以上この王女から自分に言葉をかけてくることは無いだろうと思い、もう一度踵を返す。
——別に、悪いのはイエナ様じゃない。
そんな事はもうクリアには分かりきっていた。
自らの王女さえも利用して何をしようとしていたかは知らないが、全ての元凶は国王にある訳で。
だからこれは、ただの『八つ当たり』なのだ。
気付けば、結局我慢できずクリアは自分の感情を抑えられずぶつけてしまっていた。
それに気付いたクリアが自分自身に嫌悪感を抱いて荷車にもう一度戻ろうとした時。
「……クリア、その髪はどうしたんだ?」
クリアを引き止めたのは、そんなレッドの声だった。
〈ルーツ〉に〈シンクロ率〉、〈エレメンタルアームズ〉と次々と出てくる言葉に、クリアの中でイエナへの疑念が大きく膨らんでいく。
ルーツですら、『ディールーツ』の中でもトップクラスの機密事項で有るのに、それに関連する単語を幾つも知っている。
——もしや。
クリアは、ふと思った。
——この『セインテッド王国』という国自体が、ルーツの恩恵で繁栄して来たのでは?
そんな思考がよぎったが、今はとりあえず聞きたい事を全てまとめて後で確認しようと頭の片隅に追いやったクリアは、イエナの言葉に返答せねばと口を開く。
「レッドさんが来た方向は街や人に被害が出ない様お互いに加減していると仮定すれば、グリーンさんなら上手く術式で進行を阻む事ができると思います。そして、他の道はこの大勢の人混みの中、素早く移動してこの場に駆けつける事ができないということも考えられますが」
「クリアさん、今日はいつもと違って妙に疑り深いですね? ……まあいいでしょう。そろそろ全てを明かしても良い頃でしょうし」
——それは、そうでしょう。これだけ立て続けに色々起こっている中で、はいそうですかとこの状況を起こした本人からの説明を何の疑う事なく聞き入れられるはず、ない。
「この裏切り者の方々の存在を把握できていなかったことは想定外で申し訳ありませんでした。
しかし、それ以外の今回私が城内から抜け出して、騒ぎを起こしてレッド様方にお会いする事は、全て父上の描いていたシナリオ通りに過ぎないのです。
今頃は生誕祭の余興の一部だと観光客の方々に説明し、レッド様のお仲間の二人にも事情を説明されている事でしょう」
——そのシナリオ、合理性に欠けて無いか?
裏切り者と評された誘拐犯を把握していないあたり、今回のシナリオは王女以外の人の安全は考慮していないとクリアは思ってしまった。
というのも、王女であるイエナには凄腕の側付きの女性、ブルー・ティアという人物が存在している。
今回の件は万が一があれば、その人物がすぐにでも駆けつけてイエナを救う手筈だったであろうことは察しがつく。
しかし、レッド達とイエナが合流できたことで、そのブルーが出る幕もなく、今も何処かでこの様子を見ているのだろう。
だが、クリアからすれば大切な人が巻き込まれて、その原因を作ったのが王自らだと言うのなら……。
——ふざけるな、だよ……。
王女の前であるが故に、それを見せる事は本来ならしてはならない。
だが、クリアは作った拳をわなわなと振るわせる事を止める事ができなかった。
レッド達に会うためにこの様なシナリオを立てて芝居を打った事で、クリア達がどれだけ楽しみにしていた今日の日をめちゃくちゃにされたかこの国の王と目の前の王女はわかっているのだろうか。
それは、荷車の中で未だ意識を取り戻さない被害者の人々にも同じ事が言えるだろう。
言いたい事は沢山ある。
しかし、クリアはその感情を目の前の王女にぶつける事はできない。
『ディールーツ』の右腕として、そしてぶつけた事で解決しないとわかっているから。
これ程までに理不尽に悔しい思いをするのはいつ以来だろうか。
そう思いながらも、クリアは急ぐ理由が無くなったことをこの場で唯一良しとして、とにかくヒカリ達被害者のケアと状況の説明を優先することにした。
巻き込まれた者の立場として、後にガウスに話を通して抗議の場を設けてもらう。
聞きたいことがあれば、その場で全て聞けばいい。
国王と王女のシナリオで誤算があるとすれば、ミヤが巻き込まれた事だ。
ミヤには申し訳ないが、その事を理由に十分その機会を設ける事は可能だろう。
そう判断したクリアは、荷車の方へ踵を返す。
——これ以上、王のとはいえそんなシナリオに付き合ってなんていられないよなァ……。
内心苛立ちが再び込み上げて来たクリアが、荷車に向かって一歩踏み出そうとした時だった。
「お待ちくださいクリアさん。話はまだ終わっていません」
不意に自分へとかけられたイエナの声に足を止め、仕方なく声の主の方へ振り返ると、もはや失礼だと承知の上で、クリアはこれ以上付き合っていられない気持ちを抑えられずそれを言葉にする。
「御言葉ですが王女様。そのシナリオは既にボクには関係ないものとなっておりますよね? ならば、まずは後ろにいる今回の予定外の被害者の人々のケアと事情の説明が優先されるべきではないでしょうか。未だに一人を除いて、あのミヤお嬢様を含めて目を覚ましていないのです。これは大変な状況だと判断致しますが」
イエナ、及びレッドに何も言い返させないまま、さらにクリアは続ける。
荷車内の事情を知らない事件の発端と、ただ巻き込まれただけのお人好しに、今のクリアの話に口を挟める余地など無いとわかっていながら。
「王や王女様がどの様にしてルーツやレッドさん達の事を知ったのかはわかりかねますが、現状、もはやボクはこの場に必要無いでしょう。それとも、何かボクがこの場に居なければならない理由があるのでしょうか?」
段々と言葉を紡ぐペースが早くなっていくクリアに、元々穏やかな優しい性格である王女はたじろぎ、レッドはまるでクリアの思いをその身に受ける様にじっとクリアを見ている。
クリアは例年この国に訪れる度、ガウスと共に国王の元へ謁見し、王女という身分でありながら幼きミヤの相手をしてくれていたことを知っており、この様な態度で話すような人柄では無いことを理解していた。
だからこそ、成人を迎え自分の使命として国王からの命を受け今回の様な振る舞いをして見せたのだろう。
たじろいだイエナを見たクリアは、これ以上この王女から自分に言葉をかけてくることは無いだろうと思い、もう一度踵を返す。
——別に、悪いのはイエナ様じゃない。
そんな事はもうクリアには分かりきっていた。
自らの王女さえも利用して何をしようとしていたかは知らないが、全ての元凶は国王にある訳で。
だからこれは、ただの『八つ当たり』なのだ。
気付けば、結局我慢できずクリアは自分の感情を抑えられずぶつけてしまっていた。
それに気付いたクリアが自分自身に嫌悪感を抱いて荷車にもう一度戻ろうとした時。
「……クリア、その髪はどうしたんだ?」
クリアを引き止めたのは、そんなレッドの声だった。
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