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第65話 知るべきこと7
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イエナを『ディールーツ』本部に連れてきてから一日立ちお昼をかなり過ぎた頃。
クリアは交渉……という名の密会の為再び『セインテッド王国』に訪れていた。
交渉対象が国王からブルーに移ったことで、城内で話し合いをする必要がなくなり、王国内城下街にあるいかにもな落ち着いた雰囲気のカフェで待ち合わせしていた。
色々な意味で目立つ白い髪を黒いウィッグで隠し、念の為分厚いレンズの入った黒縁のメガネで変装したクリアが店で外を眺めながら待っていると。
新たな客が店に入ってくることを伝える扉に着けられたベルが音を立てた。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
「いえ、待ち合わせをしているの。……そこの人ね」
「承知しました、ではお席へどうぞ~」
ウェイトレスの明るい接客によりクリアが座るテーブル席の向かいに腰を下ろしたその人は、クリアも全く会ったことのない人物像だった。
黒いワンピースに、茶色のロングストレートの髪をなびかせ。
しかし、顔つきは街道を普通に歩いていて特に目に止まることのないような普通の見た目の女性だった。
「……【水蒸幻影】って見た目まで変えられるんですね。流石『高術士』さんだ」
目の前の女性が待ち合わせしていた人物であることを確信しているからこそ、クリアは笑っていない顔で称賛の言葉を彼女にかける。
【水蒸幻影】。
水属性を中心とした複合術式で、以前彼女が姿を隠していた時に使っていた術式だ。
透明になるどころか変装にも応用できるらしいことをクリアは今の彼女から知ったのだ。
自由自在な見た目に変えられるというならそれは相当複雑な術式を彼女は作った訳で。
故にクリアから素直に称賛の言葉が出たのだ。
しかし、そんな言葉はどうでもいい、もしくは気に障ったらしく。
「そんなことはどうでもいいわ。……彼女は無事なんでしょうね?」
ブルーは苛立ちを隠さずクリアに聞いた。
もちろん彼女とはイエナのことだ。
こんな城下街で内容的にもその名を出すことなどできないのでそう言ったのだろう。
「もちろん。そもそも害をなす意味は無いですから。それで、どうでしたか?」
長々とこの場にいるつもりも無いので、クリアは早々に本題を切り出す。
そんなクリアに対して、ブルーはテーブルの上に分厚い紙の束を出しクリアに差し出した。
「……結構ありますね。これ、あなた一人で調べて作ったんですか?」
「そうよ。といっても基本的に騎士団の捜査情報はあたしのところに入ってくるのが決まりだから別に大して動くことは無かったけど」
パラパラと数枚めくり目を通しながら聞くクリアに、ブルーは淡々と答えた。
……二人の間に、多少の沈黙が流れる。
「おしぼりとお水失礼しますね~。お客様、ご注文は?」
そんな二人の雰囲気をぶち壊すように明るく接客をしてくるウェイトレスの声が店内に響く。
落ち着いた雰囲気のカフェにはあまり似つかわしく無いが、決して不快ではない接客態度のウェイトレスにクリアは事前に確認して決めていたメニューを口にする。
「ボクにはこの店の看板メニューのオリジナルブレンドのコーヒー、彼女にはティーセットで」
「承知しました~。ご注文の品をお持ちするまでしばしお待ちくださいませ~」
クリアの注文を受けたウェイトレスはテーブルを離れオーダーを通すため恐らくこの店のマスターであろう人物に元気よく受けたオーダーを通していた。
「で、どうなのよ。あなたが欲しい情報はそこにあったのかしら?」
注文を終え再び分厚い資料をパラパラとめくり目を通していく——もちろん全て目を通して次のページへめくっている——クリアに、ブルーは聞いた。
余程イエナのことが心配らしい。
「そう急かさなくても彼女は安全ですよ。それに、あなた達から条約を反故にされたからと言ってそれを理由に彼女をどうしようとすることも無い」
「どうだか」
クリアの答えに、ブルーはテーブルに頬杖をついてそれだけ言うと、クリアが資料に目を通し終わるまで暇なのか——幻影の筈なのに——髪をくるくるといじっていた。
——本来の髪の動きに合わせて幻影も動くのか? だとしたら、今後もこの術式を使われたり広められたりしたら厄介だな……。
資料に目を落としながらも、ブルーの細かい動作に対応する術式を見てクリアは『所有者』達とのコンビネーションに利用されることを危惧した。
——後で報告しておいた方が良さそうだ。
術式を広めることは杞憂だろうが、もう片方の危険性をクリアは頭の片隅に置き資料を読み進める。
「……そうですね。いくつか気になっていたところが明確になったものはありますが、一番大事な情報についてはこの資料からはわかりません」
常人なら急いで読み進めてもかなり時間がかかりそうな資料を読み終えたクリアは、それを伏せるようにテーブルの隅に置くとブルーにそう答えた。
この資料でわかったことは、あの誘拐事件が国主体ではなく本当に裏で手を引くものから漏れた情報を頼りに行われた犯行であること。
そして、この国からは事件に使用されたあの枷——後で確認したらキャスティング・キャンセラーというらしい——についての出どころは不明。
犯行に及んだ捕縛した四人はいずれも詳しい話は聞いておらず、ただ美味しい仕事だったからやったとしか情報を出さなかったらしい。
後は彼らが使用していた荷車の中にあった幾つかの道具の記載についてであり、被害者達が意識を取り戻さない明確な理由については『セインテッド』側も未だ突き止められていないということだった。
「……なら、彼女はまだ返せないってこと?」
「これだけの資料をこの短い時間で纏めてきたあなたの手腕に免じて期限については無しにしましょう。あれはいずれ回収しますが」
