エレメント・ルーツ〜世界の全ては属性(エレメント)でできていますが【無属性】のボクは何者ですか?〜

星野 大介

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第77話 話し合い3

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 突然眠っていたと思っていたミヤが口を挟んだことで、その場にいた全員が一瞬時間が止まったようにミヤに視線を向けた後、固まってしまう。
 
 その中で一番初めに口を開いたのは、ガウスだった。
 
「おお……ミヤ! よかった、やっと目を覚ましたのだな!」
 
 イエナとブルーを前にして、それでも厳格なボスとしての顔よりも父親としての心配と目覚めたことへの喜びがガウスの中で打ち勝ったらしい。
 
 ガウスは本当に珍しく、クリアですら聞いたことのない泣きそうな声でミヤに語りかけた。
 
 それに対して、ミヤは笑顔で応えた。
 
「お父様、お兄様、ヒカリ姉様。そしてイエナ王女様、ブルー様、おはようございます」
 
 ミヤはちゃっかりとクリアの膝の上をキープしたまま振り返り、イエナとブルーと対面するように座り直し挨拶した。
 
「すみませんお父様、多大なご心配をおかけしました。それに私のために沢山調べ物をして・・・・・・・・下さったようで……。お兄様も、本当にありがとうございます。改めてお礼を言わせて下さい」
 
 ミヤの感謝の言葉に、クリアとガウスは「いいんだ、むしろ当然の事をしたまでだ」とそれぞれの言葉で口を合わせて伝える。
 
 それに対しミヤは喜びを一筋の涙で返すと、顔を手——いつもの服ではないのでハンカチを持ち合わせていなかったらしい——で拭ってイエナに再び問い直す。
 
「私もここでのお話は途中から起きて耳にしておりましたので、大方話はわかってます。
少し役得……いえ、途中で目を覚ました時に話を中断させてしまうのは嫌だったもので。
そこを踏まえて今一度お聞き致します。イエナ王女様、貴方は誘拐された時または襲われた時の記憶はありますか?」
 
 クリアの膝の上から見つめるミヤの問いに、イエナは少しの間思い出す素振りを見せ、答えを返す。
 
「いえ……私が覚えているのは、レッド様に起こされてからですね。その前の記憶は最後にレッド様にお会いする前に祭りの中を歩いていたところまでしか思い出せません……」
 
 ——やっぱりか!
 
