エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第49話 逆転の一手

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 ——手だけに纏った【力】だけでは対処できない。
 
 迫り来る術式に即そう判断すると、クリアはレッドの攻撃のみに集中して周囲に小型【無の領域ゼロ・フィールド】を展開しその他の術式を吸収す。
 
 そしてレッドの斬撃を横に飛んで回避すると、地面に撃ち込まれた斬撃の余波の火のエレメントも他の術式と同じように吸収し去る。
 
 やはり、空中に固定されていたのはクリアの予想通りグリーンの風属性の力だったようだ。
 
 一つだけ誤算があるとすれば、怒涛の攻撃のせいでエレメントの吸収はできたが術式を【分析】する暇が無く、単なるエレメントを保持ストックしただけになってしまったことだろうか。
 
 ——術式として奪いたかったけど、仕方ない。
 
 考える暇を与えまいとレッドは炎を纏う大剣を振るい追撃してくる。
 
 それに合わせてグリーン、ブルー、ゴールドも速度重視の術式を放ってくる。
 
 まるで、クリアの対応の仕方から情報を得るように。
 
「【ソニックボルト】!」
「【風の弾丸エア・バレット】!」
「【ウォーター・バルカン】!」
 
 威力の低い代わりに連射可能な雷撃に、以前からグリーンが多用している風の弾丸。
 そしてその名の通り小さな水球をこれでもかと連射してくるブルーの術式。
 
 特に厄介なのは、口にする術式名と違う術式を別途放ってくるグリーンとブルーの後方支援だった。
 
 ……とはいえ、多方向から幾ら術式が飛んでこようと、クリアの処理速度・・・・を上回る事はなく、ことごとく保持ストックされていくだけだった。
 
 今日という日のために保持ストックしていた戦闘用のエレメントが無いことで、躊躇うことなく吸収す事ができるのはクリア的に不幸中の幸いと言える。
 
 しかし、四つのルーツからほぼ無尽蔵に繰り出される術式こうげきに、クリアは中々攻めに転じることができなかった。
 
 感知系の力を持つグリーン達を急襲するのはほぼ不可能。
 先程のように躱されるのがオチだろう。
 
 ——とにかく、人数差による優位性をひっくり返さなければ。
 
「何人でもどうぞ」と自分で言った手前、早急に打開策を立てなければならない。
 
「ボスやヒカリの前で無様な戦い方をするのはごめんだな……」
 
 『ディールーツ』のボスの右腕である以上、クリアの感情は抜きにしても圧倒的な力を見せなければならない。
 それ故につい言葉に漏れてしまったクリアの感情が、今の絶望的な状況を表していた。
 
 わかってはいても、言い訳にしたくないと思いつつ、やはり裏路地での消耗がクリアをジリジリと不利に追い詰めていく。
 
「どうしたんだクリア? 『アスラカチミオ』の時みたいに真っ向から受け止めて来ないのか? はぁ!」
「無茶、言わないでくださいよ!」
 
 大剣を振るいながら問いかけてきたレッドに、つい正直に返してしまったとクリアが思った時には既に遅かった。
 
「……へぇ、それはいい事聞いたな、っと!」
 
 ……レッドは気付いたようだ。
 
 クリアが、「エレメンタルアームズでの直接攻撃を故意に避けていること」を。
 
「……っ!」
 
 ——これは本当にやらかしたな!
 
 もはや、何らかの特殊な能力を疑うほどレッドの前ではこちらも毒気を抜かれたように素直に返してしまうことが、レッドの何よりも厄介なところだと改めてクリアは認識させられる。
 
「でも、それがわかったところで!」
 
 そう、直接攻撃に使用できる形状そのものが〈武器〉と呼べるエレメンタルアームズを持っているのはレッドとグリーンだけだ。
 
 その内のグリーンが後方支援している今だけは、まだなんとでもなる。
 
 そう思った矢先に。
 
「いや、もう十分だよ。だろ、二人とも⁉︎」
 
 レッドが大声で後ろにいるグリーンとブルーに問えば、グリーンはそれに応えるが如く、一瞬で間合いを詰め——。
 
「ふっ!」
 
 クリアの天敵エレメンタルアームズで斬撃を繰り出した。
 
 それはスレスレで避けたクリアに対して薄皮一枚を剥がす快挙・・・・・・・・・・を成し遂げることに成功した。
 
 ——いくら風属性のキャスティングに長けていると言ってもこの距離を一瞬で詰めてくるのか!
 
 もはや彼らは、クリアから見てどこまで強くなっているか計り知れない程に成長しているようだった。
 
 それに対してクリアは消耗した状態でただ一人で立ち向かわなければならない。
 
 普通なら……まあ、とっくに戦闘不能になっていてもおかしくないこの状況下で薄皮一枚のみですんでいるのはクリアが特別であることを意味しているのだが。
 
 もっと言うならこれも言い訳になってしまうのだが、今日は祭り用に着飾っているわけで。
 
 普段のクリアに合わせた戦闘可能の制服に比べ酷く動きを阻害するのだ。
 
 ……しかし、そのおかげというべきか。
 
 クリアはレッドとグリーンの息の合う連携で繰り出される斬撃をできるだけ触れないよう捌きながらふと思い出した。
 
 ——卑怯かもしれないけど、これなら【力】を使わなくてもワンチャンスあるかも知れない。
 
 慎重にタイミングを見計らい、レッド、そしてグリーンの斬撃の後に来る水と雷の術式を吸収し、再び来るレッドの斬撃に合わせ、クリアはそれ・・をズボンのポケットから取り出し——。
 
 レッドが斬撃を空ぶったと同時に、それはクリアの手からカシャンと音を立ててレッドの右手首に取り付けられた。
 
 途端にレッドの武器に纏っていた炎は不安定になり、その違和感にレッドは一瞬の隙を見せ——。
 
「ぐぁっ⁉︎」
 
 クリアの蹴撃を脇腹に受け、グリーンの方へ蹴り飛ばされた。
 
 突然のことに、グリーンはレッドを受け止めるも体制を崩し後ろに勢いを殺すよう飛び下がった。
 
「つう、悪いグリーン。……これは!」
 
 レッドが自分の右手を見て、驚愕する。
 
 そう、レッドの手首に付けられたのは、ヒカリ達が拘束されていた際に使用されていたあの・・枷だった。
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