エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

文字の大きさ
74 / 94

第73話 聞きたかった声

しおりを挟む
「次はこっちを……」
 
 そう言いながらクリアが『戻す用』の紙をかざす。
 
 ——そういえば『止める用』の紙については説明されてないな。自分の仲間に誤って使ったり対象指定の紙を貼り忘れてうっかり使った場合の物なのかな?
 
 クリアがそんなことを考えている間に、道具から飛び出したちからが再びその対象・・・・を包み込む。
 
 エレメントを奪う術式の時よりも少々時間がかかっているようだが、やはりエレメントを定着させるのに時間がかかっているのだろうかとクリアは時間を潰す様に様々な理論を頭の中に展開して推測していた。
 
 ようやくちからが対象の男から離れ、道具に戻っていくと、凹んだ兜の男ははっと意識を取り戻した様に辺りを見回した。
 
「おかえりなさい」
 
 クリアが——相変わらずの目の笑っていない——笑顔で言えば、男は「へ、へい……」と返した。
 
「それで、その中にいる間、どんな感じでした? もしかして中にいる間も意識はあるとか?」
 
 今回、クリアがかなり気にしていたことを口に出して問いかける。
 
 もし意識があの道具の中でもあるままで囚われ続けていたら……と考えるだけでも恐ろしい。
 
 特に被害者ミヤ達はあれの中に入れられてから数日経っている。
 
 普通の人なら、いつ解放されるかも分からないままで心が壊れてしまってもおかしくない。
 
「で、どうなんですか? 早く答えて!」
 
 少しでも早く聞き出したいクリアは、つい答える間も与えずに問い詰める様声を荒げて続けて言ってしまった。
 
 そんなクリアに、男は気圧されながら返す。
 
「い、いや……多分無いんじゃ無いですかね……はは」
 
 ——多分ってなんだ?
 
「それは入っている時間が短かったからってことですか? もう一度入ってみます?」
「ま、待ってくだせぇ! ほんとにわからんのですって! 入った感覚も何も記憶に残ってないんですよ!」
「……わかりました」
 
 男が恐らく嘘を言っていないとクリアは判断……というか諦める。
 
 ——これ以上問い詰めている暇があるなら一刻も早くミヤの元に行こう。
 
「それじゃ、また少しだけ待ってて……あ、忘れてましたね」
 
 早く行きたいが、先程奪った記憶のエレメントを早く戻しておかないともしかしたら道具と違い死んでしまうかもしれない。
 
 そう考えたクリアは、意識の無い男に触れ、吸収して今度は全て元の状態に戻す。
 
「これで少し経てば・・・・・意識が戻るはずです。それでは!」
 
 それだけ言うと、クリアは男達を放置して、道具一式を抱えて部屋から飛び出した——。
 
 
「ミヤ!」
 
 クリアはミヤの病室に着くなり、中の人にお構いなくいきなり扉を開け叫ぶ様に義妹の名前を呼んだ。
 
 突然飛び込んできたクリアに、ミヤの近くで座って何か作業をしていた世話係らしき女性が驚き悲鳴を上げた。
 
「く、クリア様⁉︎ ダメですよいきなり女性の部屋に入られては!」
 
 ミヤをクリアの視界に入れない様、ばっと立ち上がり立ち塞がる様二人の間に女性は入った。
 
 やっと見つけたミヤを取り戻す・・・・方法を見つけたため、それ以外のことをクリアはすっかり忘れていた。
 
 そのせいで、彼女の言葉を理解するのに数秒かかってしまった。
 
「……あ! ご、ごめんなさい!」
 
 ようやく状況を理解したクリアはすぐに後ろを向き謝罪をする。
 
 要するに、義妹とはいえ最悪のタイミングで部屋に飛び込んでしまった訳だ。
 
 ——うっかりしてた……反省しないと。
 
 次からはどれだけ浮かれていても急いでいても、女性のプライベート空間に立ち入る際は気を付けようと心に誓ったクリアだった。
 
 一応見てなければ許される様で。
 
 部屋から追い出されることもなく、衣服が擦れる音を聞きながら今か今かと待ちわびる。
 
「お待たせしました、もうこちらを向いてもよろしいですよ。
よっぽど急いで来たんですもの、何かミヤ様についてわかったことがあったのですよね?」
 
 世話係の人も流石と言うべきか。
 
 クリアの無遠慮な飛び込みにきちんと理由付けして理解してくれていた。
 
「そうなんです!」
 
 食い気味にクリアが言うと、世話係の人は少し気圧されていたが、すぐに一緒になって喜んでくれた。
 
 少し震える手でクリアは対象指定の紙をミヤの胸元に置いた。
 
 そして——。
 
 『戻す用』の紙を道具にかざすと、すぐさまちからが一目散にミヤへと目掛けて飛び出した。
 
 そして、先ほどの男の時と同じようにミヤは全身を包まれ、少しの時間が経過する。
 
 一仕事終えた道具に、ちからが戻る。
 
 クリアの胸の高鳴りが大きくなっていく。
 
 ——どう、なったんだ……?
 
 手筈通りにミヤにエレメントを戻したのに、ミヤからはまだ反応は無い。
 
 クリアも世話係の人も、ミヤに視線が釘付けになる。
 
 道具が仕事を終えてから一秒、二秒と刻々と時間は過ぎていく。
 
 ……ミヤは、まだ目を覚さない。
 
 数分時間が過ぎた後。
 
 ——痺れを切らしたクリアは部屋から飛び出した。
 
 目的地は言うまでもないだろう。
 
「あなた達、どういうことですか‼︎」
 
 思い切り中に入るなり怒鳴るクリアに、中に放置されていた四人は各々驚きの声を上げた。
 
「何故ミヤは目を覚さないんですか! まさか嘘の使い方を教えたんですか⁉︎」
「お、落ち着いて! 落ち着いてくだせぇ!」
「これが落ち着いていられるかぁ!」
 
 勢いのあまり、普段の敬語すら忘れて凹んだ兜の男の肩を掴み、思い切り揺さぶりながら叫ぶクリアになんとかなだめようと四人はとにかく落ち着くようにクリアに言い続ける。
 
 しかし、冷静に話せる状態に戻ることの無い激情したクリアにもう落ち着かせることは不可能と判断したのだろう。
 
 一人がそのままクリアに説明する。
 
「すぐに目を覚さないのは数日あの中に入ったままだったからでさぁ! 少し経てば目を覚ましますって!」
「本当だな⁉︎ 嘘だったらギンガさんの実験台に提供しますからね⁉︎」
 
 さらっと恐ろしいことを口走りながら、再びその言葉を信じて義妹ミヤの部屋へと向かうため部屋を飛び出し走り出す。
 

「ミヤっ!」
 
 今度はきちんとノックと入室許可を取ってから——先程は忘れていたが、部屋の外から室内が見えるガラスにはブラインドがかけられるのてそこからも判断できた——大声で叫びながら再び部屋に入室した。
 
「……お兄様?」
 
 クリアはようやく、数日ぶりのはずが長い間聞いていなかったように感じた義妹ミヤの声を聞き、無意識のうちに強く彼女を抱きしめた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...