 イエナの言葉に、何かが欠けていたピースが合致したようにクリアは納得した。
 
 ……しかし、それと同時に信じられないが予想外の事実に気付いたことになる。
 
「つまり、〈聖属性〉をキャスティングできる能力ちからを持つ者に対してあの道具は完全に意識と記憶を奪うことはしない、またはできない仕様ということですか……」
 
 クリアの説明に、ミヤ以外の四人が理解が追いつかないといった顔をする。
 
 クリアは突然すぎることを言った自覚はあった。
 
 現に、彼女ヒカリがキャスティングする属性は名前の通り光属性だ。
 
 あの事件の時も、それ以外の仕事の時も光属性の術式を行使してきたのをクリアも組織の人間も知っている。
 
 しかし、これなら辻褄が合うのだ。
 
 多くの被害者の中で何故ヒカリだけが意識を失われていなかったのか。
 
 そして、先ほど誰も深く触れなかったイエナのヒカリと自身の顔が似ているという発言。
 
 ……そしてヒカリが王女と同い年であること。
 
 それなのに、ヒカリ自身年齢を知っているにも関わらず生まれた日が不明であるということも、謎を解明するピースだったかもしれない。
 
 そしてクリアにも頑なに明かされたことのなかったヒカリの過去。
 
 それらが組み合わさって出したクリアの結論は。
 
「信じられないと思いますが、聞いてください。ヒカリは、『属性混生能力体質マルチキャスター』の可能性があります」
 
 『属性混生能力体質マルチキャスター』。
 それは、ごく稀に持つ人がいる特殊体質。
 
 本人も気付かないことも多い体質で、キャスティングするためのエレメントを二属性以上自分の体内で生成することができる体質である。
 
 【無属性】であるクリアには感覚的にわからないが、昔クリアが目を通した論文にはこう書かれていた。
 
 一般的に人がキャスティング能力を発現するのはある日突然であると。
 
 そして、人はその時より自らのキャスティングできるエレメントの属性を感覚的に認知するのだと。
 
 キャスティング能力については不可解な点が多いとされているが、それ故に先にキャスティングできるようになった属性とは別にキャスティングできるエレメントが存在していたとしても気が付かないことが多い……らしい。
 
 その上、『属性混生能力体質マルチキャスター』自体が最近認知され始めたために、知らない人は多いのだった。
 
 ——まあ、『属性混生能力体質マルチキャスター』じゃなくてもキャスティングする手段はある・・・・・けど……。
 
「私が……『属性混生能力体質マルチキャスター』?」
 
 今まで話に反応は見せていたものの、かなり部外者よりな立場だと自覚していたのか、突然自分に話しを振られたヒカリは困惑したように言った。
 
「うん、そうだとボクは思う。……ミヤもそう思ったからイエナ王女に聞いたんだよね?」
 
「はい。お兄様の【力】の運用方法を調べるのをお手伝いした時に私も『属性混生能力体質マルチキャスター』についての資料に目を通しておりましたから」
 
 ——あの時はまだ六歳だったにも関わらずよく覚えていたな……。
 
 相変わらずのミヤの秀才さには驚かされるばかりだとクリアは思わされた。
 
「で、なにが最初の議題に繋がるかと言いますと」
 
 クリアはヒカリの肩に手を置き続ける。
 
「王は道具だけではなく、ヒカリのことを知られたくなかったのではないでしょうか」

 不意に肩に手を置かれたヒカリは一瞬肩を跳ねさせた後、困惑の表情を浮かべてクリアを見つめる。
 
「イエナ王女、貴方は自分に兄弟や姉妹がいた事があるのではないですか?」
「いえ、そのような事は……」
 
 クリアの問いをすぐさま否定したイエナは、じっとヒカリを見つめた。
 
「な、なにか?」
 
 突然話の中心に持って来られただけでなく、王女イエナから視線を向けられヒカリはたまらずうわずった声でイエナに聞いた。
 
「……いきなり失礼なことをしてすみません。
しかし、私とヒカリさんの顔があまりにも似ていること、そしてあなたを見ていると何か頭の中で引っかかるものがありまして」
 
 イエナの言葉が気になったのか、ガウスが口を開く。
 
「『引っかかるもの』とは?」
「……あまり信憑性が無いものだと思い誰にも話して来なかったのですが。
昔から、時折夢の中で私と同じ顔の女の子・・・・・・・が見知らぬ場所で過ごす夢を見たことがありました」
、ですか?」
 
 いきなり夢の話を出され、ついミヤはイエナに聞き返す。
 
 そんなミヤに頷いて返しながら、イエナは話を続ける。
 
「ええ、なのです。しかし、その夢は妙に現実的で。
そして何より、昔は幾度となく何度も同じような夢を繰り返し見てきました。
……思えば二年ほど前を境にその夢は見なくなってしまいましたが、最後の夢はその場所からその少女が旅立つ場面でした」
 
 イエナがそこまで言った時、クリアは触れている肩から明らかにヒカリが動揺していることが伝わってくるのを感じた。
 
「ちなみに、どのような場所だったか覚えている範囲で教えていただけませんか?」
「たしか……赤い普通の大きさの家に、花壇が沢山あって……茶色の長い髪を編み込んで前に垂らしていた若い綺麗な女性といつもいたような——」
 
 ミヤの質問に答えるイエナの言葉は、そこでヒカリが急に立ち上がってテーブルに手を叩きつけた音によって止められた。
 
 
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