エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第56話 ザ・クロの思惑

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 ——それってどういうこと?
 
 ザ・クロの意味がわからない、しかし妙に気になる言葉に思わずクリアは聞き返す。
 
 そんなクリアに、ザ・クロは淡々と語り始める。
 
『お前、俺が出てあいつら・・・・をボコしてた時に俺が言ったこと覚えてるかァ?』
 
 レッド達と戦っていた時に言ったあの言葉を指しているというのなら。
 
『……まァ、そもそもホルダー・・・・とか言う言葉自体が誤用されているんだがなァ』
 
 ——たしか、そう言っていた気がする。
 
 クリア達が使うルーツを持つ者を指す言葉である『所有者ホルダー』。
 ザ・クロは誤用と言っていたが、何が違うというのか。
 
俺達・・ルーツからすれば、「ホルダー」って言うのはルーツをその身に収める者を意味すんだよォ。持ってるだけの連中のことじゃねェ』
 
 ルーツをその身に収める者。
 ザ・クロの言うその言葉は、クリアの中の困惑をより強めることとなった。
 
 何故なら、その言葉通り受け止めるのであれば。
 
 その対象者は、今のところクリアが思い付く限り一人しかいない。
 
 ——……ボクがその『ホルダー』ってこと?
 
『あァ、そうだよ。お前がもう少し【無属性】について精通していれば、自ずとわかってくることだからさっさと教えといてやるよォ』
 
 急に言われたザ・クロの話に置いて行かれそうになるクリアをよそに、ザ・クロは話を続ける。
 
『ホルダーってのはそもそもルーツを集める為に生まれた存在だァ。ルーツには無限にエレメントを生み出して放出する力があるが、お前が俺を取り込んだ時からあの国に至るまでなんで俺が無反応になったと思う?』
 
 唐突に質問され、クリアは頭を捻るが答えは中々出てこない。
 
 そもそも、ここで考えて答えが出ていたならば、ザ・クロを体に取り込んだあの日に答えを出せていただろう。
 
 ——わからない。『ホルダー』としての能力が関係しているとか?
 
 クリアの答えに、ザ・クロは感心したような声色——正確には声ではないが——で返してきた。
 
『ほォ、わからないと言う割に意外とわかってるじゃねェか。まァ、つまりはそういうことだ。お前はルーツを取り込む際、そのルーツを強制的に休眠状態にしちまうんだぜェ』
 
 ——休眠状態……。つまり、遺跡とかに収められている状態にするということか。でも、それは何故?
 
『詳しい原理は知らねェ。だが、理由の一つとして、前にお前が恐れていた不意にエレメントを放出されてパンクさせられることを防ぐためもあるんじゃねェか?』
 
 ——……それは嘘だよね?
 
 『セインテッド』以前、クリアは自分の保持ストックしているエレメントの中に闇のルーツの存在が感じ取れなかったことをはっきりと覚えている。
 
 その感覚から考えるに、クリアが取り込んだルーツは明確にはわからないが別の場所に保持ストックされているのではと考えていた。
 
 現にクリアは、ザ・クロの本体である闇のルーツの存在を、体内ではあるがいつもエレメントを保持ストックしている場所ではないところから感じている。
 
 例え今ザ・クロがクリアに殺意を持って闇のエレメントを放出したところで、クリアの体外に出てしまうだろう。
 
 ……もちろん、今そんなことをされればこの医療施設を含め『ディールーツ』本部に甚大な被害を出してしまうだろうが。
 
『ほゥ、それはわかるのかァ。まァネタばらしするとお前があの娘達を誘拐された時辺りから朧げに俺の自我は徐々に目覚め始めていたなァ』
 
 ——それって、つまり。
 
 クリアは少しずつ、ザ・クロが言わんとしていることがわかってきた様に思えた。
 
 『セインテッド』の祭りでの一件の最中、クリアは今思い返せばいつもの自分らしくない感情的な行動を繰り返していた気がする。
 
 普段出すことのない様な俗に言う「負の感情」をかなりあらわにしていたと思うし、誘拐犯と対面した時には途中で我に返ったが、彼らをどう痛めつけるかなんて恐ろしいことを考えてしまった。
 
 そして極め付けはレッドに言われブルーから確認させられた『髪の色』の変化だ。
 
 生まれつきの白い髪の中に、今まで存在しなかった黒い髪が混ざっていた。
 
 ザ・クロが体を支配していた時、グリーンの反応から完全に全ての髪が黒に染まっていた可能性もある。
 
 ここから導き出される考えといえば。
 
 ——ボクの感情をきっかけにザ・クロが目覚めてボクに干渉していた……?
 
『おめでとう、大正解だァ』
 
 言葉とは裏腹に全然嬉しそうじゃないザ・クロのテンションに戸惑いながら、クリアはもしかしたらの可能性を考えてぞっとする。
 
 ——つまり、最初は目覚めてからずっとボクの体を乗っ取ろうとしてたってことだよねそれ!
 
『まあなァ』
 ——『まあなァ』じゃないよ!
『結局そいつはお前が弱るまで叶わなかったんだ。別にいいだろォ』
 
 ——よくはないよ! ……つまり、ルーツであるキミは余程のことが無いかボクが明け渡さないと体を奪うことはできないってこと?
 
『要するにそういうことだなァ。精神的に干渉はできるがそれももうやるつもりはねェから安心しろォ』

 「信用できない!」……と言いたいところだったが、今はザ・クロがそう望んでいるのか、それともホルダーと呼ばれる者の能力なのか。
 
 クリアは本当にザ・クロがそのつもりが無いことを感じ取れていた。
 
 ——……あれ程人間を憎んでいたキミがボクにホルダーとかの情報を教えてくれるのは、何故?
 
 貴重な情報を流してくれることには感謝しているが、いまいちクリアはザ・クロの真意を理解できない。
 
 そんなクリアに対して、返ってきたザ・クロの言葉はまるで不平を述べる子供の様で。
 
『そんなの決まってらァ。俺だけお前の中にいるのはつまらねェだろ。お前には他のルーツもとっとと取り込んでもらわないとならねェからだよォ』
 
 顔を合わせて話していたなら十中八九邪悪な笑みを浮かべているであろうことが容易に想像がつくザ・クロの言葉に、クリアは少しだけ返事に時間をかけることになった。
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