「それ、答えになってないわ」
じろりと冷たい目線をクリアに向けたタイミングで注文の品がきたことで、一度二人は口を閉じることになった。
クリアは交渉……という名の密会の為再び『セインテッド王国』に訪れていた。
交渉対象が国王からブルーに移ったことで、城内で話し合いをする必要がなくなり、王国内城下街にあるいかにもな落ち着いた雰囲気のカフェで待ち合わせしていた。
色々な意味で目立つ白い髪を黒いウィッグで隠し、念の為分厚いレンズの入った黒縁のメガネで変装したクリアが店で外を眺めながら待っていると。
新たな客が店に入ってくることを伝える扉に着けられたベルが音を立てた。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」
「いえ、待ち合わせをしているの。……そこの人ね」
「承知しました、ではお席へどうぞ~」
ウェイトレスの明るい接客によりクリアが座るテーブル席の向かいに腰を下ろしたその人は、クリアも全く会ったことのない人物像だった。
黒いワンピースに、茶色のロングストレートの髪をなびかせ。
しかし、顔つきは街道を普通に歩いていて特に目に止まることのないような普通の見た目の女性だった。
「……【水蒸幻影】って見た目まで変えられるんですね。流石『高術士』さんだ」
目の前の女性が待ち合わせしていた人物であることを確信しているからこそ、クリアは笑っていない顔で称賛の言葉を彼女にかける。
【水蒸幻影】。
水属性を中心とした複合術式で、以前彼女が姿を隠していた時に使っていた術式だ。
透明になるどころか変装にも応用できるらしいことをクリアは今の彼女から知ったのだ。
自由自在な見た目に変えられるというならそれは相当複雑な術式を彼女は作った訳で。
故にクリアから素直に称賛の言葉が出たのだ。
しかし、そんな言葉はどうでもいい、もしくは気に障ったらしく。
「そんなことはどうでもいいわ。……彼女は無事なんでしょうね?」
ブルーは苛立ちを隠さずクリアに聞いた。
もちろん彼女とはイエナのことだ。
こんな城下街で内容的にもその名を出すことなどできないのでそう言ったのだろう。
「もちろん。そもそも害をなす意味は無いですから。それで、どうでしたか?」
長々とこの場にいるつもりも無いので、クリアは早々に本題を切り出す。
そんなクリアに対して、ブルーはテーブルの上に分厚い紙の束を出しクリアに差し出した。
「……結構ありますね。これ、あなた一人で調べて作ったんですか?」
「そうよ。といっても基本的に騎士団の捜査情報はあたしのところに入ってくるのが決まりだから別に大して動くことは無かったけど」
パラパラと数枚めくり目を通しながら聞くクリアに、ブルーは淡々と答えた。
……二人の間に、多少の沈黙が流れる。
「おしぼりとお水失礼しますね~。お客様、ご注文は?」
そんな二人の雰囲気をぶち壊すように明るく接客をしてくるウェイトレスの声が店内に響く。
落ち着いた雰囲気のカフェにはあまり似つかわしく無いが、決して不快ではない接客態度のウェイトレスにクリアは事前に確認して決めていたメニューを口にする。
「ボクにはこの店の看板メニューのオリジナルブレンドのコーヒー、彼女にはティーセットで」
「承知しました~。ご注文の品をお持ちするまでしばしお待ちくださいませ~」
クリアの注文を受けたウェイトレスはテーブルを離れオーダーを通すため恐らくこの店のマスターであろう人物に元気よく受けたオーダーを通していた。
「で、どうなのよ。あなたが欲しい情報はそこにあったのかしら?」
注文を終え再び分厚い資料をパラパラとめくり目を通していく——もちろん全て目を通して次のページへめくっている——クリアに、ブルーは聞いた。
余程イエナのことが心配らしい。
「そう急かさなくても彼女は安全ですよ。それに、あなた達から条約を反故にされたからと言ってそれを理由に彼女をどうしようとすることも無い」
「どうだか」
クリアの答えに、ブルーはテーブルに頬杖をついてそれだけ言うと、クリアが資料に目を通し終わるまで暇なのか——幻影の筈なのに——髪をくるくるといじっていた。
——本来の髪の動きに合わせて幻影も動くのか? だとしたら、今後もこの術式を使われたり広められたりしたら厄介だな……。
資料に目を落としながらも、ブルーの細かい動作に対応する術式を見てクリアは『所有者』達とのコンビネーションに利用されることを危惧した。
——後で報告しておいた方が良さそうだ。
術式を広めることは杞憂だろうが、もう片方の危険性をクリアは頭の片隅に置き資料を読み進める。
「……そうですね。いくつか気になっていたところが明確になったものはありますが、一番大事な情報についてはこの資料からはわかりません」
常人なら急いで読み進めてもかなり時間がかかりそうな資料を読み終えたクリアは、それを伏せるようにテーブルの隅に置くとブルーにそう答えた。
この資料でわかったことは、あの誘拐事件が国主体ではなく本当に裏で手を引くものから漏れた情報を頼りに行われた犯行であること。
そして、この国からは事件に使用されたあの枷——後で確認したらキャスティング・キャンセラーというらしい——についての出どころは不明。
犯行に及んだ捕縛した四人はいずれも詳しい話は聞いておらず、ただ美味しい仕事だったからやったとしか情報を出さなかったらしい。
後は彼らが使用していた荷車の中にあった幾つかの道具の記載についてであり、被害者達が意識を取り戻さない明確な理由については『セインテッド』側も未だ突き止められていないということだった。
「……なら、彼女はまだ返せないってこと?」
「これだけの資料をこの短い時間で纏めてきたあなたの手腕に免じて期限については無しにしましょう。あれはいずれ回収しますが」
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