エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第63話 知るべきこと5

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「誠に申し訳ありませんが……その条件では応じることはできません」
 
 クリアの答えに対してイエナは予想外だったのか、食いつくように勢いよくテーブルに手をかけクリアに向かって立ち上がり視線を合わせる。
 
 恐らく、ルーツを提示すればどんな条件でも呑むと思っていたのだろう。
 
 ……今の『ディールーツ』に対し彼女……いや、それ以外でも事情を知るものはそういった印象を持っているのだろうということをクリアは理解していた。
 
 以前より少しずつ耳にしていた手段を選ばずルーツを回収するという『ディールーツ』のやり方は、本当に広まっているのだとクリアは実感する。
 
 それ故、彼女は『ディールーツ』のボスの右腕の肩書きを持つクリアがルーツを差し出すという条件を呑まなかったことに驚いたのだろう。
 
 当然クリアだってルーツを手に入れられるならありがたく頂戴したいが。
 
 今回はそれ・・よりも優先すべきことがあるというだけだ。
 
「貴方の気持ちはわかりました。しかし、ボクは今、ルーツよりもあの事件の情報の方が優先すべきことなんですよ」
「…………」
 
 理解できないと言いたげな表情で変わらず言葉は出さずイエナはクリアの目を見つめてくる。
 
 情報が無いから考えが及ばないのか、彼女の心境はあまり読めないがクリアは思ったことを口にすることにした。
 
「貴方と同じなんですよ。何をしてでも今すぐに助けたい人がいるんです」
 
 その言葉にイエナははっと気が付いたように表情を変え少し間を空けた後口を開く。
 
「あの事件の被害者にあなたの……あなた方の大切な人が巻き込まれて未だ目を覚まさない・・・・・・・・・と……?」
 
 ——ようやく理解してもらえたようだ。
 
 そして、彼女の言い方からして少しだけ欲しかった情報が手に入ったクリアは、その件について突いてみることにした。
 
「未だに目を覚まさないと言いましたね? 
つまり、貴方は被害者がまだ目を覚ましていない事を知っていると」
「え、ええ……」
「知っている限りでいいんです。イエナ王女、
教えてもらえませんか。あの事件のことを」
 
 考える……というより思い出すような素振りを見せたイエナは、少し落ち着いたのかイスに座り直し自分の知っていることを少しずつ口にし始める。
 
「はじめに言った通り、あまり私が知っていることはありませんが……」
 
 その言葉を前提として本当に少しだけだったがイエナはクリアに持っている情報を伝えてくれた。
 
 被害者達が未だ目を覚まさない状態なので今は城内で処置を進めていること。
 
 その治療にイエナも携わったが、聖属性のエレメントの力でも何も症状が改善しなかったこと。
 
 被害者の関係者に特例で客室を提供してそこで宿泊させていること。
 
 イエナが知っているのはこの三つだった。
 
 ——聖属性でもダメ……と言うことは聖属性には元から無いエレメントを結びつけたりする作用は無いのか、それとも症状に対して理解が無いのか。
 
 ここは一つ、確認しなければならないことができたクリアは、イエナに問う。
 
「イエナ王女、少し話の流れが変わりますが。貴方はどうやってボクの存在に気が付いたのか教えてもらえませんか?」
 
 恐らくそれも聖属性の力なのだろうと考えつつも、どう言った能力なのかを詳しく知るべく言えば、イエナは特に躊躇うことなく答える。
 
「聖属性の力には、根幹的に他のエレメントに作用する性質な為にキャスティング能力の強さに応じて他のエレメントの存在を感知する力が備わっているのです」
 
 予想通り聖属性の力だったが、まさか潜在的に感知する力を秘めているとは、クリアも思っておらず少し驚いてみせる。
 
 感覚的にはクリアの【力】を展開して周囲を感知するあれに似たような感じなのだろうか。
 
 しかし、それならばあの祭りの人混みの中エレメンタルアームズを持つレッド達『所有者ホルダー』を見つけられたことに合点がいく。
 
「つまり、ボクの体を構成するエレメントの存在を感知して気が付いた、と?」
「端的に言えばその通りです。特にクリアさんは他の方と違い体内に存在しているエレメントが特殊な状態なのでこうしてはっきりとあなただと認識できました」
 
 ——それって、つまり同じく聖属性をキャスティングできる王も気付いているのでは?
 
 その割にこうしてイエナと話していても城内で特別警戒色を強めるような動きは感じられないが。
 
 イエナが特別人の考えを思考を汲み取る能力が高いのか、今日のクリアが顔に出やすいのか。
 
「お父上ならクリアさんの存在に気付いておりませんよ」
「……何故?」
 
 王が気付いていないという理由と、何故自分が思っていることがわかったのか、二つの意味でクリアが聞けば。
 
「流石にお父上もこの時間はお休みになられています。
人が眠っている間キャスティング能力を使用できないことはご存じでしょう? 
それと私は今までの経験上、表面上の簡単な思考ぐらいなら感じ取れるもので」
 
 どちらの理由もしっかりと答えてくれた。
 
「……逆に言えば貴方はこの時間に起きていたのですか?」
「……ええ。
今日……いえ、もう昨日になってしまいましたが。
私の生誕祭でこうも色々なことが起こってしまいました。
……被害にあった方や大切な人が意識を取り戻していない中で寝ていられるほど、私は精神的に成熟していなかったようです」
 
 確かに、計画に加担したイエナの責任も少なからずあるだろう。
 
 その上、他人を思いやる心を持つこの王女様が心配と自責の念で寝付けないのも無理はない。
 
「……さて、少し話が逸れてしまいましたが。いや、逸らしたのはボクなのですが。イエナ王女、ボクと取り引きしませんか? 先程とは別の条件で」
 
 あくまでもクリアが欲しい情報はまだ手に入っていない。
 
 そして、このイエナ王女様は何より『所有者ホルダー』や誘拐事件の被害者の状態に心を痛めている。
 
 ならば、それらを利用……いやこの場合は恐らく互いに目的は合致しているはずであるため、クリアは新たに取り引きを持ちかけたのだ。
 
「『所有者ホルダー』達の治療をする代わり……イエナ王女、ボクと一緒に『ディールーツ』まで来てもらえませんか」
 
 これが、クリアの考えた取り引きの条件だった。
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