エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第74話 再会と再開

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「お、お兄様? 見られてますし苦しいですよぅ……」
「ごめん、でも……もう少しだけこのままでいさせて……!」
 クリアは少しだけ力を抜きながら、ミヤの言葉を却下した。
 
 それを察してくれたのか、世話係の人は窓のシェードを下ろし、退室してくれたようだった。

 その音をクリアは聞いて気遣いに感謝した。
 
「ごめん、ごめんね。怖かったでしょ……? ボクが離れたばかりに、こんな目に合わせてしまって本当にごめん……!」
「お兄様……ふ、ふぇぇん‼︎ お兄様、お兄様ぁ‼︎」
 
 取り繕う必要が無くなったことで、ミヤも抑えていた感情を爆発させたのだろう。
 
 縋り付くようにクリアの服を強く握りしめ、クリアの胸に顔をうずめて叫ぶように泣き出した。
 
 クリアはクリアで、やっと一段落したことで、大きく感情を表に出すことはしなかったが、少しだけ涙を流しながらあやすように何度もミヤの頭を撫でる。
 
 それは、ミヤが落ち着くまで続いた。
 
「くぅ……すぅ……」
 
 ミヤは落ち着いた途端、まるで糸が切れたかのように眠ってしまった。
 
 恐らく、記憶は道具に取り込まれた時のまま止まっていたため、目覚めて一番始めに覚えた感情は恐怖と困惑だったのだろう。
 
 生まれて初めての城下街での祭りを楽しんでいて気分が高揚していたところにいきなりあんな目に遭ってしまったのだ。
 
 身体的疲労は取り除かれていたとしても、精神的疲労が溜まっていたのだろうか今はクリアの服を握りしめたままぐっすりと眠っている。
 
 ——本当はベットに戻してあげたいけど、これは無理かな。
 
 くすりと笑いながら思うと、クリアはミヤを抱いたまま、部屋の外に出た。
 
「気を遣ってもらってすみません。わざわざ外で待っていてもらっちゃって」
「いえ、これぐらいの気遣いはさせていただきますよ。……あらら、これはしばらくクリア様から離れられそうに無いですね」
「あはは、そうなんですよ。まあ、兄冥利に尽きると言いますか」
 
 抱いたままの状態で世話係の人は色々なチェックを行い、そのまま連れて行ってもいいと許可をクリアに出した。
 
 その言葉に感謝しつつ、クリアはミヤが意識を取り戻したことを報告するため父親ボスが待つ部屋へと向かって行く。
 
 
「失礼します」

 いつも通りノックし、ドアが開いた後部屋に入る。
 
 そこには、娘が戻ってくるのを待ち侘びた父親の顔をしたガウスと、口に両手を当てて涙を浮かべたヒカリが立っていた。
 
「おお、クリア! ミヤは無事戻ってきたのだな⁉︎」
 
 滅多に見せない相当焦った口調で言うガウスに、クリアは笑顔で返す。
 
「ええ、やっと、やっと帰って来ましたよ!」
「本当、よかった! よかったよぉミヤちゃん!」
 
 クリアの言葉に続いてヒカリも泣きながら喜びの声を上げる。
 
 ガウスも無事戻ってきた我が子の顔を見るために、滅多に離れることのない机からクリアの元に駆けつけた。
 
 ヒカリはひとまず遠慮して遠巻きにクリア達を見ていたが、目に入る光景が微笑ましかったのか嬉し涙を少し流しながらも、後ろで伸ばした手を組んで嬉しそうに笑っている。
 
 ——ああ、幸せだなぁ……。
 
 まだ全ては片付いてはいないが、ようやく取り戻した光景に自然とクリアはそう思う。

 
 ある程度感動の再会を分かち合ったところで、クリアは今までのことをガウスに報告した。
 
 ヒカリも当事者なので、一応その場にいて話を聞いてもらっていた。
 
「なるほど。その道具についての考察で、セインテッド王が何か繋がっているのではないかと」
 
 そのガウスの言葉にクリアは頷いて答える。
 
「ええ。それでですね、あの道具には未だ多くの被害者の意識のエレメントが入ったままです。早急に対処するためにも、一度ブルーさんとイエナ王女も加えて話し合う場を設けるべきかと」
 
 そしてこれからどうすべきかという話になってくるが、クリアはひとまずそう提案してみる。
 
 それをボスが許可したため、クリアは未だ離れそうにないミヤを抱いたまま、ヒカリと共にイエナとブルーがいる部屋に向かっていくのだった。
 

「失礼します。クリアです」
「あ、はい今開けますね」
 
 イエナの返事の後、直ぐにドアは開かれた。
 
 そして中にいたイエナとブルーは、クリアとヒカリを見て状況を把握するのに少しだけ時間がかかったらしく。
 
 二人揃って戸惑いの表情を浮かべていた。
 
 しかし、ブルーはすぐにクリアが伝えたいことを理解したらしく。
 
「あらクリア……あんたのところのお嬢様を抱いて来たということは、もしかして」
「ええ、無事戻ってきましたよ。……今は泣き疲れて寝てしまいましたけど」
「それだけ怖かったのでしょう。……本当に、巻き込んでしまって申し訳ありません」
 
 そう言って、イエナは深々と頭を下げた。
 
 王女とはいえ、ミヤと面識がある人だ。
 
 そもそも敵対することを知らなかったイエナは仲良くしていたミヤに頭を下げてもおかしくはない。
 
 そして、敵対する予定を知っていたとはいえ、幼いミヤを巻き込んだことにブルーも罪悪感はあったようで。
 
 イエナを止める事もなく、イエナに合わせて頭を下げた。
 
 残念なのは、今謝罪されてもミヤには届いていないと言うところだろうか。
 
「謝るなら、ミヤが目を覚ましてから改めて伝えてあげて下さい。それよりも、それまでの間に今後の動きを相談したくてきたんです」
「それは構いませんが……彼女は?」
 
 クリアの答えに乗り気ではあるが、その前にクリアの後ろでばつの悪そうに立っていたヒカリのことがイエナは気になったようで、彼女の事を聞いてきた。
 
「ああ、彼女はヒカリと言いまして、今回ミヤと一緒に被害に遭った当事者なんです。本人も捕まった時のことを覚えていないんですけど、何故かその後は意識がありまして。何か事件に繋がることがあればと、連れてきちゃいました」
 
「は、初めまして王女様、そして側付きかつ王様の相談役の一人のブルー・ティア様ですよね。ヒカリといいます! よろしくお願いします!」
 
 初めて社長ボス以外の位の高い人物を相手にするらしく、おどおどしながらも大きな声でヒカリは挨拶した。
 
 それに対し、二人は各々の反応で挨拶を返す。

「ブルーで構わないわ。もしかしたらこれから長い付き合いになるかもしれないし、どうぞよろしく」
「初めましてヒカリさん。……あの、なんだか私達、顔が似てますね」
 
 その場に居合わせた全員が思っていたことをイエナが口にするが、今のところ、特に何も思うようなことはなかったのか、顔が似ていることについてそれ以上深く追求する者はいなかった。
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