エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

文字の大きさ
42 / 94

第41話 王女の目的

しおりを挟む
「……わたくしのせいで関係の無い方々を巻き込んでしまったことについては謝罪致します。
 もちろん、そちらの荷車の中にいる方々にも、私から直々に謝罪をさせて頂きたいと思っております。せっかくの私の生誕祭に来て頂いてこのような事態になってしまったこと、本当に申し訳無いですわ」
 
 クリアはセインテッド・アーク・イエナ、通称イエナ王女——セインテッド・アークは王族であるイエナの家名である——は自らが誘拐犯から受けた仕打ちと同じ仕打ちを受けたであろうと予測したらしく、荷車に一瞬視線を送ってクリアに視線を戻す。
 
 クリアはこの時、自分が荷車の中の被害者についての事件をイエナに伝えていない事に気付いたが、事情を説明しなくてもクリアの言葉や荷車、そしてクリアが王国騎士の鎧を纏った四人に枷をはめていた状況からイエナは察してくれたようだった。
 
「しかし、私にも大切な目的がありこの城下街に足を運んだのです」
 
 そう話しながら、イエナがローブのフードを脱いで素顔と髪を晒す。
 
 そうすれば、フードの中に収められていた長い金髪……によく見間違えられそうな艶のある黄色い髪がパサリと音を立てて地面に向かって降りていく。
 
 そのイエナ素顔を見て毎度クリアは密かに思うことがあった。
 
 それは、イエナがヒカリを少しだけあどけなくしたような、よく似ている顔立ちなのだ。

 普段はイエナがその長い髪を後ろに纏めているので印象は全然違うのだが、今回のようにストレートに髪を下ろした姿は、本当にヒカリとよく似ていると改めてクリアは思わされた。
 
 そんなローブのフードを脱いだイエナに、レッドは驚きながらも相変わらずの態度を崩さぬまま言ってのける。
 
「へぇ~、何か事情が有るとは聞いてたけど、まさか王女様だったなんてな!」
 
 王女とわかったにも関わらず言葉遣いが変わらない……というか、正直無礼に値するのだが、そんなレッドの言葉遣いにイエナは特に気にすることは無く。
 
 それはイエナがレッドに助けられたから不問にしているのか、それともイエナ自体が気にしない性格であるのか、……はたまた、別の理由・・・・があるのか。
 
 そんな無礼者レッドは、自分のした事の重大さに気付いていないように振る舞う。
 
 そんなレッドに、クリアは逆に驚かされるのだった。
 
 ——グリーンさん、レッドさんこの人と旅をしてて大丈夫なのかな……。
 
 今はそんな時では無いのはわかっているが、どうしてもクリアは旅の途中でよく言えばマイペース、悪く言えば自由奔放過ぎるレッドに振り回されいつもやれやれと首を振っているグリーンを想像してしまった。
 
「そんな呑気なこと言っている場合じゃ無いんですよ。
 ……レッドさん、今の自分の立場をわかっているんですか? レッドさん達は王女様にきちんと説明して頂かないと現状国家に反逆した犯罪者になってしまうんですよ?」
「うーん? でも別に王女様から弁明して貰えば問題ないんだろ?」
 
 クリアの言葉は、どうにもレッド的には腑に落ちないようで。
 
「な、王女様?」などと王女に相変わらずいつも通りの言葉遣いと態度でイエナに接している。
 
 そもそも、身分を隠した上で王国騎士に追われていた事が、何を意味していたのか分からないがイエナの脱走の手助けをした事。
 
 そして、その脱走の手助けとして王国騎士に対立して妨害した件については別件として問われるのではないだろうかと心配しているクリアがおかしいのだろうか。
 
 クリアがそう思わされるぐらいには、レッドは本当に普通に振る舞っている。
 
 ——まァ、ボク的にはレッドさん達がどう処分されようとあまり関係無いのだけど。
 
 もちろん死刑などに問われるのであればクリアも口を挟むつもりだが、それ以外の刑罰ならば敵対関係であるクリアには関係ない事だ。
 
 むしろ、この国で彼らが足止めを食らうなら、今後のルーツ回収の障害にならないで済む。
 
 ——我ながら、流石にそれは酷い考え方かな……?
 
 どちらにせよ、これ以上レッドと会話しても話が進まないと踏んだクリアは、失礼が無い様に気を付けながら真剣な表情を作りイエナに視線を向ける。
 
 レッドの無礼講な態度に慣れていないのか、若干気押され気味だったイエナはクリアの説明に対する催促の視線に気付くと、レッドからクリアに視線を移して口を開く。
 
「私が城からこの城下街に抜け出してきたのは、大切な目的が有ると言いましたね。……そして、予定よりも大事になってしまいましたが概ね目的は果たせました」
 
 ちらりとレッドに視線を向け、イエナは話を続ける。
 
「一つはルーツの『所有者ホルダー』の方と接触し、この目で見ること。そして、その方々の実力とルーツとの〈シンクロ率〉を確認することです」
 
 〈シンクロ率〉。
 
 それは、この世に浸透していないはずの、ルーツの力をどれだけ引き出せているのか具体的な数値で表そうとした研究で生み出された言葉。
 
 計測手段は様々な方法で試されたが、結局具体的に表すことはできず憶測でこのぐらい引き出せているだろうというかなり曖昧な値を研究者が勝手に付けている信憑性のない言葉である。
 
 言うまでもないが、この研究は『ディールーツ』が行ったものであり、表情には出さなかったが、クリアは内心イエナからこの言葉が出た時驚いた。
 
 ——何故王女様がその言葉を知っているのだろうか。
 
 そんな疑念をクリアに植え付けたイエナは、淡々と説明を続ける。
 
「お二人とも、おかしいとは思いませんでしたか?
 いくらレッド様のお仲間方がルーツとのシンクロ率が高い事で発現するエレメンタルアームズを持っていたとして、全ての王国騎士を足止めしていても既に数人ほどこの場に駆けつけて来てもおかしくないのですよ。
 何故なら王国騎士団かれらはあなた方よりもこの街に詳しい故、別の道からこの場に駆けつける事など造作もないのですから」
「…………」
 
 今度は、クリアがイエナの言葉に図らずも沈黙で返すことになった。
 
 イエナの言う事にクリアは一理あると思わされたからだ。
 
 そもそも、王国騎士団は厳しい試験を乗り越えて入団した者で構成されており、特注の鎧と武器を支給され、当然キャスティング能力も高い面々で構成されている。
 
 まともに戦えば、恐らくレッドとグリーンだけならいくらエレメンタルアームズを持ってしても、相当な苦戦を強いられるだろう。
 
 ……クリアが以前見た二人の実力のまま、ならだが。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...